第15話 魔王軍幹部 ダークマドウ
【カリー視点】
「なんだこいつら!? どっから沸いてきやがった!!」
シルク達と逆側に配置したカリーは、突然地中から大量の魔物が出現したことに驚く。
それもそのはず、周囲の偵察はカリーが済ませており、かつ、熱探知にも周囲に魔物の反応はなかった。
だがしかし、今回出現したのはスケルトン及びアンデッド系モンスター。
そもそも体内に熱を持っておらず、しかも地中に隠れていたのでは流石のカリーでも探知することはできない。
「慌てるなカリー。この程度の魔物なら俺とバーラだけでも十分だ。それよりも中の様子はどうなってる?」
「あぁ、そうだったな。中もどうやら動き始めたようだ。熱が大分上がっているし、移動も始まった。」
「じゃあこいつらは放っておいて中に侵入するぞ。」
フェイルがそう決断した時だった。
「フェイル!! あれ! あれって魔王軍の幹部じゃない!?」
「なにっ!?」
バンバーラが目にしたのは、黒装束に仮面の男。
実はこの恰好の魔族にフェイル達は一度遭遇している。
後少しで倒せるところまで追いつめたが、取り逃がしてしまった魔王軍幹部の一人。
そいつは敵のアジトの屋根の上に立って、アジト内の状況を眺めていた。
「あれは……ダークマドウ……。そうか、この一連の状況は奴が……。カリー、作戦変更だ。俺とバーラは奴を仕留める。お前はローズを探せ。わかったか?」
「兄貴……いや、フェイル。俺は行かなくていいのか?」
「お前にはお前の役目がある。姫様を救うのはお前しかできない事だ。だから必ずやり遂げろ。行くぞ、バーラ!」
フェイルはそう言うと、周囲の魔物を剣で瞬殺していき、アジトの柵を飛び越えて中に入る。
そしてカリーもまた、アジト内で熱が動いていない場所を検索すると同時に、アジト内に侵入した。
「ローズ……どこにいる。今必ず助けるからな!」
カリーは三つに絞った場所に片っ端から突入する。
「おわっ!? お前何も……ぎゃあぁぁぁぁ!!」
カリーはアジト内の建物に入るや否や、一瞬で敵に近づくと躊躇なく全てを斬り捨てる。
盗賊たちは、突然見知らぬ男が入ってきたと思った瞬間にその命を絶たれており、何が起こったかさっぱりわからない状況。
「違う……。ここじゃない! どこだ、ローズ! 返事をしてくれ!!」
カリーは誰もいなくなった建物で叫ぶと、再び扉の外に出て、残り二ヵ所を探す事とした。
一方、フェイル達は……
「バーラ、奴の動きを止めてくれ。それに合わせて俺が一撃で仕留める。」
「わかったわ! ブリザック!!」
フェイルとバンバーラはダークマドウに気付かれぬように背後から近づいていくと、バンバーラが最上級氷魔法をダークマドウの足に向けて放つ。
それと同時にフェイルが一気に接近した。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
バンバーラの放った魔法が、何らかの結界に阻まれ足止めが失敗する。
それでもフェイルはそのままつっ込んでいったが、ダークマドウはそれに気づいて宙に逃げるとフェイルの斬撃が空を斬る。
「何っ!? なぜ勇者がここにいる!! どうしてだ! いつ気づいた!?」
不意打ちが失敗したにもかかわらず、ダークマドウは焦っていた。
後少しで作戦が成功するところで、一番危惧していた勇者が突然現れたからである。
以前ダークマドウは、勇者の一撃により瀕死の重傷を負った事があった。
それ以来、勇者にはどうあがいても敵わないと判断し、敵わないなら極力近づかないように決めている。
そして、もしも遭遇した場合の逃げる対策も何重にもを講じていた。
今回、勇者の一撃を躱すことができたのはまさにそれのおかげである。
あの日以来、ダークマドウは常に魔法のバリア(一度攻撃を食らうと消滅する)を張っており、もしもそれが壊れた場合は自動で宙に逃げれるアイテムを忍ばせていたのだ。
だが、それでもいざ勇者を前にしたダークマドウは完全に動揺……否、ビビりまくっている事に変わりはない。
ダークマドウの頭の中は、とにかくここから逃げないといけないという思いで一杯だった。
しかし、それを許す勇者ではない。
「バーラ追撃だ。奴のバリアは切れている。魔法で奴を撃ち落とせ!!」
「わかったわ! 【ギガナゾン】」
フェイルの言葉に咄嗟に爆裂魔法を放つバンバーラ。
今回は動揺していたのもあり、ダークマドウはそれを直撃して地面に落下した。
「ぐわぁぁぁ!! くそ……はやく……早く逃げねば!! はっ!! そうだ! あれがあった! あれだ、あれがあれば勇者も……。」
「くだばれぇぇぇ!!」
フェイルはダークマドウが落下した地点に飛び降りると、袈裟斬りでダークマドウをぶった斬る!
体の中央から半分が分断されるダークマドウ。
「やったぞ!! 奴を倒し……!? いない! 奴がいないぞ! どこだ? どこに消えた!?」
真っ二つに斬り裂いたはずの敵が、フェイルの前で急に消えた。
この事に驚いたフェイルは、瞬時に周囲を見渡す。
ーーすると、少し離れた建物の上から声が聞こえた。
「ふふふ……ここですよ。勇者さん。こんなこともあろうかと、変わり身の玉を用意していたのです。今あなたが切ったのは偽物。それでは、また! できれば追わないでくださると助かります。」
「しまった! くそっ! 追うぞ! バーラ!」
「はいっ!!」
追撃に失敗した事を知り、焦りの表情を浮かべるフェイル。
しかし直ぐに気持ちを切り替えると、奴を追い始めるのだった。
【カリー視点】
「ちくしょう!! ここも違う!」
カリーは目星をつけていた三ヵ所の内、既に二ヵ所を制圧していた。
しかし、そのどちらもハズレ。
カリーの運のステータスは低く、それが今回影響していたようだ。
しかし、残すところは後一つ。
今度こそローズはそこにいると信じ、直ぐにその場所へと向かった。
そしてカリーは最後の建物の扉を開けると、そこで目を大きく開く。
「ローズ!!!」
そう、扉の中に入ると、部屋の奥でローズが紐に縛られているのを遂に発見したのだ。
「カリー!!」
ローズもカリーを見つけた瞬間に叫んだ。
しかし、当然それを阻む者達がそこには存在する。
ラギリ率いる元盗賊団の幹部5人だ。
いずれも他の盗賊達とは比較にならない程の戦闘力を有した者達。
そして侵入者が現れた瞬間には魔法使いがカリー目掛けて魔法を放った。
【フリーズコ】
氷の中級魔法である。
敵は手練れなのもあり、まずはカリーの足止めをしようとした。
しかし、カリーにそんな手は通じない。
地中から生える氷の刃を瞬時に避けると、一番近くにいた戦士に技を放つ。
【乱れ斬り】
カリーの一撃で敵の戦士は一瞬で体を斬り刻まれて絶命した。
敵は手練れとは言え、勇者と共に何度も死戦を潜り抜け、そしてバトルロードに転職したカリーの敵ではない。
「何っ!? こいつ強いぞ! お前ら、囲め! 俺がこいつの足を止める。」
そう言うと、そいつは弓を構えて一気に3発もの矢を放った……がしかし、やはりこれも全てカリーに見切られて避けられる。
「遅い!! ローズ! 今行く!」
「カリー! 気を付けて!!」
カリーはそのまま弓使いを斬り伏せると、残りの戦士2名と魔法使いの場所を把握した。
そして戦士の内、一人がローズに近づこうと走り出すのに気付き、まずはそいつの足を止める。
「ぐわっ!!」
カリーがそいつに投げつけたのはクナイと呼ばれる飛び道具。
ローズを人質に取ろうとしたのが裏目に出て、戦士は背後からもろにクナイが突き刺さると、そのまま床に倒れ込んだ。
「ローズには指一本触れさせねぇ!!」
その後すぐに魔法使いの首を刎ねると、残り二人の戦士も一瞬で蹴散らした。
この間、数秒。
カリーがローズを守る為に強くなろうと旅に出たのは間違いではなかった。
昔のカリーなら、この5人相手では遅れを取ったかもしれない。
しかし、今は違う。
今のカリーなら、この倍の数が相手でも瞬殺できる程の戦闘力を有している。
「ローズ!! もう大丈夫だ!!」
阻む者がいなくなった今、後はローズを縛る紐を切って助けるだけ……そう思ったカリーはローズのいた方を振り向くと
ーーそこにローズの姿は無かった……。
「カリー!」
カリーはローズの声に振り返る。
すると、扉の前でローズを抱えた黒いローブ姿の男がそこにいた。
「てめぇぇぇぇ!! ローズを返せ!」
溢れ出る怒り。
やっとローズを助けられたと思った瞬間、再びつれ攫われたのだ、その怒りは計り知れない。
だか、そんなカリーの気も知らず、そいつは飄々と話し始めた。
「いやぁ、間一髪でしたね。返せと言われても、この娘は返せませんよ。なんといっても、私の切り札ですから。」
そこに現れたのは、フェイル達が追っていた魔王軍幹部ダークマドウであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます