第14話 嵌められた王子
シルクとゼンが二人で門番が立っている場所まで歩いていくと、他の騎士達は木々に隠れて待機していた。
今回の目的は、ローズの解放であり基本的には戦闘がメインではない。
あくまで最初は交渉が前提だ。
「ラギリ!! 私、自ら来てやったぞ! いるのはわかっている、出てこい!!」
シルクは門番に近づくと、それらを無視して大声で叫ぶ。
しかし門番達はシルク達に気付いてもニヤニヤと笑って見ているだけで、まともに取り合う雰囲気がない。
それ故にシルクは門の中にいるであろう、ラギリに向かって叫んだのである。
「おいおい、俺達は無視ってかぁ?」
「この場所でラギリ様をいきなり呼びつけにするなんて、随分立場を弁えないおぼっちゃんだなぁ。」
「門を開けてほしいでちゅかぁ? 欲しければお金を持ってくるんでちゅよぉ。」
門番達は舐めた態度でシルクを挑発する。
しかし、シルクはその言葉で確信した。
(やはりラギリはここにいる。そして命令を無視して城に戻らないという事は、ローズも必ず……。)
「貴様らっ! 王子に向かってなんだその態度は!」
そんな事を考えているシルクの傍ら、隣にいるゼンは頭に血管が浮かび上がる程激怒していた。
「はっ? 知らねぇなぁ。その坊ちゃんが王子だなんてなぁ。まぁ例え王子であっても別に俺らはビビりゃしねぇよ。ここは俺達の領域だ。お前の方こそ、そこんところ弁えておけや。」
ゼンが門番に怒りながら詰め寄るも、門番達はビビることはなく強気な態度で応じ、門を開けるつもりはないらしい。
どうしたものかとシルクが考えたその時、突然門が内側から開くと奥から一人の姿が現れる。
そこにいたのはーーラギリ本人だった。
「これはこれは、遠路はるばるこんな所までお越しいただきありがとうございます。王子。」
「ラギリっ!! 貴様!!」
現れたラギリを目にした瞬間、ゼンは怒りの声を上げる。
今にも突撃しそうなゼンであったが、それを止めたのはシルクだった。
「待て、ゼン。話合いが先だ。」
「流石は王子。立場をよくわかってらっしゃる。安心してください、ローズ様は無事でございますよ……今のところはね。それよりこんな所で立ち話も何ですし、中にお入り下さい。」
ラギリは落ち着いた様子でシルク達を門の中に引き入れようとした。
その態度は門番達と違い、城でシルクと相対している時と変わらない。
だが、シルクはそれを断る。
「いや、まずはローズの無事を確認させてほしい。門の中に入るのはそれからだ。」
「随分と慎重ですな。まぁ、それは当然と言えば当然でございますね。しかし、困りました。ローズ様は現在お疲れであり、ここまで歩かせるのは難しいのです。その為、ローズ様のところまで案内するつもりだったのですが。」
ふてぶてしくも、明らかに嘘と分かる言葉をはくラギリ。
当然、シルクがそれ信じることはない。
「そんな嘘が通じるはずがないとお前もわかっているだろう。安心しろ、交渉には応じる。しかし、それよりも先にローズに会わせてくれ。」
シルクがそう言うと、突然豹変したかのように態度が変わった。
「めんどくせぇ……。あぁ、めんどくせぇなぁ……。正直に言うわ。お前さ、死んでくれよ。ローズ姫なんてどうでもいいんだわ。欲しいのはお前の命。だが安心しろ。姫は生きている……がお前が死んだ後はズーク様の慰み者となるがなぁ!! くははははっ!! 野郎共、こいつら二人を殺せ!」
その言葉と態度を見て、シルクとゼンは剣を抜く。
交渉は決裂……否! 最初から相手にそのつもりはなく、自分を殺すための罠だと気付いた。
「遂に本性を現わしたな、ラギリ! ゼン、仕方ない。このまま門に突入してローズを救うぞ。」
「ははっ! この命に懸けましてもシルク王子とローズ姫はお守りします。 ピュルゥゥゥゥ!!」
ゼンは返事をすると同時に笛を吹いた。
これは森に潜んでいる仲間達へ伝える、決戦の合図である。
この音が響いた瞬間、全員で突撃する予定……であったが飛び出してくる仲間は一人もいなかった。
「く……くはははは! 残念だったなぁ、ゼン。お前たちの仲間は、今頃森の中で魔物と戦っているだろうよ。つまり援軍は来ねぇ。少ない人数で来たのが失敗だったなぁ。流石はズーク様だ。」
その様子を見ていたラギリが笑いながらゼンにいい放つ。
その言葉にシルクが反応した。
「なんだとっ!? 魔物は周囲にいなかったはずだ。まさか……お前……。魔族と組んでいるのか? だとすれば、貧民街が襲われたのも!?」
シルクは気づく。
これまでの不可解な流れが一本の線で繋がった。
国の中で突然魔物が現れた事も、今、魔物が現れたのもラギリ……いやズークの仕業であったと。
(くそっ!! 完全にズークにやられた。やはり拷問で全てを吐かせるべきだったか……。だが今はもう遅い。とにかくローズを助けねば!)
「ご名答。お前はズーク様の手の上で踊らされていただけ。まぁ冥途の土産ってところだな、今の話は。ここにいるのは俺の部下達300人、そしてその周りは俺の命令で動いてくれるスケルトン達で溢れている。お前は既に詰んでいるんだよ、シルク王子。だから、さっさとくたばりな。」
森の中に魔物がいなかったのは、全て魔王軍幹部の仕業であった。
そして、シルクとは別に動いているカリーが熱探知で魔物を見つけられなかったのも、地中に体温の無いスケルトンが潜んでいたからである。
しかしシルクは絶体絶命のピンチでありながらも、焦る事はなかった。
なぜならば、シルク自身の剣の腕はロイヤルナイツの中に入っても上位に食い込むだけの実力がある。
そして何よりも、その自分100人よりも強いゼンの強さを信頼していた。
盗賊の100人や200人程度ならば単独でも切り抜けられるだろう。
だが、ゼンの判断は違った。現状を鑑みれば(かんがみれば)、ここは一時撤退する場面。
故に、シルクに進言する。
「王子っ!? ここは一旦引きましょう! 奴に交渉をするつもりはなかった。そしてローズ姫を殺す事もない。それならば、戻ってズークを捕縛するのが優先です。」
ゼンの判断は正しい。
今、この局面で無理矢理ローズを救出するよりも、事の元凶を断つのが最優先だ。
しかし、シルクの考えは違う。
シルクは気づいていた。
これは単にズークの反乱なんかではない。
魔王軍の侵略の一部であると。
それすなわち、早急に国から魔王軍の息がかかる者達を見つけなければならない事。
また、元凶となっている魔王軍の者を探し出す事。
つまり、ズークを殺したところで第二、第三のズークが現れるだけ。
さらに言えば、今の段階でズークを殺せば、ローズが生かされている理由が無くなる。
であるならば、まず優先すべきはローズの身柄の確保。
全てはそれからだ。
シルクに引くつもりはない!
「すまない。ゼン。ローズの救出を最優先とする事に変わりはない。俺を……信じてくれるか?」
「王子……。わかりました。このゼン、命を懸ける事はに変わりはありませぬ。それでは行きましょうぞ! 【真空回転斬り!!】」
ゼンは何も言わず、シルクの目を見てそれに従った。
そして同時にこちらに向かって襲い掛かってくる門番達に気付き、魔法戦士の技を放つ。
「がっ!!」
「ぎゃあああああ!」
「あびゃしーーーー!!」
一瞬で6人の盗賊が胴を真っ二つすると、盗賊達は断末魔を叫んで即死した。
「ほほぉ、流石は王国最強。しかし多勢に無勢。俺は高みの見物でもさせてもらうぜ。精々頑張るんだな。」
それを見ていたラギリはその場を離れる。
「待て!! 逃げるな、ラギリ!!」
シルクは逃げるラギリを追って門の中に入った。
ラギリが向かう方向、それすなわちローズの居場所だと確信したからである。
そしてそんなシルクの前に立ちふさがるは数十人からなる盗賊たち。
盗賊達は自分達が絶対的優勢と考え、全員がニヤニヤしながら走るシルクの前を塞ぐ。
「行かせねぇよ、おぼっちゃん。」
「どけ!! どかなければ斬る!!」
「斬る? だってよ、ぐはははは!!」
盗賊達が笑っていると、上空から無数の矢がシルクに向かって飛んできた。
それに反応したシルクは矢を何とかよけながらも、避けきれない矢は盾で防ぐ。
「くそっ!! やっかいだな。だが奴の向かった方向はわかった。ゼン! ここを切り抜けるぞ!」
「ははっ!! それでは私が道を開きます故、王子は上空の矢だけに注意してください。我が王国最強の剣技をくらうがいい。【マグマグ】【いなづま突き】」
ゼンは素早く二つの技を放った。
一つは矢が飛んできた方。そこには地中から上りたったマグマが襲い掛かる。
そして前方を固めていた盗賊達は、技と同時に突撃してきたゼンに貫かれ、その余波がその周りにいた盗賊達を弾き飛ばした。
王国最強の戦士。
その実力は伊達ではない。
ゼンの攻撃によって前方に道ができると、シルクは一直線にそこを突破していく。
しかしそれでも、際限なく周囲から現れる盗賊達。
ゼンが圧倒的に強いとはいえ、流石に300人ともなると途方もない人数差であり、容易には進めない。
だがそれでもシルク達は、ローズ救出の為に命を懸け、周囲の盗賊達を蹴散らしながら進むのであった。
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