第15話 朝から……

「ふぁぁ~あ! うーん、よく寝た!」



 俺は久しぶりに野営で安心して熟睡したからか、凄く体調がよく、大きく伸びをしながら、でっかい欠伸をする。

 すると、馬車の外からカリーの声が。



「起きたか? 朝飯が出来てるからよかったら食ってくれ。まぁ簡単なものだがな。」


「あ! すまん! 見張りの事、すっかり忘れていた!」



 俺は馬車の外にいるであろうカリーに謝罪する。

 本当は早起きして、カリーと見張りを交代するつもりであったが、どうやら完全に寝坊したらしい。

 カリーは馬車の近くで見張りをしていたようで、俺の欠伸で起きたのに気付いたみたいだ。

 

 

 ん?

 そういえば、今、朝飯っていってなかったか? 

 まじで?



「いや、見張りは俺がやるっていったんだから気にしないでいい。それより、お腹は空いていないのか?」


「うん、空いてるな。なんだか、仲間になった初日から色々申し訳ない。」



 再度、俺は謝罪する。

 向こうから仲間にしてくれと言ってきたとはいえ、初日から一人で徹夜させるとか、マジ申し訳ない。

 だがカリーは、そんなこと全然気にしていないようだ。

 自分がやって当然といった顔をしている。



「朝飯は、普通見張りが作るものだろ? といっても、俺は簡単な物しか作れねぇから、期待はしないでくれ。パンと保存肉を煮込んだスープだけだ。」



 馬車から降りると、焚火の横で鍋がグツグツいっている。

 簡単とは言っているが、凄くいい匂いだ。

 多分、スパイスや調味料等を上手く使っているのだろう。



 くそ、このイケメンめ。

 料理までできるとは……ぐぬぬぬ。



「どうした? そんな顔して。食いたくないなら無理しないでいいぞ?」



「いやいや、予想以上に美味そうな匂いがしたから驚いていただけさ。ありがたく食べさせてもらおう!」



 ゲロォン!(いい匂い! ご飯!)



「お、ゲロゲロ? だったか? お前の分もちゃんとあるぞ。ほれ、食え!」



 ゲロン!(わーい!! お前良い奴!)



 カリーは、皿に盛られたゲロゲロ用のご飯を差し出すと、ゲロゲロは、それを勢いよく食べ始めた。



 ゲロオオ!(うまい!)



「あ、ありがとうな。ゲロゲロの分まで用意してくれたのか。じゃあ俺も頂くかな……うまっ! なにこれ? 普通にめちゃうまいんだけど?」



 俺が啜ったスープは、肉と野菜の旨味が凝縮されており、そこに少しピリッとくる香辛料が、とても食欲をそそる。

 普通に店で食べる飯……いや、それ以上に旨いぞ。

 コイツ……料理の天才か!?



「そうか? 姉さんが料理得意で、よく手伝わされていたからな。でも、姉さん程うまくは作れねぇよ。」


「いや、普通に十分だろ? カリーはイケメンだし、料理もできるんじゃ、モテてしょうがないだろ?」


「ば、バカ。女になんか興味ねぇよ。つうか、女に構っている余裕なんか俺にはねぇ。」



 普通に考えたら、こんな男を女性がほっとくはずがない。

 どうせ、前の世界ではリア充だったんだろう。

 とぼけているみたいだが、仲間か敵かだけは確認させてもらうぞ!



「ふぅ~ん。んじゃさ、一個聞いてもいい?」


「ん? なんだよ、その顔は。気持ち悪いな、変な笑み浮かべてんじゃねぇよ。」



 おっと、どうやら俺は気持ち悪い顔をしていたらしい……って余計なお世話じゃ!



「あの……さ。」


「ん? なんだよ? 何か気になる事があるなら、ハッキリ聞いてくれ。」



 ふむ、言質はとったぞ。

 んじゃ聞くからな!!

 お前が敵ならば……色々教えてもらおう!



「カリーって童貞?」



 …………。



「ブッ! お、お、お前、いきなり何聞いてきやがんだよ。」



 おおん?

 なんだか随分ウブな反応だな。

 めちゃ動揺してんじゃん。

 これは、仲間くさいな。

 うし、「ガンガンいこうぜ」



「男同士なんだし、腹を割って話そうじゃないか! でどうなんだ? 童貞か? それとも……。」


「はぁ? なんでそんなくだらない事を話さないといけねぇんだよ。知らねぇよ、んなもん。」


「ぷぷぷ……その反応。さては、カリー! イケメンのくせに童貞だな!」



 バァーーン!!



 俺はドヤ顔でカリーを指差して言った。



「はぁ……。あぁ、そうだよ。童貞で悪いか? 俺は女の手も握った事がねぇ男だよ。なぁ、これでいいか?」



 カリーは少しいじけている。

 どうやら、カリーにとっても童貞という爆弾はきついようだ。


 

 わかる……わかるぞ! 

 カリー! いや 同志よ!



「って、今度はなんでキラキラした目で俺を見るんだよ。意味わかんねぇから。まぁ、お前には俺の気持ちなんかわからないだろうな。」



 どうやら、カリーは俺が童貞ではないと思っているらしい。

 ここは、やはり童貞筆頭として、慰めてやるのが先輩の務めってやつだな。



 俺はカリーの両手を強く握る。



「わかる! わかるぞカリー! だって、俺も童貞だからな! それどころか、呪いが掛かってて、大魔王を倒すまで一生童貞なんだぞ! だからお前の気持ち……痛い程わかるよ! 安心してくれ、俺は仲間だ!」



「うおぉ! いきなり手を掴んで何いってんだよ! 普通に気持ち悪いからやめてくれ! というより、俺はそんなの気にしてねぇっつうの。つか、お前は姉さんと……って、そうか。お前はフェイルじゃないもんな。でも、彼女が沢山いるとか言ってたじゃねぇか。」



「まぁまぁ。そんな虚勢張らないでもいいじゃん、仲間なんだから。あぁ、彼女と言ってもキスだけだ。あと、ちょっとおっぱいもんだ……。」



「はぁ? なんでそれで童貞なんだよ? マジで意味わかんねぇから。つうか、なんでこんな話になってんの? こういうのは普通、夜に話すもんじゃね? それにお前、まだ起きたばっかじゃねぇか。どういう神経してんだよ。ったく。」



 カリーは呆れた顔をして、そのまま馬車の中に入ろうとする。



「あれ? 寝るのか?」


「あぁ、お前と変な話をしたせいで、急に眠気がきたわ。少し寝るから、適当に馬車を走らせててくれ。」



 カリーは馬車に入る直前に、振り返りながら淡泊に告げた。

 少し機嫌が悪くなっている。


 

 あちゃーー。

 ちょっとスキンシップが過ぎたか。



「わかった。悪かったな、朝っぱらから変な話して。じゃあ、飯を食い終わったら出発するから、ゆっくり休んでてくれ。」


 

 俺がそう言うと、カリーは振り向くことなく、軽く手をあげて、そのまま中に入っていった。

 とりあえず俺は、飯を食べ終えると食器等をかたずけ、馬車の御者台に座る。



「よし、んじゃ出発だ!」


 げろぉ!(おぉーー!)



 こうして俺は、今日より、カリーとゲロゲロを仲間に加え、山を越えた先にある港町【ルーズベルト】を目指して、出発するのであった。

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