第14話 圧倒的戦闘力②

「おぉ、おぉ~。やってるねー。って、ちょ!! それはあかんだろ!!」



 ゲロゲロの戦場に向かって走っていると、魔獣達が正に紙の如くゲロゲロに切り裂かれまくって、その身を魔石に変えていた。


 そして、兵士達はやはり予想通り、逃げずに敵に向かって走っている。だがそれは、敵と言っても敵じゃない。ゲロゲロにだ。


 どうやら、ゲロゲロを新手の魔獣と思ってしまったらしい。魔獣は黒いはずだから、白いゲロゲロは平気かと思っていたのだが、甘かったようだ。


 兵士達は完全に混乱している。


 そして、同士討ちをしているからチャンスだと思ったのだろう。だからこそ、一番強そうなゲロゲロに決死の覚悟で向かっていたのだった。



「ストップ!! ストップ!! あそこにいる白い魔獣は俺の使い魔だ! 邪魔になるから、使い魔に近づかないで退避してくれ。俺は大野大将軍に命じられて応援にきた冒険者だ!」



 その状況を見た俺は、慌てて兵士達に叫んだのだが、死を覚悟して臨んでいる彼らに俺の言葉は届かない。



「うぉぉぉ!! やれーー! 一斉攻撃だ!!」

「死んでもここを通すな!」

「死にたくねぇーー! でも家族を守れるのは俺だけだぁぁぁ!!」



 兵士達がゲロゲロが立っていた場所に向かって一斉に走り出す。


 だがしかし、それは意味のない行動となった。


 なぜならば、ゲロゲロは高速で動き続けて魔獣を倒しているが故に、人の足では追いつけない。

 傍から見たら、何もないところに向かって集団で突撃する兵士達。ちょっと、間抜けにも見えた。



「ぬ!! 何奴!! 邪魔をするな!」



 俺は、そんな集団の前に先回りして目の前に立ちふさがる。叫んで届かないなら、直接止めるしかないだろ。



「俺は大野大将軍から頼まれた援軍、サクセスだ! 今お前たちが戦おうとしているのは、俺の使い魔なんだ。だから攻撃はしないでくれ。それによく見て見ろ、あいつは魔獣しか倒してないだろ? だから、少し落ち着いてくれ!」



 物理的にも行軍を止められた兵士達は、一斉に俺の事を見て言葉に耳を向け、一番前を走っていた若いサムライが俺に応えた。



「そ、それはまことか!? あの恐ろしい魔獣……いや使い魔をそなたは召喚したのか!? 正直疑いたくもなるが大野大将軍の名前が出たのであれば信じるしかないだろう。あの人は俺の憧れだ。聞いたか、お前ら!? あの白い魔獣には手を出すんじゃないぞ!」



 どうやらやっと俺の話が通じたようだ。



 しかし、大野大将軍って言葉はマジで万能だな。イモコはどんだけ有名なんだよ。まぁ、あいつは優秀だからな。色々と後で聞いてみるか。



「そういうわけでここはもう大丈夫だ。アンタ達は、今すぐに負傷者や倒れている者全員を町に運んでくれ。正直、ここで戦われると使い魔の邪魔になってしまう。後、凄腕の僧侶を連れているから、もう助からないだろうと思っても、心臓さえ動いているならば町に運んでくれ。」



「わかった。皆の者! 聞いたか!? 我々は急いで負傷者を町に運ぶのだ!」



 指揮官らしき男が命令すると、ここもまた全員が負傷者の救助に向かってくれた。


 そして、そうこうしている内にゲロゲロが付近の魔獣を全て倒しきり、元のサイズに戻って俺のところに向かってくる。



「ゲロ!!(楽しかった)」


「おぉ! よくやったな、ゲロゲロ!」



 俺はゲロゲロを抱きかかえて、わしゃわしゃしつつも、カリーのいるであろう戦場に目を向ける。


 どうやらあっちも終わったようだ。魔獣の姿を残り少なく、加勢する必要はないだろう。それにカリーがいるなら、他の兵士への対応も大丈夫かな。後は、イモコ達の馬車を待つだけだ。




 一方、後方から見ている重兵衛達は口をポカンと開けたまま呆気に取られていた。正に開いた口がふさがらないとはこの事である。


 サクセス達の動きを捕らえる事はできなかったが、魔獣が次々と消えていく様子を見れば、何が起こっているかはわかる。


 だがわかるけど、理解が追いつかない。



「だ、大将軍殿……。あれは……。」


「あれが師匠達でござる。あの方々は、この大陸の英雄になる者達でござる。」



 どこか誇らしげな表情で語るイモコ。実際にイモコは戦っていないのだが、イモコの名前……いや肩書きが実はかなり大きく貢献していたことを、彼はまだ知らない。



「あれが本物の英雄でござるか……。某は歴史に残る人物をこの目で見る事……いや言葉を交わすことができたという事でござるな。」



 重兵衛もまた、感慨深げに戦場を見つめている。



「なぁ、重兵衛。あの人に弟子入りをお願いしてみないか?」


「やめるでござる!! 師匠は忙しいでござる! 弟子は某だけで十分でござるよ!!」


「そんなぁ~。大将軍殿だけズルいでござる。」


「えぇーい! 弟子になりたければ、某に勝ってからにするがいい! 師匠は渡さぬぞ!」



 なぜかサクセス達の戦闘を見ていた二人とイモコが弟子の座をかけて口論を始めようとしている。だが、それを見ていたセイメイは直ぐに割って入った。


「イモコ殿。そこまでにしてください。サクセス様が待っております。まぁ、待っているのはシロマ様の事だとは思いますが。とりあえず三人にも上等な回復薬を持てるだけ渡しますので、町に着いたらシロマ殿と一緒に負傷者の回復をお願いします……それとサクセス様は私だけのお人ですから、余計な事だけはしないでください。」


「あの、セイメイさん? サクセスさんはセイメイさんだけの人ではありませんからね?」



 イモコ達のやり取りを聞いて、次の行動を指示するセイメイであったが、最後の言葉を聞いていたシロマからツッコミが入る。



「失礼いたしました。言葉のあやでございます。それでは、我が主の下へ急いで向かいましょう」



 セイメイはシロマからの追求を避けるために話を打ち切ると、再び馬車をサクセスのいる城門前に走らせるのであった。




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