第75話 Chance

「ウキャキャキャキャ、馬鹿め。お前なんかに俺が手を下す必要はないギャ。」



 俺が目の前のヘルガーゴイルに襲い掛かろうすると、そいつは後方にジャンプして逃げてしまう。



「クソ、まぁ同じ事だ。ここにいる魔物は全部ぶっ殺す!」



 ズバッ! ズン! ザシュッ!



 ヘルガーゴイルに逃げられた俺は、通路に湧き出てくる骸骨系モンスターを次々と斬り倒していく。



 俺のステータスは、現れた魔物に比べると桁違いに高い。

 正直、この程度の魔物なら全部一撃だ。

 すると、突然後方からイーゼの警告が聞こえる。



「サクセス様、伏せて下さい。一気に片付けます。」



 イーゼはそういうと、上級爆裂系魔法を放った。



  【ギガナゾン】



 ドガン ドガン ドガン ドガン!



 通路にいるモンスター達は、連続する巨大な爆発によって、一斉に駆逐されていく。



 いいなぁ……全体魔法……。



 一瞬で多くの魔物を蹴散らしたイーゼに少しだけ嫉妬する俺。



「いいぞ、イーゼ。だが、魔力はできるだけ温存しておいてくれ。」


「はい、ですが回復アイテムもまだ使っていないので、これくらいなら余裕ですわ。」



 うん、イーゼは頼りになるな。

 俺も負けてられない。



「グギャァァァ、人間の分際でよくも! ゆるせないギャ!」



 仲間の魔物が次々と倒されるのを見て、距離をとっていたヘルガーゴイルは焦り始めた。

 そして急加速して、こっちに向かってくると、手に持った鉄球をイーゼに放つ。



ーーだが、その攻撃がイーゼに届くことはない。



 ガキン!



「何をするギャ! ヘルアーマー!」



 イーゼへの攻撃を、すかさずマモルがカバーリングした。

 鉄球はマモルの盾にヒットすると、マモルはそのまま後方に吹き飛ばされるものの、ダメージはほとんどない。

 当然、イーゼも無傷だ。



「マモル様、ありがとうございます。」



 マモルと会話はできないイーゼであったが、自分を守ってくれたマモルに感謝する。

 そして、その隙を逃すような俺ではない。


 

「おい、雑魚! 背中がガラ空きだぜ!」



 俺は、ヘルガーゴイルの後方に回ると、後ろから袈裟斬り。



 ズバッ!(会心の一撃)



「うぎゃあ! レオンさまぁぁぁ!」



 俺の斬撃に体を真っ二つにされたヘルガーゴイルは、断末魔をあげて塵となる。

 そして残っていたモンスター達は、イーゼの魔法とマモルの攻撃により全て倒されていた。

 あっという間の瞬殺劇。

 正直、このパーティは強すぎた。



「よし! ちょっと物足りないが先に進むぞ。マモル、広間に出たらどっちに行けばいい?」


「広間に出たら右だ。右の通路を進むと城の一階に出る。奴がいるのは城の2階……謁見の間だ。」



 ふむふむ、また謁見の間か。

 城での戦闘は毎回そこだな。

 というか、なんで王様ばかり狙われているんだ?

 王だからかもしれないけどさ、周りはもう少ししっかりしてくれよ。


 そんな事を考えながらも、俺達は先に進む。



 牢獄を出て広間に戻るも、モンスターはまだいない。

 そのため、そのまま一気に城の一階に上がることができた。



 城の一階に出ると、床には綺麗なレッドカーペットが敷かれ、壁にもおしゃれな装飾品等が飾られている。

 とてもモンスターがいる城とは思えない雰囲気だ。


 だが、少し妙だな。

 お城の兵がほとんどいないぞ。



 俺はそれをチャンスと見て、二階に上がる階段を目指して進んで行く。

 すると、その途中で何者かの叫び声が聞こえてきた。



「おい! 何してる! 早く奴らを捕まえに行け!」



 その声にビクっとした俺は、物陰にサッと隠れる。

 自分達に気付いた兵が、俺達を探していると思ったからだ。

 しかし、違った。



「敵はベビーウルフを連れた男女二人組だ。王からは生け捕りにしろと言われている。全員早く現場に向かえ!」



 どうやら、兵達が探しているのはシロマとボッサン、そしてゲロゲロのようだった。

 あっちもうまくやっているらしい。

 俺達が偽物の王を倒すまで、うまく逃げ切ってほしいものだ。


 まぁシロマとゲロゲロがついているなら、早々やられることはないだろう。

 俺は仲間を信じるだけだ。



「イーゼ、あっちもうまくやっているようだ。お蔭で兵がほとんどいない。今の内に進むぞ。」


「そのようですわね。サクセス様の作戦のお蔭です。」



 イーゼは、いつも俺を褒めてくれる。

 少しだけ心が荒んでいるからなのか、今日は純粋にそれを嬉しく感じた。



「みんなお前たちがいるお蔭だ。それより、今がチャンスだ。この機会を逃すわけにはいかない。マモル、道はわかるか?」


「二階の謁見の間に繋がる道は一つ。城の中央の階段を昇ればいい。だが、流石にそこには兵士がいると思うぞ。どうする?」


 俺が質問すると、逆にマモルが俺に尋ねてきた。



「イーゼの睡眠魔法で眠らせよう。殺すのは簡単だが、モンスターでない可能性もある。」



 俺は、無益な殺生はできるだけ避けたかった。

 当然、相手が犯罪者だったり、こちらに害悪を向けてくるならヤブサカではないが、王に騙されているだけの兵士なら、ただの被害者だ。



「わかりましたわ。成功するかわかりませんので、物陰に隠れて何度か魔法を唱えてみせます。」



 作戦が決まると、俺達は、中央階段付近の植木の影に身を隠す。

 階段の前には兵士が二人いるが、その周りにはいない。

 二人だけなら、なんとかなりそうだ。



「チャンスだ。イーゼ、頼む。」


「はい、それでは唱えます。【ラリパッパ】」



 イーゼは、杖を兵士達に向けると睡眠魔法を唱える。



「お? おお……なんだか……眠く……ぐぅぅぅ。」



 イーゼの魔法は、一発で警備兵二人を眠らせた。

 レベル差が関係しているのかはわからないが、好都合である。



「よくやった、イーゼ。よし、二人とも俺の後ろをついてきてくれ。」



 俺はそういうと、警備のいない広い中央階段を一気に駆け上がった。

 階段を上り始めると、直ぐに大きな扉が見える。



「あれが謁見の間の扉か?」


「あぁ、遂にこの時が来たな。」



 俺の質問にマモルはすぐに答えた。

 そして俺は勢いよく、その扉を押し開ける。



 バン!!



 俺が扉を開けた瞬間、中から声が響いた。



「何事じゃ! ん? 貴様ら何者だ! 侵入者じゃ! であえであえ!」



 謁見の間の奥にいる立派な服を着た王が叫んだ。

 すると、どこに隠れていたのか、謁見の間の端のカーテンレールから、ぞろぞろと完全武装した兵士が出てくる。



「黙れ! 偽王! お前の悪事もここまでだ!」



 俺は、そいつに叫び返す。

 こうして俺達は遂に決戦の場へとたどり着いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る