第73話 ヌーの鏡

 俺達は、マモルの後に続いて通路を進んでいくと、囚人達が入るような監獄が見えてきた。

 監獄の檻は、通路を隔てて左右に数十部屋あり、この中で一つの部屋を探すのはかなり時間が掛かりそうである。

 それなので、どの部屋に入ればいいかマモルに聞いてみた。



「マモル、ヌーの鏡はどの部屋にあるんだ?」


「一番奥の右側の部屋だ。俺が生きていた頃は、そこは檻ではなく広間だった。しかし今は檻に囲まれている。ヌーの鏡に触れることができなかった偽王が、簡単に盗まれないようにダミーの檻を沢山用意したんだ。」


「檻の中には簡単に入れるのか?」


「そうだな、そこの魔法使いなら開けることはできるだろう。だが問題は結界だ、まぁ行ってみればわかる。」



 そう言うとマモルは、足早に進んで行った。

 マモルの足取りは、まるでモンスターに襲われないことを前提としているように不用心。

 俺とイーゼも置いて行かれないように速足で歩いて付いて行く。



 どうやら、ここにはモンスターはいないらしい……いやいるな。

 ふと檻の中をみると、骸骨の魔物が結構いる。



「なぁ、マモル。檻の中に魔物がいるけど大丈夫か?」



 俺は不安になって、前を速足で歩くマモルに一応聞いてみた。



「あぁ、大丈夫だ。この檻は外からしか開けられない。看守のヘルガーゴイルもいないみたいだしな。問題ないだろう。」



 ええ、魔物なのに看守って……。

 よくわからないな、この城は。

 まぁそのヘルガーゴイルが来る前にちゃっちゃと鏡を手に入れればいいか。



 そしていつのまにか、俺達は監獄の一番奥に来ており、マモルが扉の前で止まった。



「ここだ。見てくれ、檻の中に黒いモヤが見えるだろ? あれが闇の結界だ。」



 俺は、マモルに言われて檻の中を覗くと、確かに黒い霧のようなものが部屋全体を覆っている。

 そのモヤのせいで、檻の中がよく見えない。



「なるほどな。よし、ちょっと俺に任せてみろ。」



 俺はマモルにそう言うと、俺の装備スキル【光の波動】を使ってみた。

 俺の腕から光の粒子が放たれると、黒いモヤにぶつかり



ーー次の瞬間、そのモヤは綺麗サッパリと消滅した。



 マモルはそれを見て唖然としている。

 いやいや、驚くのはおかしいだろ。

 もし俺がこれ使えなかったらどうする気だったんだよ?


 

「よし、結界が消えたぞ。」


「やはり私の目に狂いは……。」


「おい、もういいよそれは。じゃあ、イーゼ。扉の鍵を開けてくれ。」


「はい、わかりましたわ。【ゴマカム】」



 ガチャッ!



 イーゼが開錠魔法を唱えると、扉の鍵が開いたので早速中に入る。

 部屋の中に入ると、奥に人間の骨と思われるものが二つ重なっていた。



「あれが……俺とヌーウの……骨だ。」



 マモルは小さく呟いた。



 そうか……あれがちびうさの両親……。

 二体の骨は抱き合うように倒れている。

 よく見ると、その二人の間に光るものが見えた。



「あれが、ヌーの鏡か?」



 俺は、それを指差してマモルに聞く。



「あぁ、そうだ。あれこそが、王の正体を暴くことができるヌーの……いや、ヌーウの魂が閉じ込められている鏡だ。」



 え?

 どういうこと?

 ヌーウの魂が込められている?

 つまり、ヌーの鏡じゃなくて、ヌーウの鏡じゃないか。

 って、そんなことはいい。



 とりあえず俺は、一歩づつ亡骸に向かって歩いて行った。

 そして、二人の骨の前で両手を合わせて冥福を祈った後、その鏡を手に取った瞬間……。



 鏡からまばゆい光が溢れ出し、周囲の色を真っ白に染めていく。

 気が付つくと俺は、何もない真っ白な空間の中にいた。



 そして目の前には、昨日の夜に夢に出て来た、ちびうさの両親が立っているのだった……。

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