第83話 倫理観
その後、エルフとダークエルフは二度とこのような悲劇を起こさないため、本当の意味で手を取り合うことになる。
お互いの領地にそれぞれの種族を交えて暮らす事を決め、同時に、両国内にいる人族は全て追放、更には今後人族の入国を許さないという法案も立案された。
それと今回の事で対岸の火事と認識していた魔王軍に対する考え方も改め、人族と協力こそしないが、独自に魔王軍討伐隊を編成し、魔王討伐を目指すらしい。
最後についでにはなるが、今回の事件の黒幕であるシュン・ブンを筆頭としたシュウカン国の者に対しては、エルフ族ダークエルフ族、共に伝わるもっとも残酷な刑が処されることとなったようだ。
これに対して、シュン・ブン達は最後まで「減軽はどうなったんだ」等と叫び続けていたが、ちゃんと減軽はされている。
本人ではなく、本人たちが属するシュウカン国に対してだが。
本来ならば今回の事で、両族がシュウカン国に攻め入る事になるのは当然だった。
しかしながら、あの裁判で正直に話すことで減軽をするという約束があったため、当事者のみの刑罰だけに収めることにし、それをもって減軽としたのである。
故に本人の罰は減軽されなかったが、自国の為、社会の正義の為という主張の彼らにとってはきっと本望だろうさ。
最後の最期まで見苦しいほどに喚いていたけどね。
あれだけ裁判では正義の為とか胸を張っていたんだから、ちゃんと貫けよな。
その結果、自分達が罰を受けることで自国に損害を与えないことになったんだから喜べよって言いたいところだけど、俺はその様子を黙って静観し続ける。
今回は、本当に人の嫌なところをまざまざと見せつけられることになった
もしかしたらこの結果を見ることこそが、このステージの存在意味だったのかもしれない。
本質を見極めろ……か。
ゲームマスターは、人の本質はこの汚い欲望だ言いたいのだろうか?
確かに今回の事を前にすれば、それもまた事実かと思ってしまう俺もいる。
だがそれでも俺は人を信じたい。
もちろん人の本質が欲であることは否定しない。
けどその欲には、自分以外の者を大切にしたいという欲も含まれる。
物事において一つの側面だけを信じ、それに捉われることの過ちを俺は知った。
だからこそ言える。
人の本質は、私利私欲が全てではないと。
手を取り合い、他者を思いやる気持ち、その相反する側面もまた、人の本質に他ならないのだから。
その中で俺は、じゃあ一体何が人の本質なのだろうか?
何をもって人と言えるのだろうか?
それを考えに考えた結果、導き出した答えはこれだ。
人の本質は
【愛】
自分を愛し、他者を愛し、そしてその調和の中で俺達は生きている。
自分への愛が強く他者を傷つけることもあるだろう。
逆に他者への愛から自分を犠牲にすることもあるだろう。
それらは全て表裏一体であり、どちらもまた愛そのものだ
その上で人は愛によって自らの存在を認めることができ、自分が生きている事を知る。
これこそが、俺が導き出した【人の本質】
なんて珍しくも難しい事を考えながら、俺は今回の裁判の行方を見守っている。
そしてそれら全てが終わったところで、俺は裁判所を後にした。
「サクセス様、大丈夫でございますか?」
裁判所を出た後、イーゼが心配そうな表情で俺に尋ねる。
思えば俺は、あの後一言も発することなく、今回の顛末を見届けていた。
その中でさっきの事を考え続けていたのだが、どうやらイーゼが心配するほどに、それを見守る俺の顔は酷かったのだろう。
「ありがとうイーゼ。でも大丈夫だ。今のイーゼのように他人を思いやる発言は、俺に自信を与えてくれるよ」
結論を出してはみたものの、やはりそれが本当に正しいのかはわからない。
だけどこうやって目の前で自分の信じた愛を感じれば、やはり先ほどの考えが間違いではなかったと思えた。
そしてそのまま真っすぐに前へと進むと、目の前に大きな宝箱が見える。
それを見た瞬間、俺達はハッキリと理解した。
第三ステージをクリアできたのだと。
ーーすると
「サクセス、今回はお前に譲る」
宝箱を前にして、珍しくカリーがそんな事を口にする。
別にどうしても自分で開けたいとは思ってなかったけど、何となく今回は自分で開けたいとも思っていたのも事実だ。
顔に出ていたのかな?
でも今回は全員の頑張りがあってクリアできたわけで、そう言われて勝手に開ける訳にもいかない。
「いいのか? てか、他のみんなは?」
俺は全員に確認する。
「アタイは別にサクセスならいいよ」
「私も問題ありません」
「サクセス様ならば当然ですわ」
どうやらみんな納得しているようだ。
それならお言葉に甘えて、俺が代表として開けることにしよう。
俺は宝箱の前に立ち、ゆっくりとその蓋を開ける。
するとまさかの中には何も入っていなかった。
不思議に思った俺だが、直ぐにステータスボードを開いて確認する。
※ 聖勇者の資格 を 入手しました。
どうやら今回の宝は、形として目に見えるものではなかったらしい。
俺の行動を見ていたみんなも、何も質問することなく自分のステボを確認していた。
「お? 海王の資格だってよ」
まっさきにカリーが自分のアイテム欄に表示されたものを口にすると……
「アタイは、天女の資格だって!!」
「私は……えっ? 聖女? 聖女の資格って……なんで闇の帝王とかじゃないんですかっ!?」
驚きと落胆の声を上げるシロマ。
つか、闇の帝王がよかったのかいっ!!
それ、完全に敵側やんけ!
と内心でツッコみつつ、最後は……
「わたくしは……聖樹の守り人ですわね」
うーん、無難だな。
というか、俺が勇者?
しかも聖勇者ってなんやねん!
これまでの事を考えるなら、完全に性勇者だと思ったんだけど。
なんかよくわからないけど……ありがとう。
まじでようやく下キャラから脱せられるわ。
そしてそれぞれが自分の手に入れた物を確認し終えると、今度は眼前に見慣れたゲートが現れた。
それを見て、
「やったな! クリアだ!」
「宝箱が現れた時点でわかってたけどな」
「ヤッターー! アタイ達の勝ちぃーー!」
「このステージは疲れましたね」
「サクセス様なら当然ですわ」
とそれぞれ喜びを口にする中、俺は言う。
「みんな本当にありがとう。みんなが頑張ってくれたお陰でクリアできたよ。だから本当にありがとう」
「よせよ、仲間だろ」
「そうですわ。サクセス様。お顔を上げてください、お礼を口にするのはわたくし達ですわ」
「じゃあ、アタイからも……みんなありがとう!!」
「リーチュン……そうですね。皆さんありがとうございました」
なぜかみんなが口々にお礼を言い始める。
それを見て思った。
こうやってありがとうがありがとうに繋がることこそが、さっきとは違った人のもう一つの側面であると。
世界中がこうやってありがとうで繋がればいいのにな。
そんな願いを胸に……
「ははっ。んじゃさ、いつも通りこのままゲート入ると、また俺が一人だけゲームマスターのところに飛ばされそうだから、今回は全員で手を繋いでゲートを潜らないか(くぐらないか)?」
「いいですわね。賛成ですわ」
俺がそう言った瞬間、イーゼが俺の手を握る。
その行動の速さには脱帽だわ。
続けて
「じゃあアタイはこっち!!」
と逆の手をリーチュンに握られる。
二人とも速過ぎ。
そして仕方ないですねといいながらリーチュンの手を取ったシロマに、そのシロマの手を「失礼するぜ」といいながら握るカリー。
なんかわからんけど、カリーとシロマが手をつなぐのをみて、若干嫉妬心が芽生える俺。
おっと、負の感情が……いかんいかん。
「んじゃ入ろうか。みんなでゲームマスターに文句の一つでも言ってやろうぜ!」
「おぉ!!」
こうして俺達は無事第三ステージのゲートを潜ると、やはりそこに現れたのは、黒装束に身を包んだゲームマスターであった。
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