第28話 転職(後編)

「では、わたくしが開始の合図をしますわね。よーいドンでスタートですわ。」


 俺とリーチュンの勝負に、何故かイーゼは乗り気だ。

 シロマも何も言わない……。


 何かがおかしい。


 ゲロォ(僕もやりたい!)


「すまない。ゲロゲロはまた今度な。今は男を懸けて勝負するんだ! よし、イーゼ。じゃあ合図してくれ。」


 まぁ俺とリーチュンでは素早さが3倍程違う。

 負けるはずがないがな。

 くっくっく……。


 だがなぜかリーチュンは余裕の笑みを浮かべている。

 それがわからない……。


 まぁいい、一瞬で終わりにしてやるぞ!

 勝負も! 俺の童貞もな!!


「では、いきます……よーい……」


「シロマ! 今よ!」


 リーチュンが突然叫ぶと、シロマが魔法を唱える。


 【サイダーム】


 シロマが唱えた魔法は素早さをあげる魔法だった。

 そして、イーゼは「ドン」と言わずに……


 【アースウォール】


 と呪文を唱えた。

 俺の周りの土が盛り上がると、目の前が土の壁で遮られる。


 やられた!!

 こいつら、全員グルだ!


「ドン!!」


「サクセス、お先にぃー!」


 俺が出遅れると、リーチュンは一気に駆け上がった。

 長距離ならば、それでも俺の勝ちは揺るがない。

 だが、流石に俺達の素早さだと、この数秒のロスは大きい。


「卑怯だぞ!!」


 俺は壁を拳でぶち破ると、急いで階段を駆け上った。

 既に俺の視界にリーチュンはいない。

 大分先に進まれたようだ。


「くっそーー! 油断した!」


 だが、少しするとリーチュンの後ろ姿が見えて来る。

 やはり、補助魔法を使っても、まだ俺の素早さが大分勝っていた。


 よし! 

 これなら追いつけるぞ!


 ドンドンと距離が縮まっていく。


 後少し……後少しだ!


 すると、あっという間にゴールが見えてきた。

 だが、これならなんとかギリギリ間に合いそうである。


「甘いわ!!」


 俺が近づいてきたのに気付いたリーチュンは、突然そう叫ぶと、リーチュンの足に白い光が灯った。


 ま、まさか……闘気を足に……。


「卑怯だぞ! リーチュン!!」


「へっへーんだ。このくらいしないと勝てないもーん。」


 リーチュンの速度が一気に上がる。

 後少しで追いつけそうなところで、その差が縮まらなくなってしまった。


 やられた……。


「やったーー! アタイの勝ちぃ!!」


 結局後少しのところで追いつけず、俺は負けてしまった……。

 夢は破れたり……。


「くっそーー。卑怯だぞ。これじゃ三対一じゃないか。」


「ごめんねぇ。でも、約束は約束よ。」


 リーチュン達は昨日、綿密な作戦を立てていた。

 ここでサクセスと勝負することを。


 しばらくして、イーゼ達も上がってくる。


「どうやら、ちゃんとリーチュンが勝ったようですね。」


 シロマが不敵な笑みを浮かべて言った。


 なんなんだ……。

 何をお願いされると言うんだ……。



 ぶるぶる……



 俺はその笑みに恐怖する。


「うふふ。それではサクセス様、約束を果たしてもらいますよ。」


 なんだよ……。

 何を求めてくるんだ?

 金か? 金ならいい。

 それとも体か?

 それは望むところだ!


 だが違った。


「えっとねぇ、じゃあ言うよ?」



 ドキドキドキ……



「わかった……男に二言はねぇ!」


 覚悟を決めた。


「アタイ達を全員……サクセスの両親に紹介して!」



 …………。



「へ……?」


 言っている意味がわからない。

 なんのこっちゃ?


「だからぁ……もう!」


 俺が黙っていると、リーチュンが何故か怒る。

 だが意味が分からない。

 今更何を?


「つまり、わたくしたちをキチンとサクセス様の両親に、将来の嫁として紹介してくださいって事ですわ。」


「はい。これで勇者様にちょっかい出されずに済みます。」


 どうやら、3人はビビアンの事で大分心配になっていたようだ。

 それで、今回、この意味のわからない勝負を仕掛けてきたってわけか。

 可愛いじゃねぇか。


「あぁ。もちろんだ。だけど、大魔王を倒してからになるぞ?」


 そういいながらも、その時の事を想像する。

 両親の驚く顔が目に浮んできた。

 いきなりこんな美女三人を連れてきて、嫁ですって……。

 

 親父、びっくりするだろうな。

 ふふふ、自慢してやるぜ!

 泣いて悔しがるだろうなぁ。

 はっはっは。


「はい、かまいませんわ。ただ、確約が欲しかっただけです。サクセス様を信頼していないわけではありませんが、そう言った事をキチンと口でおっしゃってくださりませんので。」



 ぎくっ!!



 確かにそうだ。

 俺は恥ずかしすぎて、今までそんな事を言った事は無い。

 というか、昨日初めてきちんとみんなの気持ちを知ったばかりだし……。

 あぁ……。

 そう考えると、俺ってすげぇ情けないな。


「そうか。すまなかったみんな。でもシロマはいいのか?」


「はい。みんなでその事は散々話し合いましたから。それに、私が好きなサクセスさんは、みんなの事を大切にするサクセスさんです。私だけわがままは言えません。」



 少し恥ずかしそうにしながら、シロマは言った。



 キターー!

 〇ピーならぬ4〇!

 ハーレム確約キターー!!


「わかった。じゃあこんな所で言うのもなんだが、キチンと言わせてもらう。リーチュン。シロマ。イーゼ。俺はみんなを愛してる! 俺と結婚してほしいっぺ!!」


 最後だけは、やはり決まらなかった。

 だが、みんな嬉しそうに笑っている。


「当然よ! アタイが一番ね!」

「何いってるんですか、平等ですよ。平等!」

「わたくしは何でもかまいませんわ! 嬉しいですわ!」


 3人の瞳に涙が浮かぶ。


 ゲロロロぉ(僕も僕も!)


「それではエルフ式の誓いの儀を行います。サクセス様、全員に口づけをしてください。」



 !?



「え? ここで?」


「はい、大丈夫です。今日なら目立ちませんわ。」


 そう言われて周りを見渡すと、確かに誰も気にしていない。

 それどころか、いたるところでみんないちゃついている。


 ここ神殿よね?

 いや、神殿だからか?


 うえぇ、男同士……。

 見ちゃだめだ!!


「うっふーん、だーりーん!」

「愛してるぞ、ジャイオン!」


 ガタイのいい男同士が激しくキスをしているのを見てしまった。

 見なかった事にしよう!


「ではサクセス様、まずはわたくしに……。」


 すると、イーゼが近づいて来る。

 その綺麗な唇に俺はドキドキした。


「わ、わかった……。」



 ドックん……ドックん……



 心臓がはち切れんばかりに脈打つ。

 そして……



 チューーーー。



 俺はイーゼを抱きしめると、キスをした。

 二回目ではあるが、凄くドキドキする。



 !?



 レロレロレロレロ……。



 ディ……ディープだと!?



 イーゼはなんと舌を入れて、俺の口の中を蹂躙し始めた。



 お……おぉぉぉ……



「ちょっと! 何やってんのよ!」


 それを見たリーチュンがすぐにイーゼを引きはがした。


「あん! もう! これからがいいところでしたのに!!」



 ぽぅ……



 俺は余りの衝撃に、完全に腑抜けになってしまう。

 その快楽は今まで感じたことがないほど、素晴らしいものであった。


「もう! サクセス! まだアタイしてもらってないわよ!」


 おっと!

 もう少し余韻に浸りたかったが、致し方がない。

 これが後二回……。

 もう死んでも後悔なさそうだな……。


「すまない、じゃあリーチュン。いいか?」


「い、いいわよ! かかってきて!」


 なんかリーチュンがおかしい。

 どうやらかなり緊張しているようだ。

 大分固くなっている。


 実際はリーチュンとのキスも二回目だったのだが、あれは無意識だったみたいだからノーカンらしい。


 俺は左手でリーチュンの肩を引き寄せると……右手をメロンに添えながら、その唇に自分の唇を重ねた。



 右手はそえるだけ……。

 あれ? 左手だったかな?


 まぁメロンに添えたのは勢いだ!

 やばい! 完全に下の如意棒が伸び切ってるぞ!!

 シュートしちゃいそうだぜ!



 もっみ……もみ……

 ちゅうぅう……



 俺がリーチュンの唇にキスした瞬間、両手で強く抱きしめられた。

 更に足まで絡ませてがっちりと俺を固める。

 大ちゅきホールドだ!


 舌こそいれてこないものの、そのキスは激しい。

 


 チュッ! チュっ!! チュ!


 リーチュンは、何度も唇を離しては重ねてきた。

 熱烈激しいキスである。


 ここはもう天国なんじゃないか?

 童貞の俺が、まさかこんなことになるなんて……。

 神様、そして、マイエンジェル達よ!!

 本当にありがとう!


「リーチュン! もう終わりです! なんですかリーチュンまで!」


 今度はシロマがリーチュンを引きはがす番だった。

 シロマはまたもプンプンしている。

 最近、シロマはよく怒るな。

 あの日かな?


「あぁん! もっとしたかったのに!!」


 リーチュンはやっと俺を解放した。

 女性に強く抱きしめられるの……悪くないな……。


「サクセスさん! ちゃんと今は、私だけを見てください!」


「お、おう。大丈夫だ。シロマだけを見ているよ。」


 俺の言葉に頬を染めるシロマ。

 めっちゃかわいい。


「で、では。その……お、お願いします。」


 シロマはそういうと目をギュッとつぶった。

 

 シロマとは初めてである。

 遂にこのロリっ娘美少女を我が手中におさめる時が来たのだ。

 あまりの嬉しさに胸が張り裂けそうだぜ。


 シロマもかなり緊張しているのか、その細く綺麗な足は震えている。

 まるで生まれたての小鹿のようだ。

 その姿が、なんとも愛くるしい。


 俺はシロマに近づくと、そっと両手でシロマを優しく抱きしめた。

 すると、最初は固くなっていたシロマも、少しづつ柔らかくなってくる。


「愛してるよ。シロマ。」


 俺はシロマの耳元でそっとそう囁くと、その小さな唇に優しく重ねた。



 チュッ……。



 しばらくそのまま唇を離さない。

 優しくも、深いキスだった。


 そしてゆっくりと唇と顔を離していくと、シロマの目が開いた。

 その目には涙が浮かんでいる。


「私もです。サクセスさん……。浮気はダメですよ。」



 ギクっ!



 どうやらリーチュンとイーゼはいいが、他は許さないらしい。

 だがいいだろう。

 これ以上増やすつもりは……

 あれ?

 そういえば昔ビビアンと……。


 ふと過去の記憶が蘇った。




ビビアン

「そうね、もしも大きくなった時、お嫁さんにしてくれるならいいよ! 友達になってあげる!」

サクセス

「よっしゃあ! 結婚するっぺするっぺ! こげな女子と結婚できるならありがたいっちゃ!」




 そういえば……あの時も……。

 まずいなぁ……。

 でも子供の頃の話だしなぁ。


 俺は一抹の不安を感じながらも、こうして無事に


 職業【童貞】


から


 職業【ハーレム童貞】


に上位転職するのであった。

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