第19話 謎の魔法使い バンバーラ

「ようこそお越しくださいました勇者様。私が当店の店長を務めさせていただいているバンバーラでございます。そしてお肌魔法を使える唯一の魔法使いでもあります。」



 マネアに連れられたビビアンは案内された部屋に入ると、赤い髪の毛を一本で結んでいる若い女性が挨拶をしてきた。


 見た感じ、年齢はミーニャ達より少し年上といった感じである。



「ここは素敵なお店ね! とても気に入ったわ! それであなたが私の肌を見てくれるのね?」


「はい、そうですよ。でもまぁ、正直魔法を使わなくても大体はわかるんですけどね。それではこちらの椅子にお座り下さい。」



 バンバーラに言われた通り、ビビアンは目の前に大きな鏡がある椅子に座った。


 椅子に座ると、鏡にビビアンの顔と後ろに立っているバンバーラが映る。



 あ、結構肌荒れてるかも!



 久しぶりに自分の顔を見たビビアンは少し焦った。



「綺麗な肌ですね。大丈夫ですよ、そのくらいならうちの化粧水で一気に蘇りますから。」



 ビビアンの心の声を読み取ったかのように話すバンバーラ。



「それではいきますね。【コスメラ】」



 バンバーラが呪文を唱えると、ビビアンの体全身を光が包み込む。


 そしてその光は、少しづつ鏡に吸収されていくと、鏡に奇妙な文字と数字が浮かび上がった。



 水分量  45%

 油分   23%

 しみ   なし

 たるみ  なし

 皮脂   多め



「え? なにこれ? 何が書いてあるの?」



 鏡に突然現れた文字と数字に驚くビビアン。



「ふむふむ、悪くないわね。ただちょっと油分が多いのと、皮脂が溜まってるみたいね。」



 バンバーラは、鏡に映し出された数値を見ながら考え込む。


 その様子を鏡越しに見て、ビビアンは不安になった。



「ね、ねぇ、ちょっと! どうなの? はっきりいってよ!」



 その声に、バンバーラはハッと我にかえる。



「あ、ごめんなさい。今勇者様に合う化粧水を考えてたのよ。肌は悪くないわ。水分もいいし、ただちょっと油が溜まりやすい体質みたいね。」



 悪くないと言われて、とりあえずホッとする。


 しかし、バンバーラの話は終わっていない。



「でも、このまま放っておくと油肌になる可能性があるわね。でも大丈夫! これなら一気に綺麗になれるわよ!」



 そこまで聞いて、ビビアンは飛び跳ねたくなる程喜んだ。



「本当!? やったー! 早くその化粧水頂戴!」



※ ビビアンのテンションが 40あがった!!



「はいはい、ちょっと待ってねぇ~。えっとぉ~……あった! これよこれ!」



 バンバーラが手にしたのは、虹色に輝く小瓶。


 そして、温水で濡れてあったまった布でビビアンの顔を拭き上げると、次にまた温かく濡れた布で顔面を覆う。



「はい、ちょっとまってね。少し肌を温めてから、化粧水をつけるからね。」



 ビビアンは、顔に暖かい温もりを感じて気持ちよさそうに目を閉じていた。



「はいオッケー、じゃあいよいよ化粧水をかけるわよ。」


 そう言うと、バンバーラは自分の手に化粧水を振りかけて、それをビビアンのホッペに軽く叩くようにして染みこませていく。



……するとどうだろう



 ビビアンの顔がどんどんツヤツヤになっていき、ハリがあるのにモチモチになっていった。



 ビビアンは驚愕する。


 鏡に映る自分の顔の変化に……。



「す、すごい! アタシじゃないみたい!?」



※ ビビアンのテンションが 100上がった!!


 ビビアンは スーパーハイテンションになった!



 肌が光り輝くと、ビビアンの全身も虹色のオーラに包まれる。



「素敵よ! ビビアン!」

「素晴らしいですわ、ビビアン様」



 後ろで見守っていたミーニャとマネアも、ビビアンの顔を見て褒めちぎった。



「はい、できあがりぃ! でもこれで油断しちゃだめよ! 美肌は一日にしてならず。これを忘れないでくださいね。」



 そう言って微笑むバンバーラ。



「はい! 本当にありがとうございます。」



 あまりの嬉しさにバンバーラに抱き着くビビアン。



「あの……ちょ、ちょっと……苦しいです。」



 ビビアンの剛腕に苦しむバンバーラ。


 その顔はさっきまでと違い、大分ゆがんだ顔になっていた。


 スーパーハイテンション状態のハグは危険である。


 普通の人なら死んでいたかもしれない……が、バンバーラは普通ではないので助かった。



「あ、ごめんなさい! つい嬉しくて。でも本当にあなたは凄いわね。どこでこんな魔法を覚えたの?」


「まぁ私はちょっと特殊な職業ですので。「天空水鏡士」という職業なんですよ。」


「天空水鏡士? マネア知ってる?」


「いえ、私も初耳ですね。どういった職業なのでしょうか?」



 マネアも知らない職業。


 当然、ビビアンは気になった。



「そうですね。職業には普通職、上級職の他に天空職っていうのがあるのはご存じですか?」


「天空職!? 聞いたことないわ、そんなの!」



 その言葉にビビアンではなく、ミーニャが驚きの声を上げる。


 そしてバンバーラは話を続けた。



「マーダ神殿では、女神像に祈りを捧げると現在転職できる職業に変更できますよね。実は特殊な能力や力、又はアイテムを所持していると、上位職の更に上の天空職という職業に転職することができるのです。私の職業もその一つですね。」


「し、知らなかったわ! なんであなたはそんな事知っているの!?」



 新たに判明した驚愕の事実に驚くミーニャは、更に質問を続けた。



「信じるかは自由ですが、実は私は他の世界から来た者なんです。まぁその世界では大賢者と呼ばれていましたわね。でもこの世界では、しがない化粧品屋の店長として楽しんでおりますが。」


「すっごーーい! ねぇ、もっと話を聞かせて! 知りたい!」



 ビビアンも他の世界から来たという言葉に興味をそそられる。



ーーしかし、



「申し訳ありません、あまり詳しい事は言えないんです。ですが、何か困った時はまた尋ねて下さい。微力ならがお力になるつもりですので。」



 バンバーラはそれ以上は語らなかった。



「わかったわ。無理に聞いてごめんなさい。」



 ビビアン達もそれ以上は詮索しない。


 人には言いたくない事もあると思ったからだ。



「それでは、他のお客様も待たせていますから、今日のところはここまでで。またお会いしましょう、この世界の勇者様。」



 バンバーラはそれだけ言うと、先に部屋を出て、お店のフロアに戻っていく。


 そしてバンバーラが居なくなってからも、ビビアンのテンションは高い。



「凄い人だったわね! まぁこの店には何度も来るつもりだから、またゆっくりと話せばいいわ。」



 中途半端な情報になっていたが、それは今のビビアンには些細な事。


 超絶ぷりぷりになった、スベスベの肌を嬉しそうに両手で擦りながら、次にサクセスと会う時を楽しみにしていた。



一方、マネア達は神妙な顔をしている。



「姉さん、あの人……。」


「えぇ、道理で私の水晶に全く反応しないわけですね。そういう事ですか。しかし、多分力にはなってくれないでしょう……。」



 喜んでいるビビアンをよそに、なぜか真剣な顔で話し合うミーニャとマネア。


 だが、それも一瞬のこと。


 直ぐに二人は、自分の買い物を思い出し嬉しそうに笑う。



「まぁビビアンも喜んでくれたしオッケーかな。私もさっさと自分のを買うわよ!」


「そうね、私も欲しい物があったの。うふふ。」



 こうしてビビアン達は一番のお目当ての化粧品を購入し、ほくほく顔で宿屋に向かって歩き出す。



 あれ?

 なんか忘れてない?



 そう、シャナクのお土産の事は、既にビビアンの頭の中には無くなっているのだった…。

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