第50話 アルティメットジャックポット

「落ちました!! これで最後です!」



 突然シロマが声を上げる。


 見ると、手前の穴に金色のボールがメダルに押し出されて落ちていた。


 すると、台の右にあるルーレットに金の球が落ち、クルクルと回り始める。



「大丈夫です! 外れは全て塞ぎました! そのまま行って下さい!!」



 シロマは無意識に心の声が外に出ているっぽい。


 確かにシロマが言うように、台の右にある8個の穴の内、ジャックポットチャレンジと書かれた穴以外は全て塞がっている。


 どういう仕様かはわからないが、多分時間とメダルを賭けてこの状態に持っていったのだろう。


 そしてよく見ると、シロマのパサロカウンターはゼロになっており、メダルの受け皿にもメダルはない。


 つまりは使えるパサロは全て使い切り、さっきのマシンガン発射で使えるメダルも全て放出したということ。


 正に背水の陣。


 そしてようやく右のルーレットを回っていた金のボールがジャックポットチャレンジの穴に入ると、周囲が突然暗くなり、中央の巨大なギミックがシロマの台の方へとゴゴゴと移動してきた。


 さっきまで騒がしかった観衆も息を飲み、それを静かに見守る。


 そんな中、巨大なルーレットギミックがシロマの台の前に止まると、さっきの金のボールの10倍以上大きな球が発車され、グルングルンと振り子のように転がり始めた。



「お願いします! お願いします! お願いします!」



 シロマは台から立ち上がって前のめりになりながら、狂気を孕んだ目付きで転がり続けるボールを見つめ、祈りを捧げている。



 よくわからないけど、今のこの状況は相当なチャンスらしい。


 多分だが、あのアルティメットジャックポットという穴にボールが入れば、巨大な画面に書いてある18000枚のロザーナが落ちてくるということだろう。


 俺の42000枚超程ではないが、18000枚は相当やばい。


 これが無事入れば、問題なく5万ロザーナ達成である。


 そう考えると、俺も何だかドキドキしてきた。



「頑張れ!! 頑張れシロマ! 入れ! 入れ!」



 俺がそう口に出して応援をすると、静かに見守っていた観衆達も一緒になって入れコールをし始める。



「は・い・れ! は・い・れ!!」



 今全員の気持ちが一つになった。


 そしてその想いが届いたのか、速度が緩やかになったボールはUJP(アルティメットジャックポット)の穴の前をゆったりとぐるぐる往復し始める。


 そして速度がほとんどなくなったボールはそのまま、UJPの穴に吸い込まれる……直前でスルッと抜け出し、隣の髑髏マークの穴に入ってしまった。



「は・い・れ! は・い・れ! は・い……あっ……あぁぁぁぁ!」



 周囲のコールが悲痛な叫び声に変わる。


 そしてシロマもまた……



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! なんでですか! こんなの詐欺です! 罠です! ズルです!」



 と叫びながら発狂した。


 そんなシロマを見てか、周りに集まっていた者達もサァっとその場から避難する。


 残されたのは台を悔しそうに叩きながら大粒の涙を流して発狂しているシロマと、そんな彼女にどう声を掛けていいのかわからずに立ち尽くしている俺とイーゼだけ。


 いや、まじでこの状況どうすんべか。


 さっきまで発狂して暴れ回っていたシロマも、今では完全に魂が抜け落ちたように茫然と立ち尽くしている。


 声を掛けるべきか……それともほとぼりが冷めるまで放置するべきか……そんな事を悩んでいるとイーゼが耳打ちしてきた。



「サクセス様。チャンスですわ」


「チャンス?」



 イーゼがまた訳の分からないことを口にしている。


 チャンスってどこがチャンスなんだよ。



「はい、今なら悪戯し放題ですわよ」


「何っ!?」



 何と言う事を口にするんだ。


 完全に悪魔のささやきではないか。


 あれほど茫然自失している幼気(いたいけ)な少女に悪戯をしろと?


 そそるじゃないか!! って、できるかい!! 鬼か!



「あのさ、見てわかるとおりさ、そんな雰囲気じゃないでしょ?」


「いえ、サクセス様。それは違います。彼女は罰を受けるべきですわ」



 罰? イーゼは何を言い出してんだ?



「なんでそうなんのよ?」


「シロマさんが渡したお金を全て失くすことはこれで二回目。パサロだってタダではありませんのよ。みなさんの冒険資金から来ている訳で、決してこれは軽いものではないのですわ」


「うーん、イーゼが言わんとすることも理解できるけどさ、今回に限ってはロザーナを獲得する為に無くなってもいいからやってもらっていた訳で……」


「甘いですわ、サクセス様。そうだとしても、二度失ったのは事実。彼女もまた、下手に慰められるよりかは潔く罰を受けた方が気持ちが楽になりますわ。ささ、とりあえずこうやって……」



 そう理路整然と話すや、イーゼは俺の手を取ってシロマのお尻に触れさせようとする。



「ちょっ、ちょ、待って。やめろって」



 そう口にしながらも、俺はイーゼの手を振り払おうとしない。

 

 正直俺とイーゼの力関係を考えれば、本気で拒否するならば余裕でそれを振り払うこともできた。


 しかし現在進行形で俺の理性と欲望が脳内で争っているが故に、どうするか決めることもできず、そのまま流れに身を任せてしまったのである。



  イーゼは俺の手をイヤらしく動かし、柔らかいお尻を円を描くようにサワサワと触らせた。



 こ、これは罰だっぺ! お、俺は悪くないっぺよ!!



 必死に心の中で弁解をしながらも、そのままイーゼに体を任せる俺。


 気が付けば、いつの間にか欲望君に理性さんは倒されていた。



「その調子です、サクセス様! 次はこっちですわ!」



 ノリノリに悪戯を仕掛けるイーゼ。


 俺の手が次に導かれたのは、そう、オムネ様だ。


 シロマの後ろから俺が覆いかぶさるようにくっつき、その俺の後ろではイーゼが俺に覆いかぶさる。


 なんとも不思議な光景ではあるが、イーゼは俺の両手を掴んで、シロマを抱擁するように抱きしめさせた。


 つまり今俺は、シロマとイーゼにサンドイッチされている。


 後ろからは執拗に胸を俺の背中に押し付けるイーゼ。


 前には俺の手がシロマの薄く柔らかい何かをムニムニしている。


 なんだこの展開。



 あれ? そういえば俺はこういうことはしないって誓ってなかったっけ?



 しばらく快楽に身を埋めながらも、ようやく冷静になってきた俺。



 俺は一体何をしているんだ!?



「もう……好きにしてください。全部私が悪いんです」



 するとさっきまで微動だにしなかったシロマが泣きそうな声で呟く。


 その声を聞いた瞬間、頭から血がサァーっと引いていき、咄嗟にシロマから離れた。



「ごめんシロマ!! 悪気はなかったんだ!」



 即座に謝罪する俺。


 しかしシロマは……



「いいんです。ここで優しくされても私はまた同じ事を繰り返します。だから……好きにしてください。」



 完全に自暴自棄になってしまったシロマ。


 やっぱり逆効果だったじゃないか!!


 そう思い、イーゼに目を向けると……



「そうですわ! シロマさんだけ大損ですわよ! この責任どうとって下さるのかしら?」



 なんとイーゼは傷心のシロマを更に追いつめる。



「ですから好きにしていいと言ってます」


「わかりましたわ。ではペナルティとして、私に課したペナルティを今度はシロマさんが受ける番でよろしいですわね?」



 イーゼに課したペナルティ?


 ん? 何かよくわからないけど、これはイーゼの悪意を感じるぞ。


 そしてイーゼの追い打ちに対して「わかりました」と口にしたシロマだが、そこで俺は待ったをかける。



「イーゼ、お前のやらかした事とシロマのやった事はつり合いが取れてない。少なくとも、シロマは勝手にお金を使い込んだわけでもないし、今回負けたことは何の罪にも当たらない」


「サクセスさん、いいんです。私が悪いんです」


「いいや、悪くない。いや……まぁシロマが自分で悪いと思うなら悪いでもいい。だけどこのパーティのリーダーは俺だ。ペナルティはイーゼではなく俺が決めるもの」


「ですがサクセス様!」


「イーゼは黙ってくれ。お前はこの機に乗じて自分に都合の良いようにしているだろ? もしそうならそれは仲間ではない。どうだ? お前は俺の仲間か?」



 俺が強くそう口にすると、イーゼはシュンとした顔で返答する。



「はい、その通りでございます。私はサクセス様の仲間です」


「わかった。じゃあこれに口出しはさせない。シロマへの罰は、この国でのギャンブルは禁止。これでいいだろ」



 俺がシロマに対して罰を告げると、シロマは俯きながらも首を縦に振った。



「はい、わかりました。でも最後に一つだけいいですか?」


「なんだ?」


「無防備な私にエッチな事をしたサクセスさんの罰は誰が決めるんですか?」



「ギクゥゥっ!」



 気付いていたの!?


 上手く誤魔化せたと思っていたのに……



「ふふふ、嘘です。ありがとうございます。元気がでました。それとイーゼさん、今後はそういう卑怯な事はやめて下さいね」



 突如として逆襲されかけた俺だが、シロマは全然怒っている様子を見せないどころか、スッキリした顔をしている。


 どうやら形はどうあれ、イーゼの慰め方は正しかったのかもしれない。


 普通に慰めてたらシロマはもっと沈んでいただろう。


 もしもそこまで考えての行動なら……って流石にないよな。


 そう思ってイーゼを見ると、ニッコリと微笑みかけてくる。


 まさかとは思うけど……まじでこの展開予想していたのか?


 真実はわからないが、シロマも無事立ち直ったことだし良しとしよう。


 後はリーチュンだけだけど、なんとか5万ロザーナを達成したいな。




 


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