第96話 妲己とハンゾウ
【仲間視点】
「無駄でありんすぇ。そなたらは邪魔でありんすから排除させてもらったでありんす。今残っているのは雑魚……ただの烏合の衆どすぇ。」
「なめんなよ、このビッチが! シルク! 一旦封印は中止だ。卑弥呼とロゼを連れてプリズンまで下がれ! セイメイ! お前もだ!」
カリーはそう叫ぶと、紫電の槍を妲己に投擲した……が当たらない。
いや、貫通したが無傷というのが正しい。
「無駄でありんす。妾にそんな攻撃は効かないでありんすぇ。」
「何っ!? それなら何度でも射貫くまでだ。」
【炎の矢】
【氷結の矢】
【雷撃の矢】
【ライトアロー】
次々とカリーは各属性の矢を放つも妲己に効いている様子はなかった。
そしてその間、シルクはカリーの指示に従って動き始める。
まず未だに呪術を唱えている卑弥呼を無理矢理抱きかかえると、動かないでいるロゼの手を引っ張った。
「卑弥呼様、すまないでがんす。ロゼも行くでがんすよ!」
「嫌っ!! 私は残ります!」
なんとロゼはシルクの手を振り払ってしまう。
それを見たカリーは、ロゼに向かって叫んだ。
「頼む! 行ってくれロゼ! そしてサクセスと合流するんだ! お前がサクセスを連れてくるんだよ!」
「……でも」
カリーからそう言われても、直ぐに動き出せないロゼ。
他のメンバーと違い、ロゼにはこういった経験がない。故に理性よりも感情を優先してしまうのだ。
いくらカリーの言葉とは言え、愛するカリーを残してはいけない。頭では自分がここにいては邪魔だとわかるが、その感情が邪魔をしてロゼの動きを止めた。
「早くしろロゼ! 悩む暇はないんだよ! イモコ、時間稼ぎを一緒に頼む!」
「わかったでござる! ロゼ殿。師匠を頼むでござる!」
二人からそう言われたロゼは、ようやく断腸の思いでその場を離れる事を決心する……が、突然前を走っていたシルクの足が止まった。
「……嘘でがんす。ここを通って来れるはずがないでがんすよ!!」
シルクの口から愕然とした声が漏れる。
なんと道の先にライトプリズンを張ってあったにもかかわらず、通路の先から魔獣が溢れ出てきたのだ。
一本道の通路は比較的幅が広いとはいえ、あの場所で戦闘をすれば崖から落ちる危険がある。
しかも最悪な事に、術の途中で中断された卑弥呼は意識を失っていた。
卑弥呼を抱えながらでは、あの数から仲間を守ることができない。
「シルク殿、卑弥呼様を私にお預け下さい。」
「セイメイ。わかったでがんす! カリー!!」
シルクは卑弥呼をセイメイに預けると、カリーに向かって叫んだ。
「わかってる! イモコ、あっちを頼む! こっちは俺が何とかする。」
すると以心伝心したかのように、カリーはシルクの求める答えを口にする。
「わかったでござる。シルク殿。今行くでござるよ!」
カリーとシルクの判断、そしてイモコの動きは早かった。
だが、そのイモコの前に立ちふさがる者が現れる……ハンゾウだ。
いつの間にか首から上が元に戻ったハンゾウは、クナイを持って斬りつけてきた。
ーーその目は紫色に輝いている。
「傀儡化でござるか……邪魔するなでござる!」
イモコは一刀のもとにハンゾウを斬り伏せた……がしかし次の瞬間、イモコの後方に再びハンゾウが現れた。
「ハンゾウの技を使えるでござるか!」
それを見てイモコは察する。この傀儡化したハンゾウは生前の技を使う事ができると。
そして今使った技は知っていた……身代わりの術だ。
再びイモコはハンゾウを斬りつけるが、やはり違う場所にハンゾウは復活した。まさにイタチごっこである。
イモコは刹那程の時間で思考を巡らせる。
ハンゾウを振り切ってシルクの下に行くのは可能。
だがそうなるとハンゾウも一緒についてきてしまう。
そうなれば、ロゼや卑弥呼がやられてしまう可能性が高い。
自分だけならハンゾウの相手はたやすいが、他のメンバーでは厳しいだろう。
……ならば、ここでハンゾウを倒すしかない。
そう決めると、イモコはハンゾウの身代わりの術が切れるまで倒す事にした。
身代わりの術が使える回数は、ハンゾウが所持している【変木(ヘンボク)】と呼ばれるアイテムの数次第。
それは結構な貴重品であるため、そこまで多くは持っていないはずだが、相手はハンゾウだ。
間違いなく10個以上は所持しているであろう。
(ならば尽きるまで斬れば良いでござる! それまで耐えてくだされ、シルク殿!)
イモコはシルクの力を信じる。そしてそこから怒涛の攻撃を始めた。
だがそれと同時に、ハンゾウはそこから距離を取り始めてしまう。
それでもイモコの動きについて行くことはできないため、直ぐに斬られて消えるが、それでもさっきより倒すのに時間が掛かるようになってしまうのであった。
その様子を見ていた妲己が笑う。
「無様でありんすぇ。その者は妾を殺そうとして逆に操られたでありんす。そして今、その仲間に何度も殺されているでありんす。これは愉快でありんす。コココココッ………」
(腐れ外道! やはりそうであったでござるか!)
ハンゾウは妲己に操られていた。
しかし、ならばそれはいつからなのだろうか?
もしも最終会議より前であればかなりまずい事になる。
封魔石自体が偽物の可能性もあったからだ。
しかしそれを確認する術はもはやない。
(まさか卑弥呼様の悪い予想があたるとは……いや、違うでござる。今はその幸運を喜ぶでござるよ。)
実はイモコにだけ卑弥呼は伝えていたーーハンゾウが既に操られている可能性があると。
故に警戒するように言われていたのである。
事実これまでイモコはハンゾウの動きをずっと窺っていたが、ここまで怪しい様子は見受けられなかった。
唯一あったのは、あの時……そう、全員に目を瞑れと言った時である。
その言葉と行動にイモコは疑念を抱いた
ーーー何かがおかしい……と。
仮にハンゾウが魅了に掛かっている場合、一体何を狙っているのか?
ハンゾウが会議で話していた通り、妲己の狙いが卑弥呼を利用する為の確保であるならば、狙いは卑弥呼ではないはず。
当然卑弥呼の儀式を止める必要性はあるだろうが、これだけのメンバーが揃っている中だ。
たかが目を瞑らせただけでそれを止めるのは不可能だろう。
仮に一度止める事が出来たとしても、直ぐにハンゾウは自分達に拘束されるだろうし、そうなればもう一度儀式をやり直せばいいだけ。
だとしたら、何を狙う……?
短い時間の中で、イモコは必死に思考を加速させるも、すぐに答えは見つからない。
そもそもまだハンゾウが魅了されていると確信したわけではなかった。違和感を感じただけである。
しかし、イモコの直感ともいえるものが、その時大音量で警笛を鳴らしていた。
杞憂に終わるならそれでいい。
だがもしこの直感が正しかったのなら、手遅れになる前にハンゾウの狙いを阻止しなければならない。
そう考えたところで、ハンゾウが動きを見せる。
ハンゾウは懐から何かを取り出す仕草をした。それを見た瞬間、イモコの中で疑念が確信に変わる。
このタイミングでハンゾウが何かを取り出す必要性はない。
自分で言ったように、目を瞑って心を無にするだけだ。
にもかかわらず、ハンゾウは別の動きをした。
そしてそのハンゾウの顔が向いている先にいるのは……
ーー……サクセスだった。
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