第131話 光の中へ
【仲間視点】
ゲロゲロが高速飛行でウロボロスに接近していくと、それに気づいたウロボロスが連続でブレスを放ってきた。
それを紙一重で避けながらも、どんどん近づいていくゲロゲロ。
相手の大きさをゲロゲロと比べると、蟻と象くらいの差がある。
ゲロゲロはウロボロスに近づく事でその大きさを間近で直視し、一瞬だけ怯みそうになった。
しかしそれでも胸に宿る激しい思いが、ゲロゲロを前に進ませる。
(許せない。仲間を傷つけたこいつだけは……許せない)
ゲロゲロは怒っていた。
仲間を傷つけたウロボロスに対して……そして攻撃を受けてしまった自分に対して。
あの時、サクセスがいなければ全員死んでいたかもしれない事をゲロゲロは理解している。
サクセスに信頼してもらったにもかかわらず、自分の反応が遅れたせいで仲間を危険にさせてしまった。
それが何よりも許せなかった。
相手が自分よりも強いのは本能で感じている。
だけど……それでも仲間の為に目の前のこいつをどうにかしたい。
それがゲロゲロの内に宿る闘志の根源。
そしてウロボロスの爪攻撃を掻い潜って近接すると、ゲロゲロは爪に光を宿す。
【ディバインクロー】
その光の斬撃はウロボロスの体に爪痕を残した。
「ギュイイィィアァァァァァァァァ!!」
再びウロボロスが咆哮する。
どうやらゲロゲロの攻撃はウロボロスに効いているようだった。
とはいえ、あまりにも大きさが違い過ぎて致命傷には遠く及ばない。
だがそれでもダメージを与えられたという事実が、ゲロゲロに自信を抱かせる。
「すげぇな、ゲロゲロ……。あいつ、本当に竜神なんじゃないのか?」
それを地上から見上げるカリー。
カリーは直ぐにゲロゲロの援護ができるように、気配を消しながらウロボロスに接近していたが、二人……いや、二匹の戦いがあまりにも凄まじく、入ることができないでいた。
今自分が何をしても、ゲロゲロの邪魔になる可能性がある。
それであれば、状況をみながら隙を伺って様子を見るのがベスト。
そう判断したカリーは、ウロボロスとの距離を詰めながらも、手を出さずに様子をうかがっていた。
一方、ウロボロスと相対しているゲロゲロ。
かなり距離が隣接したことでウロボロスはブレスを吐けずにいた。
その為、ウロボロスは爪で攻撃したり、直接頭をぶつけようとするが、それでも素早さはゲロゲロの方が上であったため、攻撃を当てる事ができない。
その間にゲロゲロは何度もディバインクローでウロボロスの体を斬り裂き続けているのだが、残念な事にゲロゲロがつけた傷は少しするとすぐに再生されてしまった。
ダメージが再生速度に追いつかない
今度はその事実がゲロゲロを焦らせる。
そして状況は更に一変した。
なんとウロボロスの体から突然腕が20本生えてきたのである。
突然の変化に驚きを隠せないゲロゲロ。
そして合計22本の腕が、ゲロゲロを潰そうと一斉に向かってきた。
(やばい……)
ゲロゲロはその状況がかなり危険だと直感する。
だが既に逃げ場はない。
故に考えた。
サクセスなら、こんな時どうするか……
そして導き出した答えは……
【ホーリークラッシャー】
ゲロゲロの前に巨大な光の球体が現れた。
それと同時に接近してくる巨大な手。
ゲロゲロはその手に向かって球体を放つと、それは大爆発を起こして22本ある腕の全てを吹き飛ばした
……自身の体と共に……
「まずい!!」
自爆のような攻撃になってしまったゲロゲロは、大ダメージを負ったまま地面に墜落する。
その状況を見ていたカリーは、地上に落下するゲロゲロに向かって走り始めた。
そしてゲロゲロの傍に辿り着いたカリーは、直ぐに用意しておいた超級薬草をゲロゲロの口に放り込むと視線を空に移す。
「まだ動いてくれるなよ……。」
今追撃を受けたら、自分もろともゲロゲロは死ぬだろう。
その恐怖がカリーの背中をピリピリとさせるが、どうやら追撃はこなそうであった。
今の一撃はウロボロスにも大きなダメージを与えたようで、一時的にその動きが止まっている。
そうと分かれば、カリーはゲロゲロの口に二つ目の超級薬草を放り込むと、そのままウロボロスの方に走って向かう。
ウロボロスの回復は早い。
それに対して、超級薬草であっても、ゲロゲロの負った傷は直ぐには回復しないだろう。
つまりゲロゲロの回復を待っていたら、確実に二人とも殺される。
それであればウロボロスが動き始めた時点で、そのヘイトを自分が受け持つしかなかった。
カリーはそこまで考えて……フッと笑った。
「ははっ……すまないサクセス。約束は守れないかもしれねぇな。だけど俺は信じてるぜ。お前なら……」
カリーは死を覚悟する。
本当に最初はゲロゲロの援護をするくらいのつもりでいて、死ぬ気等全くなかった。
しかし今は違う。
その考えは甘すぎた。
実際にゲロゲロと戦っているウロボロスを見て、カリーは理解している。
アレは人がどうにかできる相手ではない。
そしてもしも自分が相対すれば間違いなく死ぬ……と。
しかし、それでもゲロゲロを助けるためには自分は囮にならなければならない。
あれに勝てる可能性があるとすれば、ゲロゲロとサクセスだけだからだ。
そんな事を考える中、カリーはふと思い返したのである。
そういえばサクセスと出会ってから自分が囮役になる事が多かったなと……。
そんな事が頭を過ると、つい笑ってしまったのだった。
こんな時にそんな事を思い出している自分が、我ながら馬鹿だと唾を地面に吐き捨てる。
「よし、シルク、ローズ。俺の最期に付き合ってくれるか?」
カリーはそう口にすると……急いでウロボロスに近づいていった。
ウロボロスは先ほどのゲロゲロの攻撃で地上に降りている。
そして今、そのウロボロスとカリーの距離はおよそ100メートル。
カリーは実際にウロボロスを直近で見る事で、その規格外な存在感に恐怖を感じた。
「やべぇな、こりゃ。正直逃げ出したいぜ……でも……そういう訳にはいかねぇよナァァ!」
腹を括ったカリーはシルクの大鉾を握りしめながら突撃する。
ウロボロスの再生は間もなく終わる所。
それに意識がいっているのか、ここまで接近してもウロボロスはカリーに気付いていなかった。
故に……今がチャンス。
カリーの狙いは、ウロボロスの足首。
飛翔するにしても、足の踏ん張りがきかなければうまく飛べないはず。
そして自分位の小さな存在が足元にいれば、ウロボロスは攻撃しずらくなると考えた。
カリーは狙い通りウロボロスの大木の何倍も太い足の前まで行くと、全身の力を込めて大鉾を振り放つ!
【ブリザードスラッシュ】
効果があるかどうかは別として、赤い体であるならば氷が弱点かもしれない。
そして弱点でないにせよ、足の一本でも凍らせることができれば動きを止められる。
そこまで計算されたカリーの渾身の一撃。
その一振りはなんとウロボロスの足を深く抉り、そこから足が急速に氷ついていく。
「効いたのか!?」
自分でやっておきながら確かな効果を感じとったカリーは、思わず言葉が漏れてしまう。
そして急いで大鉾を引き抜くと、カリーはそのまま後方に少しだけ距離を取った。
(この距離なら怖いのは踏みつけだけか。さて……逃げられるかな?)
ウロボロスの注意が完全に自分に移った事を感じ取ったカリーは、あまり距離を取り過ぎないように慎重に移動する。
しかし、そこでウロボロスはまさかの行動にでた!
ウロボロスの三つの首は、なんと一斉にカリーの方にその口を開いて向けてきたのだ。
「嘘だろ!? まさか……」
カリーは焦る。
まさかこの距離でウロボロスがブレスを吐くなんて予想もしていなかったからだ。
もしかしたらウロボロスはさっきのゲロゲロの自爆攻撃を見て、何かを学習したのかもしれない。
そしてウロボロスは氷ついた足を溶かす事と、確実に自分を殺す選択をした。
(やばい)
カリーはウロボロスと戦えば間違いなく死ぬとは思っていた。
しかしそれでもなお、数十分位の時間は稼げると計算していたのだ。
これではなんの時間稼ぎにもならない。
無駄死にだけはしたくない!
そう考えるも、次の瞬間にはウロボロスはブレスを発射していた。
特大のブレスがカリーに向かって3本伸びてくる。
それはどう考えてもオーバーキル。
それはどう考えても逃げることはできない。
カリーの目に映るは、死の閃光。
そして自分が死ぬ事を理解した瞬間、様々な記憶が走馬灯となって過っていく。
ローズ……
姉さん
フェイル……
シルク……
これまでの楽しかった事、悲しかった事、その全てがカリーの心に雪崩れ込んでくる。
そして最後に映ったのは……なぜかサクセスの笑った顔だった。
(そういえば、あいつが一番フェイルに似ていたのって、笑った顔だったな……)
そんな事を思った瞬間、その相手の声がカリーに届いた。
「カリぃぃぃぃぃーーー!!」
遠くから聞こえる大切な仲間(サクセス)の声。
その声にカリーは一瞬だけ意識が現実に戻る。
(サクセス……ごめんな。あぁ……ロゼにも謝らないとな……。こんな間抜けな死に方じゃ、あっちでシルクとローズに怒られそうだぜ……)
カリーはふとそんな事を思い顔に笑みを浮かべると、遠くからこっち向かってくるサクセスと目が合った。
(じゃあな、弟。)
ーーーそして次の瞬間……
カリーは光の中へ消えていくのであった……
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