第13話 眠れぬ夜

「何をした! 卑怯だぞ!」


 俺は必死に叫ぶ。


「何をって、少しそこで大人しくしてもらうだけですよ。私の魔力が切れるまでは、そこから出る事はできません。」


 俺は必死に目の前の闇の壁を叩いてみるが、俺の力でもビクともしない。


「ちょっと、アンタ! こんなことして楽しいわけ? 男ならちゃんと戦いなさいよ。」


 リーチュンも覚えたての気功を使って、殴る蹴るをしているが効果はない。


「いえいえ、これは立派な戦いですよ。しかし、困りましたね。このままだと、私は戦えそうもありませんよ。また怒られてしまいますね……。」


 デスバトラーはさっきから自分の言っている事の矛盾に気付いていない。

 まずそもそも、デスバトラーになってから勇者とはまだ会っていなかった。

 つまり、勇者に困らされているという事はおかしいのだ。

 そして、いくら丁寧な言葉であっても、敵を勇者様と呼ぶのはおかしい。

 怒られてしまうというのは……シャナクだった頃の魂の記憶。


 だが、そんな事は当然、サクセスにはわからないことであった。

 それ以前に、シャナクという存在すらも知らないから当然である。


「サクセス様、無理を承知で聞きます。光の波動を使われてみてはいかがでしょうか?」


 イーゼは俺を見て助言した。

 俺は頭に気過ぎていて、完全にその存在を忘れていた。

 闇を払う、俺のスキル。【光の波動】


「そうか! 流石だイーゼ。 よし! いっちょ、ぶちかましてやるぜ!」


 俺は結界を壊すために、光の波動を全力で放つ。


「おらぁぁぁ! くだけろぉぉぉー!」


 ピキッ! ピキ! ピキピキ!


 闇の結界に亀裂が入り始める。


「ば、ばかなぁ! お前は……あなたは一体何者なんだ!? 私の……暗黒魔法が押されているだと!?」


 闇の結界とぶつかる、光の波動。

 普通ならば、その結界を破ることなどできないはずであったが、サクセスのステータスが凄すぎたせいで、闇が押されていく。


 サクセス、はんぱないって!!(二度目)


「見誤ったようだな、デスバトラー! 待ってろ! すぐにぶっ倒してやる!」


 今まさに、闇の結界は完全に壊れようとしている。

 俺は、壊れた瞬間に奴を攻撃するつもりだ。


「ぐ、ここは一度引きましょう。二度と会いたくはありませんので、次に会った時には等とはいいませんよ!」


 その言葉と共に、俺達の視界が晴れる。

 闇の結界が消失した。

 そして、デスバトラーも消えている……。


「逃げられたか……。」


「仕方ありませんわ、サクセス様。しかし、ここは危険ですわね。」


「そうですね、どうしますか? サクセスさん。」


 どうしますかって言われてもな……。

 俺より頭のいい二人が、俺に質問しないで欲しい。

 俺の頭は……煩悩で一杯なんだ!


 だがふと、そんな俺の頭を何かがよぎる。

 はて……?

 ん、んん! そうだ! カジノの景品!


「イーゼ! あれはどうなんだ? あれだよ、あれ!」


 俺はアイテムの名前が思い出せずに、あれとだけ言った。

 これでわかったら、天才だ。


「はい、【魔除けの札】ですわね。カジノで交換しておいてよかったです。すっかり忘れていましたわ。流石はサクセス様。」


 イーゼは天才だった。

 今更か……。


【魔除けの札】

 自分達の姿がモンスターから見えなくなる(時間制限有り)


「でもそれって、どのくらいの時間もつんだ?」


「普通に使えば二時間といったところでしょうか? しかし、違う使い方ならば、明日まではもつと思いますわ。」


 違う使い方だと?

 こいつ……伊達に125年生きてねぇな。


「どういうことだ?」


「ここは、幸運な事に岩場になっています。私の魔法で岩場をくりぬいて、その入り口に張っておくのです。当然結界魔法も重複して使います。移動しない一定の場所を隠すだけならば、半日は持ちますわ。」


 まじか!

 そんな裏技があるのかよ!?


「お前やっぱ天才だよ! よし、そうと決まったら、見つからない内に場所を決めるぞ!」


「はい、それでは少し移動しましょう。こちらを監視しているモンスターがいるとは思えませんが、よく周りを警戒してください。」


「わかったわ! それはアタイに任せて!」


 会話に付いていけなかったリーチュンはここぞとばかりに、その巨大な胸を張って言う。

 だがなぜだろう……。

 あれ以来俺の視線は胸でなく、黒いTバックの隠されている秘境に目がいくのは……。


 やべ……悶々としてきてしまった……。

 話を変えねば!!

 

 視線を前に戻すと、俺はシロマに話しかける。


「しかし、あいつは何だったんだ? なんか普通の魔物と全然違ったよな?」


「はい、あんなモンスターは聞いた事もありません。どこか、人間っぽくも感じました。」


 シロマも俺と同じ事を考えていたようだ。


「そうだな。俺も同じ意見だ。今回のモンスターの行動は多分奴の軍略によるものだろう。そこらへんの人間よりも頭が周りそうだ。やっかいな相手だな。」


「はい、ですがサクセス様ならば倒せます。次に見つけたら必ず追いましょう。」


「あぁ、分かってる。次は必ず……奴を倒す!」


 こうして俺達は、デスバトラーという強敵を退けると、安全エリアを設置して明日の朝まで休むのであった。

 安全エリアから抜けることのできない、俺は……辛い夜だったとだけ言っておこう。

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