第12話 闇の蠢動
密林の中に不自然に存在する小さな集落。
一般的にその造りは農村に近かったのだが、森の中は日辺りが悪く畑等は存在しない。
ーーいや、そもそもその集落には人が住んでいる気配すらなかった。
そう、ここはかつて存在したラギリ盗賊団の隠れアジトである。
5年ほど前にラギリがズークにスカウトされ、盗賊団が丸ごとズークの私兵に加わった今、ここに住んでいる者はいない……はずなのだが、現在この集落には100名程の人が集まっている。
そして今、その集落で最も大きな建物の中では女性の怒声が響き渡っていた。
「今すぐ私を解放しなさい! あなたは何を考えているのですか!? ラギリ!」
「暴れないで下さい姫様。あなたは大事な人質なのです。怪我でもされたら、あなたの兄との交渉が難しくなるでしょう。それに私は国の兵士ではなくズーク様の私兵。姫様の命令に従う義務はございません。」
ローズは、縄に括りつけられながらも必死に手足を動かし、縄を振りほどこうと暴れている。
しかし縄は想像以上に頑丈であり、女性の力では振り解くことはできずにいた。
その状況を監視しているのはラギリ率いる元盗賊団の男達。
そこにはラギリを含めて5人の元盗賊がローズを囲んでいる。
つまり縄をどうにかできても、ローズが逃げる事は絶対にできないだろう。
少なくとも魔法使いは距離が無ければ、ほとんど無力と言っても過言ではない。
監視の目さえなければ魔法で縄を解き脱出することも可能だったが、流石にラギリもそこまで愚かではないため、5名もの監視を付けていたのである。
今は逃げる事が難しいと判断したローズは暴れるのをやめ、ラギリとの対話を試みることにした。
「あなたを……ズーク大臣を信用した私が馬鹿でしたわ。それであなた達の目的は何なのですか!?」
「目的……ねぇ。そんなものは私にはわかりませんね。私はただズーク様に命令された事を忠実にこなしているだけですから。交渉についても私は指示された事を伝えるだけですし。ただ……まぁ、これが成功すれば私は貴族となり、地位と名誉を手に入れることができるでしょう。そうなれば、私の事を馬鹿にしてきた元貴族共に表立って復讐もできるという訳です。笑いが止まりませんねぇ。クククク……。」
ラギリは、意外にもローズの質問に素直に答えた。
ローズにとってこの状況で対話に応じてくれるのは幸運であるが、多分自分を解放することはないと考える。
だが少なくともここで多くの情報を得ておけば、後に色々と役に立つと思い、ローズは質問を続けることにした。
「……あなたは何を言っているの? 貴族制度はもう無くなったわ。それはあなただって知っているでしょ?」
「……くくく。そんなものはまた作ればいい。とりあえず姫様とこれ以上話すつもりはないので、これにて失礼しますよ。くれぐれも暴れて怪我をしたりしないようにお願いしますね。ひ・め・さ・ま。」
ラギリは薄ら笑いを浮かべながらローズにそう告げると、その場から離れて行った。
突然ラギリから対話を打ち切られた事に焦るローズ。
もっと色々聞いておきたかったローズだが、こういった対話の駆け引き等は向いていなかったようだ。
「ちょっと!! 待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ! ねぇ、お願い! 戻ってきてください、ラギリーー!!」
ローズの叫びも空しく、その扉は閉まる。
結局のところラギリから聞けた情報は少ない。
しかしながら、その目的は少なくとも自分を殺す事ではないとわかった。
だが逆に自分が捕まっている事で間違いなく兄が危険に晒されてしまう。
この時ばかりは今回の自分勝手な行動が如何に軽率であったかを反省するローズ。
故に、なんとか隙を見て脱出する方法を探る事とした。
……一方、外に出て行ったラギリはとある人物と接触している。
その相手は漆黒のローブに身を包んだ怪しげな者。
そしてラギリが頭を下げると、その者がラギリに声をかけた。
「ふむ。よくやったラギリよ。それで姫にアレは施したか?」
「はっ! 言われた通り姫が眠っている間に行いました。しかし、本当に現れるのでしょうか? 噂だと、かなり遠くの地にて魔王軍と戦っているとお聞きしましたが。」
「それについてはわからぬ。しかし、念には念を入れておいた方が良いだろう。ちなみにズークからの報告では、既にシルク王子は10人程の兵士を連れてここに向かっているようだ。一応万が一の為にに、魔物を周囲に配置はしている。好きに使え。そして必ずやシルク王子を抹殺せよ。」
「はっ! 必ずやこのラギリ、ダークマドウ様のご期待に沿うことを誓います。」
森の中でラギリがあっていた人物。
それは魔王がこの国に派遣した魔王軍幹部ダークマドウだった。
ダークマドウは、魔王軍の中で最も知略に優れた幹部である。
まずはこの国を混乱させるために王を殺す事なく動けなくさせ、更にはそれによって王子が行動を起こす事を見越して国を混乱させた。
そしてズークを抱える事でこの国を裏で操り、表側では侵略されてないように見えて、裏からの実効支配を目論んでいる。
なぜそんな遠回しな事をしているかというと、今まで通り直接敵に侵略すると勇者が現れて魔王軍自体が壊滅するおそれがあったからだ。魔王もズークも勇者をとても危険視している。
しかしながら、それでもダークマドウは安心できない。
ズークから報告を受けて勇者の噂からその足取りを追ったのだが、確実な情報はなかった。
魔王軍にとって勇者は神出鬼没の爆弾のような存在であり、勇者が現れた場所は全て魔王軍は破れている。
故にダークマドウは、もしも勇者が現れた時の為の対応をあらかじめ施した。
……そう、ローズの体内に。
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