第145話 勝利の宴

「皆のもの、これより世界の脅威の終わりを祝福し、宴を開始する。それでは、この大陸に降臨なされ、我々を救ってくださった竜神様に感謝の祈りを捧げよ!」



 逢坂城の大広間にて、セイメイは国の……いや大陸を代表する者として堂々と宣言する。


 そしてその宣言を受け、集まっていた多くの者がその場でひれ伏し……



「竜神様ばんざーい! 竜神様ばんざーい! 邪馬台国に繁栄を!」



 と叫びながら、両手を上げたり下げたりし始めた。



「え……俺、どうすればいいの?」



 異様な熱気と光景に気圧された俺は戸惑う。



「サクセス様は堂々とされていればよろしいかと。」



 そんな俺にそっと耳打ちするセイメイ。


 うーん、さっきの事もあるので顔を見れない。


 この姿だけ見ると、どう見ても男には見えないし……よし。

 女だと思い込もう、そうしよう。

 そうしないと精神衛生的にやばい。



「皆の者、良く聞け! これより宴の前に竜神様からありがたい言葉を頂戴する。」



 ファッツ!?

 聞いてないよ、そんなの!?


 んんん……くそ、どうにでもなれ!



 突然のセイメイからの無茶振りに、俺は緊張しながら声を出す。



「えーっと紹介に預かりまして、ご挨拶だべ……する。」



 緊張し過ぎたせいか、上手く話せない。


 にもかかわらず、そんな変な言葉なのに、俺を見ている者達の目が期待に溢れてキラキラしており、その視線が更に俺を緊張させる。



「もっとシャキッとしてください」



 すると、後ろからシロマの小さな声が聞こえてきた。


 今檀上の一番前には、俺とセイメイ。


 そして仲間達は全員俺の後方で横に並んで立っている。


 今頃カリー辺りは笑いを堪えているに違いない。


 くそ、しょうがないじゃん。


 こういうの苦手なんだってば。



 しかしシロマの声で少しだけ冷静を取り戻した俺は話を続ける。



「今回、ウロボロスという脅威に打ち勝てたのは、決して俺一人の力ではない。今、ここにいる仲間、そして仲間の為に命を張ってくれた者達、そしてウロボロスに抗うために尽くした大陸の人。そういった多くの者がいたから、俺は倒す事ができた。」



 お、なんか勝手に口が動いてくれるぞ。


 シロマが何かしたのか?


 いずれにせよ、下手でもいいからこのまま思いを吐き出すぞ。



 すると、今度はカリーの声が……



「やるじゃねぇか、サクセス。」



 素直に賞賛してるっぽいから、今のところは問題なさそうだな。


 よし、続けるぞ!

 


「だから俺はみんなに言いたい。竜神に縋るな! 神に縋るな! 変えたいなら自分で動け! これから再び同じような困難があっても、決して諦めず抗い続けるんだ! 奇跡は……行動の後に訪れる。だから……これからも仲間と自分を大切にしてほしい。そして抗い続け、亡くなった仲間達を忘れないでくれ! 俺からの願いはそれだけだ!」



 俺の話を全員が真剣な眼差しを向けて聞いていた。



ーーそして暫くの沈黙の後……大歓声が上がった!



「うおぉぉ! 竜神様ばんざーい!」



 その声は場外まで響き上がる。


 ふと見ると、静かに涙を流している者が目に映った。



 叫びながら泣いている者。

 膝から崩れ落ちて泣いている者。

 なぜかスクワットをしながら泣いている者。



 きっとここにいる全員は、大陸の為に動き続けてきたものなのだろう。


 その間に、大切な者を失ってきた人も多いはずだ。


 これで少しでも報われてくれたのならば、俺も素直に嬉しく思う。



 そのまましばらくは大歓声が続いた。


 するとセイメイが自分の腕を俺の腕に絡めて声を上げる。



「皆の者! 静まれ! 今の言葉、決して忘れるでないぞ? 我らの想いは常に竜神様と共にある! では、これより祝宴を開始する。杯をとれ!」



 セイメイがそう言いながら、俺の腕に絡めていない手でテーブルから杯をとった。


 それを見て、俺も同じように杯をとる。



「それではサクセス様、乾杯の音頭をお願いします。」


「わ、わかった。けどやりづらいからこの腕を離れてくれないか?」


「嫌でございます。離しませんわ。」



 ムニュ……



 これはパッドと言う奴なだろうか?

 それとも本物なのだろうか?

 左腕に感じる柔らかみが気になって、上手く音頭とれそうにないんだけど……



 だがセイメイは珍しく俺の言う事を聞かずに離れてくれないので、渋々俺は杯を掲げて叫んだ。



「かんぱーーー!!」


「かんぱーーーい!」



 俺の声に全員が続き、その場にいる全員が杯を掲げる。


 そして雰囲気的に俺が一番最初に口につけないとまずそうだったので、俺は杯に入った透明な酒を一気に喉の奥へ流し込んだ。


 それに続いてセイメイも他の者達も杯の中を空にする。



 パチパチパチパチッ!



 飲み終わった者は杯を置いて盛大に拍手し、会場は喝采の嵐に包まれた。



「ふぅ……なんか疲れるな。酒は美味しかったけど、もう飲まないよ? この後に葬式があるんだろ?」


「左様でございます。サクセス様はそうおっしゃられると思い、今回は度数の少ないお酒をご用意しました。」



 おぉ、どうりで飲みやすかったわけだ。

 流石、セイメイ。


 その後、次々と運ばれてくる豪華な料理に舌鼓を打ちつつ、ほぼノンアルコールに近い酒をセイメイがお酌する。


 しかし、そろそろ限界だ。


 何が限界って、さっきから背中に刺すような殺気をビンビン感じる。


 必要以上に近づくセイメイに、シロマが怒っているっぽい。


 とはいえ、今はセイメイはこの大陸の主。


 今のところ我慢しているようだが、これ以上は……。



「せ、セイメイ。俺はもうお腹いっぱいだし、そろそろいいんじゃないか?」


「左様でございますか。名残惜しくはありますが、サクセス様がそうおっしゃられるなら。」



 セイメイはそう答えると立ち上がり、祝宴の終わりを告げた。


 ゲロゲロだけはまだ食べているが、殆どの者はもう食事を終えているし、タイミング的には悪くないだろう。



「では、これより1時間後、城内庭園において我が国の英雄たちの葬儀を執り行う。皆の者、準備に掛かれ。」


「はっ!!」



 セイメイがそう言うと、食後だというのに偉そうなおっさん達も含めて直ぐに動き始めた。



「あれ? 俺達は?」


「サクセス様達は、休憩所がございますのでそちらでお休みになられてください。準備が整い次第お呼びいたします。」



 セイメイはそう言うと、その場から離れていく。


 正直お腹いっぱいだったので、直ぐに葬儀でなくてホッとした。


 城の人には申し訳ないが……



 すると、後ろから不穏なオーラを纏った気配が近づくのを感じ、振り返る。



「サクセス様、楽しそうでよかったですね。」



 どう見ても笑ってない笑みを向けてそう言い放つシロマ。


 サクセス様なんて言ったのは、きっと当てつけだろう。


 嫉妬してくれて可愛いと思いたいが、それよりも、なぜか背筋が凍ってしまった。



「ち、違うべ。誤解だっちゃ。シ、シロマさん? ちょっと、おーい!」



 それだけ俺に告げ、シロマは振り返らずその場を後にする。


 休憩所がどこかわかるのだろうか?


 という疑問もあったが、それよりもこれ以上怒らせないように、今は時間を置いた方がよさそうだ。


 ふと見ると、カリーがロゼを侍らせて、俺とシロマのやり取りを見てニヤニヤしている。



 クソ、あの野郎。


 

 再び胸の中に怒りが広がりつつも、俺の足元まで来てゴロンを腹を見せるゲロゲロを見て、少し溜飲が下がった。



「ゲロ(おなか一杯)」


「お前はいいよなぁ、気楽で……はぁ……。」



 そう呟いた俺はゲロゲロを抱きかかえ、休憩所まで案内されていく。


 ちなみに後から聞いた話だとシロマはあの後、セイメイに書物庫を見せてもらう約束をしていたらしく、休憩所に来ることはなかった。


 そんな事も知らない俺は、不安と恐怖に怯える一時間を過ごすのであった。

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