第51話 記念メダル

 カリーがパチンコの精算を終えて合流したことで、あと残すところは地下一階でスターバーニィ4をやっているリーチュンだけだ。


 ちなみにカリーの戦果についてだが、結果が記載された紙には


  

 20018発 

 換金額 4000ロザーナ 

 端数18発



と書いてある。


 俺がやった最高レートのパチスロは等価の二倍であるため


  1枚 2ロザーナ


であるのに対し、パチンコは


  地下4階  100玉  40ロザーナ

  地下3階  100玉  20ロザーナ

  地下2階  100玉  10ロザーナ

  地下1階  100玉   5ロザーナ


となっているらしく、20000発オーバーの割には思ったよりロザーナは増えなかった。


 ただ、換金はできないが1万パサロで5百ロザーナであることを考えれば、4千ロザーナは8万パサロ分な訳で、2万パサロしか使っていないカリーは普通なら大勝ちと言ってもいい。


 それだけロザーナの価値が高いということだ。


 なんにせよこれで俺達が保有するロザーナは


   俺    42380枚

   シロマ      0枚

   カリー   4000枚


であり、合計で


   46380枚


 つまり後リーチュンが3620枚以上稼いでくれば目標達成である。


 一応店員さんに仲間同士のロザーナ共有は可能か確認したのだが、基本はロザーナ共有及び翌日への持ち越しはできないそうだが、一枚のVIPカードに登録されているメンバー同士のロザーナは共有可能との回答であった。


 リーチュンがやっているスターバーニィ4がどの程度の換金率かは不明だが、4000枚弱なら可能性は見えてくる。


 そんな期待を胸に俺達はリーチュンの様子を見に行くことにした。



「さて、後は地下一階にいるリーチュンだけだな」


「もういるよ~!」


「え? いつのまに!」


「えっへへー」



 なんと地下3階から階段を降りようとしたところで、いつの間にリーチュンが俺の隣にいる。


 余程スターバーニィ4が楽しかったのか、もしくは大勝ちでもしたのか、その顔はニコニコしており上機嫌だ。



 これは期待が持てるな。



「随分機嫌が良さそうじゃん。何枚換金してきたの?」


「えっとねーー」


「うんうん」


「0枚!!」


「おぉそんなに勝った……えっ? 今何て言った?」



 あれ? おかしいな。

 

 耳がおかしくなったかな?


 そう言えばここはパチンコやらパチスロが滅茶苦茶うるさいからな。


 きっと気のせいだろう。



 そう思い込もうとした俺だが、再びリーチュンは……



「0枚だよ! パサロも全部使い切ったからみんなを探しにきたの! もうめっちゃバーニィ可愛くて、アタイ、キュン死しそうだったよ! ビリでも必死に最後まで走るピョン吉に涙がでちゃった!」



 そう興奮気味に話を続けるリーチュン。


 まじでリーチュンはパサロを全部スッた上に、ロザーナへの換金はゼロらしい。



「あ、ああ……そうなんだ。いや楽しんだみたいでよかったね」


「うん! またやりたい! でもアタイ育成とか難しくてうまくいかないんだよねー。走り込みばかりさせてたら、レースでは最初からバテちゃってさぁ」


「う、うん。そうか」



 楽しそうに話し続けるリーチュンだが、ふとシロマを見るとリーチュンの話を嬉しそうに聞いている。



「その話、あとでもっとゆっくり聞かせて下さい。同士よ!」


「うんうん、オッケー。シロマの話も聞かせてね!」


「わかりました。負け犬同士、後でお互い傷をなめ合いましょう」



 シロマはそんなことを口にするも、リーチュンは「負け犬?」と言いながら首を傾げて理解しておらず、二人の会話はチグハグだがシロマは嬉しそうだ。



 まぁそんなことよりも残りのロザーナをどうするかが問題であるが、店員さんに聞いたところ、秘密クラブは後一時間ちょいで閉店らしい。


 ロザーナと許可証の交換の時間も考えると、実際には一時間を切っている。


 今手元にあるパサロは俺の二万とカリーの八万で合計十万パサロ。


 いや待てよ、イーゼは今回やってないから二十万パサロかな?


 それだけあれば残り一時間でも地下4階で稼げる可能性はある。



「イーゼ、イーゼの持ってるパサロを渡してもらえるか?」



 早速イーゼから十万パサロをもらおうとした俺だが……



「申し訳ございません。時間が無かった故に街で換金できたパサロは40万しかなかったのですわ。そのため、わたくしは1パサロも持っていないのです」



 なんとイーゼはやらなかったのではなくて、できなかったのか。


 それは申し訳ないことをしてしまった。



「そんな顔をしないで下さい。わたくしは十分満喫しましたわ。そしてお力になれず申し訳ございません」


「いやいや、イーゼが謝ることなんてないよ。色々イーゼに任せっきりな俺が悪いんだ」


「そのようなことはありませんわ。サクセス様の為にすることはわたくしの喜び。お気になさらないで下さい」



 本当にイーゼは俺にはもったいないほどよくできた女だ。


 まぁ色々残念なところもあるけど……



 するとその会話を聞いていたカリーは



「ほら、時間がないんだろ? お前ならこれだけあれば稼げるだろ」



と言って、俺に八万パサロを渡してきた。



「正直残り時間を考えたら自信はないけどやってみるよ。だめなら明日また挑戦すればいいし」



 俺はそう答えながらも、再び地下4階へと階段を降り始めると、タタタタッという足音を立てながら一人のバニーエルフが階段を上ってくる。



ーーそして



「はぁはぁはぁ……良かった。まだ帰っておられなかったのですね」



と息を切らせながら俺の前まで来て声を掛けてきた。



「あ、はい。あれ? 俺、何か忘れ物でもしてました?」


「いえ、そうではございません。実はロザーナを換金をした者がまだ慣れていない新人であったため、こちらに不手際があった事に気付いたのです。申し訳ございませんが、再度換金所に来てもらえないでしょうか?」



 ええええ! まじか……

 不手際ってまさか換金額が多すぎたとかじゃないだろうな?



「あの、その、不手際というのは……」


「申し訳ございません。説明は責任者が換金所で行いますので付いてきていただきたいのです」



 そう言うだけ言って、急ぎ足で来た階段を足早に降り始めるバニーエルフ。


 その後ろから見えるプリンプリンと揺れるお尻も魅力的であるが、よく考えると、あんな姿をしていても女性とは限らない。


 ってそんなことより、俺はまだ行くと言っていないんだけどな。


 仕方ない、間違いがあったなら受け入れるしかないだろう。



「なんだろうな、サクセス?」


「あぁ、随分焦っていたみたいだけど、悪いことじゃなきゃいいが……」



 そして俺達が地下4階の換金所に辿り着くと、そこにはバニーエルフが10人程並んでおり、その中央には……



「お待ちしていたのじゃ。旦那様」


「え? なんで女王様……って旦那様ではありませんが」



 なんと並んでいるバニーエルフの中央には、女王様が立っている。


 バニー姿のエルフが並んでいる中だと、女王様の姿に違和感を感じない。


 そういえばこの人は運営側……なるほど。責任者とは女王様のことか。



「ふふふ、照れるでない。それよりもまずは此方に不手際があった事に謝罪を申す。すまなかった」



 そう言って女王様が頭を下げると、並んでいるエルフ達も一斉にそれに倣って深くお辞儀した。



「いやいや、頭を上げてください。それよりも先ほどから不手際とおっしゃっていますが、一体何のことでしょうか? もしかして多くロザーナをもらってしまいましたか? それならば返納します」



 そう言って潔くロザーナを返納すると伝えた俺だが、



「その必要はないのじゃ。換金額は間違っておらぬ」


「では一体?」


「実はのう、妾が気付くまで誰も気づかなかったのじゃが、パチンコとスロットには特別賞というものがあっての」


「特別賞!?」


「そうじゃ。その台のメダルや玉を出し切った者に贈呈されるものじゃ。ここ数十年そのような事がなかったから知らぬ者がおったようでの、申し訳ない」



 それを聞いた俺は、まずはホッとした。


 ロザーナを返すとは言ったものの、やはりできれば返したくはなかったからである。


 それと同時に何が貰えるのか少し胸が期待してしまう。



「いえ、それよりも特別賞とは?」


「ふむ、持って参れ」



 女王がそう言うと、一人のエルフが小さな宝箱を持ってきて女王に手渡す。



「これじゃ、開けてみるが良い」


「では、失礼します」



 女王に宝箱を持たせたまま開けるのは無礼かとも一瞬頭に過ったが、女王が持ったままの姿勢でいるため、これはこのまま開けろ言う事だと理解する。


 そして女王の小さな両手に収まる程の大きさの宝箱の蓋を開けると、中には通常のロザーナコインの三倍程の大きさのメダルが入っており、その横には見覚えのあるものが入っていた。



「これは……」


「ふむ、記念ロザーナじゃ。非売品の為換金はできぬが、とても貴重な物であることに変わりがない故、大事にするが良い。それとその副品としてあるのは……」


「すごろく回数券ですね。それと、この虹色のカードはまさか……」


「そのまさかじゃ。それがすごろく会場への入場許可証じゃ。なにはともあれ、おめでとうじゃ。まさか初日でこのような結果を出すとは妾も驚きじゃぞ。流石はダーリンじゃ」



 うわぁ……まじか。


 ていうと、今持っている4万ロザーナで許可証を4枚交換すれば……目標達成だ!!


 しかも追加のすごろく回数券もある。


 まじでラッキーだぜ!



「さすがですわ、サクセス様!」

「よくわからないけど、おめっとぉぉ!」

「まさかサクセスの奴、コンプリートしてたのかよ。相変わらず滅茶苦茶だな」

「うらやましいです……」



 みんなが俺の特別賞授与に賛辞の言葉を口にしている。


 一人だけなんか違う感じの仲間もいるが……



「ではこれで目的も達成したじゃろて。持っているロザーナを景品と交換してくるが良い。景品交換所は地下5階じゃ」


「あ、そういえば交換所の場所知らなかった。あれ? でも地下5階はすごろく会場では?」


「その通りじゃ。すごろく会場の扉の前に景品交換所がある。そこで誰もがいつかはすごろく会場に入ってみたいと願うのじゃよ。では行くがよい。珍しい物も多い故、色々見て楽しむのも良いじゃろう」


「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えてこの場を失礼します」



 そう言って俺達は地下五階へと向かう。



 景品所に到着すると、女王が言っていたとおり色々目を引くものが多く揃えられていた。


 そこにあったのは美しい装飾が施された武器や防具、そして雑貨品、更には食材や日用品等も多い。


 日用品や食材が多く揃えられているのは、引きこもりエルフやニートエルフがここでロザーナを稼いで、飯や日用品を買うためだろう。


 そういった理由で八割がたは日曜品で埋め尽くされているが、プチスロット台や魔液晶を使ったゲーム機等珍しい物も多く、見ているだけで楽しくなってしまった。


 気付けばあっという間に閉店時間が迫っており、急いで許可証4枚を交換する。


 それと一緒に1000ロザーナでゲロゲロと母さんへのお土産を交換した俺達は、残った5380枚を平等に分けて、それぞれ欲しい物を交換した。


 平等とは言ったが、俺だけは380ロザーナ多く貰って、みんなは1000ロザーナである。


 端数についてどうするか悩んだところ、全員がそうしろといったのでね。


 丁度俺が欲しかったのが1300ロザーナだったので、それをありがたく受け入れたわけだ。


 そんなこんなであっという間に楽しい時間は過ぎていき、秘密クラブの出入口に戻った俺達であるが、そこにまたしても女王様が待ち構えていた。



「秘密クラブはどうじゃったかのう、ダーリン」


「凄く楽しかったです。時間があるなら毎日通いたいくらいですよ」



 俺は満面の笑みで本心をそう口にすると、女王もそれを見て頬を緩ませる。



「そうじゃろう、そうじゃろう。して、ダーリンにはまだやるべき……いや伝えるべきことがあるので、こちらへ来るが良いぞ」


「はい! わかりました。じゃあみんな先にエルフベーターに乗ってて」



 気持ちが高揚しているのもあり、俺は何も考えずにそう返事をしたのだが……



「なりません! 罠ですわ!」


 

 そう言ってイーゼが俺の腕を引っ張ると、エルフベーターの中に引きずり込まれる。



「え、ちょっと!?」


「待て! 待つのじゃ! おのれ……」



 と女王が捨て台詞を吐いている間にエルフベーターの扉が閉まった。



※  ※  ※



「イーゼ、あれはあんまりじゃないか? 色々お世話になったんだしさ」


「いいえ、甘いですわ。これらすべてが母上の策略に違いありませんわ。あの人の子だからこそ、わたくしにはわかるのです」



 確かにイーゼと女王様は容姿だけでなく、性格というか性癖も似ている。


 凄くしっかりしているのと同時に、大胆過ぎる程のアピール力というか変態力が……



「まぁイーゼがそこまで言うなら。でも明日会ったら謝罪だけはしないとな」


「必要ありませんわ」



 と、イーゼが厳しい口調でそう返すと、



「でも楽しかったねー!」


「はい、とても。ですが私は……」



 とリーチュンが今日の感想を口にして場の雰囲気を明るく戻すが、シロマだけは罰としてこの国のギャンブルを禁止されているので表情が重い。



 だが



「俺もここは気に入ったぜ。また海釣り物語を打ちてぇな。次は絶対プレミアムキャラのシャムを出して大勝ちしてやる」



とカリーが再び楽しそうに話し始めたことでシロマの少し重い雰囲気は流され、俺もまたそれに続く。



「いいね。今度は俺もパチンコを打ってみるかな。その時は勝負っと言いたいけど、やるべき事を忘れちゃいけない。明日からはすごろくだ。どんなものかわからないが、ようやくゴールドオーブが見えてきたな」



 俺がそう口にしたことで、みんなも思い出したように頷く。


 ここが楽しすぎて忘れそうになるのも無理はない。


 そんな中、やはりシロマだけは浮かない表情で俺に尋ねる。



「そうですね。あの、サクセスさん。私は……」


「すごろくはパーティでの参加だからノーカンだ」



 シロマの質問に俺がそう答えると、その表情がパァっと明るくなった。



「はい! ありがとうございます!」


「え? 何? 何のことぉ?」



 何も知らないリーチュンだけはよくわかっていないが。


 なんにせよ、とにかく俺達は最短でここまで進んできた。


 ターニャがどれだけビビアンを抑え続けられるかわからない今、時間は本当に貴重である。


 色々誘惑も多い国だが、それだけは忘れないようにしよう。

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