第3話 スライム討伐

 うぉぉぉー! やってきたぜ大草原! 

 見渡す限り、草、草、草。

 そしてたまに木。 

 とても緑豊かな草原だ。 


 そんな中にうごめく青っぽい存在。 

 そう、スライムです。 

 魔物一弱いスライムを倒すことこそが俺の使命! 


 だったはずなんだけどなぁ……。



「……無理だわこれ。あそこに行けばピリオドの向こう側にいけるわ。」 



 見える範囲だけでも、スライムと思われる魔物が100匹以上。 

 大草原に溢れかえるスライムを見て、さっきまであったヤル気は嘘のように消えていった。 


 俺の能力と装備なら、何とか一匹は倒せるだろうが、二匹以上はパーティを組んでなければ無理。



「と、とりあえず今日は様子見で……うん、まだ金あるし無理することないよね!」 



 俺は遠くからスライム達を眺め終えると、帰る事を決意する。



「よし! 帰ろう! 明日のことは明日の自分に任せればいい!」 



 そう言って街に向かって方向転換し帰ろうとすると、そこでまさかの……。 



 ンチャ……。 



 足の裏にこびりつく嫌な感触。

 ふと視線を下に向けた瞬間、そいつは俺の体に向かって襲いかかってきた! 



 突然のスライムとのエンカウントだ。 



 ドガっ! 



 俺はスライムの体当たりで後方に倒れる。

 相手の大きさは50センチくらい。

 アバラが痛いが一匹ならいけるはずだ。 



 やらなきゃ……やられる! 



 今度は、俺から力を込めて上段から袈裟斬り! 



 スカッ! 



 スライムは体をグニャらせて攻撃を避けた。 


 渾身の一撃は、見事に空振る。 



 ボスっ! 



 すると再度スライムの体当たりが腹に当たった。 



「ぐはぁぁっ! イッテェ! スライム強すぎるだろ!」 



 だが違う。 

 スライムが強いのではない、俺が弱いのだ。 


 何とか、くの字に曲がった体を戻しながら、どうのつるぎをスライムめがけて突き刺す。 



 グチュ!  



 おぉ! あたった! 



 俺はなんとか攻撃がヒットした事に喜ぶも、スライムの動きを少し止めただけにすぎない。 


 魔物は、死ぬと塵となって魔石に変わるため、魔石にならないということは生きているということ。 



「くそ、なんだよこの剣。弱すぎる! 本当に攻撃力7かよ!」 



 だが、相手の動きは遅い。 

 スライムの動きをよく見て、動け俺! 

 スライムの攻撃は体当たりのみ。 


 顔さえ狙われなければどうとでもなる……よね? 


 俺が戦い方を考えていると、その隙を見てか、再度スライムは俺の顔目掛けて飛び跳ねて体当たりをしてきた。 



 チャンスだ。 



 攻撃中はスライムも避けれないはず。 



「今だ!!」 



 叫ぶと同時に、カウンターで袈裟斬り! 



 プチュ! 



 俺の渾身の袈裟斬りはスライムにヒットした。 

 

 会心の一撃。



 斬ることのできないどうのつるぎであったが、なんとか叩き抜いてやった。

 するとスライムは空中で爆散し、指先サイズの青い石に変わる。 



「はぁはぁ……やったか。くそ、強すぎるぜスライム! ラスボスか! お、これが魔石だな、色は青だから水の魔石か。」 



 魔石を手にした俺は、自分が本当に魔物を倒したのだと実感する。 



 初戦闘、初勝利! 

 確かに相手はスライム一匹! 

 たかが一匹、されど一匹! 



「イケる! イケるぞ! 今の俺は最強だ!」 



 俺は初勝利に気分が高揚し、更なる戦闘を求めて帰るのをやめた。



「待ってろよ! 魔王(スライム)め! 俺がお前を倒す者だ!」 



 とキメ顔で言ってみる。 

 テンション爆上がりで、ちょっと可哀想な人レベル。 


 その後も俺は、慎重にスライムが一匹でいるところを不意打ちで襲いかかり、なんとか五匹目のスライムを討伐する事に成功した


――が薬草も持っていない俺は、満身創痍。 



「ふぅ、くそイテェ……こりゃ何本かアバラ折れてるな。」 



 今日はこれ以上の戦闘は無理かなと思い始めた時、それは突然起こった。 



「お!? おお? なんだこれ!? 力が……溢れてくる!」 



 俺の体に起きた異変は、レベルアップだった。

 全身にかつてないほどの力が溢れ、明らかに身体能力が向上しているのを感じ、あばらの痛みまで消えている。



「すげぇな、レベルアップ! 怪我も治るのかよ。そうだ! 冒険者カード。」



 サクセス 戦士 レベル2(総合75)

 力   15 

 体力  15 

 素早さ 15 

 知力  15 

 運   15



「え? なんでこんなにステータス上がってるの?」 



 俺は自分の冒険者カードを見て驚く。 

 レベルアップに伴う能力向上は本来合計で5しかあがらず、それは共通認識であり常識だ。 

 当然俺もこのくらいは知っている。 


 しかし、何度見ても俺のカードに記載されている数字は、全ての能力がオール10上がっており、合計で50もの能力が上がっていた。 

 これは10レベルアップ相当である。 


 不思議に思った俺は、ふと、どうのつるぎの能力を確認する。


【どうのつるぎ】 

 攻撃力7 スキルなし レアリティ777



「やっぱ変わってないよな……んん!? なんだこれ? こんなのあったか?」 



 さっきは気づかなかったが、どうのつるぎの能力は更に続いている。



(セット効果 レアリティ777) 

 取得経験値10倍 

 必要経験値10倍 

 取得熟練度10倍

 必要熟練度10倍 

 能力向上 10倍 進化0



「なんじゃこりゃーー!」 



 かわのぼうしを装備していない時には、こんなものは無かったはず。 

 つまりは、全ての武器と防具を装備をする事で、このセットスキルは解放されたのだ。 


 経験値10倍で必要経験値も10倍? 

 意味ないやん! 

 つか、熟練度ってなんやねん! 

 だが、これはヤベェぞ……能力向上10倍。 


 つまり10レベルアップすればば100レベルアップと同じじゃないか! 

 なんっちゅうチートスキルだよ。



「見えてきた……見えてきたぞ! 勇者サクセスになる未来が!!」 



 俺は改めて自分の装備についたチートスキルに歓喜していると、いつの間にかスライム3匹に囲まれているのに気づいた。



 ※スライムが 3ひき あらわれた!



「ちっ! 最高な気分を邪魔しやがって!」 



 スライム達は一斉に襲いかかってくる――が、おかしい……。


 敵の動きが鈍い? 

 違う、俺の素早さが上がったからか!? 

 余裕で避けれるぜ。 


 俺は最初に体当たりしてきたスライムをサッと躱すと、剣で薙ぎ払う。 



 ブヂャ!! 



 スライムが一撃で爆ぜた。



「え? よわ! スライムよわ!!」 



 さっきまで苦戦していたのが嘘みたいだ。

 今までとは雲泥の違いで、あっという間に3匹のスライムを片付ける俺。



「やばい、俺最強かも! スライムもう怖くねえぇぇ!」 



 俺は大草原で一人、絶叫するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る