第84話 ゲームマスターの正体

「よくぞ第三ステージをクリアした、褒めて遣わす。まさかあのような方法で真実を暴くとは、我も驚いたぞ」



 ゲームマスターの開口一番は賛辞と驚きの言葉。


 確かに今回俺達は、ヒントを元に二つの有利なアイテムと情報収集だけでクリアした訳ではない。


 もちろん、ゲームマスターのヒントがあったからこそ、第三ステージにおいて最初から分散して情報収集を行い、その上で、クリアに必要なアイテムを二つ手に入れることができた。


 もしもヒントなくこの第三ステージを攻略していれば、いつも通りのステージだと思って、ただただ先に進んでゴールを目指しただけだろうから、メインクエストにも気づかずに終わってしまっていただろう。


 つまり先のゲームマスターの言葉からわかるのは、それだけのヒントがあって最初から対策を施しても第三ステージのクリアは難しく、当然俺達の様子を見ていたゲームマスターは失敗に終わると思っていたに違いない。


 それを最後の最期で俺のチートスキルによってひっくり返したのだから、驚くのも無理はなかった。


 俺もまさか、あのエロ特化スキルがこんなところで役に立つとは思っていなかったので、やはりエロは正義だと思う……なんてね。



「ありがとうございます、ただクリアできたのはあのスキルだけではなく、ここにいる素晴らしい仲間達と力を合わせたお蔭です」



 そう言いながら、俺は横にいるみんなに目を向けて答える。


 この場所に来た瞬間から、両手に感じる手のぬくもりから、みんながいることを知っていた。


 そして改めて見回せばやはり全員がここにいる。


 一人だけでここに飛ばされなくて本当に良かったわ。



「ふむ……確かに我が与えたヒントを十全と役立て、その上で攻略していたのも知っている。本来、あれだけのヒントではあまり役には立たなかっただろうに、予想に反して素晴らしい攻略内容であった」



 あ、わかっていたのね。


 あのヒントだけでは難しいと……。


 って内心で思っていると、ゲームマスターは「いかにも」と口にする。


 やべ、今ので思い出したわ。


 ここでは心の声が筒抜けになるんだった。

 


 それでこうやってゲームマスターと再び会ったのはいいけど、今度は何を聞けばいいんかな?


 そういえば、第三ステージの攻略に頭が一杯で何を質問するか考えてなかったわ。


 うーん、折角の機会なんだし、クリアするために必要な事を何か聞かなきゃ。



「ふむ、悩んでおるようだな。だがそれはひとまず考えなくてよい。その前に、サクセス。今回の事で人族というものが如何に邪悪な存在であることを知ったであろう。あれこそまさに余が知る人族そのもの」



 おっと、突然の語り。


 まぁあれは実際酷かったからな。


 俺もゲームとは言え、怒りに我を忘れそうになったし……。



「確かに胸糞が悪くなる程邪悪だと思います。あんな風に他者を落とし入れたり、他者の尊厳を凌辱したり、とてもまともに見ることのできない事もありました」


「そうであろう。お主が人族の為に大魔王を倒そうとしているのも我は知っておる。どうだ? こんな人族の為に、その身や大事な仲間を犠牲にしてまで戦う気は失せたであろう? 仮に大魔王を倒せたとて、待っているのは悲惨な未来のみ。余はそれを既に……いや何でもない」



 やっぱりゲームマスターは知ってたんだな。


 そりゃまぁ、仲間達との話の内容全てを聞いていればわかる話だろうし、別に不思議なことではないけど。


 ただ一つ、ゲームマスターは勘違いをしている。


 俺はあれが人の全てだと思ってないし、当然大魔王を倒す事も、ビビアンを救うことも諦めていない。


 ゲームマスターが最後に何かを言いかけていたのは少し気になるところだけど、俺は言う。


 この想いを。



「ゲームマスターの過去に何があったのかも知らないし、あなたが何を経験し、見て来たかはわかりません。だけど、俺が人族の為に大魔王を倒す意思は変わらない。俺が出会ってきた人や大切な仲間、そして未来の為にも俺は戦う。これだけは譲れない」


「ふむ……愚かなり。アレを見せてもまだそう思うのは、やはり人族といったところか……」



 顔こそ見えないが、その声には大きな落胆が感じた。


 実際、ゲームマスターがなぜそこまで人族を憎んでいるのかわからないけど、それを勝手に押し付けて落胆するなよ。


 あ、今の嘘です。ジョークですので流して下さい。



 ついつい本音を心の中で呟いてしまい、焦る俺。


 ここでは全て相手に筒抜けということを忘れてはいけない。


 だけどまぁ、この偏った考えのゲームマスターには少し物申す。



「一ついいですか? 俺はあの光景を見て胸糞が悪いと思った。そう感じたのも同じ人族である俺自身。もし人族の全てがあなたが思うとおりであったなら、そう思うのはおかしいと思いませんか? あなたは本当にあのような人族の心しか見てこなかったのでしょうか?」


(そうだ、いいぞ言ってやれサクセス! 昔から硬いその頭をかち割ってやるっちゃよ!)



 俺がゲームマスターに言い返すのを聞いて、トンズラがなぜか煽り始める。


 今までずっとここでは静かだったのに


 ……てか、今、昔からとか言わなかったか?



「む……やはりこの感じ……。お主、いや、お前は……」


(今頃気付いたか、このハゲ。つか、もっと早くに気づけよ。俺っちはとっくに気付いていたっぺ!)


「その変な口調。やはりお前か、トンズラ。まさかこんなところでお前の魂と再び相見える(あいまみえる)事になるとはな。我より先に我ら仲間を残して散ったお前が口を挟む資格はない。お前さえ生きていれば……お前さえいきてさえいれば、我は……」


(うるせぇぇ! 人のせいにすんじゃねぇ、、ボケ、カス、イケメン、リア充、エルフの王子!!)



 ゲームマスターに対して、かなり幼稚な返しをするトンズラ。


 つか最後の方はむしろ褒めていたような、え? 王子なのこの人?


 いやいや、それよりもこの感じ……


 なんかみんなにもトンズラの声が聞こえているっぽいけど……後で追及されそうだな。


 まぁ適当に誤魔化せばいいか。



 等と考えていると、ゲームマスターが話し始める。



「相変わらずターニャの前以外では下品極まりないなトンズラ。しかし、バレているならもはや隠す必要もないだろう」



 そう言いながら、ゲームマスターは体を隠していた黒装束を脱ぎ捨てた。


 そしてその姿を見た瞬間、何故か突然イーゼが片膝をついて跪く(ひざまずく)。


 突然の奇行に驚く俺。



「えっ? いきなりどうしたんだ、イーゼ」


「サクセス様。この方は……エルフの英雄にして、エルフ族初代国王……パサロ様でございますわ。エルフの王族として、この方の前で跪かずにはいられぬわたくしをお許し下さい」


「ええぇぇーー! パサロって、あの硬貨の顔になっている、あのパサロ!? 嘘だろ、だとしたら何年生きているんだよ。いくらエルフでも長寿過ぎ!」



 まさかの言葉に俺は目を疑う。


 パサロの伝説については聞いて知っているし、トンズラと一緒のパーティで戦った話も聞いていた。


 いや、でもトンズラのあの言葉からも、間違いなくこの男はパサロなんだろう。


 にわかには信じがたい事実であるが……



「流石にエルフの女王の子ともなれば我に気付くか。そうである、我こそはかつて大魔王と戦い、エルフ国を創設した初代国王のパサロである」


(はんっ! 何を偉そうに格好つけてるっぺ。ロザーナの前ではあんなにデレデレしていたくせに)



 王たる威風を漂わせながらそう正体を名乗るパサロを前に、トンズラがチャチャを入れる。


 前から気付いていたけど、トンズラとパサロって仲悪いのね。


 ん? ロザーナ?


 そうなると大魔王と戦ったパーティって……



「この馬鹿はほっとくがよい。その通りだ、サクセスよ。かつて大魔王と戦ったのは、そこにいる間抜けな勇者と、聖女ターニャ、そして魔剣帝である我。そして我が最愛なるダークエルフの巫女、聖樹の守り人ロザーナである」



 うわ、まじかよ。ここに来て知る驚愕の事実だわ。


 ロザーナさんって、ダークエルフだったんだ。


 てっきりパサロと仲の良かった村人A位にしか思ってなかったんだけど、いや、それよりもダークエルフってほとんど滅ぼされていなくなったって聞いたような?


 ん? いや、いるんだっけ?


 まぁどっちでもいいや。






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