第129話 竜神

「イモコ! 無事だったかっ!?」



 ゲートの中から次々と仲間達が姿を現すと、その中にイモコの姿が見えた。



「師匠! 心配をおかけして申し訳ないでござる。」



 どうやらイモコは無事だったようだ。

 見た感じではあるが特に怪我をしている様子も見受けられない。



「いや無事で何よりだ。とりあえずみんな中に入ってくれ。今のところウロボロスに動きはないが、いつ動き出すかわからないからな。」


 

 俺はそう言うと、全員をライトプリズンの中に入れた。


 カリー達から話を聞くと、イモコは大分離れた場所まで飛ばされており、体中大火傷を負っていたようだ。

 しかしながら、シロマが同道していたお蔭でその傷も今では完全に回復している。



「それでイモコ。ウロボロスの核は見つからなかったのか?」



 単刀直入に俺は聞いた。

 今大事なのは間違いなく、現状把握と今後の対策だからである。



「見つかったでござる。ウロボロスの中に卑弥呼様がいたでござるよ。そして卑弥呼様こそが今のウロボロスの核でござる。」



 その言葉に俺は大きく目を見開く。

 ウロボロスの中に卑弥呼がいた。

 それはつまり、まだ卑弥呼を助けることができるかもしれないという事だ。



「それは本当か!? じゃあまだ卑弥呼は……」


「無理でござる。某が殺すのを失敗したと同時に、卑弥呼様は完全にウロボロスに吸収されてしまったでござる。」



 は?



「なんでそんな事がわかるんだよ!!」

「落ち着けサクセス。最後まで話を聞いてからにしろ。」



 俺はイモコの話を聞いて声を荒げてしまうが、それをカリーが冷静に諫める。



「……わかった。すまないイモコ。続けてくれ。」



 カリーの言葉聞いて俺は少しだけ落ち着き、イモコに話を続けさせた。



「御意。某はあの時、卑弥呼様と同じ様にウロボロスに吸収される寸前でござった。しかし、そこに四聖獣様が助けに来られてなんとか出る事ができたでござる。」


「うん。」


「その時、四聖獣様から声を授かったでござるよ。」


「四聖獣から??」


「そうでござる。ウロボロスは核を取り込んだ事で完全体として復活すると。そして力が及ばずすまないと仰っていたでござる。」



 イモコの話を聞いてみるも、にわかにそれは信じがたい。

 四聖獣が何かわからないが、そんな事があるのだろうか?


 俺がその話を半信半疑に思っていると、セイメイが口を開く。



「イモコ殿。四聖獣様は他に何か仰ってなかったでしょうか? あれを倒す方法や、もしくは封印する方法等を」



 イモコの言葉を当たり前の事のようにセイメイは受け取っていた。

 四聖獣についてはセイメイが一番良く知っているだろうし、もしもイモコの話が幻聴とかならば、こうは聞かないだろう。



ーーだが……



「なかったでござる……が、卑弥呼様から最後の言葉をもらったでござる。竜神様を連れてこいと。」



 竜神様?

 この大陸にまだそんな神がいるのか?

 そいつならアレに対抗できるという事だろうか?



「イモコ、その竜神様ってのがどこにいるかわかるか?」


「わからないでござる。しかし、竜神様というのはこの大陸ではもっとも有名な神様でござる。町のどこかに必ず祀られている故、知らない者はいないでござる。」



 有名な神らしい。

 全く気付かなかったけどな……



「祀られている……って、じゃあもういないって事か?」


「サクセス様。竜神様は過去に実在した我が大陸の戦神。しかしながら、それは伝承に残されているだけであり、どこかに存在するというのは聞いた事もありません。ですが卑弥呼様がそうおっしゃるのであれば、必ずどこかにいるはずです。探しましょう。」



 ふむふむ。

 つまり、今ウロボロスを倒せるのはどこかに眠る竜神だけって事か。

 そして俺達はそれを探さなければならないと。

 だがそんないるかいないかもわからない存在を探す時間なんてあるのか?



 全員が同じ事を考えたのか、それ以降誰も口を開かなくなった。


 正直絶望的な状況には変わらない。


 しかし、そこでシロマがハッと顔を上げる。


 どうやら何かに気付いたっぽい。



「どうしたシロマ? 何かわかったか?」


「いえ、すみません。ただ何となくですが……いえ、なんでもありません。」


「おいおい。何かあるならちゃんと言ってくれ。」


「ですが……本当に関係のないただの妄想かもしれませんので。」



 シロマには珍しく、ハッキリしないな。

 何か都合の悪い事でもあるのだろうか?

 でもそんな風に言われたら気になっちゃうでしょ。



「いや、妄想でも何でもいい。思った事は口に出してほしい。」


「わかりました。では話します。竜神と聞いて、なんとなくゲロちゃんの姿が思い浮かんだだけです。」


「へ? それだけ?」


「はい。すみません。」



 シロマは申し訳なさそうに頭を下げる。

 実際俺もその話を聞いて拍子抜けしてしまった。

 シロマの事だからもっと何か凄い事を思いついたのかと思ったのだが……


 しかしその話を聞いてカリーが反応した。



「いや、サクセス。案外間違いじゃないかもしれないぞ? ゲロゲロは確か古龍狼っていうドラゴンとの融合体だったよな?」


「あぁ、確かにそうだ。でも、竜神とかってのは神なんだろ? じゃあ多分関係ないと思うぞ。」


「だがあの卑弥呼が、存在するかもわからない竜神を連れてこいなんて言うか? 間違いなく連れてこれる奴の事を言っているはずだ。つまり、この中で竜と関係があるのはゲロゲロだけ。ならそう言う事なんじゃないか?」



 えーー。

 それはいくらなんでも違うような……。

 まぁ一応確認だけはしてみるか、本人に。



「うーん、そんな単純な話なのかな? ゲロゲロ、竜神って知ってるか?」


「ゲロロン(知らない。それ美味しいの?)」



 …………



「カリー……。どうやら違うっぽいぞ。」


「ゲロゲロはなんだって?」


「竜神って美味しいの? だってさ」



 …………



 再び沈黙が訪れる。



「ま、まぁなんだ。あれだな、そう言う発想も必要って事だな。」



 カリーが誤魔化しに入った。

 どうやらゲロゲロの言葉を聞いて諦めたらしい。



「とりあえず今わかる事は、これからウロボロスが完全体となって活動を再開する事。それと竜神を探す事。この二つって事だな。であれば、ここに残るメンバーと探すメンバーに分かれよう。」


「そうするしかないな、じゃあ残るのは俺だ。他のメンバーは探しに行ってくれ。」



 カリーはそう言って立ち上がる。



「待てよ! なんでカリー1人が残る事になってんだよ。」


「そりゃあ、あれだ。俺なら上手く立ち回れるからだな。」


「嘘つくなよ! お前、死ぬ気だろ?」


「んなわけあるかよ。俺は沢山の仲間の想いを背負っているんだ。そいつらを俺の夢の先に連れていくまで死ねねぇよ。」


「じゃあ猶更カリーは捜索部隊に回ってくれ。残るのは俺だ。悪いが他のみんなじゃ足手まといなんだよ。」


「言うじゃねぇか。でもお前は卑弥呼と戦えるのか? できないだろ? いくら力があっても覚悟がないんじゃ、そんな奴が残っても意味がねぇよ。」



 ここにきて再びバチバチにぶつかる俺とカリー。

 カリーの言う事はわかるが、それはそもそも力が足りないあいつも同じだ。



「落ち着いて下さい二人とも! そもそもここにいるのは貴方たち二人ではありません!」


「その通りです。勝手に決めないで下さい。私達は全員で一つです。」



 そこにロゼが割って入るとシロマがそれに続く。

 その二人の言葉を聞いて少しだけ俺は頭を冷やした。



「皆様、少しよろしいでしょうか?」


「言ってみろ、セイメイ。」


「はい。ではまず冷静に考えて捜索に向かうのは、戦力外の者だけかと思います。実際に名前を挙げるなら、私、ロゼ殿、サスケ殿、イモコ殿です。」



 それにイモコがすぐ反応する。



「セイメイ! 某はまだ戦えるでござる!」


「いいえ、無理です。イモコ殿は隠しているようですが、かなりセイメイが衰弱しております。普通の敵なら大丈夫かもありませんが、相手はあのウロボロス。とても今のイモコ殿が戦えるとは思えません。」


「ぐっ……しかし……」



 そう言いながら悔しそうに歯噛みするイモコ。

 どうやらセイメイの言葉は図星だったようだ。

 それならばやはり、今はイモコに戦わせない方がいいだろう。



「無理すんなイモコ。セイメイ、続けてくれ。」


「はい。そして残られる方は、サクセス様、カリー殿、シロマ殿、ゲロゲロ殿でございます。しかし残られる方も積極的に戦おうとはせずに継戦をベースに、引き付けていただくだけでかまいません。無理ならば、即撤退を。」



 セイメイの話を聞いて全員がそれに納得する。

 確かに現状そうする外はないだろう。



「なるほどな、確かにそれしかなさそうだ……。」



 ギュイイィィアァァァァァァァァ!!



 その時突然耳をつんざくような巨大な雄たけびが鳴り響いてきた。

 あまりのその声が不快であり、俺達は一斉に耳を塞ぐと音のする方へ目を向ける。



 するとそこには、黒い卵から何かが這い出てくるのが見えてくるのであった。

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