第14話 クールイケメン

 その夜、俺はカリーに対して、俺の生い立ちや、冒険者になってからの事を、最初から最後までゆっくりと説明していった。

 

 その間カリーは、俺の話を遮ることなく、ただ考え込むようにしてじっと聞いている。

 時折、目を瞑って考え込んだり、頭を縦にふって「ふんふん。」している事から、ちゃんと話を聞いてくれているようだ。

 

 そして最後に俺の今の状況ーー幼馴染を救い、大魔王を倒すためにオーブを求めて旅をしている事について話し終えたところで、初めてカリーは口を開く。



「なるほどな。わかった、つまりお前は、フェイルの生まれ変わりか、もしかしたらこの世界は、俺の世界の平行世界で、この世界のフェイルがサクセスという事だな。」



 は?

 もしかして、こいつ……俺の話全く聞いてなかった?

 そんな話は一切していないんだけど……。



「いやいや、何その難しい話? よく理解できないんだが、俺の話聞いてた?」



「あぁ、もちろん全部聞いてたさ。よしわかった。じゃあこれから俺は、お前の事をサクセスと呼ぶ。それと俺を、お前の旅に連れてってくれねぇか? この世界の事を知った今、俺にもできることがあるはずだ。その延長線上に、多分、俺の求める未来もある気がするんだ。」



 カリーは、真剣な目をして俺は見つめて話す。

 なんとなく、イケメンに見つめられるのに照れた俺は、さっきから俺の膝の上で丸くなっているゲロゲロを撫でながら、目を反らした。


 その様子に、カリーは断られると思ったのか、焦った様子で更に詰め寄ってくる。



「なんだ? ダメなのか? 頼む! 自分でいうのもなんだが、これでも俺は、それなりに腕がたつ。一緒にいて損はないはずだ。それに一人より二人の方が安全だろ? なぁ、頼むよ。俺はお前と一緒にいたいんだ!」



 更に興奮した様子で、まるで告白するが如く攻めてくる青髪のイケメン。

 傍から見たら、完全にBLラブシーンだ。

 だがしかし、俺にそんな趣味はない。



「いや、ちょ、ちょっと近いって。わかった、じゃあ仲間になってくれ。俺としても仲間はいた方が助かる。けど、勘違いしないでくれ。俺は一人じゃない。ゲロゲロがいるからな。」



 俺の声に反応したのか、ゲロゲロは目を瞑ったまま、腕を大きく伸ばして、伸びをしている……が、その後、またすぐ眠ってしまった。



 うん、相変わらず可愛い。

 癒される。



 そんなゲロゲロの様子を見て、ほっこりし始める俺。


 さっきまでの、黒いハートが浮かんでいそうな雰囲気を、癒しの風が打ち消してくれる。


 しかし、カリーは俺とは違い、少し訝し気な目でゲロゲロを見つめて言った。



「あぁ、その魔物か。その姿だとただの可愛いペットだが、俺はさっきの凶悪な姿を見ているからな。確かに戦闘力としては申し分なさそうだな。」



 なぜか俺はカリーのそのセリフに、キレてしまった。


 理由はわかる。


 俺の家族が、ただの使い捨てのアイテムみたいに見られた感じがしたからだ。

 


「おい、てめぇ? 勘違いするなよ? ゲロゲロを魔物と呼ぶのは許さねぇぞ。確かに俺は、ゲロゲロの戦闘力を期待していないと言えば嘘になる。だけどな……そんな事でゲロゲロと一緒にいるわけじゃねぇ。こいつは俺の仲間……いや、家族も同然だ。もしも、お前がゲロゲロをただの仲間モンスターとしか認識できないならば、俺はお前とは一緒にいられない。ここでお別れだ。」



 俺は声を低くして、カリーを睨みつけながら言った。

 確かに人間の仲間はいてくれた方がいい。

 だが、何かあった時、ゲロゲロをただの魔物……使い捨ての駒の様に認識されて動かれたら、俺は決して許せないだろう。


 だから、あえて強く言った。



 俺の突然の豹変ぶりに、カリーはかなり戸惑っている。

 というよりは、威圧しすぎたのか、少しビクついていた。



「あ、あぁ……わかってる。大丈夫だ、そんなに睨まなくても、身代わりや使い捨てるような真似は絶対しねぇ。約束する。しかし、なんつうか、本当に怒った時の様子もフェイルにそっくりだな。普段、滅多に怒らねぇくせに、キレるとそうやって静かに刺すような怒りをぶつけてくるところとかな。不思議なもんだぜ。だが、わかった、はっきり謝罪するよ。俺の言葉が悪かった、気を悪くさせてしまってすまない。」



 どうやら、カリーもわかってくれたようだ。

 やはり、こいつは悪い奴ではない。

 こうやって、直ぐに自分の過ちを素直に認めて、謝罪できる奴に悪い奴がいない事を俺は知っている。


 まぁ、カリーの立場というよりかは、普通の人であればみんな同じ反応だろう。

 カリーは、ゲロゲロと初めて会ったわけで、ゲロゲロがどんな性格でどうやって俺達と過ごしてきたかも当然知る訳もない。


 であれば、魔物よりも人を優先するのは当然だ。

 だからこれ以上は言わない。


 きっと、一緒に旅をしていれば、カリーもゲロゲロを好きになってくれる気はする。

 ただ、そうはいってもこればっかりは、まだわからないけどな。



 でも、俺は信じる。

 なんとなくだが、カリーは信頼できると俺の勘が言っているからだ。



「わかってくれたならいいんだ。それと、平行世界とか生まれ変わりとか色々考えているみたいだけどさ、とりあえず難しい事を考えるより、今、目の前にある現実を考えてくれないか? カリーの今やるべき目的は何なんだ? それを教えてくれ。、」



「ふ、本当にそっくりだよ。まるでフェイルに説教されているみたいだ。あぁ、そうだな。とりあえず今の俺の第一目的は、この世界に俺の姉や仲間が来ているかを確認すること。次に、サクセスと一緒にこの世界を救うことだ。」



「おいおい、普通、世界を救うのが一番じゃないのかよ。」



「いや、それはこの世界の住人……お前たちの役目だ。別世界の俺がでしゃばることではない……が、乗り掛かった舟だから、一応それを目的にいれただけさ。フェイル……いやサクセスだって大切な家族や仲間と離れ離れになったら、第一優先はそっちになるだろ?」



「確かに! 言われてみれば当然か。そっか、なんとなくだけど、カリーとは話が合う気がするよ。よし、じゃあ正式に俺の仲間になってくれ、カリー。俺に力を貸して欲しい。」



 俺がそう言うと、カリーはやっと俺の仲間には入れた事に喜んで、笑顔になった。



「そうか! サンキュウな! サクセス。俺の方こそ、よろしく頼む。」



 そういえば、カリーの笑顔を見るのは初めてだ。

 クールなイケメンって雰囲気だったけど、笑うとどこか幼さがにじみ出ている。


 俺が女だったら、きっとこの笑顔にやられるだろう……って、は!?



 もしも、イーゼ達が帰ってきたら、俺はこのイケメンにハーレム系主人公の座を奪われるのではないか?



 これはまずい、まずいぞ……。

 早まったか!? 俺!


 俺が突然、そんな事を危惧し始めて焦りだすと、カリーは何を勘違いしたのか、俺に言ってきた。



「あぁ、見張りなら気にしないでくれ。俺がやるから。サクセスは先に休んでていいぞ。」



「お、おお? あ、うん。いや、交代制にしないか? 流石に一人に見張りを任せるほど、俺は……。」



 くそ、こいつ何を勘違いしているんだ。

 つうか、そういう優しさを絶対、俺のハーレム軍団に見せるんじゃねぇぞ!!



 と心の中でつっ込みつつも、カリーの気の使い方に少し関心する俺。



「いや、少なくとも今日は俺に任せて欲しい。ちょっと一人で考えたいことがあるんでな。もしも目が覚めちまったら交代してくれればいいさ。っといっても、聖水はべらぼうに撒いてたし、元々ドラゴンが住む穴に、他のモンスターが来るとも思えないが……いや、あいつだけは別か……。」



 あいつというのは、さっき言ってた別世界の大魔王ディアブロの事だろうか。

 あまりこの話には踏み込まない方がよさそうだな。

 誰だって触れられたくない話はある。



「わかった。じゃあお言葉に甘えて先に休ませてもらうかな。もし俺が起きなかったら、起こしてくれていいから。」


「あぁ、俺がどうしても眠くなったら起こすよ。といっても、馬車で旅をするんだ、俺に御者はできないから、移動中に俺は寝れる。だから、サクセスは気にせず休んでくれ。」



 なるほど。

 ふむ、カリーは頭も悪くないようだ。



 頭がよく、強くて、クールイケメンで、さりげない優しさ……。


 

 あれぇ~?

 俺、男として劣等感を感じるんですが?

 ま、まぁ、今は気にしないでおこう!



「そ、そうだな、御者は任せてくれ。んじゃ、寝るわ。おやすみ。」



 そして俺は、見張りをカリーに任せると、馬車の中のベッドでゲロゲロを抱きながら眠る。

 今まで一人旅であったから、馬車で寝ていても、神経が高ぶってしまい、ゆっくり休めなかった。

 しかし、今日に関してはぐっすり眠れそうである。

 ゲロゲロを久々に抱きしめて寝ているのもあるのか、凄く安心するんだ。


 それに、やはり仲間は良い。

 カリーはかなり強いし、安心して任せられる。

 背中を預けられる仲間……か。

 


 みんな元気かな……?

 浮気しないでね……。



 こうして、俺は結局朝まで起こされることなく、深い眠りにつくのであった。

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