第81話 チートアイテム、チートスキル

 これまでの話を纏めれば、チョウは、最初にトゥーイがダークエルフに拉致されたとエルフの長老達に報告した。


 しかし、その嘘は既に証明されている。


 なぜならばトゥーイをダークエルフの国に行くように企てたのが、こいつ本人だからだ。


 であれば、ダークエルフに拉致されているなんて言えるはずもない。


 正直に話せばいいだけなんだから。


 そしてこいつ本人も暗殺されそうになったとか言っているが、それも全部自作自演ではないかと思う。


 その点を素直に話して貰えると色々分かるんだけどな……


 と淡い期待を持って証言台の前に歩くチョウ・シンを見やる。



「では、今の質問に答えなさい」



 裁判長からそう命令されたチョウシンは額に汗を流しながらも、ゆっくりと口を動かした。



ーーそして一言



「記憶にございません」



 チョウ・シンの証言は、まさかのそれだけであった。


 流石のこれには俺も唖然とするしかない。


 この期に及んでまさか記憶にございませんだけとは……舐めているとしか言いようがないだろ。


 しかし裁判長はそれを認める。



「では下がりなさい」



 そう命じられて、ホッとした様子で傍聴席に戻るチョウ・シン。



 こいつの発言に怒りを覚えたのは俺だけではないはずだ。


 見ればエルフ側はもちろんの事、ダークエルフ側からも怒りの視線が飛んでいる。


 これは良い傾向だ。


 もしかしたらダークエルフ側からもまともな証言が出るかもしれないな。


 つか、絶対こいつ黒幕の仲間だろ。


 もうこれ、人族が黒幕でいい気がする。


 こんな茶番は早く終わらせて、とっちめた方が早いよなぁ。


 

 なんて思っていると、再びイーゼが証言台に立ち、今度は密書を読んで良いか裁判長に確認した。



「許可する」



 その言葉と同時に、密書を開封するイーゼ。


 その内容から、この密書を書いた者がカリーの追っていた闇取引をしていた商会の者であることがわかった。


 そしてそこに書かれていたのは、まさに闇取引の内容そのもの。


 取引相手はやはり、魔王軍だそうだ。


 そしてその仲介をしていた者の関係者として、ブン・シュンはもとより、チョウ・シン、そしてデイ・フライの名が書かれている。


 つまり一連の騒動は、なんとこの手紙一つで全て暴かれてしまったということだ。


 ダークエルフの子供の虐殺と臓器売買。


 その貿易内容の一部を知ってしまった、トゥーイの暗殺。


 そして殺したトゥーイを使ってエルフとダークエルフを戦争させ、軍需品の輸出等で利益を得る算段等々。


 もうこれは致命的な証拠ではないだろうか?



 少なくともこの密書1枚でほとんどの真相が解明されている。


 ある意味チート証拠物件だ。


 もしかしたらこれを手に入れるのは、本来かなり難易度が高いものだったのではないだろうか?


 そう考えると、まじでリーチュンナイスすぎるわ。


 まさかこれほどの内容が記載されているとは俺も思わなかった。


 当然エルフとダークエルフの怒りは、ここにいるシュウカン国の者に向けられていた。


 もうこれは解決と言っていいと思うよ。


 まぁこの手紙一つでは、色々と弁明して崩せなくもないかもしれなかったけど、シロマが手に入れた親書やトゥーイの情報等もあるので、今更何を言っても無駄。


 これはもう終わったな。


 今回の件の黒幕は、シュウカン国でほぼ確定である。



 「ではこれより、裁判員による判断を仰ぐ。代表、サクセス。前へ!」


「え? 俺!? 少し仲間達と相談する時間が欲しいんだけど」



 突然呼ばれた俺は焦った。


 確かにもう今回の件は人族が黒幕ということでいいとは思ったが、もしかしたら何かを見落としている事もあるかもしれない。


 その為に、できるならば一度全員と相談する時間が欲しかったのだが……



「認めぬ。速やかに前へ」



 認められなかったわ。


 まじかよ、なんで?


 だってみんないるじゃんか。


 なんのためにみんないるのよ?


 しかもよりによって、俺を選ぶとかないっしょ。


 そんな思いに不安を顔に浮かべていると、ふとみんなの視線に気づく。


 仲間達は全員が俺を信頼する目で見ている。


 俺ならば間違いない、いや、俺が判断したことなら受け入れるという感じか。


 であれば、ここは腹を括って男を見せるしかないだろう。


 俺はこのパーティのリーダーだ、俺が決断しないでどうする!!


 腹を決めた俺は、堂々としながら証言台の前へと歩き出す。



「では今回の件について、裁判員としての裁定を申すが良い」



 裁定……裁定ね。


 まずいな、言葉の意味がわからない。


 いや、焦るな俺。


 多分誰が悪いかを言えばいいだけだ。


 おし、じゃあ言うぞ? 言うからな!?



 と心の中でイキってみたものの、実際は……



「えっと色んな証言の信憑性等を考えた上で、今回の件は……」



 突然自信なさそうにゴニョゴニョと話し始める俺。


 だって仕方ないじゃん! こういうの苦手なんだって!


 つか、おい!


 カリー! 見えてるぞ。


 今の俺見て笑ってるじゃねぇか、あの野郎。


 と若干イラついていると、ふと、エロハゲメガネと目が合った。


 あれだけ偉そうに自信満々だったこいつが、今では残った髪の毛が抜けそうなくらい不安そうな面持ちで俺を見ている。


 安心しろ、楽には死なせねぇよ。


 お前、どうせ人間じゃないんだろ?


 ん? 人間じゃない?


 あれ? なんで今俺はそう思ったんだ?


 途中で口を止めた俺は、そんな疑問が頭を過ってしまう。



 そういえばイーゼは、裏で操っている真犯人は魔王軍の者ではないかと疑っていたな。


 今思えば、実はこのハゲエロメガネは魔王軍の魔族であり、人族に化けてこれらの計画を遂行したと考えれば、全ての辻褄があってしまう。


 であれば、ここで俺が人族が黒幕だと言葉にするのは、果たして本当に正しい事だろうか?


 それでこの第三ステージがクリアとなるのか?


 あの密書のインパクトが凄すぎて、もうそれしか考えられなくなっていたが、あのゲームマスターが密書一つでクリアできるようにするとは思えない。


 であれば、ここでこいつが魔族だと証明することが、真の意味でのクリアか?


 いや、今更もう遅いだろう。


 今この土壇場でそんな事を証明できるはずが……



「どうしたサクセスよ。早く裁定を下すのだ。それをもってワシも決定すると決めておる」



 あーー、もう、黙ってろキノコ!!


 今考えてんだから、つか、ちゃっかり責任を俺に押し付けてんじゃねぇよ。


 つかこれって結局話し合いっていう話じゃなかったのか?


 これじゃ普通の裁判じゃないかよ。


 しかも責任は全部俺に押し付けてよ。


 って、今はそんなことよりもどうするかだ。


 早く考えなきゃ……何かいい手はないのか?


 あんまり遅いと、逆にこのキノコが全部決めそうだぞ。


と焦っていると、そこでトンズラの声が聞こえてくる。



(無修正使っちゃえば?)



 はっ!! そうか、その手があったか!


 そう言えば、無修正は真実を露わにするとかそんな効果あったよな。


 であれば、もしかしたらワンチャン、人族に化けているのもモザイクを取っ払うように明らかにしてくれるかもしれねぇ。


 ナイス、トンズラ!!


 ここに来て、光明が見えてきた。


 であれば、まずやるべきことは……。



「えっと、その前に少しよろしいでしょうか?」


「ふむ、何のことかによる」


「スキルです。先ほど裁判長が魔法を使っていたので、私も一度だけよろしいかと」



 ここで突然俺がスキルを使うのはなんかまずい気がする。


 でも、このキノコも魔法使っている訳で、許可さえもらえれば……



「攻撃的なスキルはここでは禁じておる。故にそれ以外であれば許可しよう」



 おっしゃ!! 言質とったぜ!


 それならば話は早い。



「ありがとうございます、では……」



 裁判長の許可も下りたことだし、俺は無修正を使う事に決めた。


 実際使ってみない事には意味があるかはわからないので、無駄骨になる可能性もあるけど、やれるならやった方がいいだろう。


 それでだめなら、諦めてこのエロハゲメガネを生贄にすればいい。


 まぁ生贄というか、こいつが黒なのはもう判明しているんだけどね。


 ただそれがシュウカン国の思惑なのか、それとも魔王軍によるものなのか、はたまた、こいつの私利私欲だったのかがわからないままになるが。


 えぇい、俺は信じる。


 これまでの自分を、そして俺の運を! 


 さぁ、その本性を現しやがれ!!

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