第21話 ぶきみなひかり
翌朝、ビビアン達はアモーレの村を出発し、マーダ神殿に向かった。
温泉の湯に浸かり、化粧水を肌に浸透させた女性陣は、いつにもまして艶やかで光輝いている。
「よし行くわよ! シャナク! さっさと行って魔王をぶっ倒すわ!」
ビビアンは気合十分であった。
そして、いつにもまして光輝いている。
ここからマーダ神殿まで、順調に進めばあと二日。
そして出発した初日は、どういうわけか、ほとんどモンスターに遭遇する事なく進んでいった。
そのまま初日の移動を終えたビビアン達は、現在野営をし、馬車の中で話している。
「なんかつまんないわね。やっぱりマネアは心配し過ぎだったんじゃないの? 敵が全然いないわ。」
気合十分で出発したビビアンは、あまりの敵のいなさに拍子抜けしてしまい、不完全燃焼もいいところだった。
たまに出てきたモンスターも、馬に乗るシャナクがやっつけてしまい、ビビアンは代わりにシャナクをやっつけてしまいそうになる。
「いえ、勇者様。実は数時間前から嫌な視線を感じるのです。油断はされないで下さい。」
ビビアンのその様子に、マネアは突然苦言を呈した。
「姉さんは心配し過ぎよ。ここまでだって、ほとんどモンスターはいなかったじゃない。もしかしたら、既に冒険者達に倒されているかもしれないわよ。」
マネアとは逆に、ミーニャは楽観的である。
「ここまで敵が少なかった原因は、既にモンスターがマーダ神殿に侵攻している事、それと私たちより先に出発したライブハットの兵や冒険者が進行中に倒している事が考えられます。」
「それなら、尚更今のところは安心じゃない。マネアは何をそんなに怖がってるの?」
ビビアンは、マネアの考えを聞くも、尚更マネアが何を不安に思っているかがわからない。
すると、マネアは恐怖を滲ませた表情で答えた。
「そうではないのです! 私が感じるこの視線は……もっとおぞましい……何か。これはモンスターなんかではありません!」
ビビアンは、マネアが何を言ってるのか理解できないでいると、その瞬間、御者台からシャナクの声が響いてくる。
「何者だ! 出てこい!」
その声に、ビビアン達は直ぐに馬車から降りた。
「コココココ、こんばんは勇者様方。今宵はいい月が出ていますねぇ。そして初めまして、私は八天魔王が一人、ゲルマニウムと申します。親しみを込めてゲルマとお呼び下さい。」
その者は、森の木々の影から姿を現すと、不気味な笑みを浮かべながらビビアン達に向けて挨拶する。
突如現れたそいつは、自らを魔王と名乗る。
その容姿は、皺だらけの肌を白粉で塗りたくったようは顔で、魔法使いが着るような紫色のローブを羽織っている、
口調は女っぽいが、容姿や声から男だと感じた。
「何が親しみを込めてよ! ふざけないで! あんたなんか直ぐにぶっ殺してやるんだから!」
魔王と聞いたビビアンは、直ぐに剣を抜く。
「ンフフフ、怖いですねぇ。でも今日はあなた達と戦う気はありませんのよぅ。ちょっと挨拶にきただけですから、コココココ……コケコッコー」
そのふざけた様子にキレたビビアンは、ゲルマに襲いかかった。
「こんのぉ! ふざけた事言って! アンタが戦う気が無くても、こっちはアリアリなのよ!」
ビビアンは、全力でゲルマを斬りつける。
だがしかし、その渾身の一撃はゲルマを一刀両断したかのように見えたが、斬ったのは残像だった。
すると突然、ビビアンの頬が冷たい手で包まれる。
「んフン、綺麗な肌ねぇ。嫉妬しちゃうわぁ。でも乱暴さんは嫌いよん。」
ビビアンの背筋に怖気が走った!
そしていつの間にか後ろにいたゲルマに向かって、振り向きざまに剣を薙ぎ払う。
今度はさっきより力を込めて剣を振った。
ーーしかし、
ゲルマは飛ぶようにふわっと後方にジャンプし、またしても攻撃を避けられてしまう。
「逃げてばかりいないで戦いなさいよ! この卑怯者!」
二度も渾身の攻撃をかわされたビビアンは、苛立ちながら叫んだ。
「ンフフフ、良い攻撃でしたわよぉ~ビビアンちゃん。でもね、目的のモノは確認できたから、今日はおわーりよ。またマーダ神殿で会いましょう。その時はお茶でも飲みながらゆっくりと……。」
その時ゲルマは、何故かビビアンではなく、シャナクの目を見つめながら言った。
ふと気づくと、シャナクの反応がさっきからない。
そして、その目の色は
紫色
に光っていた……。
ゲルマが逃げると判断したミーニャとマネアは、すかさずゲルマを攻撃しようとするが、既にそこにゲルマはいない。
いつの間にか、闇に吸い込まれるように消えていったのだ。
「もうっ! なんなのよアイツ!」
ビビアンは悔しさのあまり、剣を地面に勢いよく突きつける。
そしてゲルマが消えると、マネアとミーニャがビビアンビビアンに駆け寄った。
「大丈夫、ビビアン!? 何もされてない?」
ミーニャは心配そうにビビアンの体を触って確認する。
さっきゲルマに触れられた時、何かされたかと思ったからだ。
しかし、ビビアンは首を横に振る。
「平気よ、だけど、まだあいつの冷たい手の感触が顔に残ってて不快だわ! 次会ったら絶対やっつけてやるんだから!」
パッと見では、ビビアンに異常は見受けられない。
しかし、それでも心配なミーニャは、マネアに確認する様に頼んだ。
「姉さん! 一応呪いとか掛けられていないか確認して!」
マネアは黙って首を縦に振ると、直ぐに状態確認魔法である
【エブリスター】
を唱えた。
青白い光がビビアンを包み込むと……消えた。
状態異常になっている場合、この青がその異常内容によって色が変わる。
変化なく消えたという事は、特に異常がないという事だ。
「大丈夫です、何も異常はありません。」
マネアがそう告げると、ミーニャはホッとため息をつく。
「良かった……それにしてもあいつは何をしにきたわけ? 意味がわからないわ。」
ミーニャは安心した後にそう呟くと、それにマネアが答えた。
「さっきから私が感じていた視線は、どうやらあの魔王のようですね。魔王が消えてから気持ち悪い感じが無くなりました。なぜ現れたかは分かりませんが、これだけはわかります。マーダ神殿に行けば、またゲルマに会うということ。その時は、全員で迎え撃ちましょう。」
マネアの言葉にビビアンは強く頷く。
「わかったわ! マネア、ミーニャ、それとシャナク、頼んだわよ! しっかりサポートしてね! ってシャナク! アンタ人の話聞いてるの!?」
ビビアンがふとシャナクを見ると、彼はボーッとゲルマが消えて行った森の暗闇を見つめていた。
そして、ビビアンの声で我にかえる。
「は! すいませんでした。奴が消えた方が気になってしまいまして……。」
自分が今何をしていたのか、よく思い出せなかったシャナクは適当に答えた。
「ちょっとしっかりしなさいよ、シャナク! 疲れているなら今日の見張りは私が代わるわ。」
意外にもビビアンから優しい言葉が返ってくる。
その言葉を聞き、シャナクは両頬をパチンと手で叩くと気合を入れた。
「いえ、勇者様にそのような事をさせるわけにはいきません。今度は相手に気づかれる前にやっつけて見せますので、どうか勇者様達は馬車の中でお休みください。」
シャナクの変わらない様子にビビアンは少しだけ安心する。
ちょっといつもと雰囲気が違う気がして、少しだけ心配になったのだ。
「そう、わかったわ。でも次はもっと早く教えるのよ。次こそは絶対倒してみせるわ!」
こうしてビビアン達はマーダ神殿に着く前に、魔王ゲルマニウムと邂逅する。
だが魔王ゲルマニウムの目的は、未だ謎に包まれていた。
そして、時折不気味に光るシャナクの瞳。
その瞳に映るのは……。
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