第85話 エルフに求められし、この体

「ふむ、そこの女王の子から少しは聞いているようであるな。確かに人族がエルフ族を陥れたため、エルフ族とダークエルフ族とで大きな争いとなった。この聖なる森が血で染まる程にな。そしてその多くのダークエルフを屠ったのは、他の誰でもない、我である」



 やばい奴だな、こいつ。


 おっと、なんでもないっす!


 でもそうなると……



「やっぱり、第三ステージは……」


「いかにも、あれは我が見たものや聖樹の記憶を映し出した世界。ただ当時の我にはその全てはわからなかった。そして戦争に勝利したのは我らエルフ族であり、当時の我はダークエルフ族全てを滅ぼそうとすら思っていたのも事実」



 そこまで話を聞いたところで、イーゼが口を開く。



「なぜですか? なぜあなた様はダークエルフ族をそこまで恨んでいたのでしょうか?」


「なぜ……だと? そうか、気付いてはいないようだが、トゥーイというのは我にとってたった一人のジョウである。我がどれほどジョウを慕っていたかなど、誰にもわかるはずもない」



 黒装束を脱いだことで、パサロの表情が初めてわかるようになったのだが、その顔は後悔を隠し切れない程に悲しい表情であった。


 ジョウってのが何かわからないけど、あの無残に殺されたトゥーイは、パサロにとって大切な人ということだけはわかる。



「あの、イーゼ。横からすまない。ジョウって何だ?」


「ジョウとは、人族でいうところの兄弟でございます。エルフは結婚するまで両性であるため、兄、姉という概念がないことから、年上の兄弟をジョウと呼び、年下の兄弟をゲと呼んでいるのです」



 お、おう。結構安直な感じなんだな。


 でもこれでわかった。


 あのトゥーイの出来事は過去にあった事実であり、パサロはそのいうならば弟だったと。


 しかも俺が経験した第三ステージと違って戦争を始めた歴史の中であれば、大切な肉親を辱めて殺したダークエルフを憎むのは理解できる。


 だからパサロはダークエルフ族を滅ぼそうとしたんだな。


 やばい奴とか思って、すみません。


 と心の声が聞こえるパサロに謝っていると、ここで再び空気を読まない奴がチャチャを入れる。 



(でも結局ロザーナに絆された(ほだされた)じゃん、このむっつりスケベイケメン)



「黙れポンコツ勇者! 我は絆されてなどおらぬ! ただ、ロザーナの優しさを知り、滅ぼすことを止めただけよ」


(それを絆されたって言うっぺや。あいかわらずのニブチンっちゃな)


「おい、トンズラ。煽るなよ。話が進まないだろ」


(けっ!)


「こらっ!」



 まったくトンズラときたら、本当にこのパサロが嫌いなんだな。


 ならなぜパーティを組んでたんだよ。



(仕方なく成り行きだっちゃ)


「我の方こそそうである」



 うん、ダメだ。話になんねぇ。



「とりあえず事情は理解しました。トンズラが失礼な事を言ってしまい申し訳ありません。俺が代わりに謝ります」


「ふん。今代の勇者は、どうやらそこのポンコツとは違ってまともな……いや、一部まともなようであるな。だが、これだけは言わせてもらう。大魔王と戦おうとする主らにゴールドオーブはやらぬ。どうしても手に入れたければ、第5ステージにいる我を倒すことだ」



 何で一部って言い直した!?


 あれか? 俺のスキルとかアレの事を言ってるのか?


 くそっ、悔しいが事実だ。 変態でサーセン。


 まぁそれよりもやっぱラスボスなのね、この人。



「ちょっと、いいか?」



 ここに来て初めて発言しようとするカリー。


 一体何を……



「あのよ、さっきから聞いていれば、あんた何考えてんだ? サクセスが大魔王を倒さなければ、人族だけではなく、あんたの大切なエルフ族だって滅ぼされるんだぞ? わかっているのか?」



 おぉぉ、よく言った。


 けど、なんでそんなケンカ腰なんだ?


 同じイケメン枠だからか? 同族嫌悪?


 確かにタイプ的に二人は似ているような……とか思ったらパサロさんに睨まれた。


 いや睨んでいたわけではないみたいだ。


 なんか俺の事指差して、鼻で笑ってるし……。


 やめろよそういうの、失礼だぞ。



 と内心で非難していると、パサロはカリーに返答する。



「ふっ、大魔王など、今の……いや、勇者の器を手に入れた我の敵ではない。コヤツをこの世界で倒した後、我はその体をもって現世に復活をする。そして復活したならば大魔王よりも先に我が人族を滅ぼし、その後、邪魔な大魔王も滅してみせよう」



 えぇぇぇぇぇ! なんだってぇぇ!


 ま、まさか俺の体が目的だったんすか!


 なんでこう毎回エルフに体を求められ……って違う。


 そうじゃない、めっちゃヤバイこと口にしてんじゃんこの人。



「何不思議な話ではない。我は待っておったのだ、この精神世界で悠久の時を生きながら。人族に復讐するこの機会を」


「いやいや待ってください。じゃあ俺がいつかここに来るってわかっていたってことですか?」


「それは違う。だが大魔王が復活せしとき、再び勇者は現れる。そして大魔王を倒すためには、我の持つゴールドオーブが必要。特にこのゴールドオーブに秘められた力は、他のオーブとは比べ物にならない程の力を有している。この世界を作るほどにな」



 つまりパサロは俺を待っていたんじゃなくて、大魔王の復活と同時に現れる、今代の勇者をまっていたということか。


 いや待てよ、それなら……



「あの、一ついいですか? 申し訳ないんですけど、俺、勇者じゃないっす。勇者は現在大魔王に拉致られてて俺はそれを救うためにここまで来たんですが……」



 その言葉にパサロは今までの威厳を忘れさせるほど、ポカンと口を開けて呆気に取られている。


 最初から失敗してんじゃん、その目論見。


 だがしばらくして、再び冷静を取り戻す。



「何っ!? いや、そんなはずは。お主の魂は確かにおかしなところがあるが、その体と魂に内包されるは、かつてないほどの光。そう。それこそそこにいるポンコツ勇者(トンズラ)とは比べ物にならないほどの……」



(うるせぇ、馬鹿。ついに男の体に目覚めるとか、きもいっちゃよ、いっぺん死ね! いや、死んだのか? あ、俺っちは死んだわ。ふざけんなよ、何で俺っち死んでるねん!)



 一人興奮しながら謎のノリツッコミを続けるポンコツ勇者。


 やめてくれ、勇者の品位を下げないでくれ。



「あの、トンズラさん。結構シリアスな展開なので少し黙ってて」



 俺がそう口にすると、少しはおとなしくなるトンズラ。


 そしてパサロもいちいちトンズラを相手にすることなく、話を進める。


 なんとなくそれだけで、こいつらのパーティがどんな感じの雰囲気だったのかがわかってしまう。



「ふむ。まぁよい。いずれにせよ、その体は既に我が物よ。お主の性格から我の持つゴールドオーブを手に入れるまでは逃げることもないだろう」



 いや、普通に今の話聞いたら逃げたいっすよ。


 だけど……悔しいがその通りだ。



「正直逃げたいのはやまやまだけど、そうですね。人族を滅ぼそうとするアンタはもはや俺達の敵でしかないし、何よりもこの俺の清い(未経験)体をアンタに渡す気はない。必ず第五ステージまで行ってアンタを倒してゴールドオーブを手に入れるさ」



 俺がそう口にすると、珍しく「はっはっは!」と大きく笑うパサロ。


 なんつうか凄い愉快そうだな、この人。


 まぁ俺は不愉快っすけど。



「よく言った。では無事第四ステージをクリアするのを我は首を長くして待っているとしよう」



 そう言ってその場から消えようとするパサロ。


 だけどそうはさせない。


 まだ大切な事がおわっとらんけんね。



「あ、ちょっと待った!! その前に第四ステージも第三ステージと同じように初見殺し的な感じでクリア不可になることないっすよね?」



 いきなり話を打ち切ろうとしたことに焦る俺。


 まぁ俺の体が欲しければクリアできないということはないんだろうけど、できればヒントはもらいたい。


 でへへ、教えてくださいよ、旦那ぁ。



 内心でそう呟く俺に、蔑んだ目を向けるパサロ。


 しかし、ちゃんと俺の願いには答えてくれた。



「そう言えば、ヒントをくれてなかったか。安心しろ。第四ステージは純粋に戦闘しかない。せいぜいそこで強くなり、魂を磨き、第五ステージにいる我を楽しませるがよい」



 その言葉を残し、パサロはフッとまた消える。


 そして残された俺達はそのまま、いつもの場所に戻されるのであった。


 





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最弱装備でサクセス!〜どうのつるぎとかわの防具しか買えなかった俺だけどセットスキル【レアリティ777】の効果がチート過ぎて伝説の戦士になってしまった〜 キミチカ @okujapan

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