第12話 急げ!!

「……なるほどな。つまりは、突然現れた見た事もない程に巨大かつ凶悪な魔獣によってこの町が亡ばされたということか。それで、今その魔獣はどっちに向かっているんだ?」



 この町でなんとか見つけた生存者……重兵衛と小五郎から聞いた話だと、現れた魔獣は3体。二足歩行をする巨大なライオン型の魔獣、三つの頭を持つハエのような魔獣、そして空飛ぶ亀型の魔獣。突如現れた強大な魔獣に、この町は為す術なく蹂躙されたとのこと。その後、小江戸からも部隊が派遣されたものの全滅。二人は一番最後に派遣された者だったようだ。



「残念ながら魔獣がどこに向かったかはわからないでござる。某達は、既にやられて気を失っており、魔獣の進行方向は見てないでござるよ。されど魔獣が現れた方向と進行方向から予想はできるでござる。目的地は邪魔大国……更にはその通過地点である小江戸でござる。某達は一刻も早く小江戸に戻り、城主様に報告せねばならぬ。」



 悲痛な面持ちで話す重兵衛。その拳は血が滲むほど握られている。仲間達が全員死んでしまったのだ。己の無力さが悔しくてしかたないのだろう。



「そうか……わかった。セイメイ、お前はどう思う?」



 重兵衛の話を聞き、一刻も早く小江戸に向かう必要性は出てきたが、俺達は人間だ。つまり、睡眠も食事も無く辿り着いたところで、まともに戦えるとは思えない。しかし、俺だけがゲロゲロに乗って空から向かう事もできる。それならば、少しくらい寝なくても行けるんじゃないか? と、前ならそう思っていたが、今は違う。仲間の声をしっかりと聞いて判断しなければいけないんだ。俺だけで何とかできるだろうといった傲りは……もう捨てた。



「そうでございますね。かなり急ぐ必要はあるかと思われます……が、既に日は落ちております。不休で向かえば、不測の事態も起こりえるでしょう。」


「やっぱセイメイもそう思うか。じゃあ、時間は惜しいが一度ここで休んで……」



 やはりセイメイも無理は危険と判断したようだーーしかし、俺の言葉はそこでセイメイに阻まれる。



「いいえ、その必要はございません。」


「どういうことだ? セイメイ。」


「ここから小江戸まで行くには、馬車を飛ばしても普通なら二日近くかかるでしょう。その間、馬も我々も不眠不休で向かう事など不可能でございます。そして、辿り着いたところで凶悪な魔獣が三体。サクセス様ならばそれでも行けそうな気もしないではないですが、あなたはこの大陸の希望です。少しでも危険があるならば、それは避けさせていただきます。」



 大陸の希望って……。まぁそれはこの際いいとして、休まなくていいと言っておきながら、今の話はまるで逆じゃないか? 何を考えてるんだ、セイメイは。



「じゃあ、やっぱり休むってことじゃないのか?」


「はい、その通りです。しかし、ここではありません。我々は常に進み続けるのです。敵は今のところ3体、であれば此方も最大戦力であらせられる、サクセス様、カリー殿、ゲロゲロ殿には休んでもらいます。」


「なるほどな。そういうことか。」



 どうやら、今の話だけでカリーは理解したようだ。しかし、俺にはまださっぱり……。



「つまりこういう事だろ。今拾った二人、そしてセイメイとイモコが御者として馬を走らせて、その間に俺らは中で体を休ませる。でも、それだと肝心な問題は解決してねぇんじゃないか?」


「はい。流石はカリー殿です。その点については……いかがでしょうか? シロマ殿。できますでしょうか?」



 そこで突然セイメイはシロマに尋ねる。つか、今の話だけでシロマがわかるわけ……あるか。



「はい。可能だとは思います。ですが、そういった使い方はしたことがありませんので、後々どのような負荷がかかるかわかりません。時空神様も、この力は万能ではないとおっしゃっていましたから。」



 シロマはそう言いながら馬の頭を撫でている。


 やばい、完全に俺だけ話についていけていないぞ。



「ちょっと待った! ちゃんと、わかりやすく説明してくれって。俺は馬鹿なんだから!!」


「これは失礼しました。カリー殿が心配しているのは馬の事でございます。2台の馬車を4人で回すのであれば、御者はなんとななるでしょう。しかし、馬は2頭。つまり、我々の前に馬が潰れてしまいます。ですので、シロマ様の力でどうにかできないか伺った次第でございます。」


「そういうことか。んで、シロマ。本当になんとかできそうなのか?」


「正直可能だとは思うのですが、絶対にできるとは断言できません。体を前の時間軸に戻すことはできるでしょうけれども、それほど長い時間を戻す事はしたことがありません。しかし、肉体的、精神的な疲労だけをなんとかするだけならば、できる可能性はあるかと思いますーーしかし、それがその後どのような影響を馬さんに与えるかわからない為……不安ではあります。」



 つまり、まぁできるかもしれないけど馬が最悪死ぬかもしれないってことか。優しいシロマからすれば、それは辛い選択だな。



「もう一度聞くけど、本当にできるか? シロマ。物理的な問題だけじゃない、シロマの精神的にもだ。」



 俺はシロマの目をジッと見つめながら聞いた。すると、シロマは決意の篭った目をして首を縦に振る。



「はい。大丈夫です。お馬さんには申し訳ありませんが、沢山の命が懸かっていますから。それに、この子(馬)達に何かあっても、私が何とかしてみせます。」


「……そうか。わかった。じゃあ頼んだぞシロマ! そしてみんなもだ! 道中にも危険な魔物がいるかもしれない。その時は遠慮なく俺を起こしてくれ。少し戦った位じゃ、俺のスタミナは減らないからな。無理せず、命大事にだ!」


 

 俺がそう伝えると、早速全員が準備をして下尾から小江戸に向かい始めた。




 でも、やっぱり……トンカツ食べたかったなぁ……。






 

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