第86話 囮の国の王子様
「よし、じゃあ行くぞサクセス! 準備はいいか?」
「ちょっとまってくれ、この船に保険だけかけておく。」
俺と自分の足に氷属性を付与したカリーは、準備が整ったようで、早速船から降りようとしたが、俺がそれを止めた。
この戦い、何があるかわからない。
リヴァイアサンとの時もそうだったが、例え敵を殲滅しても、帰る船が無ければ全滅と同じだ。
もちろん、その為にシロマとゲロゲロに残ってもらっているのだが、それだけでは足りない。
だって俺は極度の心配症だからな!!
「何をする気だ、サクセス!?」
「まぁ見てろって、とっておきの魔法があるんだ。俺の新魔法【ライトプリズン】」
俺がそう唱えると、光の四面体が覇王丸を包み込む。
おっと、この船の名前をわすれちゃいけねぇぜ、覇王丸っつう格好いい名前があるんだからね!
「うわっ! すげぇな、サクセス。いや、凄いのはシロマちゃんか? よくわからねぇが、これなら多少の攻撃は防げそうだな。」
俺の魔法を見て、カリーは感嘆の声をあげた。
確かにこの魔法は、シロマが書いてくれた本で学んだもの。
あながち、間違っていないな。
「正直、このバリアがどの程度の効果はわからないけど、無いよりあった方がいいだろ? だから保険ってわけだ。よし! じゃあ行くぜ、カリー!」
「オッシャ! いっちょ派手に暴れてやるか! 相棒!」
俺達は颯爽と船を飛び降りると、海に着地すると同時に、目標の魔物の群れまで駆けていく。
船が停まった事で、敵の位置は大分先であったが、俺達の速度ならあっという間だ。
「見えてきたぞ、カリー。背びれしか見えねぇけど、ありゃ確かにやばそうだな。デカすぎだろ。」
目の前に見えてきたのは、まるで一隻の船のようだった。
しかも船に見えたのは魔物の体の一部、そう背びれのみである。
それだけでも、目の前の魔物がどれだけ大きいのか想像ができた。
イモコは30メートルって言ってたけど、ありゃ違うな。
その倍はあるぞ。
「あぁ、下手したらリヴァイアサンクラスかもしれねぇな。とりあえず、あいつは俺が引き付ける。その間にサクセスは周りの雑魚共を片っ端から倒してくれ。」
「……任せて平気か?」
「あぁん? 俺を誰だと思ってんだよ? お前の相棒だぞ?」
「ははっ! そうだったな。愚問だよな。んじゃ、デカブツの引き付けは任せた。できるなら、その周りの雑魚も少しは捌いてくれ(さばいてくれ)よ。」
「無茶言うぜ! ったくよぉ! 安心しろよ、半分は俺がやってやんよ。」
「おいおい、それじゃ俺の出番が減るだろ? まぁいい、行くぞ! カリー!」
そして俺達は二手に分かれて駆け出した。
カリーはギガロドン。
俺は、その左から進んで、後方に回る。
集まってきているモンスターは、ほとんどがギガロドンの後ろにいた。
といっても、視認できたわけではない。
カリーの熱探知による事前情報だ。
カリーは一直線にギガロドンに向かって行く。
「燃やしつくせ! 獄炎剣!」
そう言うと、カリーは炎に包まれた一本の巨大な剣を取り出し、空中にジャンプした。
ズバァァン!
ゴオォォォォォォ!
カリーの一撃が海上に露わになっている背びれを攻撃すると、その付近一帯が業火に包まれる。
「グオワァァァォォォン!」
バシャァァァァン!
すると、ダメージを食らったギガロドンは、その体の半分を海上にさらけ出し、咆哮をあげる。
「まじかよ! やっぱこいつ、つえぇぇわ。」
カリーは、姿を見せたギガロドンを見て叫んだ。
どうやら、さっきの一撃でもあまりダメージは通ってないらしい。
見ると、背びれの一部に切れ込みが入っただけで、胴体までは斬れていなかった。
だが、炎属性効果が効いていたようで、大分痛みは与えたらしい。
敵は、完全にカリーを標的にした。
「カリー! 大丈夫か? 代わるか?」
「馬鹿言え! こっからが俺の本領発揮だ! これでも逃げるのは得意なんだぜ!」
そういうと、カリーは俺と逆方に走り始める。
他の魔物と引き離すつもりのようだ。
そして案の定、怒り狂ったギガロドンが凄い勢いでカリーを追いかけ始める。
流石は【囮(おとり)の国の王子】
ーーつまりは、作戦通りである。
巨大な魔物が消えた事により、その後方にいたギガントマーマン達が見えるようになった。
敵も様子を見る為か、海面に顔を出して、こちらの様子を窺っている。
さてどうしたものか。
見えない敵は打ち漏らす可能性があるしな。
まぁでも、想定済みだ!
今の俺の引き出しは豊富だぜ!
バシャーン!
すると、俺の後ろから、一匹のグレートマーマンが海から飛び上がり、手に持っている槍を突き刺そうとした。
スパンッ!
俺はそれを鮮やかに躱すと同時に、返す刀で敵の胴体を真っ二つにした。
「気が早えぇ奴がいるもんだ。 おい、てめぇら! 石になりたい奴からかかってきな! まぁ、かかってこなくても、お前らは全部消滅させるがな!」
「ギョエェェーー!!」
俺が一匹グレートマーマンを倒した事で、他の敵も怒り始めた。
そして次々と俺に襲い掛かってくる。
ーーだが。
「見せてやるぜ、新奥義! 【ライトスラッシュ】乱れうちだ!」
【ライトスラッシュ】
【ライトスラッシュ】
【ライトスラッシュ】
スバンッ! ズバンッ! ズバンッ!
海が縦に横に割れていく。
光の斬撃は、縦横無尽に海を破壊し尽くす。
これには、海に隠れていた魔物達もびっくりだ。
海の中にいたはずなのに、気付けば自分の周りに水はない。
まぁ、それに気づいた時には、自分の体も真っ二つになっているんだけどね。
このライトスラッシュというスキルは、非常にコスパの良いスキルだった。
多分、初級魔法と同じレベルのスキルなのだろう。
しかし……だ。
それを放つ俺のステータスが桁違い過ぎて、本来小さな光の斬撃であるはずが、海を真っ二つに割るほどの特大の斬撃に変わっている。
それを乱れうちする俺。
それがどういう事を意味するかは、目の前の状況をいれば一目瞭然だ。
そう、まるで天変地異である。
グレートマーマンが何百匹いようが、バラバラクーダが千匹いようがお構いなし。
全て、その姿を白日の下にさらすと同時に、魔石へとその姿を変える。
数秒の後には、海の切れ間になだれ込んだ海水が元の海に戻していった。
すると、海面の下に落ちた魔石が、朝日を反射してキラキラしている。
「あれ? やばいぞ……終わっちまった……終わっちまったよ!! うわーー! やっちまった! まだ使いたい魔法があったのに!! クソっ!」
静まり返った海の上で、頭を抱えて叫ぶ俺。
せっかく修行の成果を存分に試そうと思っていたのに、思いの他、自分が強すぎて一瞬で殲滅してしまったのだ。
「あぁ~。でも10の内、1の力で倒せれば100点ってカリーも言ってたしな。如何なる時も、常に全力で臨み、その結果、その力を多く残して勝てば100点。全てを使いきって勝てば99点。うん、名言だな。流石カリー。」
俺は、海上で独り言を呟きながらも、周りに目を凝らす。
しかし、どう見ても既に魔物達の存在を感じられない。
よし、んじゃカリーの援護に行くかな。
もしかしたら、既に倒していたりして。
そんな予感を感じながらも、俺はカリーが引き付けていった方角に向けて走りだすのであった。
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