第53話 ターン制バトル

 プレイヤー:イーゼ

 ルーレットを回して下さい



 上空の掲示板にそう表示されると同時に、マス目となるフィールド中央に直径2メートル大のルーレットが現れる。



「わたくしからのようですわね。ではサクセス様、お先に回させてもらいます」


「あぁ、いいマス目に行けるといいな。って、どれがいいのかわからないけど」



 そう。遠目からでもなんとなくマス目の色が違うのはわかるが、それが何を意味するのかを俺達は知らない。


 青、赤、黄色……様々な色があると同時に、地面の模様も違うっぽい。


 上空から見ればどんな感じかはわかりそうだが、平面から見るとそこに何が書かれているのかはわからないのだ。


 実際わかったところでそれが何を意味するのかまではわからないのだから、行き当たりばったりにならざるを得ないのだが、最悪失敗したとしてもすごろく券はまだまだある。


 トライ&エラーで学んでいくしかない。



  イーゼが「フンっ!!」と力強く大きな針を押し出すと、ルーレットが開始される。



「……4、ですわね」



 針が止まった場所は4の数字のところ。


 これで4マス進めるということだろうけど、ここで一つ俺も試してみる。



「あ……ダメだ。見えない壁で塞がれてる」



 イーゼと一緒にマス目の端まで進んだ俺は、そのマス目の境を越えようとするも、なんらかの力で前が遮られており進めない。



「名残り惜しいですが、わたくしは行きますわね」



 一方、一緒に前に進んだイーゼは難なくマス目を越えられた為、そのまま真っすぐと歩いて進んでいく。



 ※  ※  ※



「サクセス様!! 青ですわ。地面には特に何もありませんわ」



 マス目の色と地面の模様を共有する為、事前に到着したら色と地面について叫ぶように伝えてあったので、イーゼがそれに従って遠くから俺達に伝えた。



「青か……一体何が起こるんだろうな?」


「そうですね。なんとなくですが、青は悪くない気がします」


「それってシロマの髪の色と同じだからでしょ? アタイは多分赤がいいと思うな」


「別に髪色は関係ありませんが、こういうゲームは大抵がそうであるという話です。ちなみに赤は大体悪い事が多いですよ」


「えぇー! 絶対それはないって! アタイの勘がそう言ってるんだから!」


「それはリーチュンが髪の色を気にしているだけかと……そもそもリーチュンの髪色はピンクですからね」



 とシロマとリーチュンがそんなやり取りをしている間に、イーゼのいるマス目上空から何かがゆっくり落ちてくる。


 いや、落ちると言うよりもあれは降りてくると言った方が正しいか。


 それは重力など完全に無視した物理法則で、ふわふわゆっくりとイーゼの前に降りてきた。



「おいサクセス。見ろよ、宝箱だぜ? なんかワクワクするな」



 職業が海賊だからなのか、カリーは宝箱を見て興奮している。


 普段ならそんなに喜んだりしないんだけどね。



「いやいや、宝箱っていったって※サプライズボックスの可能性もあるし、油断はできないよ」



(※サプライズボックス:宝箱に擬態したモンスター。第一部参照)



 俺は少しハラハラした気持ちでイーゼが宝箱を開けるのを見守っていると、普通にイーゼは宝箱を開けて中身を取り出していたのでホッとした。



「サクセス様!! 1000パサロが入っていました!」



 どうやら青色のマスはお金が手に入るようだ。


 ちなみにステータスボードには所持金も表示されており、初期所持金は全員1000パサロとなっている。


 つまりイーゼの所持金は今2000パサロになっているということだ。


 やはりシロマが言う通り青色のマスは当たりみたいだな。


 もしかしたらお金の他にもアイテムとかも手に入るのかもしれない。


 そしてイーゼが宝箱からお金を取り出すと、宝箱はそのままスッと消え去り、同時に俺達がいるマス目上に再度ルーレット盤が現れた。



「あ、次はアタイみたい。いっくよぉーー!」



 上空の掲示板にリーチュンの名前が表示されるや、リーチュンは即座にルーレットの針を勢いよく回す。



「あーー! もう! 3だよぉ~」



 イーゼより数字が低かったことを悔しがるリーチュン。


 だが……



「よかったですね、リーチュン。三マス先は赤色ですよ」



 悔しがるリーチュンに対しシロマがそう告げる。



「見てなさいよシロマ! 絶対赤は青よりもっと良いことがあるんだから!」



 そう言って勇み足で三マス進んだリーチュンだが、突如フィールドにデロデロデロデロデンドンという重低音の効いた音が流れ、上空の掲示板に文字が表示された。



 プレイヤー:リーチュン

 1000パサロを失った



「えぇぇーー! なんでぇ? って、ない!! 0パサロになってる!!」



 ステータスボードを開いたリーチュンから悲痛な叫びが聞こえる。



「だから言ったじゃないですか。こういうゲームは御約束事を外さないのです」



 とリーチュンには聞こえない声で一人事を呟くシロマ。


 そんなシロマだが、次は彼女の番だ。



「3だけはやめて下さい。ほんと、お金だけは勘弁してください」



 余程お金にトラウマを覚えたのか、その願い方は完全にガチなものだった。


 だがその願いが届いたのか、シロマの回したルーレットは4の数字で針が止まる。



「よかったです」



 そう言いながらニコニコ顔で進むシロマは、途中リーチュンの横を通る際に勝ち誇った顔でニヤリとしてみせた。


 そんなシロマの挑発に地団駄を踏むリーチュン。



「ムキィィィー! 見てなさいよシロマ!」



 そして次はカリーの番だ。



「やっときたな」



 待ってましたを言わんばかりの表情でルーレットを回すカリー。


 ここでなんとカリーが出した数字は6。


 一番遠くまで進める数字だ。



「お、みんな悪いね」



 そう言いながら全員を追い抜かして進んで行くと、6マス目に着いた瞬間、カリーの表情が締まった。


 カリーは地面の絵柄を見た時、このマスが戦闘フィールドであることを予感していたのである。



「サクセス! ここは白! 地面には狼っぽいマークだ!!」


 

 鬼気迫る雰囲気で叫ぶカリー。


 既にカリーは臨戦態勢をとっている。


 カリーの悪い予感は当たった。


 カリーがマス目中央に立った瞬間、3匹のモンスターが現れる。


 だが目の前のモンスターは絵柄にある狼ではなく……



「ゴブリンか……そういや、こっちの世界ではあまり見かけないな」



 モンスターの姿を確認するや、カリーの緊張感は少しだけ和らぐ。


 とはいえステータスが格段に下がっている今、そこまで余裕という訳ではないため、いつでも動けるように臨戦態勢はそのままだ。



 今回現れたモンスターは人型の魔物でゴブリンと呼ばれるもの。


 この世界ではスライムが最弱モンスターと言われているが、このゴブリンも負けず劣らず弱いモンスターである。


 と言っても、俺は今まで出会ったことがなかったため、知識として知っているだけだ。


 こいつの生息区域は限られており、俺が渡った大陸にはいなくて、アリエヘンの西側の大陸に存在する。


 まぁなんにせよ、弱いと言われているくらいだからステータスが変わったとて、カリーの敵ではないだろう。



 俺のその言葉通り、カリーは余裕の笑みすら見せていた。



「んじゃ、サクッと倒しちまうか。悪いが俺の経験値になってもらうぜ」



 カリーは担いでいる斧を構えると、一匹のゴブリンに向けてそれを振り下ろした。


 すると、予想通りゴブリンは一刀両断されて光の粒子へと変わっていく。



「こっちのゴブリンも弱くて助かるぜ、んじゃ残りの二匹も……」



 と言った瞬間だった。


 カリーの体がまるで金縛りにでもかかったかのように固まる。



「何っ!? 動けねぇ! どういうことだ? ゴブリンにこんな技はないはず!」



 カリーは突然の金縛りに驚きを隠せない。


 だがその隙をゴブリンが見逃す訳もなく、残ったゴブリンは1匹づつ順番に手に持っているこん棒でカリーを殴りつけた。



「痛っ! ちょ、こら待て! なんでこんな遅い動きなのに避けられねぇんだよ!」


「大丈夫か、カリー!!」



 その様子を遠くから見ていた俺はカリーに向かって叫んだ。


 いくらステータスが下がったとはいえ、あんな遅い攻撃をカリーが避けれないはずがない。


 間違いなくカリーの身に何かが起きているはずだ。



「あぁ、問題ねぇ。ちょっと痛かったけどまだ体力は十分残ってる。って、動けるぞ!?」



 ようやく金縛りから解除されたカリーは、さっきのお返しと言わんばかりに大振りで斧を振り抜くも、なんとゴブリンはそれを躱して(かわして)しまう。



「んだと!? どういうこと……って、くそ! また動けねぇ!」



 再度金縛りにかかるカリー。


 それをウキャキャキャと声を上げて嬉しそう見ているゴブリンたち。


 そして再び攻撃を仕掛けてくるのだが、1匹目の攻撃はさっきと同じようにくらってしまうものの、2匹目の攻撃が来た時にはなぜか体が動くことができて、回避することができた。



「一体どういうことなんだよこれは。くそ、とにかくやるしかねぇ!」



 未だ動揺を隠せないカリーだが、今度の攻撃は無事にヒットし、ゴブリン一匹を倒す。


 残っているのは一匹だ。


 だがやはり……



「くそ、またかよ。なんでこう順番に動かなくなるんだよ。って、そういえばゴブリンも俺が攻撃する時、避けられた一回以外は動かなかったな。痛っ!! 考え中に攻撃すんな!」



 攻撃をくらったカリーはまた体が動くようになったため、すぐさまゴブリンを斧で斬りつけて倒す。



「おーーい! カリー!! いったい何が起きたんだ!?」


「あぁ、サクセス。戦闘中に俺の体が動かなくなることがあったんだけどよ、こりゃあれだ。ターン制だ」


「ターン制?」



 カリーは自身に起きた事を戦いながら検証した結果、このマップでのバトルがターン制という制約に基づいたものだと気付いた。


 そしてそれを見ていたシロマもまた理解する。



「サクセスさん。ここでの戦闘は敵と自分が順番に攻撃し合う仕様のようです。ステータスの素早さなどによって順番が決まったり、また、数値にはないですが、命中率や回避率によって、攻撃を受けるときに避けられることもあるのだと思います」


「げ、じゃあ体力や防御値が少なくて、敵が多いとヤバイんじゃないか!?」


「はい。ですから、魔法職はできるだけ範囲攻撃を狙ったり、物理職は攻撃力が高い相手を優先的に倒す必要があります」



 まじかよ。


 じゃあなにか?


 魔法職でも物理職でもなく、下ネタ職の俺はどうすればいいんだよ。


 最悪ステータスが弱くても、持てる技術を駆使して戦おうと思っていたのに……



 まさかの戦闘システムに絶望を隠せない俺。


 そして次はいよいよ俺の番だ……


 嫌な予感しかしない……


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