第146話 策士策に溺れる
その日、逢坂城内には大きな石碑が置かれ、そこに多くの者の名前が刻まれる。
第77代卑弥呼
ソレイユ ド シルク
ハンゾウ
この三名の名が大きく上段に刻まれると、その下には会った事のない者の名前が沢山刻まれていた。
この石碑は未来永劫、英雄の墓としてここに残しておくらしい。
この葬儀に参列した俺は、みんなの代表でその石碑に花を添えた。
そして目を瞑って仲間達の冥福を祈る。
(卑弥呼、ハンゾウ、そしてシルク……今までありがとう。そして安らかに眠ってくれ。お前達が安心して空から見守れるように、セイメイなら上手くやってくれるはずだ。それに俺も、何かあれば必ず助けにくるからな。だから……また来るよ。お前達の事は一生忘れない。)
俺の祈りが終わり、その場から下がると、それ以降順々に石碑の前に一人づつ向かって手を合わせていった。
誰もが悲しみを胸に、その目を涙で濡らしながら参列している。
当然俺達の仲間も同じだ。
泣いているロゼの肩を優しく抱き寄せるカリー。
それを見て、何となくだか、戻ってきてからカリーがやたらロゼと近い距離にいた理由が少しだけわかった。
ロゼは気丈に振舞っていたが、本当は俺なんかよりも深く悲しんでいたのだろう。そんな事に気付かない程、自分の事で……自分の気持ちでいっぱいいっぱいになっていた事を、今になって反省する。
今回の葬儀に伴い、城外には民衆が多く集まっており、その民衆一人一人も参列することができたことから、参列はその日の深夜まで続き、翌朝以降も人が参列し続けるとのこと。
そして後日ではあるが、俺がウロボロスと戦ったところには竜神の祠を建設する予定らしく、そこには彼らの名を一つ一つ刻んだ墓石を立てるそうだ。
それに合わせて、この大陸から多くの者を招致して式典を開くみたいだけど、当然ずっと先の事なので俺は参加する事はできないだろう。
とはいえ、もしも時間的に行くことができるならば、必ず行きたいとは思っている。
そんな感じで葬儀は終わらないが、俺達は一足先に城内に戻っていった。
明日の朝には元の大陸に戻る為、今夜は早めに休む予定。
城の中で一人一人割り振られた部屋で各々で夕食をとり、翌朝朝食を食べたら城門前に集合だ。
そしてその夜、大浴場で風呂に入り、部屋に戻って寝ようとした矢先、俺の前にサスケが現れた。
「サクセス様、少しだけ時間をよろしいでごじゃるか?」
「あぁ、どうした?」
「ついてきて欲しいでごじゃるよ。話があるでごじゃる。」
なんの話かわからないけど、こんなタイミングでサスケが来たという事は大事な事なのだろう。
俺はそれ以上何も聞かずに、そのままサスケについて行くと、セイメイと謁見した広間に連れてこられた。
「ん? 誰もいないけど、ここでサスケと話すのか?」
俺がそうサスケに問いただすも、声が返ってこない。
そして気付けば横にいたはずのサスケが消えていた。
「……え?」
何が起きたのかよくわからず、俺が困惑したまま立っていると、広間の奥……そう、午前中セイメイが立っていた場所の奥にある襖の方から声が聞こえる。
「サクセス様、このような深夜にお呼びして申し訳ございません。そのまま真っすぐ進んでもらって、襖の奥にいらして下さい。」
「あれ? 話があるってセイメイだったのか? まぁいいや、それじゃあそっちに行くよ。」
俺はそう言って広間を進み襖を開けると、そこは寝室のような作りになっており、そこにいたのはセイメイ一人だった。
俺はその姿を見て生唾をゴクッと飲み込む。
なんと、そこにいるセイメイの姿は……おそらく寝間着のような薄く白い生地でできた服だけを身に纏った姿であったからだ。
そして……やっと謎が解けた。
服が一枚だけというのもあって、セイメイの胸に二つの膨らみがあるのを確認できたからである。
やはりセイメイは女だった……。
「このようなはしたない姿でお目汚しして申し訳ございません。」
「べ、べ、べ、別に、いいっぺよ……。それより上に羽織るものはないのか?」
「ご心配ありがとうございます。しかしながら、本日は着るお召し物がこれしか用意していないため、羽織るものはございません。心配ございませんよ、サクセス様。この場所は結界が張ってありますので、誰もこれませんし、声も漏れる事がございません。」
だ、誰も来ない?
声も漏れない?
そんな場所に、こんな薄着の美女と二人?
なんだこれ……なんだこれは!?
「だ、だ、だ、だめだっぺ。俺には……」
思わず目を伏せながらなんとか言葉を口にすると、セイメイが俺の胸にすり寄ってきた。
「安心してください。サクセス様に可愛がってもらうのはお話の後でございます。とりあえず、そちらに座布団がございますので、そこでお寛ぎ下さい。」
か、可愛がってもらうだとぉぉぉ!?
いや、待て。焦るな。
期待しちゃだめだ。期待しちゃ!
なんとかそう思い込み、滾る欲望を必死に静める俺。
「わ、わかったっぺ。どっしりかまえるだべ」
俺はそう言いながら座布団の上に胡坐をかくと、目の前に置かれた飲み物をグッと飲み干す。
「あ、サクセス様。それは結構強いお酒ですので……一気に飲み干すと……」
その言葉が聞こえた時には、既に遅かった。
まさかこんな強い酒が用意されていたとは……
俺は目の前がグワングワンし始める。
クソ、なんでだ! なんでなんだ!
後……少しだったのに……
そして俺は気持ちが悪くなっていき、そのまま意識を失った。
そして前にそのまま倒れ込んだ俺の頭をセイメイが膝で受け止める。
「失敗しましたわ……策士策に溺れるとはこの事ですわね。仕方ないですわ、せめてこのままサクセス様の寝顔を見て休める光栄を預かりましょう。いずれ……この方の子種は……」
俺の頭を膝に乗せたセイメイは小声で恐ろしい事を呟いていたのだった。
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