第30話 女神の過去
現在、俺は転職をしに行くか迷っていた。
理由は二つある。
一つは、今の職業の名前を気に入っているからだ。
だって
聖戦士
なんてちょっと格好良いじゃん?
しかも誰も聞いたことがないとか聞くと、なおの事変えたくはない。
そして二つ目は、目の前で俺の優秀なパーティ達が全員、転職に失敗していたからだ。
もしも、ここで俺だけ成功したら、ちょっと流石に仲間外れにされそうで怖い。
うーむ、どうしたものか……。
「サクセス様、今日はもう帰りませんか? サクセス様は今のままで十分お強いですし。」
「そうよ! サクセスは今のままがいいわ。」
「そ、そうですね。サクセスさんに転職は意味がありません。」
俺が悩んでいると、いつの間に失敗シスターズが集まってきて、俺の転職を阻止しに来た。
はは~ん。
やっぱりな。
俺だけ転職させるのは嫌なんだな。
でも、逆に俺はそう言われるとやりたくなるんだ!
実際には、他のメンバーは今回の事を、女神からサクセスに伝わるのを阻止するためのものであったが、当然、この時の俺が気付くわけもない。
「いや、転職するかしないかは別として、ここまできたんだ。お祈りだけはさせてもらうよ。」
俺がそう言うと、三人は顔を青ざめさせた。
「ダメですわサクセス様。男性の方がここでお祈りだけをすると、一生童貞の呪いが掛かりますわ!」
「そうよ! ダメったらダメ!」
「そ、その噂は私も……。」
え? それ割とガチなの?
いや、まじそんな呪いは勘弁だわ。
「じゃあ……やめておくか……なんてな!!」
どう考えても嘘だ。
そんなの聞かなくてもわかる。
それなら、この女神像にわざわざ毎日お祈りに来る奴がいるわけがない!
俺はそういうと、颯爽と女神像の下に行くと、イーゼがやっていたお祈りを捧げた。
後ろから、色々声が聞こえてきたが、今だけは無視だ。
俺はやるなといわれると、どうしてもやりたくなるんだよ!
そして、目を閉じて、目の前の女神像に祈りを捧げる。
「女神様、初めまして。サクセスと申します。私が現在なれる職業を教えて下さい。」
すると、俺の脳内に直接、綺麗な女性の声が聞こえてきた。
女神
「ようこそおこしくだ……え? あなたは……とんずら? なんで? なんであなたがここに……。」
……へ?
なにこれ?
女神様ってこんなんなん?
つうか、誰がトンズラだよ!
逃げてねぇよ! 少ししか……。
俺
「あの、さっき言いましたよね。私はサクセスです。【とんずら】という者ではありません。」
女神
「あ、あら、そうでしたか……って騙されませんよ! そのちょっとエッチなオーラと輝きは、私と一緒に戦ってきた勇者とんずらに違いありません! いつ転生したんですか! なんでもっと早く来てくれないの!」
えぇ……
何、このヒステリックな方……。
本当に女神様なのか?
俺
「いや、本当に人違いでは? というか、もうよくわからないので、さっさと転職できる職業教えて下さいよ。」
女神
「何よそれ! あ! わかったわ! さっきの女性達はあなたが誑かしたのね! キスしたんでしょ? だから聖なる光を帯びていたんだわ……。私というものがありながら……この浮気者!! エッチ! 変態! とんずら!」
なぁ……。
俺は何でこんないわれなきことで、女神様に罵倒されているんだ?
誰か教えてくれよ。
話進まねぇし……。
俺
「だぁかぁらぁ! 知らないっつうの! 確かにさっきここに来たのは俺の仲間だよ。でもそれと女神様とは関係ないだろ? つうか転生ってなによ? 知らないよ、そんなの。」
俺はもう最初の丁寧な言葉はやめた。
こんなヒステリックブルーに敬語を使う気なんて起きない。
女神
「は! そうだわ! そういえば、あなたの魂は今回、他の女勇者に送ったはずだわ。どうしてかしら? あれ? そういえば、勇者が来た時にあなたを感じなかったわね。どういう事なのかしら?」
女神は急に困惑し始めた。
勇者というのはビビアンの事だろう。
それはわかるが、もう本当に意味がわからない。
この人まじでなんなの? いや、人じゃないか。女神か……。
俺
「とりあえず、何度も言っているが、俺は【とんずら】なんて知らない。誓ってもいい。だから、早く転職できる職業教えてくれよ。」
女神
「そうでしたか……。時間が必要のようですね。私が理解する時間が……。」
お前がかい!?
もう勝手にしてくれ!
俺
「もう俺帰りますわ……ありがとうございました。」
女神
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! いえ、待って下さりませんか? サクセスさん? 今教えますから、もう少し待ってください。」
こいつ、急に口調変えやがったな。
今更おせぇっつうの。
つか、なんだろ、誰かに似てるな?
…………。
あ! ビビアンだ!
こいつなんかビビアンに似てるぞ!
俺
「わかった。じゃあまだ行かないから、さっさと教えてくれ。」
女神
「わかりました。えっと……聖戦士……? なんですかこれ?」
しらんのかーーい!
どんだけこの女神ポンコツなんだ!
俺
「え? なんで知らないんですか? あなたは転職を司る女神ですよね?」
女神
「今はそういう事になっておりますね。元はただの人でしたが。ちなみに、先ほど勘違いしてしまった【とんずら】とは幼馴染であり、恋人でした……。」
俺
「あの……すいません。聞いてないっす。それより職業を……。」
女神
「もう! 本当にとんずらは私の話を聞かないんだから! あの時だって、助けに来なくてよかったのに! それが何よ、久しぶりに会ったと思ったら、知らない女沢山連れてきて! 何? あてつけ? 嫉妬なんかしてないんだからね!」
はい、元に戻りました。
さようなら……。
俺
「じゃあ、そういうことで!」
女神
「ごめんごめん! 今の嘘! ただの女神ジョークよ! ちょっ! 本気で帰らないで! お願い! 泣くわよ! いいの!? 一日中雨降らすわよ!」
いや、まじこいつ、タチ悪すぎ……。
そりゃ、とんずらもトンズラするわな……。
あぁ、でもなんか少し懐かしく感じるのは気のせいかな?
ちょっと、からかいたくなってくるわ。
俺
「わかった。でもこれが最後だぞ。ちゃんと俺の職業見てくれ。」
女神
「わかりました……えっと、聖戦士についてはちょっと私にはどうすることもできません。つまり、職業の変更は不可能になっています。ですが……魔物つかいは、上位職【魔心】に転職ができます。というか、あなたは何で二つも職業をもっているのですかね? 不思議ですわ。」
俺
「聖戦士は無理か……。まぁ変える気なかったし、別にいいかな。んで魔物つかいは、マシン? とかいうのに転職できるのか。どんな職業なんだ?」
女神
「魔心は、過去にムッツゴクロウさん一人しか転職できた事のない、かなりレアな職業です。魔物と心を通わせるだけでなく、その能力を引き出したり、魔物を進化させたりすることができます。」
俺
「え? それ、すでにできるんですが……。他になんかないの?」
女神
「そ、そんなはずは……。あ! あなたのその腕輪!? それ、ムッツゴクロウさんが死ぬ前に自分の魂を込めた腕輪ですわ! なんで、あなたがそれを……。」
俺
「知り合いからもらった!」
女神
「嘘ですわ! それは地中深くに眠っていたはず。ドワーフでもなければ、発見できるわけないわ!」
俺
「だからもらったんだよ。ドワーフから。」
女神
「えーー! 信じられません。まぁいいです。では、転職しても意味ないですね。あ、ですが、ムッツゴクロウさんでも習得できなかったスキルがありましたわね。もしかしたら、あなたなら……。」
俺
「おいおい、なんだよ。もったいぶんなよ。教えてくれよ。」
女神
「どうしよっかなぁ~。でも教えたらすぐいなくなっちゃいそうだしなぁ~。」
この駄女神め……。
くそ、なんでこんな奴が女神なんて言われているんだ……。
俺
「そこをなんとかお願いしますよ。世界一美しい女神様。」
女神
「え? 今なんて言ったの? 誰が宇宙一美しいですって!?」
そこまで言ってねぇよ!!
つうか、あんた石像だよ?
固すぎて、トキメクこともできんわ!
俺はそんなマニアじゃねぇ!
俺
「決まっているじゃないですか。あなたですよ。あなた。」
女神
「ちゃんとターニャって言って! もうほんと乙女心がわかってないんだから……。
いや、知らねぇし!
誰だよターニャって!
ん? この女神の名前か?
俺
「宇宙一可愛いターニャたん。教えて欲しいな。」
女神
「いいわよ! 教えてあげるわ! それはね……魔物を融合できるのよ! でもムッツゴクロウさんは、愛してやまない魔物を融合させることなんてできなかったわ。そして最後は餌と間違えられて食べられて……。彼は最後にモンスターの胃袋の中で腕輪になったの……。」
うん、聞いてない説明ありがとうございます。
まぁいい。
融合か……。
ムッツゴクロウの気持ちはわかる。
俺もゲロゲロを他の何かと融合させる気にはなれないな。
俺
「なるほどね。まぁいいや。とりあえず、よくわからないけどその魔心というのに転職させてくれないか?」
女神
「いいわよ。でも条件があるわ。」
来た!
この条件でみんな失敗したんだな。
うし! 気合入れるぞ!
俺
「わかった。言ってくれ!」
女神
「私に向かって、【俺はターニャだけを愛してる。お前は最高にキュートだぜベイビー。】って格好よく言って!」
…………。
俺
「それが……試練?」
女神
「そうよ! 愛という試練よ! 今までちゃんと言ってくれなかったじゃない! だから、ここではっきりさせて!」
どうやら、まだこの女神は俺をトンズラだと思っているらしい。
まぁいい。
予行練習のつもりでやってみるか。
俺
「ターニャ……俺はお前だけを愛してる! お前は最高にキュートだっぺよ!」
しまった!!
つい、みんなをイメージしたら緊張してしまった!
くそ! 失敗か……。
女神
「……あなたはやっぱりトンズラだわ……。いざという時に、その口調……。会いたかった!! ずっと会いたかったわ! 私はあなたを愛してる! ずっとよ! 何年、何万年たってもこの気持ちは変わらないわ!」
なぜか、女神の声が涙声になっていた。
そして、理由はわからないが、俺の胸が凄く締め付けられる。
なんだ、これ。
胸が……苦しい……。
俺
「あぁ、待たせて悪かったな。まだ少しかかりそうだが、必ずお前を救ってみせるよターニャ……。」
ちょ!?
今の誰?
俺じゃないっぺよ!
女神
「待ってるわ。でも寂しいからまたすぐに戻ってきてね。それじゃあ転職させるわね……また……会いましょう。とんずら……。」
俺
「お、おい! ちょ、ちょっと!!」
すると、俺の脳内から女神の声が消えた。
俺は目を開けて冒険者カードを見てみると……
サクセス
聖戦士(魔心)
に変わっていた。
どうやら無事転職できたらしい……。
「さ、サクセス様! 転職はどうでしたか? それと……何か変な事を言われませんでしたか!?」
俺が仲間のところに戻っていくと、イーゼが血相を変えて尋ねて来た。
「あぁ、転職は成功した。魔物つかいだけな。聖戦士については女神もわからないらしい。ほら、見てみな。これが俺の今の職業だ。」
俺はみんなに自分の冒険者カードを見せる。
「魔心……ですか……。聞いたことありませんね……。」
シロマもやはり知らないらしい。
ムッツゴクロウさんはいつの時代の人だったのだろうか……。
「それよりサクセス! 女神から聞いた?」
今度はリーチュンが詰め寄る。
「え? まぁ色々聞いたけど、なんか俺を誰かと勘違いしていたな。まぁ思ったよりも親しみ深い女神だったわ。」
「それでは、私達の事……聞いたのでしょうか?」
「いや……ん? どういうこと?」
俺の言葉に三人がほっとする。
「いえ、なんでもありませんわ。それでは神官長を探しに行きましょう。多分、誰かに聞けばわかるはずですから。」
「そうだな。とりあえず、まずは最初の目的を果たすとするか!」
こうして俺達は女神の間を去る。
俺達の後ろを見つめる女神像の瞳が、少し寂しそうに見えたのはきっと気のせいだろう……。
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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!
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