第18話 コスメは女の命!

 シャナクと分かれたビビアンは、マネアとミーニャを連れて村の商店街に来ていた。


 村の商店街というと、店がポツンポツンと散在するさびれた商店街をイメージするが、ここは違う。

 

 道も整備されており、道を挟んで多種多様の店が構えているのはもちろんの事、立ち食いできるような露店も多い。


 観光に訪れる人が多いアモーレの商店街は、活気に満ち溢れていた。


 そしてビビアン達が最初に向かった店は、化粧品を多く取り揃えている化粧品専門店



 ホモホルンリンクル



 このお店の売りは、なんといっても一ヵ月間は無料で使えるお試しセットがある事だ。


 しかし、このお店がお客様から絶大な指示を得ている理由は、それだけにとどまらない。


 このお店には【お肌魔法】と呼ばれる、希少な魔法を使える魔法使いが常駐しているのだ。



 その者が使える


  【コスメル】


という魔法は、対象の


 肌年齢、保水量、油分量


といった肌の状態を、正確に診断することができる。


 そしてこのお店では、その診断結果に合った化粧水を提供してくれるのだ。


 人気が出ないはずがない。


 今も、お店は沢山の貴婦人やマッチョな女性? で溢れていた。



 昔はこの村にも


     ゴーセー

     自然堂


等、数多の化粧水専門店が軒を連ねてしのぎを削っていた。


 だが数年前に、ホモホルンリンクルができてから、お客がこのお店に集中してしまい、他の店は吸収されるか、店をたたむことになってしまった。


 そして今日、その繁盛するお店にとって記念すべき日となる。



 伝説の勇者を永久顧客に加えるという、記念日に……。



「うわぁ! 凄い綺麗。化粧水ってこんなにあるの!?」


 ビビアンは、店内に多数陳列された化粧品の数々に目を奪われていた。


 それらの商品は、全て色彩豊かなガラスで作られた小瓶の中に入っており、その綺麗な入れ物だけでも女心をくすぐり、テンションを高めてくれる。



※ ビビアンのテンションが 20あがった!!



「そうよ、沢山あるのよ。でもね、入れ物が綺麗だからって適当に選んじゃだめ。ちゃんと自分にあった化粧水を使わないと効果が薄いんだから。」



 ここを何度も利用しているミーニャは、真剣な目でビビアンに警告した。



「へぇ~、師匠は本当に色々知っているのね。でもどれも素敵だわ。さっきから凄いワクワクするの。」


 

 ミーニャにそう言われても、ビビアンは化粧水の瓶から目が離せない。


 その目は完全に乙女の目であり、ウットリしていた。


 すると、今度はマネアがビビアンに近づいてくる。



「ビビアン様、こちらのお店では【コスメル】という肌の診断魔法を使える者がいます。その者に、まずは自分の肌を見てもらってから選ぶのがよろしいかと。」



 マネアも実はここの常連であった。



 彼氏いない歴=年齢



の彼女であるが、実は占いの次に好きな事が化粧品選びである。

 


 いつか、素敵な男性に……



 そんな夢を見ながら、お肌の手入れだけは欠かさないマネア。


 つまり、今ビビアンと一緒にいるのは最強の化粧品マニア達。


 正に最強パーティだった。


「いがーい! マネアも詳しいのね。それでどこに行けばその魔法を使ってもらえるの?」


「はい、いつもならあちらのカウンターに……いませんね。休憩中かもしれません。私が予約をしておきますので、ビビアン様はしばらくミーニャと一緒に化粧品を眺めて楽しんでいて下さい。」


「ありがとうマネア。それじゃお言葉に甘えさせてもらうわね。」


 マネアはそう言うと、他の客を接客している店員のところに向かって歩いて行った。



「ところで師匠は何を買うつもりなの?」



 いくつもの商品を手に取りながら、真剣な目で選んでいるミーニャに尋ねる。



「そうねぇ、最近夜更かしが多いせいか、少し肌が荒れてきているのよ。だから今日は乳液を探すわ。」



 ミーニャは、右手で自分の肌を擦って確認しながら答えた。



「そう? 全然そうは見えないけど。まぁ馬車で寝泊まりしていれば肌にはよくないわよね。」


「そうなのよ! これじゃ素敵な男性に会った時に近づけないわ。近くで肌を見られたら、荒れてるのがばれちゃうもの。そんなの嫌よ。」



 ミーニャは悲痛な顔をしている。


 それを見てビビアンも想像した。 



「あれ? なんか随分肌が汚いね。ごめん、俺そういうの無理なんだわ。」(妄想のサクセス)



「嫌! そんなの絶対イヤ!!」



 突然、大声をあげるビビアン。



「ちょ、ちょっとビビアン! いきなりどうしたのよ? 落ち着いて!」


 ミーニャは、急に叫び声をあげたビビアンに驚きながらも落ち着かせる。



「ごめんなさい。サクセスに肌の事を言われるのを想像したら……。」



 ビビアンはうっすらと目に涙を浮かべた。



「大丈夫よ! ビビアンはまだ16歳でしょ? 本当は化粧水なんてまだ早いくらいよ。だってこんなにお肌がモチモチでぴちぴちなのよ! 羨ましいわ!」



 それを見たミーニャは、ビビアンの頬をピチピチと叩いて確認すると、更に言葉を続ける。



「でも油断は禁物よ。冒険者やってると、どんなに綺麗な肌だって悪くなっちゃうことがあるんだから。そのためにここに来ているのよ。わかった?」



 ビビアンを褒めながらも、説明するミーニャ。


 それを聞いてビビアンも冷静になった。



「そ、そうよね! アタシまだピチピチだもん! よし、絶対いつまでもピチピチでいてやるんだから!」



 グッと拳を握り締めながら決意を固めるビビアン。

 

 すると、そこにマネアが丁度現れた。



「お待たせしましたビビアン様。勇者様の事をお話したら、予定を変更して直ぐに見てくれるとの事です。バンバーラという魔法使いの方が見てくれますので、そこまで私が案内します。」



 マネアはそう言うと、ビビアンを連れて店の奥の個室に向かうのであった……。

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