第142話 黙祷

(サクセス視点)



 あれから暫くしてカリーとロゼは一緒に戻ってきた。


 どうやら上手く話はついたようで、ロゼも落ち着きを取り戻している。



「皆様、大変ご迷惑をおかけしました。カリーと話し合って、私は皮肥に戻る事に決めましたので、それまでまたよろしくお願いします。」



 ロゼはそう言って頭を下げる。


 ちらりとカリーの方を見ると、なんか少しだけ顔が赤い。


 まぁどんな話をしていたのかは聞かないけど、とりあえず二人が納得して決めたのであれば、俺から何か言う必要はないだろう。


 

「わかった。それまでよろしくな、ロゼ」


「はい。よろしくお願いします。」


 

 それからしばらくして俺達は邪魔大国へ移動を開始した。

 

 移動にはシロマのゲートを使ったのだが、距離が長すぎるため、一度に行けたわけではない。


 その為、途中で休憩を挟みつつ向かったものの、お昼ころには邪魔大国に到着する。


 そしてハンゾウから借りていた宿に到着すると、全員で作戦室に集まった。



「ふぅ。そんなに久しぶりでもないはずなんだけど、なんかここに戻ってくると懐かしく感じるな。」


「そうですね。この宿には大分お世話になりましたし。貸してくれたハンゾウさんはもういませんが……」



 俺の言葉にシロマが少し寂しそうな表情で返す。


 ハンゾウは妲己との戦いで死んだ。


 詳しい話はみんなから聞いてわかったのだが、ハンゾウは俺達を裏切っていたわけではない。


 妲己に操られて尚、その命を犠牲にして戦ってくれたらしい。


 そしてここまでこれたのも、仲間が生きていられたのも、ハンゾウのお蔭であり、その感謝の気持ちを忘れたくはない。



「みんな、一つだけいいか? これからの話をする前に、命を懸けて戦ってくれた、ハンゾウ、卑弥呼、そしてシルクの為に黙祷をしよう。」



 俺はそう言うと、目を閉じる。


 他の仲間達も同じように、戦って死んだ仲間達の冥福を祈って黙祷をした。


 しばらく沈黙が続くと、サスケが口を開く。



「サクセス様、感謝でごじゃる。党首ハンゾウもこれで浮かばれたでごじゃるよ。」


「いや、感謝するのは俺達の方だ。ハンゾウには何から何まで世話になった。直接それを伝えられなかったのは心残りだが……」


「そんな事はないでごじゃる。その気持ち、必ず党首には届いているでごじゃるよ。そして党首の意思はこのボックンが引き継ぐでごじゃる。これからはボックンがこの国の影として支えていくでごじゃる。」



 どうやらサスケはハンゾウの後継者として、この国を支えていくらしい。


 卑弥呼の代わりに誰がこの国を統治するのかはわからないが、サスケがいる限りおかしな事にはならないだろう。



「サクセス様、それでは私から少しお話がございます。」


「あぁ、セイメイ。頼む。」


「はい。まず元の大陸への船の手配が済みました。といっても、直ぐに出航できる準備は整っておりませんので、出発は明後日になります。」



 おぉ! まじかよ。 

 手際が良すぎるだろ、セイメイ。



「思ったよりも早いな。流石セイメイだ。となると、この国にいられるのも後二日か。なんだか少し名残惜しいな……」



 思えばここに来てから大分月日が経っている気がする。


 楽しい事、悲しい事、色々沢山あったけど、それでもこの国に来て本当に良かった。


 全ての事が終わったら、リーチュンやイーゼも連れてまた来たいな。



「そう言っていただけて光栄でございます。私としましても、サクセス様達とこの国で過ごせた事を本当に誇りに思っております。後二日でございますが、是非心行くまで、この街でお寛ぎ下さい。」


「あぁ、そうさせてもらう。セイメイ、まだちょっとだけ早いが……色々ありがとうな。」


「とんでもございません! 感謝するのは私達の方でございます。それと、明日、卑弥呼様の後継となる者がサクセス様達を城に招いて感謝の儀を執り行いたいとのことですが、よろしいでしょうか?」



 ん? 卑弥呼の後継?

 もう決まったの!?

 早すぎだろ!



「え? もう次の後継が決まっているのか? いや、それよりも卑弥呼の葬儀とか国を挙げて行わないのか?」


「当然国葬を予定しております。しかしながら、サクセス様がこの国にいられるのは後二日。よって、前倒しで祝儀を執り行う事になりました。なお、その後にこの国の英雄である、シルク殿、ハンゾウ殿の葬儀を行います。」



 祝儀の後に葬儀……

 なんかモヤっとするな。

 普通逆、いや、同時にそんな事をすることがあるのか?



「よくわからないけど、セイメイがそうすると考えているなら俺はそれに従うさ。お前は俺の……優秀な従者だからな。」


 

 その言葉にセイメイは驚きの表情を見せる。



「覚えていらしたのですか!?」


「あぁ、認めたといった記憶はないけどな。だけど今は違うぞ。お前もイモコと同じで戦友だ。従者なんていう上下関係は必要ない。」


「戦友……愛人……ではいけませんか?」



 セイメイの反応に思わず、口に含んだ茶を吹き出す。



「ぶっ……おま……いきなり何を言い出すんだ。」


「ふふっ。冗談でございます。冗談ではありませんけど。では、私はこれからやる事がございますので、皆様はお寛ぎ下さい。」



 セイメイは最後に意味深な事だけを口にしてその場を去っていった。



「それではボックンも名残惜しいでごじゃるが、この場を失礼するでごじゃる。明日の朝、使いの者が訪れるでごじゃるので、その者の案内で城に来て欲しいでごじゃる。」



 ハンゾウはそう説明すると、セイメイとは違い、ドロン……とその場から消えた。



「さて、じゃあ俺達はどうするかね?」



 今は丁度お昼前。


 思ったよりも早く話が終わったため、明日までする事がなくなってしまった。



「悪い、サクセス。俺はちょっとロゼと一緒に出掛けてくる。明日の朝には戻るつもりだ。」


「はっ!? ま、ま、ま、まさか! ちょっと待て! お前ら二人何をするつもりだ?」



 カリーの言葉を聞いて焦る俺。

 だって、明日の朝には帰るって……それって。



「サクセスさん! ロゼちゃんには時間がないんですよ! 野暮な事は聞かないで下さい!」



 するとシロマに俺は怒られる。



「ふふふ。では行ってきますね。シロマちゃん、また明日ね。」


「はい。楽しんできてください。」



 シロマがそう言って手を振ると、ロゼはにこやかな笑みでカリーと一緒にこの部屋を出ていく。


 すると今度はイモコが……



「師匠。申し訳ないでござるが、某も会っておきたい者がございますので、明日の朝まで出かけるでござるよ。」



 そう言って頭を下げるイモコ。


 あぁ、そうか。

 

 イモコは俺についてくるのだから、別れの挨拶をしておきたい人もいるだろう。



「気にしないでくれ。イモコにとっては故郷だもんな。気を遣えなくてごめん。」


「そんな事はないでごじゃる。お心遣い痛み入る。それでは師匠もどうか楽しんで下さい。」



 イモコもそう言って部屋を出て行く。


 残ったのは、俺とシロマ……そしてゲロゲロ。



「さてと……俺達もどっかいくか?」


「はい。では一緒に町巡りをしませんか? ゲロちゃんも一緒に。」


「ゲロォ(美味しい物食べたい!)」


「わかったわかった。よし! じゃあとりあえずまずはうまい物でも食べにいくか! 今日は食い倒れるつもりで食べるぞ!」


「げろぉ!(おぉ!!)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る