第13話 圧倒的戦闘力①
下尾を出発した俺達は、小江戸皮肥城に向かっている。下尾から皮肥までは平原であることから、馬車の速度を落とす事なく進むことができた。
道中、沢山の魔獣に襲われる不安もあったのが、予想に反して魔獣は少ない。下尾に向かう際、皮肥領内に近づくにつれて強い魔獣が増えていたのは事実だ。皮肥城の城主から依頼された内容を考えれば、少し嫌な予感を感じる。
それを考えると今の状況は、いるべき魔獣が見当たらないという事。それはつまり、そのほとんどが討伐されたか……または皮肥城に向かっているかである。
この場合は、後者と予想して間違いないだろう。
当初、馬車で向かえば二日近く掛かると聞いていたのだが、それは休憩を挟んだ場合という意味だったらしく、強行軍で向かうのであれば、一日で辿り着くそうだ。
昨夜一晩走り続けた馬たちであるが、シロマがうまくやったようで今もまだ弊害なく進み続けられている。
--そして昼頃……
「サクセス様!! 皮肥城が見えて参りました。どうやら予想通り、皮肥城は現在魔獣に襲われているようです。」
セイメイの声を聞き、俺は御者に移動して直接状況を確認する。実際に見て見ると、予想通り、いやそれ以上の数の魔獣に皮肥城は襲われているようだ。
しかし、おかしい。
聞いていた巨大な魔獣は見当たらない。普通の魔獣の何倍も大きいのであれば、ここから見えてもおかしくないはず。
「聞いていた魔獣は見当たらないな。重兵衛、あの中にお前たちが見た魔獣はいるか?」
「おらぬ! 確かに高レベルの魔獣が多いでござるが、あの時の魔獣に比べれば子供も同然でござる。しかし、仲間達が大分苦戦しているのは確か。故に某達も助太刀に向かうでござる。」
目の前の情景を目にした重兵衛は完全に暴走している。ほとんど徹夜であったのもあって、更に気が高ぶっているのかもしれない。
しかし、重兵衛達に向かわせて馬車を俺達が守る等、愚の骨頂。
最悪手といっていい。
悪いが、こいつら1000人より俺一人の方が強い。だけど、そう言って説得できそうもない雰囲気だし、困ったな。
「ダメだ! 今回戦うのは、俺とカリーとゲロゲロだけだ。重兵衛達は馬車を守ってくれ。」
「馬車を守れですと!? こんな馬車よりも仲間達の方が大事でござる! 助けてもらって、ここまで連れてきていただいたのは感謝するでござるが、それとこれは別でござる。小五郎!! 行くでござるよ!!」
「貴様ら!! 師匠の言う事が聞けぬでござるか! ここにおられる師匠が行くというのだ、主らは黙って馬車を守らぬか!!」
すると、前の馬車からイモコの大声が突然響いて来た。
「し、しかし大将軍様! さ、流石に年端も行かない青年達に任せるわけには……。」
イモコの気迫に押されて、若干どもりながら返す重兵衛。どうやら、大将軍という肩書は思った以上に威力があるようだ。まぁ、元大将軍らしいけど。
「馬鹿者!! 主ら等、1万人集まっても師匠に指一本触れられぬわ! 某ですら、師匠達の前では足手まといでござるぞ!」
「そ、そんな馬鹿な……。大将軍程のお方が……いや、御冗談が過ぎますぞ。」
「冗談だと思うならその目に焼き付けるがいいでござる、師匠達の凄さを。」
おぉ~! パチパチパチ……。
ちょっと持ち上げられすぎて照れ臭いけど、ナイスだイモコ。この分なら、これ以上暴走はしそうにないな。ということで、いっちょ片付けてきますかな。
「そういうことだ。悪いな、二人とも。だが、俺達が到着したからには必ず仲間を助けてやる。信じてくれ。」
「わ、わかったでござる。で、ですが! もしも助けが必要と判断したならば行くでござるよ。」
「あぁ、それは構わない。じゃあ時間が惜しい、行くぞ! カリー、ゲロゲロ!」
俺の声を合図に、カリーとゲロゲロも馬車から飛び降りて駆け出した。
俺が直線に向かったのを見て、カリーは左斜め前、ゲロゲロは右斜め前に向かっている。見える敵は今まで倒してきた魔獣と同じ。それが分かったが故に、何も言わなくとも最速で敵を殲滅するために己の判断で動き出したのだ。
「う~ん、かなり兵士達が押されているな。敵の後ろからの強襲とは言え、スキルや魔法を使えば、味方側にも被害が及びそうだな。」
俺は走って向かいながらも状況を観察して、戦い方を考える。敵を殲滅するだけならば、広範囲魔法やスキルを使えば一網打尽だろう。しかし、この状況では当然そんなことはできない。そのくらい、兵と魔獣は近い距離で戦っていた。
そして遂に俺は敵に攻撃できる距離まで接近した
ーーそして
ファルファルファルファル!!
「ぐがぁぁぁぁぁ!!」
「ギョォォォォ!!」
俺は後方から横並びになっている魔獣に突貫しながらも、圧倒的な剣速で魔獣を次々と走りながら斬りつける。そして10数体の魔獣を一瞬で魔石に変えると、兵士達の前まで到着した。
「俺は大野大将軍に命じられて馳せ参じた! 動ける者は動けない者を抱えて町に避難してくれ! ここは俺に任せろ!」
そう叫びながらも、次々と魔獣を屠っていく俺。それを目の当たりにした兵士達は、正直混乱した。
……何が起こっているかわからない。
なぜならば、サクセスの動きが速過ぎて目で追えないのだ。わかるのは、今まで決死の覚悟で戦いを挑んでいた魔獣達が、次々と真っ二つにされて魔石に変わっている状況。
だが、声だけは届いた。
そして、大野大将軍というフレーズで理解する。
そこからの動きは速かった。
理解こそできていないが、兵士達は次々と負傷者を抱えて町に戻っていく。どうやら、指揮官が指示をだしてくれたらしい。どんな奴かは知らないが、優秀な判断だ。
既に俺が倒した魔獣の数は30匹を超えていた。それでもまだ、この付近だけでもまだその20倍は残っている。しかし、ここからはさっきよりも殲滅速度が上がるだろう。
……なぜなら
「ライトスラッシュ! ライトスラッシュ! ディバイン……チャージ!!」
ズバァァァン!!
兵士達が素早く後方に退いたお蔭で、スキルが使えるようになった。
ウーマンモークラスの大型の魔獣もいたが、流石にスキルの力が上乗せされた俺の攻撃だと、全て一撃で倒すことができる。
更に横薙の範囲攻撃(ディバインチャージ)は効果抜群だった。ステータスが以前よりも上がっているのもあって、それだけで半数の魔獣を消し炭……否! 魔石に変えてしまう。
結果、城門付近まで到着してから、ものの1分もかからない内に辺りの敵を殲滅してしまった。
よく見ると、周りには既に手遅れの兵士達が多く倒れてはいるが、それでもやれるだけの事はやった。これ以上の被害はないはず。
とりあえず、次はカリーとゲロゲロの応援に向かうか。流石に二人はまだ倒しきれていないはず……だよね?
俺がそんな事を考えていると、イモコのような恰好をした中年の男が近づいて来た。
「助太刀痛み入る!!」
「あぁ、問題ない。それよりもここはもう大丈夫だ。まだ倒れている兵士の中で助けられる奴もいるかもしれない。後でうちの僧侶が回復できるはずだから、心臓が動いている奴は全て運んでやってくれ。俺は、左右に残っている敵を倒しにいく。」
「ちょ、ちょっと待つでござる!」
「わりぃ、話は後だ。んじゃ頼んだぜ!」
俺はそれだけ告げると、ゲロゲロがいる方向に向かった。カリーとゲロゲロなら、この程度の魔獣に後れを取る事はない。特にゲロゲロならば、あっという間に殲滅するだろう。
なので、本来ならばカリーのところに向かうところであるが、俺はゲロゲロの方に向かう。
理由は簡単だ。あの姿のゲロゲロを見たら、普通なら新手の魔獣か何かと間違えられてもおかしくはない。
そう、俺は説明をするためにゲロゲロのところに向かうのだった。
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