第13話 ローズ救出作戦
【カリー視点】
現在、カリー達は馬に乗って北西方に向かって駆け抜けている。
メリッサから北西方は深い樹海となっており、それを抜けた先には海しかない。
つまりローズがいる場所はその樹海の中だと推察できる。
そして平原を駆け抜けている際中、遠くに10騎程の馬が同じ樹海に向かっているのを発見した。
「あれは……見た感じ王国の兵士のようだが、カリーはどう思う?」
「旗は……ないな。けどまちがいねぇ、あの白い兜はシルク王子、つまりはローズの兄貴だ。王子が直接出向くとなりゃ、間違いなく行先はローズが捕まっている場所に違いねぇ。あいつに付いて行けばローズの居場所がわかるかもしれないな。どうする、フェイル?」
「そうだな、合流するか?」
「いや、合流はしない方がいいだろう。敵を欺くにはまずは味方からってな。教えてくれたのはフェイル、アンタだろ? だから、このまま距離をとりつつ進んで行き、ローズがいる場所がわかったら裏側に回り込む。あいつらには囮になってもらう方がいい。」
カリーはニヤリと笑みを浮かべる。
「流石だな、カリー。いつもの調子が戻ってきたじゃねぇか。なぁ、バーラ。」
「えぇ、私もカリーの作戦に賛成だわ。シルク王子が直接出向くのであれば、敵は間違いなくそっちに注意を引く。私達の目的はあくまでローズちゃんの救出。戦闘ではないわ。」
バンバーラもカリーの意見に賛成すると、真剣な眼差しでシルク王子が進む方は見つめていた。
魔族や魔物との戦闘経験はあるものの、対人経験はほとんどない。
その為か、バンバーラは少し緊張しており、肩に力が入っていた。
だが、それとは逆にカリーの目は自信に満ちている。
ローズを守る為に身につけたその力、今がまさにその時だからだ。
カリーは二度の転職を経て、現在バトルロードという職業になっている。
今でこそ火力特化型の職業だが、その前はレンジャーというスカウトに特化した職業だった。
なぜわざわざレンジャーを経ているかと言うと、その職業で手に入れられるスキルが勇者パーティに必要だったからである。
しかし同時にそれは、カリーが戦士として強くなる期間を失う事を意味した。
その為、当時フェイルはそれに反対したのだが、それを押し切ってカリーは転職したのである。
どうしてもレンジャーの一部の者だけが取得できる熱探知のスキルが欲しかったのだ。
熱探知はレンジャーになれば取得できるスキルではない。
勇者の加護を受けたレンジャーのみが取得できる特別なスキルである。
しかし勇者パーティであるカリーなら、ある程度レベルを上げれば容易に取得可能だった。
そう考えると得した気にもなれるのだが、実はそういう訳でもない。
勇者の加護を受けることができるのは、一人につき一回のみ。
つまり、戦士……いやバトルロードとして加護を受ける事ができなくなったということだ。
それが意味するところは、カリーは強くなる機会を失うという事。
強くなりたいと願うカリーであれば、当然バトルロードで加護を受ける方が良いに決まっている。
だがパーティとして動くならば、熱探知スキルは喉から手が出る程欲しいスキルだった。
故にカリーは、単純な戦力よりも恩恵の大きいそのスキルを選んだのである。
あの時の選択は間違っていなかった。
今カリーはそれを強く感じている。
神様がこの時の為にそうさせてくれたとさえカリーは思った。
なぜならば、ローズを救出する為にこのスキルは最適だからである。
体温を探知する事で、敵の位置も味方の位置も……そしてローズの位置すら把握する事が可能。
それは救出任務において、ある意味チートに近いスキルだった。
「あぁ、今になってバトルロードに転職する前にレンジャーになっていた事を感謝するぜ。俺の熱探知スキルがあればローズの場所がわかるはずだ。俺がスカウトをするから、フェイルと姉さんは俺の後ろを付いてきてくれ。」
「わかった。カリー、頼んだぞ。姫様を救えるのはお前だけだ。」
「任せとけ! そのために俺は強くなったんだ! ローズは俺が必ず助ける!」
カリーはそう言うと、手綱をギュッと握りしめながらも速度を落とす。
熱探知スキルがあれば、とりあえず離れていてもシルク王子達を見失う事はないからだ。
そしてカリー達はシルク王子とそのまま一定の距離を保ったまま、樹海に向かって進んでいくのであった。
【シルク視点】
「ズーク! 本当にこの樹海の中にアジトはあるんだろうな? 流石にあれだけ深い森だと、正確な道を進むのは難しいはずだ。よもやお前、ここまできて私を騙そうとしているのではないか?」
「滅相もございませぬ。アジトはあの樹海の中で間違いありませぬぞ。心配することは何もございません。私、自らがラギリを勧誘するためにそのアジトまで出向いております故、道は覚えておりまする。剣など向けなくとも、王子を騙すつもりはございませぬよ。」
シルクは馬で駆け抜けながらも、その隣を併走するズークに剣を向けて言い放った。
しかしズークは、一切それに微動だせずに淡々と答える。
「くっ……! まぁいい、いずれにせよ行けばわかる。違えばお前の首を刎ねるまでだ。ここにいる者は全てお前の手の者ではない。ここにきて謀反等起こす事はできないぞ。心しておけ。」
「ははぁ。その言葉、深く心に刻む所存でございます。」
シルクの言葉に仰々しく返事をするズークであるが、その内心は違った。
(馬鹿め。お前は既にワシの術中にはまっておるわい。偉そうにできるのもあと僅か……。ぐふふ、ようやくだ。ようやくワシが王となり、あの美しいローズを妃に迎え、好き勝手できるぞい。ローズが泣き叫ぶ中、無茶苦茶にできる日がくるとはのう。ぐふふふふ……。年甲斐もなく下半身がうずくわい。)
そしてそのままシルク達は樹海に入り込むと、そこからは速度を落としズークを先頭に進んで行く。
道中、魔物との戦闘も予想していたのだが、不思議な事に魔物に襲われることはなかった。
それを若干不自然に感じつつも、しばらくズークの案内で進んで行くと、やがて木々の隙間から遠くに小さな集落があるのを発見する。
「停まりください、王子。あそこに見えますのがラギリの隠しアジトでございます。馬は一度ここの木々に紐で縛り付けて、ここからは歩いて向かう方が良いと思われます。馬では足音が大きすぎます故。」
ズークがそう言いながら馬から降りる。
そしてシルクもまた、何も返事をせずに馬から降りた。
シルクが見据えるは、集落の門の前に立つ6名の盗賊風の者。
ここがラギリの隠しアジトであるなら、ラギリがズークに仕えている今、門番が立っている事等ありえない。
あれは完全に何かを警戒している様子だ。
ローズは間違いなくあの中にいる!!
(ローズ!! 今助けに行くからな! 無事でいてくれ!)
シルクは思わず力強く握り締める拳に汗がジワっと広がるのを感じた。
ここが正念場だと本能がそう告げている。
そして、ここから先の自分の行動でローズの運命が変わるかもしれない。
故に、普段ならあまり緊張しないシルクの顔が少々強張った。
「それでいかがしますかな? 私が先に行って門番と話を付けに行った方がよろしいか? 門番をしている者は、ラギリで手下でしょう。つまりは、私の元部下でございます。」
「……元? 今でも、お前の部下だろうが。白々しい事を言うんじゃない。確かにここから強行突破するのは愚策……だが、お前を先に行かせるのはもっと愚策だろう。お前の事だ、あそこにいる盗賊たちと共闘して私達を殺す腹なんだろ?」
「そ、そ、そ、そんな、恐れ多い。ここにいるのは、メリッサ国で選び抜かれた猛者8名。とてもラギリの手下では敵いませぬ。私めを疑う気持ちはわかりますが、冷静になってもらわないと困りますな。なんといっても、ローズ姫の命がかかっているのですから。」
わざとらしく焦った様子をみせるズーク。
シルクは未だに、これまでの全てがズークによるものだと確信している。
しかし、証拠はない。
いや、これまでの行動を無理矢理こじつければ、王国裁判を行ってズークを処断できるだろう。
だがそんな事よりも、今一番大事なのはローズの命。
それがあるからこそ、騙されているとわかりながらもズークを連れてきたのである。
「ふんっ。私は冷静だ。まぁいい、交渉は私がする。ラギリもそれを望んでいるだろうからな。」
「いけませぬ、王子!! ズーク大臣は私も疑っておりますが、王子自らが先頭に立つ等危険過ぎます! あなた様の代わりはいないのですよ!? もっとご自身を大事にしてくださいませ。交渉なら私が行います、もちろん、王子の意見を聞いた上で判断しますが。」
ズークとシルクの会話に割って入ってきたのは、ロイヤルナイツ第一軍団長ゼン。
ゼンはシルクが幼い頃から教育係そして戦闘の師匠として仕えてきた者で、王国最強の魔法戦士だ。
そしてシルクにとってローズの次に信頼している者、それがゼンである。
「ゼンよ……。お前の忠告はありがたい。だが、これは私がやらなければならぬ事なのだ。それに私はお前が傍にいるならば、矢の雨の中だろうと裸で進めるだろう。その位お前の武力と忠義を信頼している。だから私は平気だ……やらせてくれ。」
その言葉にゼンはこれ以上の説得を諦めた。
ゼンは知っている。
この目になったシルクは、誰が何を言おうとも決して折れることはない。
だからこそ、ゼンはいっそうシルクを守る事に全力を尽くす事を心に誓った。
「……王子。わかりました。それではこのゼン、命を懸けて王子を守る事を誓います。ですので、もしも私が倒れた際には必ずやお逃げください。私の亡骸はそのままにし、一目散に逃げるのです。それだけは約束していただきたく思います。」
ゼンの言葉を重く受け止めるシルク。
自分の命は自分だけのものではない。
ローズもそうだが、ここにいる兵士全ての命を預かっているのだ。
シルクはその事を深く受け止めると、剣をアジトに向けて掲げる。
「わかった。いつもお前には負担をかけるな。では行くぞ!!」
【カリー視点】
「ビンゴだ。どうやらあそこがローズの捕まっているアジトらしい。こんな小さな集落のくせに、中には結構の数の人がいるな。熱的には魔物のものではない、全部人間だ。」
カリーはシルクのいる場所から西方に馬を止めると、フェイルにその情報を伝える。
「そうか。で、姫様がいそうな場所は分かりそうか?」
「そうだな、何か所か怪しい場所があるな。不自然に人の熱が固まっている場所がそうだ。だけど正直今の段階ではローズがどこにいるかまではわからねぇな。まぁ、シルク王子達が動けば、また状況は変わるだろうな。特に戦闘になれば、建物の中にいる奴らも出ていくはずだ。そうすれば、もう少し絞れる。」
「なるほど、流石カリーだ。俺が見込んだだけはある。しかし、俺はそれよりも道中に魔物がいなかった事の方が不気味に感じるぞ。これだけ深い森だ。魔物がいないわけがないんだが。……まぁ気にしてもしかたがないか。」
フェイルの不安にバンバーラも頷く。
「確かに不気味よね。でも逆にチャンスだわ。背後に敵がいないなら、私達も動きやすいもの。とりあえず、裏手に回ってみましょう。」
「あぁ、それじゃ馬はここに待機させて走って向かうぞ。よし、姫様救出作戦の開始だ!」
こうしてカリー達もまた、ローズを救い出すべく行動に出るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます