第29話 謎の結果

 俺は【ハーレム童貞】へと転職を済ませた後、そのままマーダ神殿の中に入った。

 レッドオーブとイエローオーブをマーダ神殿に届けなければいけないのであるが、誰に渡せばいいかがわからない。


「イーゼ、オーブは誰に渡せばいいんだ?」


「そうですわね、神官長に直接渡すのが一番だとは思いますが、見当たりませんわね。」


「それでは、先に女神像のところにいってみませんか?」


 どうやら神官長というのが、この神殿の責任者らしい。

 だが、すぐに見つからないのであれば、シロマの言う通り女神像のところに先に行こうと思う。

 

「そうだな、じゃあ先に転職しに行くか。別に急を要するわけでもないしな。」


 そして俺達は、そのまま神殿を中央に進んで行き、女神像のある間に辿り着く。


「す、すげぇ~……。」


 目の前に浮かぶ幻想的な光景。

 上のステンドグラスから零れ落ちる様々な色をした光が、中央に建っている女性の像を輝き照らしている。

 初めて見る女神像は、まるで生きているかのように精巧な作りであり、そして何よりも美しい。

 更に、そこに舞い降りる七色の光が、女神像の神々しさを増している。


「本当に、いつ見ても綺麗です。」


 シロマもこの光景にうっとりとしていた。


「見ればわかるが、あれが女神像だな。とりあえず、先にみんなから転職をしてきてくれ。って転職ってどうやるんだ??」


「女神像の前に行って、目を閉じて祈りを捧げるのですわ。すると、女神様から言葉が届いて、自分が現在転職できる職業を教えていただきます。そこで選択をすることで、転職は終わりですわ。」


 イーゼが詳しく教えてくれた。


 そういえば、そんなことを馬車でも聞いていたような……。

 つうか、俺聖戦士っていう謎の職業だけど、転職とかできるのかな?


「とりあえず、まずはわたくしから転職を行いますので、サクセス様は見学していてください。」


 イーゼはそう言うと、女神像に近づいていき、女神像の前で一礼をした後に、膝をつき、両手を合わせて目を閉じる。


 なるほど、あれが祈りの作法か。


 イーゼは慣れているのか、非常に無駄のない洗練された動きであった。



【イーゼ】


「女神様、お久しぶりでございます。現在わたくしが転職できる職業をお教えください。」


【女神】


「よくぞこられました。それではあなたの職業を……え?」



 突然、女神の声が素で驚いた声になる。

 イーゼは突然の女神の驚くような声に少し焦った。

 いつもなら、神々しい声で淡々と告げられるだけのため、こんな事は一度もない。


【イーゼ】


「いかがされましたか? 女神様?」


【女神】


「いえ、申し訳ありません。あなたから聖なる天空の光を感じます。そして、あなたの持つ装備の中に、天空職に転職するためのキーアイテムがあります。」


【イーゼ】


「聖なる光でございますか? それと天空職とは?」


【女神】


「いにしえの時代、天空の神が選ばれし者のみに与えた職業でございます。その力は他の職業とは比べ物にならないほど凄まじいため、簡単には転職はできません。聖なる光を持ち、そして必要なアイテムがなければ転職ができないのです。そして、最後に試練を通過した者のみが可能となっております。」


【イーゼ】


「そうでございますか。それではその天空職に転職させていただきたく思います。わたくしは、大切な人の為に強くならなければなりません。今のままでは足手まといになってしまいます。どうか、その天空職に転職させてくださいませ。」


【女神】


「大切な人の為に力を望みますか。わかりました、あなたが現在なれる天空職の名は


  【天魔賢導師】


 と呼ばれる魔法使いの最上級職です。全ての魔法の更なる上位魔法を行使できることになりましょう。更に、能力についてもレベルアップ時に今までの3倍増えます。その分、必要な経験値も多いですが……。」


 女神の言葉にイーゼは心から震えた。

 もしも、そのような職業になれるならば、サクセスの役に立てると思ったからだ。


【イーゼ】


「お願いします! 是非、その力をわたくしにお与えください!」


【女神】


「わかりました。あなたは転職に必要な二つの資格を有しています。それにより、試練を受けることが可能です。その試練は過酷であり、かつ、一人で臨まなければなりません。死ぬ可能性も極めて高く、そして、今あなたがおっしゃっている大切な人と長い期間離れることになるでしょう。その覚悟はおありですか?」


 女神の言葉にイーゼは戸惑った。

 死ぬかもしれない試練はまだいい。

 だが、サクセスと長期間会えないというのは不安以外の何物でもなかった。

 更に、その長期間というのがどのくらいの事を指すのかがわからない。


【イーゼ】


「差し支えなければ教えていただきたいことがございます。その長期間とはどの程度のものなのでしょうか?」


【女神】


「それはなんともいえません。少なくとも、最低半年から一年はかかるでしょう。長ければ死ぬまで戻ってこれません。その試練はここの世界とは別世界になります。私が転移させることで移動はできますが、帰ってくるにはその資格を有する他、方法はありませんので。」


 早くて半年から一年。

 最悪は二度と帰ってこれない。


 この言葉にイーゼは絶望する。

 一日とて、サクセスと離れるのは辛い。

 

 イーゼは悩んだ。

 そして……。


【イーゼ】


「わかりました。天空職になるかどうかは、保留したいと思います。しばらく考える必要がございます。」


【女神】


「はい。それがよろしいかと。人の命には時間があります。なればこそ、その時は煌めき輝くもの。もしも、覚悟がきまりましたら、もう一度お越しください。あなたの旅に女神の加護があらんことを……。」


 女神のその言葉を最後に、イーゼは目を開けた。

 そして、ゆっくりと俺のところに向かって歩いて来る。


「どうだった、イーゼ? 賢者になったのか?」


 俺の言葉にイーゼは黙って首を横に振る。


 どうしたんだ?

 なんか元気がないな。


「すいません、サクセス様。なりたい職業に転職はできませんでした。申し訳ございませんが、しばらくこのままでいたいと思います。」


 イーゼの声はかなり落ち込んでいる。


「賢者になるのは、そんなに難しいのか……。まぁ落ち込まなくていい、今のままで十分強いさ!」


 俺はイーゼを元気づける。


「はい。ありがとうございます。サクセス様。」


 イーゼはそれだけ言った。


 イーゼはさっき聞いた話をサクセスにするつもりはない。

 余計な心配をかけるだけだし、多分、サクセスはそれを認めないと思ったからだ。

 そして、自分もサクセスの為に強くなりたい気持ちは大きいが、そこに踏み込むだけの覚悟が今はない。


「へぇ~、あんたでも転職できないって、やばいわね。んじゃ、次はアタイが行ってくるね。」


 リーチュンは落ち込んでいるイーゼをよそに、颯爽と女神像の下に向かって祈りを捧げた。


 そしてリーチュンもまた、祈りを終えると、イーゼと同じように元気を無くして帰ってくる。

 リーチュンもまた、イーゼと同じ事を言われたのだ。

 そしてその天空職は


   【聖龍闘士】


 聖なる闘気を身にまとい、その拳は全ての物を打ち砕く。

 過去に一度だけ、天空の世界において武神と呼ばれた者が転職することができた職業であり、地上世界ではこのような職業はない。

 正確に言うと、なれる者はいなかった。


 そして、リーチュンもまた、世界を救うため、仲間を守るため、その力を強く欲したものであるが、やはり、サクセスや仲間と離れるまでの覚悟は今は無かったのだ。


「リーチュン、どうした? お嫁さんは無かったのか?」


 今度は俺は少し冗談を交えてリーチュンに声をかける。

 だが、リーチュンはなんと……泣き出した。


「ごめん! みんなごめんなさい! アタイ……アタイ……。」


 え……?

 

 俺は何が起こったかわからない。

 そのリーチュンの涙の理由が、見当もつかないのだった。


 しかし、そんなリーチュンに向かって珍しくもイーゼが行き、そっと優しく抱きしめる。


「わかっていますわ。リーチュン。きっとあなたも同じ事を言われたのでしょう?」


「え!? イーゼもなの!? じゃあ……あ、ここにいるってことは……。」


「そうですわ。あなたと同じですわ。情けないのはわたくしも同じですわ。」


 イーゼがリーチュンに何を言っているか聞こえない。

 しかし、その言葉でリーチュンは大分慰められたようだ。


 でも、イーゼがリーチュンを慰めるなんてな……

 同じ転職できなかった者同士だからかな?


 そして最後にシロマが女神像に向かう。


「みなさん、何があったかわかりませんが元気を出してください。私がみなさんの分も転職して、強くなって戻ってきますから!」


 シロマの顔は凄く勇ましかった。

 二人がダメだったからこそ、自分だけでも転職してやる! 

 という気迫がヒシヒシと伝わってくる。


 そして……シロマもまた、女神様に祈りを捧げた後、前の二人と同じ……いや、それ以上に絶望感を漂わせて、ヨロヨロと歩いて戻ってきた。


 一体何が起こっているんだ!

 転職ってそんなにムズイの!?


 シロマもまた女神様に他の二人と同じ事を告げられる。

 シロマが転職できる天空職は


 【時空僧】


 時間と空間に影響を与えることができる職業。

 その力が際限なく行使できるならば、神と同格とされる程凄まじい職業である。

 だが、当然その力の代償は大きく、そして制限されたもの。

 しかし、それでも他の職業とはかけ離れた潜在能力を有していた。


 もう何も言うまい。

 

 俺が何も言わずとも三人の美女達はお互い抱きしめ合って、慰め合っている。

 男が出る場ではない。


 しかし、シロマでもダメか……。

 俺はやめとこうかな……。

 別になりたい職業あるわけじゃないし……。


 三人の惨状を見て、俺は女神像の前に行くのを躊躇うのであった。


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