第17話 中年賢者のハーレム旅行記

 マネア達と打ち解けたビビアンは、マーダ神殿に行く途中にある


 アモーレ


という村に立ち寄る事にした。


 ここは北側に綺麗な湖があり、そこから流れ落ちる水の恵みによって繁栄した村。


 その村の周りには所々に水車が回っており、その風景はとても長閑で、訪れる誰もがその心を癒やす。

 

 そして、この村の素晴らしさは外観だけにとどまらない。


 この村で食べられる食事もまた、非常に素晴らしかった。


 綺麗な水からなる作物は、とてもみずみずしく美味しい物が多く、更に村では牧畜も栄えており、特産品の乳製品等も全て美味である。


 そんな全てが素晴らしい村であるが、中でも一番の特産品といえば……


 

 化粧水だ。



 綺麗なアモーレの水でできた化粧水は、一度肌にしみこませれば、老婆の肌も30歳は若返ると言われる奇跡の水。


 更に飲むこともでき、飲めば体力も回復するおまけつきだ。


 故にこの水を求め、この村に立ち寄る冒険者は多い。



「勇者様! 村が見えてきましたぞ。今日は此方で休むとしましょう。この村を抜ければマーダ神殿まで二日もあれば着きます。」



 馬車の前を走る馬上から、シャナクの声が響く。


 そしてその声を聞いたマネアが、馬車から顔を出した。


「アモーレですか、懐かしいですね。ここの水はとても透き通っていて美味しく、お肌にもとても良いのですよ、ビビアン様。」


 さっそくマネアは、ビビアンにアモーレという村について説明すると、今度はミーニャも馬車の窓に身を乗り出して叫んだ。



「ビビアン! ここの化粧品は最高よ! ここで化粧水を大量に買うわよぉ~! 乙女のお肌は最大の武器だからね。」



 その興奮する声にビビアンもワクワクしてくる。


 化粧水についてはよくわからないが、ミーニャがこれだけ興奮するのだから、とてもいい物なのだろう。


 そう思ったビビアンは、早くマーダ神殿に行きたい気持ちもあったが、この村に寄る事を決めた。



「はい! 師匠! 先を急ぎたい気持ちもあるけど、馬の都合もあるし仕方ないわね。」


 ビビアンはミーニャとマネアという年上の女性と接する事で、今までとは別人のように素直になる。


 その結果、なんとここまで来るのに、シャナクはまだ一度も殴られていない。


 シャナクにとっても、マネア達二人の加入は渡りに船だった。


 どうやら彼の災難は遂に去ったようである。



「それで、師匠。化粧水ってどんな効果があるの?」



 ビビアンは、不思議そうな顔でミーニャに聞いた。



「そうねぇ、化粧水って言っても色々あるわ。お肌をしっとり潤してくれる化粧水に、ハリツヤを与える乳液が混ざった化粧液、他にもお肌を赤ちゃんの肌の様にもちもちにするものとか……きりがないわね。」


「何かよくわからないけど、凄いわね。」



 ビビアンは、ミーニャから説明を受けるもイメージがわかない。


 そもそも、ビビアンの母親も化粧水という物を使った事が無いので、当然ビビアンはそんな物は知らないし、説明だけ聞いてもチンプンカンプンだった。


 そんなビビアンに、ミーニャはニカっと笑ってみせる。



「百聞は一見にしかず! とにかく村に着いたらさっそく見に行くわよ!」



 そんなハイテンションなミーニャを見て、ビビアンは目をキラキラと輝かせる。


 ミーニャがそこまで興奮する物なら、どんなものか見てみたい。


 そして、それを使って綺麗になりたい。



 その思いが、ビビアンの好奇心を更に加速させた。



「凄い楽しみだわ! こんなに旅を楽しいと思ったのは初めてよ!」



 ビビアンは大興奮だ。



「それはよかったですわ。それでは間もなく到着しますので、降りる準備をしましょうか。」



 マネアはそう言うと、早速準備を始める。


 今までは全てシャナク一人でやっていた事であるが、今は旅なれた二人もいるため、シャナクが一人でやる必要もなくなった。


 そして、ビビアンも自分の事は自分でやるようにミーニャに叱られると、それに素直に従い、今では自分の事は自分でやるようになる。



「成長したなぁ……グス……。」



 自分の支度をしているビビアンを見て、涙を流すシャナク。


 その涙は、如何にこれまでの旅がシャナクにとって悲惨なものであったかを十分にあらわしている。



 よかったな、シャナク。

 これほどの美女3人に囲まれて……。

 はたから見れば


「中年賢者のハーレム旅行記」


ってタイトルがついてもおかしくないぜ。


とナレーションが入るくらいには画期的な出来事であった。



「できたわ! じゃあシャナクは宿を準備してきて。アタシ達はちょっと村を見て回ってくるから。頼んだわよ。」


 嬉しそうに笑顔を見せながらシャナクにお願いするビビアン。


 かつてこんな事は一度もない。


 その姿に、シャナクの心は今までにないほど満たされた。



「はは! 畏まりました! どうか勇者様達はごゆっくりと楽しんできてください。」



 そして、初めて本心からビビアンに楽しんできてと言えたシャナク。


 今まではこんな事は口が裂けても言えない。


 直ぐにでもサクセスに会いたいビビアンに、そんな事をいった日には、その後回復魔法を連打するくらいには殴られていたからだ。


 今のビビアンはミーニャとマネアのお蔭で精神的に大分落ち着いている。


 この分なら、シャナクは蔭でサポートするだけですみそうだった。



「わかったわ。シャナクにもなんか面白そうなのあったら買ってきてあげるわね。」



 ビビアンの口から放たれたまさかの言葉。


 その言葉は、シャナクの心にどぎつい衝撃を与えた。 



 ツツツゥゥ……。



 シャナクの目から思わず涙がこぼれ落ちる。



「ありがたき幸せ! このシャナク、その言葉だけで十分でございます!」



 シャナクは感動のあまり、その場で涙を流しながら歓喜した。


 そして、すぐにでも最上級の部屋をとろうと宿屋に走るシャナク。



 その顔は喜びに満ちていた……。

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