第144話 竜神の護符

「着きました。ここが邪魔大国の主城、逢坂城でございます。」



 俺達はギンチヨの案内の下、馬車に乗り込む事数時間、ようやく到着したようで、先に降りた彼女がそう説明した。



「へぇー、ここが邪魔大国の城かぁ。近くで見るとやっぱりでっかいなぁ!」



 石垣や堀で覆われたこの巨大な城は、何人たりとも敵を寄せ付けない、という意思が一目でわかるほど頑強に作られている。


 そして中心に聳え立つ天守は5階建てとなっており、一階一階が高いのか、階層の割には巨大に見えた。



「時間があるなら、ここの作り等が記載された文献等も読みたいですね。」



 シロマも見た事のない巨大な城を見て興味がわいたようだ。



「後でセイメイに言って見せてもらうといいんじゃないか? まだ一日あるんだし。」


「そうですね。ありがとうございます、サクセスさん。」



 シロマはそう言って嬉しそうに微笑む。


 可憐だ……



「では皆様。中にご案内致しますので、そのまま私についてきてくださいませ。」



 この城見て驚いているのが嬉しかったのか、ギンチヨの顔も心なしか嬉しそうに見える。


 俺達はそのまま案内されるままに、天守の中に入って最上階へと進んで行った。



「サクセス様御一考の到着でございます!!」



 最上階の中心部にある襖の前でギンチヨは大きく声を上げ、その襖を開く。


 すると中の大広間の左右には、和服を着た偉そうなチョンマゲ男が立ち並んでおり、その奥にサスケと……



 (え? どういうこと?)


 

 なんと男たちが立ち並んでいる奥に、見た事がある絶世の美女が立っている。



「……セイメイなのか?」



 間違えるはずはないのだが、一応確認してみた。

 


「はい。その通りでございます、サクセス様。ようこそお越しくださいました。私セイメイは、昨日より第78代目卑弥呼として、この大陸を預かることになりました。」



 そういってセイメイは俺に頭を下げる。



 (しかし……嘘だろ……あれがセイメイ?)



 セイメイの姿は、女装をした時と同じではあるが、あの時以上に今は美しい。


 それは服や化粧のせいもあるのだろうが……なんというか、醸し出している高貴なオーラがヤバイ。



「え、え、えっと……。」



 突然のどっきりに俺は上手く言葉が出てこない。


 すると、セイメイは俺に向けてニコリと微笑む。



 ドキっ!!



 反則級な威力を有したスマイルは、俺の心に一本の矢を突き刺すと、そのまま言葉を続ける。



「サクセス様。驚かせてすみません。あの時、先代卑弥呼様から引き継がれたこの冠は、次期卑弥呼の証でございます。その意思を継ぎまして、まずはこの度ウロボロスを討ち滅ぼして頂けた事を、この大陸を代表してここに感謝申し上げます。」



 いつも通り綺麗すぎる程の所作でお辞儀をするセイメイ。


 それに伴って、左右に並んでいる家臣らしき男達も深く頭を下げた。



「いや、俺は……えっと……」


「サクセスさん、ビシッとしてください! 頬が緩んでますよ、治療しましょうか?」



 未だにドギマギしている俺を見かねて、シロマが気合を入れる。



「あぁ、うん。大儀であったべ! あれ? なんか違う……」



 シロマに気合を入れられて焦ったのか、訳の分からない事を口にしてしまう俺……



「師匠、逆でござるよ。」


「しっかりしろよな、サクセス。緊張し過ぎ。」


「うるせえ! 俺は慣れてないんだよ、ならカリーが変われよな。」


「やなこった。それにウロボロスを倒したのはサクセスなんだから、仕方ないだろ。自分のケツは自分で拭け」



(なんだよそれ……まるで俺が悪い事して罰ゲームを受けているみたいじゃないか。)



「みんなの力のお蔭だろ! もう!」



 俺達は邪魔大国女王の前でコントのような事を言い合っていると、セイメイが口元を抑えながら「ふふっ」と笑みをこぼす。



 その所作は完璧に王女とかそういう高貴な人の洗練されたもの。


 それがあまりに可憐過ぎて、思わず見惚れてしまう。



「サクセス様がおっしゃる通り、今回の件、此処に来られた全ての方と、亡くなられた先代卑弥呼様、皮肥城城主シルク殿、そしてハンゾウの力によるものでございます。」



 そう言いながらセイメイは言葉を更に続ける。



「そして竜神様であられるサクセス様の降臨により、この世界は守られました。よって、至極恐縮ではございますが、これよりサクセス様に褒美を授けたいと思います……あれを持って参れ。」


「ははっ!」



 セイメイが指示を出すと、家臣の物達が大きな箱と小さな箱を持ってきてセイメイの前に置いた。



「では、サクセス様。まずはその大きな箱の方をお開け下さい。」



 そう言われた俺は、セイメイの前まで歩いて行き、おそるおそるその箱を開けると……



ーー大量の金貨が入っていた。



「それは他の大陸でも換金しやすいように揃えた金貨でございます。こちらの国で言うならば100億円と言ったところでしょうか。」


「ひゃ……百億!? え、まじ? そんな貰っていいの?」



 俺はあまりにも大きすぎる金額に度肝を抜かれる。



「はい、それでも足りない位だと思っておりますが、今直ぐに用意できた金貨はそれだけでございます。申し訳ございません。」



 セイメイはそれだけと言っていたが、実際これだけ短期間の間に、この大陸で使える貨幣ではなくこれだけの金貨を用意するのは簡単な事ではない。


 もしも俺にこの国に留まって欲しいという思いがあれば、この大陸の貨幣を多く与える事もできる。


 それをしないで、俺の意思を組んで金貨にしてくれた事に、思わず感激しそうだ。



……とはいえ、流石にこれだけの金貨は手に余るな。



「うーん、ありがたいんだけど……この金って俺が自由に使っていいの?」


「はい、当然でございます。それは既にサクセス様達の物です。」



 ならあの時と同じだな……これの使い道は。



「そっか。じゃあこれは寄付するわ。サイトウや妲己の為に不幸になった者達を調べ上げて渡してくれ。あ、それと三割は皮肥城に……」



 手に余る金をもっても仕方ないので、これは被害者に寄付する事に決めた。


 それが偽善だと言われようとも、俺は構わない。


 持っていても仕方ないのだし、それを必要な人に渡す事は悪い事ではないだろう。



 そう思って提案してみたのだが、セイメイは首を横に振った。


 その上で提案してくる。



「サクセス様。シルク殿、いえ、皮肥城にはこれとは別に大きな褒章を用意してございます。ですので、それであれば三割は是非サクセス様がお使い下さい。」



 なるほどね、まぁセイメイなら当然用意してるわな。


 しかし3割……それでも30億か……ぶっちゃけ今の俺達にそこまでは必要ない気がするなぁ。

 


「シロマ、どうしよ?」


「せっかくですので受け取りましょう。使い方は後で考えればいいですし。」



 どうやらシロマは受け取る気のようだ。

 なら、貰っとくか。

 なんなら、イモコの戦友の為に使ってもいい。



「オッケー。じゃあありがたくいただくわ。」



 とりあえず受け取る事に了承した俺は、箱の蓋を閉める。



「はい、どうぞお受け取り下さい。では次にその小さな箱をお開け下さい。そこにはこの国の伝説の家宝が入っており、サクセス様個人への贈り物でございます。」



 そんな風に言われると、期待が高まっちゃうぜ!



「伝説の家宝……どんな凄い物が……」



 俺はドキドキしながら小さな箱を開けた。



ーーすると、中には龍のエンブレムが入ったバッチのようなものが入っている。



 それをそっと手に取ってみると……



【竜神の護符】 レアリティ?

 

 ステータス オール100

 スキル   竜神の加護、状態異常無効、精力増強



「これは……」


「それは当家に代々伝わる家宝でございます。使える者がおりませんが、サクセス様ならばと。私たちではそのアイテムにどのような効果があるかもわからなかったですが……」



 そうか……どおりで……。

 


 まぁ竜神の加護がどんなものかわからないけど、状態異常無効は嬉しい。

 それにステータスが更に100も上がるのは凄すぎる……伝説の武器クラスじゃないか。


 だけど……だけどこれだけは言わせてくれ。



 精力増強は……いらねぇよ!



 ただでさえぶつけるところがなく、有り余ってるのに……


 これ以上ムラムラさせると、いずれ歩きながら発射するぞ? 


 いじめかっ!



「……なるほど、ありがたくいただく事にするよ。サンキュー」



 とりあえず何もしらないセイメイには感謝を伝えておこう。



「では、それは私めが……」



 すると、セイメイは俺の手から竜神の護符をとると、俺の胸にそれを付けてくれた。



 フッと香る女性の甘い匂いが俺の鼻をくすぐる。



 ムクムクッ……



 その匂いだけで、俺のマグマが滾ってきた。



(さっそく効果抜群じゃねぇか! 精力増強!) 



「あ、ありがとう。」



 若干前かがみになりながら、頭を下げる俺。


 そんな事も知らずに、セイメイは少し頬を赤く染めながら俺の手を取る。



「いえ、こちらこそ……。ではこれよりささやかながら祝福の宴を用意してございますので、皆様をご案内差し上げます。」



 ちょっ! やめて! で、出そう。


 つうか、お前結局男なの? 女なの?


 ハッキリさせてくれよ! 

 

 男で発射したら俺は立ち直れないぞ!



 そんな苦しみを与えられながら、俺は祝宴の宴の会場へと連れていかれるのであった。




 あっ…………。





 ※精力増強:慣れるまでは制御が効かない。

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