第16話 ピンチに現れる勇者(ヒーロー)

【シルク視点】



「クソ……次から次へと……この建物のどこかにいるはずなんだ。ゼン、ここは任せていいか?」


「いけませぬ!! 今、単独行動は危険過ぎます。どうか私から離れる事のないようにお願いします!」



 前方には、盗賊10人、後方に5人、左右に10人。

 シルク達は、完全に盗賊達に包囲されていた。

 このままではローズがどこか違う場所に移動してしまうかもしれない、そう思ったシルクは焦っていた。

 しかし、状況は25対2……そう簡単にはこの場を切り抜けることはできない。



「だが、このままじゃ……。味方の援軍は期待できないし……。」


「大丈夫です、王子。必ずやこの窮地を乗り越えて、姫様を救出しましょうぞ!」



 一人、また一人とゼンは盗賊達を打倒していく。

 シルクもまた盗賊達に引けを取ることはなく、ゼン程ではないにせよ連携しながら敵の数を減らしていった。


 それでも敵の数は圧倒的に多く、倒しても倒しても次々に建物から新しい盗賊が現れ攻撃してくる。

 アジトの中央まで来るまでにシルク達は100人は倒したが、シルクもゼンも既に疲労が限界に来ていた。



ーーそして遂に



「ぐあぁぁ!!」



 シルクの腕に1本の矢が刺さり、血が噴き出してくる。

 矢が刺さった場所は剣を持っていた手であった事から、シルクは持っていた剣を地面に落とした。

 乾いた金属音がその場に響く。



「王子!!」



 その隙を見て、盗賊が3人掛かりでシルクに襲い掛かってきた。

 ゼンは周りの盗賊に阻まれてシルクに近づくことができない。

 まさに絶体絶命のピンチ



「もらったぜぇぇぇぇ!! おらぁぁぁぁ!!」



 盗賊は勝ちを確信し、邪悪な笑みを浮かべながらその剣をシルクの首に振り落とす。



ーーその瞬間だった



 突然辺りが気温がグッと下がったかと思うと、シルクを囲んでいた盗賊3人が一瞬で全員氷漬けとなる。

 そして、後方からは見知らぬ男の声が聞こえた。



「よくやったバーラ。大丈夫か? シルク王子。」



 そこに現れたのは、光の勇者フェイルと賢者バンバーラ。

 ダークマドウを追いかけていたフェイル達は、偶然にも殺されそうになっていたシルクを発見し助けに入った。


 一瞬何が起こったのかわからなかったシルク。

 しかし目の前にいる光輝く者を見て、すぐに直感する。



 勇者が助けにきた……と。



「勇者……様?」


「あぁそうだ。俺はフェイル。だが話は後だ。バーラ、王子を回復してやってくれ。俺はその間に周りの盗賊を一掃する。」


「わかったわ! 気を付けてね、フェイル。では王子様、回復しますので動かないで下さい。【ハイヒーリング】」



 これだけの盗賊に囲まれて尚、勇者は全く問題ないといった様子。

 シルクは、勇者が一瞬でその場から走り去るのを見てぼ~っとしていると、バーラが回復魔法を唱えた。



 すると、貫かれた腕の穴がみるみる塞がっていく。

 それどころか、さっきまであった疲弊感すらも和らいでいくのを感じた。



(温かい……そして痛みが引いて行く。これも並みの回復魔法ではないな。流石は勇者パーティということか。)



「すまない、恩に着る。しかし、なぜ勇者様達がこんなところに?」


「その説明は後よ。ローズ姫は私達が助けるわ。王子様達は逃げて下さい。」


「何だとっ!? どういうことだ?」


「そのままの意味ですわ、王子様。フェイルが戻ってきたら城に帰ってください。」


 

 バーラの言葉に驚くシルク。


 勇者たちがなぜローズの事を知っているのかわからないが、それであればこれ以上に心強い味方はいない。

 噂に聞く、世界を救って回る最強の勇者パーティ。

 敵の数がいくら多いといえど、勇者パーティの前では赤子同然なはずだ。


 そう考えると、目の前の女性が言うようにここは任せていいのかもしれない。

 王子という立場の自分がいることは、勇者パーティにとって足枷以外の何物でもない事はわかっている。

 だがそれでも、これだけは譲れなかった。

 たった一人の妹だ、例え勇者であっても任せきる事などできるわけもない。



「すまない。無理を承知で頼む! 俺は……妹を助けたい! その為に俺はここでやれるだけの事をしたいんだ! 足手まといにはならないようにする!! だから……だから頼む! 俺を一緒に戦わせてくれ!!」



 王子の必死な様子にバンバーラは困った顔になった。


 こういう時、フェイルならなんというだろうか……。

 多分、フェイルなら最悪の事態を考えて、シルクを拒否するだろう。

 しかし、もしもこれが自分の立場ならどう思うか。

 もしもカリーが敵に囚われていて、自分が近くにいるにもかかわらず逃げろと言われたら……。


 多分、自分は逃げないだろう。

 足手まといと分かっていても、必ずカリーを自分の手で助けようとするはずだ。


 そう思うと、シルクに対してこれ以上に逃げろとは言えない。

 そしてバンバーラは決めた。



「わかりました。しかし、私から離れることだけはしないで下さい。あなたが死んだらこの国は終わります。」


「ありがとう……。わかった、約束しよう。では、残りの盗賊を……。」



 シルクがそう言った瞬間、剣を肩に担いだフェイルがゆっくりとシルクに近づいてきた。



「もう平気か、王子? 周りの盗賊は全部倒したぞ。この付近の建物に隠れている奴らもな。」



 フェイルは、バンバーラがシルクを回復し会話をしている数十秒の間に敵を全員斬りふせた。

 その戦闘力は凄まじく、国内最強と言われているゼンですら勇者の動きを目で追う事すらできない。

 そして何事もなかったかのように戻ってくるフェイルを見て、ゼンは茫然と立ち尽くすしかなかった。


 しかしその後すぐに我に返ると、シルクの負傷を思い出して王子の下へ駆け付ける。



「王子!! 大丈夫でございますか!?」


「あぁ、もう平気だ。この者に治してもらった。それとゼン、この者達は……」


「わかっております。勇者様のパーティーでしょう。あの圧倒的強さを目にすれば誰にでもわかります。それにしても、勇者様がこのような場所に来られるとは、何たる幸運。」



 人類最強の応援に喜色の色を表す喜ぶゼン。

 しかし、ゼンとは違いシルクの顔は緊張していた。

 先ほどバンバーラには同行を許してくれたが、勇者がそこまで甘いとは思えなかったからである。

 どう伝えれば同行を許してもらえるか、必死で頭を回転させるシルク。



「王子がなぜここにいるかはわかっている。だが、後は任せろ。ここには魔王軍幹部がいる。つまり、ここは俺達の戦場だ。俺は未熟故、王子を守りながら敵と戦う事はできない。」



(やはりか……。ここで反論してもきっと勇者は自分達を連れて行かないだろうな。どうする? どうすればいい?)



 シルクの予想通り、フェイルは遠回しに城に戻るように告げてきた。

 これに対してどのように答えればいいか悩んでいると、バンバーラが先に口を開く。



「待ってフェイル。確かに魔王軍と戦うのは私達の戦いだわ。でも姫を助ける事は彼らにもできるはずよ。」


「何を言っているんだ、バーラ? それは危険過ぎるだろ。」


「だってそんなの今更でしょ? そもそも私達が来なければ、二人は死んでいたかもしれないわ。なら捨てた命と思って行動してもいいはずよ。」


「馬鹿な事を言うな! 助かった命を無駄にすることはない。第一、王子達がいれば俺達のパーティにも危険が及ぶかもしれないぞ。俺は王子の命よりもお前たちの命の方が大事だ。ここには魔王軍がいるんだ、現実をよく考えてくれ。」


「ねぇ、フェイル。魔王軍がこんな形で襲ってきた理由は考えた? 魔王軍はあなたを恐れているのよ。さっきもそうだけど、敵は逃げるのに必死だったわ。だからきっと、追ってもまた逃げられるかもしれない。そして今回の魔王軍のターゲットはきっとシルク王子。それなら、シルク王子が近くにいた方が敵は逃げない可能性が高いわ。逆に離れれば裏を突かれてシルク王子が襲われる。だから一緒にいた方がいいと考えるわ。これは魔王軍を討伐するのに必要な事よ、フェイル。わかって、お願い。」



 落ち着いた様子でゆっくりと説得を続けるバンバーラ。

 フェイルはその言葉を冷静に受け止め熟考する。



 確かに敵の逃げ足は速い。

 それに目的が王子ならば、姫は無事な可能性が高い。

 ということは、自分達がもしもダークマドウを見失えば、離れた王子が殺されるだろう。

 確かにバンバーラが言っていることには頷ける。



 そこまで考えたフェイルは、シルクを同行させることを認めた。



「わかったよ、バーラ。全く君には敵わないな。その代わり王子はバーラが守れ。俺は戦闘になればずっと王子の傍にはいられないからな。」


「当然そのつもりよ。ね? 王子様。」



 シルク王子に目配せしながら尋ねるバンバーラ。

 それにシルクは、感謝の気持ちを込めて頭をバンバーラに下げた。



「はい、よろしくお願いします。」


「わ、私も微力ながら全力で王子をお守りしますぞ!!」



 シルクの返事を聞き、慌ててゼンも答える。

 そして、やれやれと言った様子で軽い溜息をつきながらもフェイルは忠告した。

 


「シルク王子。俺達は姫を必ず助けるつもりだ、その為にここにきたからな。だが最悪な事に、この場所に魔王軍幹部がいる以上そっちを討伐する事も重要だ。それを忘れないでくれ。」


「わかっています……ローズは私が助けます!」



 こうして絶対絶命のピンチを逃れたシルクは、勇者フェイル達を仲間にし、再びローズ救出に向かうのであった。

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