第12話 デスバトラーの脅威

「イーゼ! シロマ! ゲロゲロ! 無事か!?」


 俺とリーチュンはスライムバウアーを倒した後、急いでイーゼ達と合流した。


「サクセス様……こ、こわかったですぅ~。」


 俺を見つけたイーゼは、目に涙をためながら胸に飛び込んきた。


「…………。」


 その光景を見たシロマは、茫然としている。

 あれだけの惨状を生み出しておきながら、白々しくも「怖かった」とのたまって抱き着く姿に。

 しかしある意味、尊敬の念を抱いた。


「アタシも……あのくらい頑張らないと……。」


 その呟きは小さく、誰にも聞こえない。


「お、おお。なんか大丈夫そうだな。安心したよ。」


「いえ! ほんっとうにギリギリでした。しかし、サクセス様の事を想い続けていたからこそ、なんとか勝つことができたのです。これは愛の勝利ですわ!」


※ 実際には女王様プレイを楽しんでいただけである。


「ちょっと、アンタ離れなさいよ! サクセスだって疲れているんだからね!」


 そこにリーチュンが割って入った。

 しかし、俺の方を一切見ようとしない。

 どうやら、大分意識してしまっているようだ。


 そんなに意識されると、俺もおかしくなっちゃうぞ?

 特に息子が……。

 今夜は黙って寝てくれそうもない。


「サクセスさん、とりあえずもう増援は来ないようです。どうしますか? 進みますか? 様子を見ますか?」


 シロマは現状を冷静に判断していて聞いて来る。

 だが、頭の中は女王様の事で一杯であることなど、俺に知る由はなかった。


「そうだな、もうすぐ日が暮れる。この状態で森の中に入るのは危険かもしれないな。ちょっと早いが、一旦野営にしよう。出発は明日だ。」


 俺がみんなにそう告げた時……

 上空から、不気味な声が聞こえてきた。


「まさか、これまで破るとは思いませんでしたよ。これは予想外ですねぇ。」


「誰だ!?」


 俺達は一斉に声のする上空に目を向ける。

 そこには、緑色の体をして、二本の角を生やした男がいた。

 一見して上級の魔族だと推察できる。


「これはこれは、失礼しました。わたくし、デスバトラーという者です。今回の魔王軍の司令官を任命されております。お見知りおきを。」


「デスバトラーだと? イーゼ! 知ってるか?」


「いいえ、聞いたことがありません。ですが……あれはかなり厄介そうですわ。」


 イーゼの頬に汗がつたう。

 そして俺も同意見だった。

 これまでの魔物たちのおかしな行動は、どうやらこいつが糸を引いていたのだろう。


「お褒めいただき至極光栄です。ですが、それは過大評価ですねぇ。私などまだまだ若輩者。ところで、そちらのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 そいつの口調はやたら丁寧だった。

 逆にそれが、俺には気味悪く思える。


「俺はサクセスだ。お前が指揮官なら、悪いがここで倒させてもらうぞ。」


「サクセス……サクセス……はて? どこかで聞いたような? おかしいですな、私は生まれて間もないはずなのですが?」


 デスバトラーを指をアゴにあてて考えている。

 その仕草は完全に人のものだった。


「俺はお前なんか知らないな。まぁどっちでもいいことだ。いくぞ! みんな!」


 俺が掛け声をあげると、全員が攻撃体勢に入る。


「困りましたね、あなたはかなり強そうだ。できれば戦いたくはないのですが……。仕方ありませんね、まずは周りを削らせてもらいますよ。」


 デスバトラーをそう言うと、口から黒い炎を吐き出した。


「いけませんわ! 皆さん、下がってください!」


 その攻撃の脅威度に一瞬で気づくイーゼ。

 イーゼはすぐに道具袋から【マジカル風呂敷】を取り出すと、それを開いた。


 ゴォォォォォ!


 灼熱の炎が付近を一気に溶かしていく。


 イーゼの言葉に反応したメンバーは、すぐに後方に下がると、風呂敷がその炎からみんなを守る。


「ぐぅぅ! 熱い……なんてもんじゃないな。イーゼ! 平気か?」


「は、はい。ですが、そんなに持ちそうもありません。もう一度やられたら間違いなく壊れます。」


 マジカル風呂敷は、ブレス系の攻撃を防ぐことができるアイテム。

 しかも、それなりの回数を使えるはずだった。

 しかし相手のブレスは、その風呂敷を貫通するほどの勢いでこちらを燃やしにきている。

 その絶大な威力によって、風呂敷の隅の方は既に溶け始めていた。


「これは驚きました。良い物をもってらっしゃる。これは、不意打ちでないと厳しい技なんですがねぇ。」


 ブレスが終わると、イーゼは倒れ込んだ。

 一番前で受けていたイーゼはのダメージはかなり大きかった。


【エクスヒール】


 シロマはすぐさま、イーゼを回復する。

 俺はイーゼの負傷を見て、怒りが湧きたった。


「くそ、あの野郎。絶対許さねぇ!」


 俺は上空にジャンプすると、ヘルバトラー目掛けて剣を振る。

 俺の素早さは、同レベルの戦士の十倍近くあった。

 故に、その圧倒的速さからくる、俺の動きにデスバトラーは反応が遅れた。


 ズバ!!


 ヘルバトラーの腕が空に舞う。

 俺の攻撃力はやはり、通常の敵が相手だと桁違いに強いらしい。

 だが、本当は胴体を一刀両断するつもりで斬ったはずだった。

 寸前のところで、避けられてしまったのだ。


 こいつ……強いぞ!


「ぐっ……やはり、あなたは危険すぎますね。どうやら勝てそうもありません。あなた達のような者に来られると困るんですよ。どうにか帰っていただけないでしょうか?」


 そう言いながらも、回復魔法で斬られた腕を回復させるデスバトラー。

 こいつはまじで厄介だ。


「何言ってんのよ! 帰るわけないでしょ! このハゲ!!」


 リーチュンが俺の代わりに怒鳴る。

 しかし、ハゲは可哀そうだろ。

 まだ生え際だけだと思うぞ、ハゲてるのは。


「私だって、ハゲたかったわけではない! 全部勇者様のせいだ! ん? 勇者様? はて? 私は何を言っているのやら?」


 よくわからないが、ヘルバトラーは若干混乱している。

 この隙を逃す手はない!


「そうだ。悪いけど、ここで終わらせてもらうぞ。」


「ふぅ、勇者様といい、あなたといい。どうして私をこんなに困らせるのでしょうかね? 仕方ありません、あまり使いたくないのですが、奥の手を使わせてもらいますよ。【モナカトール】」


 デスバトラーがその呪文を唱えた時、俺達の周囲が黒い結界に覆われてしまう。

 そして、外が見えないことから、デスバトラーの姿も見えなくなるのであった。



 TOO BEE CONTINUE

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