第130話 ヤマタノオロチ
「……ヤマタノ……オロチ?」
殻の中から這い出てくるソレを見て、セイメイが呟く。
セイメイが呟いた言葉が一体何なのか俺にはわからなかったが、今回這い出てきたナニかがさっきまでのウロボロスとは全く違うのがわかる。
それは前のような悍ましい姿ではなく、三つの首をもった巨大なドラゴンであったからだ。
体の大きさこそ、今までの半分位に見えるが、それでも普通のドラゴンと比べたら比較にならない程大きい。
更にいうならば体全体の色がさっきまでと違い、まるで血のような赤色となっている。
「セイメイ、あれが完全体なのか?」
「わかりません。ウロボロスとは一体何なのでしょうか……? あの姿は大昔に竜神様が戦ったとされるヤマタノオロチと同じでございます。」
「つまりセイメイが記録で確認した姿とは違うという事か?」
「はい。全く異なりますが……そういえばウロボロスとは元々実体を持たない化け物とされておりました。それであれば違っても当然かもしれません。すみません、色々と混乱しており誤った情報を伝えてしまっておりました。」
セイメイは何かを思い出したような顔をすると、その後、深く俺に謝罪をする。
実際多くの資料があるだろうし、そのどれが正しい情報かなんて当時そこにいた者にしかわからない。
その為、セイメイが間違えるのも仕方ないだろう。
それに、さっきまでの姿が完全体で無い事には間違いなかったわけだから、あながち外れていたわけでもない。
「気にしなくていいぞ、セイメイ。それよりもあの姿はさっきと比べて大分身軽そうだ。直ぐにでも攻撃を開始してくるかもしれない。逃げる準備をしてくれ。シロマ!」
「わかりました! みなさんゲートを開くので集まって下さい!!」
急ぎ俺はシロマに指示を出すと、シロマがゲートを展開する。
ーーそして次の瞬間、激しい爆発音と共にライトプリズンが消失した。
「みんな無事か!? まずい! 急いでゲートに入ってくれ!」
あまりに一瞬の出来事であったが、ライトプリズンの周りが全て消し去られているのを見て、直ぐに俺は状況を理解した。
ウロボロスが攻撃をしてきたのだ。
それも俺のライトプリズンを一撃で消し去る程の威力のブレスで。
だがこれは幸運ともいえる。
少なくとも一撃は防ぐことができたのだ、返事はないが全員の無事は確認できた。
次の攻撃まで時間はないが、もう一度ライトプリズンを展開すればみんなが逃げる時間は稼げるだろう。
【ライトプリズン】
再び俺はドーム状の結界を展開した。
「急いでくれ! 奴の口がこっちに向いて開いてる! 二発同時にきたら防げないぞ!」
俺が焦りながらそう言うと、カリー、シロマ、ゲロゲロを残して全員がゲートに入っていった。
「シロマ! カリー! ゲロゲロに乗れ!」
「はい!」
「わかった!」
俺の合図で古龍狼となったゲロゲロに全員が乗ると、その場から勢いよく飛び出した。
俺の後方を二つの光が通り過ぎ、ライトプリズンを再び破壊する。
「危機一髪だったな。ところでシロマ、ゲートはどこに繋がってたんだ?」
冷や汗を拭いながら俺はシロマに質問した。
「急ぎでしたので、関所付近に繋げました。そこから町までは距離がありますが、あの一瞬ではそこが限界です。」
「いや、よくやった。流石にそれだけ距離が稼げれば十分……って、あいつ飛びやがったぞ!!」
「油断するなサクセス!」
【雷撃の矢 乱れ撃ち】
飛び始めたウロボロスを見て、カリーはすかさず光の矢を放つ……が……
「全く効いてないだと!?」
カリーは驚愕した。
百本にも及ぶ最大出力の攻撃にも関わらず、その矢は外皮に刺さりもせずに弾かれてしまったからである。
当然雷撃の影響も全く感じない。
そしてウロボロスはその攻撃に全く反応せずに、ゲートを繋いだ関所……いや、その先にある町の方に向かっていこうとしている。
「ゲロゲロ! ブレスだ! ブレスを頼む!」
「ゲロ!(わかった!)」
俺がそう言うと、ゲロゲロの口に光が収束し……発射された。
そのブレスはなんとウロボロスの翼を貫通させ、少なからずダメージを与える事に成功する。
「やった!! 凄いぞゲロゲロ!」
「ゲロロン!(ふふふーん!)」
その事実に喜びを隠せずゲロゲロの体を撫でると、ウロボロスが此方の方にギュルンと頭を振り向けた。
(狙われている!?)
「まずい!! ゲロゲロ! 回避だ!」
今度はウロボロスの三つの口からブレスが飛んできた。
急旋回して回避するゲロゲロだが、3つのブレスは時間差で放たれ、俺達が進行する方向に向けられている。
一発目と二発目はなんとか回避できたものの、三発目は丁度回避した場所に向けて発射されており、避けることができない。
すかさず俺はゲロゲロの体サイズに光の壁を構築する。
【ライトプリズン】
間に合うか間に合わないかギリギリの所であったが、ブレスの着弾より僅かに早く光の膜を展開できたことから、なんとか直撃を免れることはできた。
しかしながらその衝撃はかなり激しいものであり、そのままゲロゲロは地面に墜落してしまう。
「みんな! つかまれぇぇぇぇ!」
俺はシロマを片手で強く抱きしめると同時に、ゲロゲロをしっかりと片手で掴んだ。
カリーは何も言わなくてもしがみついていたので問題ないが、今の衝撃でシロマは意識を失ってしまう。
そして再び強い衝撃と同時に、ゲロゲロが地面に落下した。
「クソ! あ、おい! ゲロゲロ!」
「ゲロン!!(許さない!)」
ゲロゲロから落ちた俺はシロマを抱きかかえて立ち上がると、ゲロゲロが再び飛び立ってウロボロスに向かってしまった。
「無茶はするな! ゲロゲロ!!」
「ゲロ!(わかってる!)」
どうやら今の攻撃でゲロゲロの闘志に火がついてしまったようだ。
しかしながら流石にゲロゲロだけでは倒せるはずもない。
ゲロゲロは強いし大きいが、敵は規格外な存在だ。
ブレス一つとっても、これまで出会った敵を遥かに凌駕する威力。
だが、強く止めなかったのには理由があった。
今俺達がやるべきはウロボロスの足止め。
それであればゲロゲロがウロボロスに向かっていくのは悪い事ではない。
とはいえ、一人で行かせるのは心配だからすぐに俺も行くつもりだが……。
「サクセス、シロマちゃんを頼む。あいつ相手では微力だが、シロマちゃんが回復するまではなんとか俺が持ちこたえるから……」
「カリー! ダメだ、危険すぎる!」
「頼む……サクセス。行かせてくれ。ゲロゲロを一人にするわけにはいかないし、シロマちゃんだってこの場所に放置はできない。サクセスならあいつの攻撃を防げるだろ? なら行くのは俺しかいないんだ。わかってくれ。」
さっきのやり取りとは違い、カリーは冷静な感じで俺にその意思を伝えた。
そしてその内容は現状ではベターなのもわかる。
しかしどういう訳か嫌な感じがするんだ。
死ぬ気はないと言っているけど、カリーの行動は死にたがっているようにすら感じる。
それが払拭できない内は行かせたくはない。
「カリー……。」
「そんな顔をすんなよ、サクセス。大丈夫だ、俺はまだ死なない。」
「本当か? 本当にそう誓えるのか?」
「あぁ、俺を信じろサクセス。」
そういいながら俺の肩に手をポンと置くカリー。
正直不安は消えないが、今だけは信じるしかないのか……。
「わかった。じゃあ気を付けろよ。あのブレス、カリーが直撃すれば即死だ。」
「わかってる。気配を隠匿して攻撃するさ。あくまで俺はゲロゲロの援護に徹するつもりだ。」
ゲロゲロの援護……それならば大丈夫だろうか?
いや、そんなはずはない。
あいつは近づくだけで危険だ。
俺の本能がさっきから大音量で警笛を鳴らしている。
ーーだけど……
「何度も言うようだけど、無茶……死ぬことを前提にだけは戦わないでくれ。俺もシロマが回復したらすぐに向かう。だから……それまで……ゲロゲロを頼む。」
「任せておけ! んじゃ……またな!」
カリーはそう軽い感じで言うと、ウロボロスに向かって走っていく。
そしてその背中が何故か俺を不安にさせるのであった。
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