第52話 失意のサクセス
「さぁて、遂にすごろく会場に入れるぞ!」
「楽しみでございますわ」
「アタイもめっちゃ楽しみ!」
「私は……」
「おいおい、遊びに行くんじゃねぇぞ?」
昨日秘密クラブで5万ロザーナを稼いだ俺達は、遂にすごろく会場への入場許可証を5枚手に入れる事ができた。
そして今、俺達は景品交換所があるすごろく会場へと繋がる扉の前へと来ている。
不思議と今日はまだ女王様と会ってはいないため、すごろくの詳しい説明については聞くことができなかった。
というより実際にはすごろく以前に、この扉の開け方からわからないでいるのだが、女王様もきっと忙しいのだろうから仕方がない。
「えっと、この箱に入場許可証を差し込めば扉が開くのかな?」
「サクセス様。係の者に聞いて参りましょうか?」
「そうだね、これでダメだったら頼むよ」
そう言って扉の前の小さな箱に入場許可証を差し入れると……
「うわっ……!!」
「サクセス様!?」
なんと許可証を差し入れた瞬間、扉が開くのではなく、俺自身が扉に吸い込まれてしまった。
「なんだここは……第一ステージ? って書いてあるな」
扉に吸い込まれた俺は、なぜか広大な草原の中に一人立っていた。
そしてまずまっさきに目に着いたのは、空に不自然に浮かぶ巨大な魔液晶掲示板。
そこには
第一ステージにようこそ
とだけ表示されている。
どうやらここがすごろく会場のようだ。
空があり、太陽があり、自然豊かなこの場所。
とてもではないが、ここが地中深くに存在する場所だとは思えない。
そしてよく見てみると、草原の中が多くの四角形で囲まれているのがわかった。
一区画が10平方メートル位で区切られており、それぞれの地面の色や模様が異なる。
「草ばかりで分かりづらいけど、この巨大なマス目がフィールドっぽいな。って、あれ? ない!?」
そこで俺は気づいた。
なんと俺の装備全てが消えている。
今の俺は、ぬののふく一枚の状態で武器は持ってない。
更には何故か体が凄く重く感じる。
一体これは……
「何が起きているんだ? つか、みんなはどこだ?」
不安になった俺は周囲を見渡すも、仲間達の姿はない。
もしかしたら違うフィールドに飛ばされてしまったのだろうか
と不安に思ったその時……
「おぉ、すげぇなこりゃ」
なんとカリーが瞬間移動のように隣に現れた。
「カリー―!! よかった!」
「おう、サクセス。こいつはすげぇな」
俺が孤独でなくなった事に喜んでいると、続いて、次々と他の仲間達も現れ始める。
「わぁぁ!! すっごーーい! ねえシロマ! 凄いよここ!!」
「本当ですね。どういう仕掛けなんでしょうか?」
「サクセス様!! 心配しましたわ!」
どうやら無事に全員同じところに集合できたようだ。
すると仲間達が全員揃ったところで、突然、ビィーーっという音が辺り一帯に鳴り響く。
その音に釣られて空を見上げると、空の掲示板に新しい文字が流れ始めた。
これより、職業ルーレットを開始します。
各プレイヤーは一度オープンと唱え、ステータスの確認を願います。
「職業ルーレット?」
突然の訳のわからない指示に首を傾げる俺。
「それも気になりますが、とりあえず書かれている事に従いましょう。オープン」
シロマの行動は早い。
別に速度を競い合うようなものではないと思うが、俺もそれに続いた。
「そうだな。んじゃ俺も、オープン!!」
すると、目の前に半透明の板が現れる。
サクセス レベル1 職業:???
「え? まじかよ。レベル1になってる。」
「アタイもぉーー!」
「どうやらこの世界では、今までの力はリセットされてしまうようですわ。一体どういう仕組みなのでしょうか?」
どうやら俺以外の全員もレベル1に戻されているようだ。
体が急激に重く感じたのはそのせいだろう。
なんだか嫌な予感しかしないのだが、続けて浮かび上がった掲示板の文字に目を向ける。
それでは職業ルーレットを開始します。
ルーレットは入場と逆の順番で行います。
「まじか、よくわからないけど強い職業来てくれよ!!」
俺がそう口にして願っていると、早速上空に巨大なルーレットが現れ回転し始めた。
ルーレットの中央には
イーゼ
と表示されているため、この職業ルーレットはイーゼらしい。
「願わくばサクセス様のお役に立てる職業を……緑魔導士?」
ルーレットの針が止まった先に書かれていた文字は緑魔導士だった。
聞いたこともない職業にイーゼ自身も若干うろたえた様子を見せるが、次の瞬間、イーゼの体が眩く光り輝くと、その姿……というか服装が変わっている。
緑色のとんがり帽子に、緑色のローブ。
そして木製の杖。
どうやらそれが緑魔導士の初期装備のようだ。
そしてようやく冷静になったイーゼは「オープン」と唱えて自身のステータスを確認する。
「サクセス様。どうやらこの職業は風関係の魔法が使える魔法使いのようですわ。それとラーニングと呼ばれる魔法を使えば、敵の特技や魔法を修得できる能力があるようです」
「おぉ、それって当たりじゃね? ところでステータスはどんな感じ?」
「はい、レベル1の割には強めかと。職業によるものなのか、元のわたくしのステータスが関連しているのか不明ではありますが、魔法使いでいうところの30レベル相当のステータスですわ」
「まじか、それは凄いな!」
聞いたことがない職業ではあったが、話を聞く限り、かなりの強ジョブっぽい。
幸先の良い仲間のスタートに俺の胸は躍る。
そんな中、再度ルーレットが現れて回転を始めた。
「あ、アタイだ!! 強いのきて!!」
どうやら次はリーチュンらしい。
イーゼの職業から見るに、元のステータスや職業が影響されているっぽい。
リーチュンならやっぱり格闘家かなぁ?
しばらくしてルーレットが止まった。
今回、針が指した職業は……踊り子。
「えぇぇーー? なんでぇ?」
選択された職業に納得のいかない様子のリーチュン。
だがしかし次の瞬間、自身が纏う装備を確認すると嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇねぇ、サクセス。うっふん」
「ぶはっ!! ちょ、そらあかんて!!」
まるでミーニャが装備していたようなエロセクシーなその姿。
童貞の俺には刺激が強い。
まぁなんにせよ、満更でもなさそうなリーチュンを見て少しホッとする。
踊り子のステータスがどうなのかはわからないが、武闘家だったリーチュンとの相性は悪くなさそうだ。
イーゼの職業ほどインパクトはないが、無難と言えば無難だろう。
「次は私ですね」
そしてその言葉通り、次はシロマの番であった。
その職業はなんと……ギャンブラー!?
「えぇぇ、なんでですか? 元の職業が影響するのではないのですか?」
一人、全く元の職業と関係のない職業を選択されて困惑するシロマ。
フード付きの黒装束に身を包んだその姿は、ギャンブラーというよりは怪しい詐欺師に近い。
「ど、どんまい。でも、ほら、ステータスは強いかもしれないし……」
慰めの言葉を探す俺だが、大したことは言えない。
だがそれでも少しだけ期待した目でオープンと唱えたシロマであるが……
「弱いです……。なんですか、このステータスランダムって……使えるスキルもリスキーダイスというのだけです」
明らかにションボリとするシロマ。
「ま、まぁ、ステージが5まであるんだから、転職システムもあるだろう」
「はい……そうですね」
完全に落ち込んでしまったシロマだが、ルーレットはまだ続く。
次はカリーの番だ。
「お、俺の番か。シロマちゃんには悪いが、俺は良いのを引くぜ」
なぜか自信満々のカリー。
そのカリーの職業だが……海賊だった。
「へぇ、海賊か。悪くねぇな」
「なんか似合うね、その恰好」
紅いバンダナに髑髏マークが入った眼帯。
正に海賊といった恰好であるが、海賊のキャプテンというよりかはチンピラAという感じだ。
そして遂に最後。
俺の番が来た。
「良いの来い! 良いの来い!!」
星に……いやお空に願いを込めて。
回転するルーレットを見るだけで、胸が高鳴る。
一体、どんな職業になるのだろうか。
戦士系か? それとも魔物使い系だろうか?
ワクワク、ドキドキさせながらルーレットを見続けていると、やがて回転する速度が落ちて、ルーレットの針が職業を指し示した。
………………。
「はぁ? いや、それはない!! 嘘だ!!」
俺は目を疑った。
そして同じくそれを見ていた仲間達も思わず言葉を失う。
何せルーレットの針が示した職業は、そもそも職業ですらないからだ。
それが一体何なのかと言うと……
イきり童貞
それを見た俺は、怒りと恥ずかしさから思わず顔が真っ赤になった!
「ふっざけんなよ!! おかしいだろ、こんなの!! 職業ですらねぇ!!」
俺は空に向かって思わず大声で叫ぶ。
するとその声に応じるように、ルーレットに書かれていた文字が変化する。
イきり童貞(遊び人の振りをする悲しき童貞)
「あ"あ”ん? ケンカ売ってんのか! こら!!」
ルーレットに煽られた俺は怒髪天を衝くが如く激怒した。
すると横に立っていたカリーが笑いを堪えながら……
「さ、サクセス。お、落ち着け……プハッ!! あはははは!!」
「カリー! お前まで! くそ、なんだってんだよ。まじでありえねぇ」
更に最悪な事に、俺の姿は前面はちゃらい服装であるのだが、後ろが……
「キャッ!!」
俺の後ろにいたシロマが小さな悲鳴をあげる。
「え? 何?」
俺は思わず背中やお尻を触ってみると……
「ない……服が……服がない!! 後ろだけ裸だ!」
なんと前から見ればそれなりの恰好だが、後ろは裸。
こんなのあんまりじゃないか……
「これは眼福ですわ!」
その姿をマジマジとみて喜ぶイーゼはともかくとして、こんな格好では恥ずかしくて戦えない。
すると……
「あぁ……そんな……」
なぜかイーゼが悲痛な声を上げた。
何が起こったのかわからずにいると、リーチュンが
「サクセス、なんかお尻にモヤモヤができちゃったよ?」
と言う。
モヤモヤ?
自分では見えないが……
一体何が……
するとそれを見たシロマが解説した。
「文献で見た事があります。これはモザイクというものです」
モザイク??
いや、モザイクという言葉は俺もおじさんから聞いて知っている。
主にエッチな本に付されるやつだ。
って、俺は歩く破廉恥かよ!!
どこまでも酷すぎる俺の職業。
だが逆に俺はそれに希望を持つ事にした。
いや、そうすることでしか精神を持たせることができなかったのだ。
そう。
ここまで色々と酷いのであれば、逆にステータスや能力が秀でている可能性がある。
いや、なければおかしい!!
そう期待を胸にオープンと唱える俺。
サクセス レベル1 イきり童貞(以下省略)
ちから 5
みのまもり 5
すばやさ 5
うん 5
ちりょく 5
そうぞうりょく 500
ぼっきりょく 500
「だぁぁぁぁぁ!! あほかっ!!」
あまりにふざけたそのステータス。
通常の能力は俺の初期ステータスと同じで激よわっ。
追加のステータスは非常に高くなっているものの、とても使えるものとは思えない。
酷い……これは本当に酷すぎるて……
だがまだ希望は残っている。
そう、スキル又は魔法だ!!
俺は最後の希望を胸に、ステータスボードのスキル欄をクリックした。
そういえばいつの間にか、この半透明な板がステータスボードと理解し、その使い方が自然とわかってしまっているが、今はそんなことどうでもいい。
とにかくスキルだ!
ここから逆転の可能性を……
スキル
・エレクト
・自家発電
お? 思ったより悪くなさそうだぞ。
確かエレクトロンとかいうのは雷系の事だってイーゼから聞いた事がある。
自家発電もそれに関係するのか、雷っぽいしな。
これはまさかの期待できるスキルでは?
ようやく希望が見えてきた俺は、そのスキルの詳細を確認してみることにした。
・エレクト:勃起する
・自家発電:こする事により何かが発射される。
「…………。」
完全に言葉を失った。
もう俺に希望はない。
「おい、サクセス! どうした! 気をしっかり持て!!」
魂が抜け落ちた俺の体をカリーが必死に揺さぶっている。
でももう駄目なんだ……俺はもうだめだ。
するとカリーが何かに気付いた。
「サクセス、お前まさか……その手に持っているのは……」
手? 手だと?
はんっ!
こするしか能のない、この手に何があるっていうんだよ……
ん? あれ? 俺、何を持っているんだ?
気が付くと俺の右手には箱型の何かが乗っていた。
もしかしたらこれが……いや、この中に凄い武器が……
俺は視線を若干の重みが感じる右手へと移す。
そして俺はそれを見た瞬間……
思いっきりそれを地面に投げつけた!
「ティッシュかよ!!!」
「さ、サクセス……ま、まぁ、ほら、よく見ろよ」
「あぁん??」
流石にブチ切れている俺を前にしてるためか、カリーの言葉も少し動揺している。
「あの箱……ティッシュ箱に文字が書かれているだろ?」
そう言われて、ティッシュ箱の文字を確認すると……
シコッティ
と書かれていた。
「な、ほら、あれでさ……シコっていいって書いてあるしよ」
「何がシコっていいだ! シコッティだよ!! 馬鹿!!」
こんな開けっ広げな場所で、自ら、慰めろ、と?
ふざけんな。大体何の意味があって、箱に文字が書いてあるんだよ。
つか、カリーもカリーだ。
いくら慰めの言葉が見つからないからってよぉ……もう泣くしかない。
完全にやる気を失った俺。
だが、そんなのは関係ないと言わんばかりのブザー音が大音量で響き渡る。
どうやらすごろくが開始されるようだ
「始まったな。まぁサクセス。これは協力プレイみたいだし、後は俺達に任せろよ。普段お前に任せっぱなしだからな、こんな時くらい頼りにしてくれ」
そう言って座り込んだ俺の手を取り、立たせながら慰めるカリー。
その言葉には本心が窺い知れるような温かさを感じる。
なんというか、少しだけ救われた。
言われてみれば確かにそうだ。
これは別に俺だけのすごろくではない。
今回俺は戦力外になるだろうが、仲間達がいればきっとクリアできるさ。
そう信じて頑張ろう。
何としても俺はゴールドオーブを手に入れないといけないんだ!!
そう心を胸に。
遂に俺は謎のすごろくゲームを開始することになるのであった。
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