第76話 八天魔王 カイザーレオン

 謁見の間


 奥に鎮座するは40代位に見える中年の男。

 頭には、金で作られたと思われる立派な冠を被り、赤色の派手なマントを身に付けている。



 俺は一目見て、そいつが偽王だとわかった。



 三十年前と容姿が変わらないという噂は、どうやら本当のようだ。

 ただ、ドワーフやエルフならそれも不思議ではないらしいので、怪しまれる事が無かったのかも知れない。

 だが、こいつは違う。



 間違いなく魔物だ。



 アバロンの時もそうだったが、光の波動は邪悪なものを判別する特殊効果がある。

 そのため、俺には本当の姿が見えるはずなのだが……。



 おかしい。



 今回、偽王が魔物である事は感じるのに、本当の姿が見えなかった。

 もしかしたら、何らかの装備で光の波動を打ち消しているのかもしれない。

 ということは、光の波動を使っても意味が無いな。


 

「何をしている! 早く、そやつらを捕らえよ! モンスターに侵入されるとは何事じゃ!」


 

 自分こそが魔物の癖に、ふざけた事を言いやがる。

 偽王はマモルの姿を見て叫ぶと、兵士達は一斉に襲いかかってきた。



「ちっ! 話す暇はないか! イーゼ、マモル。すまないが時間を稼いでくれ!」



 襲いかかってくる兵士達を見て俺が叫ぶと、すぐにイーゼが反応し、連続で呪文を唱えた。



【ラリパッパ】

【オザパニ】

【ファントーマ】



 睡眠魔法、混乱魔法、幻惑魔法である。


 

 イーゼは、種類の状態異常魔法を連発した。

 なぜ三つの魔法唱えたかというと、イーゼは兵士の装備に着目したのである。

 王を守る兵士が、状態異常を防ぐ装備をしていないわけがないっと。

 そして案の定、完全武装の兵士達は状態異常に耐性のある装備をしていた。



ーーが、全ての状態異常を無効にする事は容易ではない。



 故に、機転を利かせたイーゼの行動によって、目の前にいる兵士達は、睡眠、混乱、幻惑のいずれかの状態異常に陥った。


 そして、イーゼが魔法を連発できたのは、アバロン王から貰った【女神の指輪】の効果が大きく関係している。


 

 消費精神力50%減少



 思っていたより、この効果は凄かった。



「よくやったイーゼ!」



 俺は、イーゼを称賛すると同時に、偽王に接近し、ヌーウの手鏡をそいつに向ける。

 すると、鏡からまばゆい光が放たれて、偽王の真実の姿がそこに映り込んだ。



「グワァぁ! 何をしてる! 貴様ら、早くこいつらを殺せ!」



 王は光に照らされながらも、必死に兵士たちに命令した……。



ーーがそれに応える者は既にいない。



 既に謁見の間にいる兵士達は鎮圧済みである。

 そして次第に鏡の光が強まっていき、偽王の体から黒いモヤが上がっていった。



 パキン!



 その時、何かが壊れる音が響く。

 偽王を見てわかった。

 今の音は、偽王の指にはめられていたドクロの指輪が壊れた音。


 どうやら、その指輪が光の波動を打ち消していたようだったが、遂にそれを打ち破った。



「うぉぉぉぉ! 体が! ワシの体があぁぁぁ。」



 バリバリ! バリバリ!



 偽王の体がどんどん大きくなっていくと、着ていた服が破れ始める。


 そして、やっと偽王の正体が現れた。



 その体は人の五倍程の大きさであり、鋭い爪を持った腕が八本ある。

 顔は爬虫類のような顔をしており、頭にはライオンのようなタテガミ。

 見たことがない魔物だ。

 いや、このオーラはあの時と同じ……。



 目の前の魔物が放っている闇のオーラには見覚えがある。

 そう、いにしえの塔に現れた【魔王の影】と同じ……いやそれ以上に禍々しい。



 こいつ……強い!!



「よくも、よくもワシの本当の姿を暴いてくれたな!」


「それがお前の本当の姿か?」


「そうじゃ、ワシこそ大魔王直属の八天魔王が一人、カイザーレオンじゃ!」



 どうやらここの王は、今までの雑魚と違い、本物の魔王。

 どおりで、魔王の影よりも暗黒のオーラが濃い訳だ。



「魔王か、いいだろう。俺の名は聖戦士サクセス! お前を滅ぼす者の名前だ!」


「聖戦士だと? 勇者じゃないのか。まぁいいだろう、まずはお前からあの世に連れて行ってくれるわ。そして、その次はこの国全てを滅ぼしてくれる!」



 魔王がそう言うと同時に、俺は魔王に向かって最初から最強技を繰り出した。



【ディバインチャージ】



 俺は極大な光の斬撃を魔王に向かって放つ



ーーが、その斬撃は魔王の体を斬り刻む事なく、魔王の体の前で霧散した。



「なんだと!?」



 俺は、自分の最強技が効かなかった事に驚愕する。



「はっはっは、バカめ。ワシに光の技は効かんよ。勇者対策に、この指輪を装備しているからのぉ。」



 魔王は笑いながら、赤いドクロのマークの入った指輪を見せつけた。



「それは……さっき壊したはず……。」



 その指輪は、さっきヌーウの手鏡によって壊されたはずだった。

 しかし、よく見るとドクロの色が違う事に気づく。



「さっき壊されたのは、ワシの正体を隠す、闇の波動を込めた指輪じゃ。こっちの指輪は、あらゆる光の効果を打ち消す指輪。残念だったな、お前が持ってきた鏡でもこれは壊せなかったようじゃ、ふはははは。」



 魔王は、余裕の高笑いを始めた。



 くそ、どうしたらいい。

 いや、光が効かなくても物理攻撃は有効なはずだ。

 俺がそんな事を考えているうちに、魔王は両手を上げて叫んだ。



「さて、遊びは終わりだ。既にこの国を滅ぼし、マーダ神殿を攻め入る準備はできておる。いでよ! ワシが作りしモンスターの精鋭達よ!」




 …… …… …… ……。



※魔王は仲間を召喚した。

 

 しかし、なにもおこらなかった。



「残念でしたわね、あなたの作ったモンスターは、サクセス様が全て滅ぼしましたわ!」



 突然背後からイーゼが叫ぶ。

 だが待ってくれ、俺だけではないぞ?

 まぁそれはいい。

 とにかくみんなと連携して、奴を倒す!



「なんじゃと!? おのれ! やってくれるではないか。」



 魔王は激昂して叫ぶと、突然怪訝な目をして俺たちを見つめた。



「ん? これは……ほほぅ。そういえば、召喚等せずとも、そこに面白そうな奴がいたではないか。お前は、ステテコ仮面の成れの果てだな……。これは面白い。」




 そして魔王は、マモルを見つめながら不敵な笑みを浮かべるのであった。


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