第120話 温もりと邂逅
※カリー視点
「カリー殿……本当にあれでよかったでござるか?」
サクセス達が飛び立った後、イモコは少し申し訳なさそうな顔で問いかける。
「悪かったな、イモコ。お前にまで嫌な思いさせちまった。だが、これでいいんだ。あいつには……あいつだけには俺と同じ思いを……いや、仲間を見捨てたりするような奴にはなって欲しくねぇ。被れる泥は俺が全て被る。」
そう言葉にするカリーの目から揺るぎない思いが窺えた。
辛い思いをずっとしてきたからこそ、その痛みが……苦しみが……絶望がカリーにはわかる。
それ故に、それを大事な仲間に味合わせたくないのだ。
当然その気持ちは、同じような経験を繰り返してきたイモコにもわかる。
イモコもまた、カリーと同じ位……いや大事な人を失った数だけで言えば、カリーよりも多くの仲間を失ってきた。だからこそ、イモコにはカリーの気持ちが痛いほど伝わっている。
「……そうでござるか。カリー殿は本当に師匠を大切に思っているでござるな。」
「……あぁ。あいつが背負うにはまだ早い。それに、なぜかあいつが他人に思えなくてな。なんていうか、弟みたいなもんだ。弟を守るのは兄貴の役目だろ?」
「確かにそうでござるが……しかし、カリー殿はシルク殿の事も……」
「心配すんなイモコ。大丈夫だ、それにシルクは死んでねぇ。あいつは俺の中で生きている。だからよ、みっともない真似だけはできねぇんだ……そうだろ?……シルク。」
カリーはそう言いながら、手に持った親友の大鉾を見つめていた。
縋るものがないカリーにとって、今それはカリーを唯一支えてくれるものなのかもしれない。
するとそこにロゼが……
「カリー! 私は何があってもカリーの味方だからね! だからお願い、これ以上無理はしないで。」
「無理はしてない。大丈夫だ……俺はいつも通りだ。」
「嘘よ! だって、カリー……さっきからずっと心が泣いているわ。そんなカリーを見続けるの……私には耐えられない! だからお願い。辛いときは辛いって言って! 泣きたくなったら泣いて! 何ができる訳でもないかもしれないけど、それでも私はカリーの傍にずっといるから!」
その真っすぐな想いとその目に、カリーはローズの面影を見る。
そういえばローズはいつだってこんな風に、他人の心配ばかりして、それでいて真っすぐな女性だった。
正直、今のカリーの心はとても脆くなっている。
自分で自覚しているほどにボロボロだ。
少しでも気を抜けば、そのまま膝から崩れ落ちるかもしれない。
だが、この状況で崩れる訳にはいかなかった。
だからこそ強がることで自分を守っていた……のだが、思わずロゼから言われたその言葉に、瞳から一滴の涙が零れ落ちてしまう。
そしてそんなカリーをロゼは優しく抱きしめた。
その温もりと優しさに、思わずカリーの緊張が解けてしまい、涙のダムが決壊する。
親友の死……
仲間を犠牲にする決断
誰よりも仲間を大切に思う彼だからこそ、その苦しみは計り知れない。
本当はこうやって誰かの胸にその身を預けていたかった。
全てを投げ捨てて、何もかも忘れて、泣き叫びたかった。
そんな思いがカリーから溢れ出すと、零れ落ちる涙が止まらない。
ーーーその頭をそっと優しく撫で続けるロゼ。
ロゼだってカリーと同じように大切な者を失った。
その苦しみは決してカリーに劣るものではない。
自分をずっと守ってくれて、いつだって温かく包んでくれ続けた祖父。
ロゼにとってシルクは、両親以上に大切な存在だったのだ。
そんなシルクを亡くして、悲しくない訳がない。
だがそれでも、この時だけは……大好きな人を支えられている実感がロゼの心を幸せで満たしていた。
まるで二人の悲しみが溶け合うように……
お互いに開いた穴を埋め合うように……
悲しみが消えることはないが、それでもロゼには、今この瞬間が人生で一番幸福な時間だと思えてしまう。
初めて感じるこの感情。
水のように激しく……花のように優しく……
そう。今ロゼの中で、それがわかった。
その感情は……恋ではなく、愛。
この人の為に自分の全てを捧げたい。
そんな思いがロゼの心に溢れ出す。
そして今、そんな愛する男を包み込み、受け止められる事に、女の喜びを初めて知った。
未だ危険な状況にも関わらず、その時その場所だけは、幸せな時間が流れている。
その様子を温かく見守る仲間達。
そして……カリーはロゼの胸から顔を離した。
「ありがとうロゼ。またお前に甘えちまったな。だけど……もう大丈夫。お前が支えてくれたから、仲間がいてくれるから、俺は何度だって立ち向かえる。これは無理なんかじゃない。だから……。」
少し恥ずかしそうにしながらも、必死に言葉を紡ぐカリー。
「うん。大丈夫。カリー、無理はしてほしくないけど、カリーは自分が思うように行動して。そしてまた辛くなったらいつでも私のところに帰ってきて。何度だって、カリーの傷を……癒してみせるから。」
そう言いながら、ロゼは少しだけ涙を浮かべて笑顔を見せる。
それはあの時……前の世界でカリーが初めて国から旅立つ前、ローズが見せた笑顔だった。
(守りたかったものが……まだここにある! 俺は失ってない。今度こそ、この笑顔を俺は守る。)
「あぁ、必ず俺はお前のところに戻る。約束する。」
「うん。待ってる。いつでも、ずっと待ってる。だから、必ず帰ってきてね。」
その言葉と同時に、ロゼの唇がカリーの唇に触れた。
カリーにとってそれは人生で二度目のキス。
あの時はできなかったが、カリーはそのまま強くロゼを抱き寄せると、暫く唇を重ね続けた。
……そして名残り惜しいように、少し粘着く糸を引いて離れる二人の唇。
その様子に二人は顔を赤くして、照れた様子を見せた。
---みせつけてくれるでがんす……
ふとそんな声がカリーの耳に届く。
しかし、カリーは振り向かない。
それが自分が作った幻聴だと理解していたから……
(ありがとう親友。俺は行くぜ、必ずお前達を連れてな!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます