第82話 人の本質


  【無修正】



 俺がそのスキルを唱えると同時に、城内に眩い光が広がっていく。



ーーーそして……



「ぎゃああああ!! なぜだ! なぜなんだ!!」

「うわぁぁぁぁ!! なんだこいつ!」

「化け物だぁぁ!!」

「ワシのかつらがぁぁぁ!!」



 場内に響き渡る悲鳴。


 それもそのはず。


 なんとこの場には、4体の蠅の顔をした魔物が現れたのだ。


 突然そんなものが姿を現わせば、誰だって悲鳴を上げたくなる。


 エルフの長老だけは違う意味で叫んでいたが……。


 だがそんな事よりも、まずはこいつらだ。



「A子! B子! C子! D子!?」



 なんと魔族の本性を現したのは、証人のエルフやダークエルフであった。


 これは正直予想外過ぎる。


 てっきり俺の目の前にいるシュン・ブンを筆頭に、この場にいる俺達以外の人族が魔族だと思っていたからだ。


 しかし蓋を開けてみれば、一番怪しかったシュン・ブンの姿はそのまま。


 代わりに証言台に立った、エルフやダークエルフの証人が魔族というオチ。



 思えば、あの状況でエルフがあんな嘘をつくのはおかしいと思っていた。


 例え金で雇われた嘘の証人だとしても、エルフは誇り高い種族と知っているので、金で誇りを売るとは思えない。


 故に、逆にあの証人のエルフは本当の事を話しているかもしれないと思ったし、何ならエルフの長老については、このエロ親父位には思っていた。


 まぁ証人のダークエルフだけは、直ぐに嘘だとわかったけど。


 ほんとうに情報操作って怖いわ。


 嘘がまるで本当の事みたいになるんだから、でも信じてたよ、長老。


 まさかヅラだったとは思わなかったけどね。


 まぁいずれにせよ、これでハッキリした。


 魔王軍は今回の事に深く関係している……と。


 だが、これだけで全てが魔王軍の仕業であるとは思えない。


 なぜならば、この状況というか、証人が化け物の姿になっていても、シュン・ブンやチョウ・シンの顔に驚きは無かったからだ。


 そこから読み取れることは、証人が魔族であると事前に知っていたことに他ならない。


 それだけを考えるならば、今回の件は、人族の悪だくみに魔王軍が加担していたとも考えられる。


 だってシュン・ブンが黒幕なのは確定しているし、それが魔族でなかったのであれば、やはりシュウカン国こそが元凶なのだろうか?



 いずれにせよ、これで人族が直接魔王軍と繋がりを持っていたということは明らかになった。


 密書だけでも十分だったけど、それでも操られているという可能性もゼロではなかったので、俺としてはスッキリしている。


 今回の件は間違いなくシュン・ブン本人の意思の下に行われた悪行。


 とはいえ、それに手を貸していた魔王軍も同罪。


 つまりは黒幕は、人族と魔王軍の両方と言える。


 そう結論づけると同時に、俺達のステボが浮かび上がり、体が硬直した。


 これはつまり、バトルの開始を意味する。



※ ベルゼバブ が 4体 現れた。



「おし、みんな! とりあえずこいつらぶっ倒すぞ!」



 俺がそう声を上げると、全員が「やったろうぜ!」と拳を掲げる。


 そしてターン制バトルが開始されるや否や、やはり最初に体の硬直が解けたのは俺だった。



 俺の体が動くのを見て、仲間全員が何故か白い目を向けてくる。


 それはつまり、



 どうせ一発で倒すんでしょ?



的な呆れた視線だ。



 故にどうしようか迷う。


 仲間に花を持たせることも大切。


 だけどさ、俺はさ、もう限界なんだよ。


 この怒りをぶつけるまでは、コノキモチはおさまりそうもない。


 だから言うよ、みんなごめん。


 俺……もう我慢できないんだ!



【必殺! はや……もれ……オナスラッシュ!!】



 俺は音速に近いスピードで、シコシコと剣を鞘から出し入れすると、1ターンを待つ事なく必殺スキルを放つ。


 何となくできる気がしてやってみたらできた感じだが、結果オーライ。


 いつもより威力は弱くなるかもしれないけど、構わない。


 だって、もう……我慢の限界なんだ!


 そして解き放たれた性の斬撃は、見事に4匹の魔物全てを両断する。



※ サクセスは 早漏オナスラッシュ を放った。


 ベルゼバブA に 931のダメージ を与える。

 ベルゼバブA は たおれた。


 ベルゼバブB に 954のダメージ を与える。

 ベルゼバブB は たおれた。


 ベルゼバブC に 847のダメージ を与える。

 ベルゼバブC は たおれた。


 ベルゼバブD に 938のダメージ を与える。

 ベルゼバブD は たおれた。



 仲間達の予想通り、一撃をもって戦闘を終わらす俺。


 多分だけど、この魔王軍の魔族たちもかなり強敵だったのかもしれない。


 でもやっぱり俺の能力はチートだった。


 全員がステボに表示される数値を見て、納得する。


 やっぱりやったな、こいつ……的な感じで。


 色んな意味で微妙な空気が生まれたけど、これだけは言わせてくれ。



「またつまらないものを斬ってしまった」


「じゃないわよ! サクセス! 怒ってるのはサクセスだけじゃないんだからね!!」



 早速リーチュンに叱られて小さくなる俺。



「しゅみません」


「ほんとに、サクセスさんは……もう。私も闇の力を解放したかったです」


「まぁサクセスだし、しょうがないけどな」


「わたくしはサクセス様の今の技に感動しましたわ。今度はその下半身でわたくしを貫いてほしいですわ」



 といつもの雰囲気に戻った俺達であるが、まだ終わっていない。


 むしろここからが本番だ。



「裁判長。発言をよろしいでしょうか?」


「許可する」


「私達の考えは、そこにいる人族に真実を語らせることです。嘘かどうかは、私のスキルで看破できますので、話さない、もしくは嘘をついた場合は、拷問の後、死刑にすることを具申します」



 有耶無耶になってしまっていた俺の裁定。


 その答えがこれだ。


 そしてこんな事があったにも関わらず、裁判長は何事も無かったかのように調停裁判を続ける。



「相わかった。して、正直に真実を話した場合は?」


「刑を軽くするということではいかがでしょうか?」



 俺がそう口にすると、裁判官は神妙に頷いた。



「許可する。ではシュン・ブン。並びにチョウ・シン前へ」



 そう告げられた両名は、顔を青褪めさせながらもゆっくりと証言台の前まで歩いてきた。



 我ながら咄嗟に口から出たにしては結構まともだったのではないかと思う。


 実際には真実かどうかわかるスキルなんてないし、無修正はそこまで万能ではないのだが、この状況を見れば奴らだって信じざるを得ないだろう。


 それに刑を軽くすると言っても、その裁量はエルフとダークエルフに任せるつもりだから、結果として奴らは拷問の後、死刑は免れない可能性が高い。


 そりゃそうだ。


 今更真実を話して謝ったところで、自分のやった悪行が消える訳ではない。


 であれば、その報いを受けるのは当然であり、正に因果応報だ。


 だからどんな結果になっても俺は後悔しない。


 そしてその後、俺の予想通り、二人は助かりたい一心で正直に全てを話した。


 結論から言うと、やはりシュン・ブン達、シュウカン国の奴らは、自国を滅ぼされない代わりに、エルフとダークエルフを争わせることを魔王軍と約束したらしい。


 その上で、嘘の情報等で情報操作していたという話だった。


 しかし実際に今回の事が起こった根本の原因は、それだけじゃない。


 ダークエルフの虐殺も、人身売買も、トゥーイの死も、その全ては魔王軍の指示ではなく、シュン・ブンひいては純粋にシュウカン国の利益のための行動であった。


 その後、情勢に危機を感じて動いた結果、魔王軍に言われたとおり、エルフとダークエルフを争わせることになったに過ぎなかった。


 というのも、シュン・ブン達は、想像以上にエルフやダークエルフの国で儲けることができ、また、ダークエルフの女性を好きにできたりと、やりたい放題になった現状に溺れ、結果として今回の事件が起きたということ。


 色々判明する中、その際にチョウ・シンによってトゥーイが辱められた事実も明らかになり、当然、両親は怒り狂った。


 そんな状況であれば、二人の刑を減軽したとしても、どうなるかは火を見るより明らかだろう。


 いずれにせよ、魔王軍の介入があったとはいえ、これらは人の欲が生み出した惨劇に他ならない。


 この出来事は同じ人族として、心底軽蔑するし、同時に怖いと思う。


 人の欲とは、時として魔物よりも醜いものであることを俺は知った。


 これこそが、ゲームマスターがあの時言った、本質を見極めろということなのだろうか……。

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