第74話 マモルの想い
「よくぞここまできてくださいました。私の名前はヌーウ、ちびうさの母です。そして隣にいるのは知ってのとおり、私の夫マモルです。」
目の前の美女は、隣にいるマモルと自分を紹介して挨拶をした。
「あの、ここは?」
「先ほど、あなたが触れた鏡の中……つまりは、精神世界です。」
精神世界だと?
さっき鏡を触れた瞬間、ここに俺の意識が飛ばされたのか。
なるほど、なんとなくだが現状を理解した。
「正直よくわからないことばかりだけど、とりあえず納得したよ。」
俺がそういうと、ヌーウは少し焦った風に話し始める。
「申し訳ございませんが、あまり時間はありません。これから、あなたに大事な事をお話します。その後、元の世界でマモルと共に、偽王を倒してもらいたいのです。」
「大事な事?」
「はい。レッドオーブの事です。大魔王が復活した時、レッドオーブは必ず必要になります。そして今、レッドオーブがある場所は……ちびうさの胸の中。つまり、レッドオーブを手に入れるという事は、ちびうさがこの世界にいられないことになります。」
「ーー!?」
ヌーウの言葉に、衝撃が走った。
なんだって?
じゃあ大魔王のために、ちびうさを犠牲にしろと?
冗談じゃない!
「ふざけんな! あんた自分の子供だろ? ちびうさを救えないで、世界なんか救えるか! それに俺は誓ったんだ、絶対にちびうさを守るってな。おい、マモル、お前もなんとか言ってやれよ。」
あまりの言葉に、完全に頭にきてしまった。
そして当然、黙っている聞いているマモルにも。
もし、そうなら何のために……俺はここまできたんだ!
するとマモルは、ゆっくりと口を開けて話し始めた。
「すまない……君を騙したわけでない。それとヌーウを責めないで欲しい。悪いのは助けられなかった俺だ。そしてレッドオーブに願ったのも俺だ。ヌーウは悪くない。だからこそ俺は死霊と……モンスターになってまでこの世に残った。その俺にできることは、偽王を倒す事、そしてちびうさを……殺すことだ!」
マモルの口から、更にとんでもないことが飛び出した。
自分の娘を殺すだと?
そのために生きて来ただと?
そんな話信じられるかよ!
「う、嘘だろ? なぁ、嘘だと言ってくれよ! お前、ちびうさの事を愛してるんだろ? なぁ、正気に戻れよ!」
俺は、必死にマモルを説得する。
説得というよりかは、冗談だと言って欲しかっただけかもしれない。
だが、現実は違った。
「お前は……自分の愛する者が成長することもなく、いつまでも来る事の無い親を何十年も待たせることが幸せだと思うか? それに娘は既に死んでいる。俺のように怨念となって生き続ける必要はないんだ。ちゃんと生まれ変わって、今度こそは、俺みたいなどうしようもない父親じゃなく、立派な両親に囲まれて幸せに暮らして欲しいんだ!」
マモルは、苦しそうな表情で涙を流しながら叫んだ。
「マモル……。」
俺はその言葉に何も言えなかった。
マモルの顔を見ればわかる。
ボッサンを見てもわかる。
いつまでも現世に残り続けるのが幸せとは限らないと……。
しかし、それでも……ちびうさを守りたい気持ちは変わらない。
どうすればいいんだ。
俺は……どうすればいいんだよ!!
「申し訳ございません。身勝手な事を言っているのは、十分に承知しています。ですが、どうか夫を……そしてちびうさの事をお願いします。」
ヌーウは頭を下げて、俺に願い出た。
俺は……。
「わかった。正直、未だに俺はちびうさの事を殺すのには反対だ。けれど、やれることはやるつもりだ。マモル、まだ一緒に戦えるんだろ? とりあえずちびうさの事は後で考える。先に偽王を倒すぞ。」
「すまない……。君にばかり辛い運命を背負わせてしまった。だが、ちびうさが生まれ変わった時、いつまでもあの可愛い笑顔でいて欲しいんだ……魔物に苦しめられるような世界ではなく、幸せな世界を俺はあの子に残したい! その為なら俺は、例え地獄に送られようとも、この魂全てをかけて世界を守って見せる!」
マモルは、固い決意の篭った眼差しで俺を見つめて言った。
精神世界だからなのか、マモルの悲しみと辛さ、そしてその願いは俺の心にダイレクトに届く。
マモルは、既にちびうさの未来の事を考えていた。
正確にいえば、ちびうさが生まれ変わった後の世界だ。
その為になら、自分はどうなってもかまわないと。
それだけ、娘を愛していたということだった。
クソッ! これも全て魔王がいるせいだ!
許さない! 許さないぞ!!
「わかった。 行こう! 世界を救いに!」
俺がそう言った瞬間、二人が薄くなっていく。
そして最後に、ヌーウは悲しそうな目で俺に言った。
「ありがとう……。」
その言葉を最後に、二人は俺の目の前から消え、俺の視界も元の世界に戻っていく。
俺は今までなんとなく、特に目的もなく旅をしてきた。
だが、これからは違う。
明確な目的ができた。
世界を救う
これが、俺の旅の目的だ!
元の世界に意識が戻った俺は、突然イーゼの声で現実に帰る。
「サクセス様? サクセス様、どうかしましたか?」
いつの間にかイーゼは俺の隣にいて、俺の顔を覗き込んでいる。
それに気付いた俺は、ふと自分の手を見ると、そこには小さな手鏡があった。
【ヌーウの手鏡】
あらやる闇を打ち払い、真実を映し出す鏡。
元の持ち主の魂と深い愛が込められている。
やっぱり、ヌーじゃなくてヌーウの手鏡じゃないか。
まぁそんなことは、今更どうでもいい。
「イーゼ、俺は鏡を手に取ってからどれくらい意識を失っていた?」
「え? 意識を失っていたんですか? いえ、数秒程ですが……何かありましたか?」
どうやらこっちの世界では、ほとんど時間は流れていなかったようだ。
だが、イーゼには悪いが何があったかは話せない。
仲間にだけは……この辛さを味合わせたくない。
これは……この辛さは俺が背負う!
「あぁ、すまない。ちょっと立ち眩みしていただけだ。それでマモルは……いるな。」
イーゼの後ろには普通にマモルが立っている。
「あぁ……ここにいる。鏡も手に入った事だし、城に上がって奴を倒すぞ。」
マモルは、何事も無かったかのように淡々と話した。
しかし、マモルが話した瞬間、何者かの声が聞こえてくる。
「クキャキャキャキャ! こんなところに侵入されるとはな……。なんだ、ヘルアーマー。お前使役でもされたのか? 馬鹿な奴だ。クキャキャキャキャ。」
いつの間にか牢獄の外に、大きな鉄球と盾を持った鳥頭のモンスターが立って笑っている。
「まずい、見つかったか! こいつがこの監獄の看守、ヘルガーゴイルだ!」
マモルが叫ぶ。
そして俺達は、すぐに戦闘態勢に入った。
「お前には悪いが、今の俺は気が立っている。八つ当たりさせてもらうぞ! イーゼ、マモル! 俺の後ろを付いてこい! こいつを倒して一気に偽王のいる城の中に駆け上がるぞ。」
「うきゃきゃきゃきゃ、人間風情が何をいってるんだ。おい、お前たち全員出てこい! 餌の時間だ。」
パチッ!
ガチャ ガチャ ガチャ
ヘルガーゴイルが指を鳴らすと、一斉に扉が開錠された音がする。
すると、牢獄の中から、うじゃうじゃとモンスターが出て来た。
「上等だ! 全部駆逐してやるよ! 覚悟しろ!」
そして俺は、目の前にいるヘルガーゴイルに襲い掛かるのだった。
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