第19話 明かされた真実①
※ ※ ※
「美味しかったな、ここのランチ」
「えぇ、カリーにしては中々いい店を選んだわ」
食事を終えた二人は、再び話し始める。
今度はバンバーラが話す番だった。
バンバーラがこの世界に来てカリー達を探し続けたこと。
次に、今は町でお店を開いていること。
そして最後に勇者ビビアンと出会い、後に彼女が大魔王に捕らわれたことをミーニャ達から聞き、それ以降一緒に行動をして魔人化を解除するアイテムを探しに行ったことを話した。
魔人化を解除するアイテムは、世界樹と呼ばれる巨大な木がある場所にあったらしい。
そこでトレント族と協力して遂には、魔人化を解除するアイテムを手に入れることができたようだ。
「なるほど。それを聞いたらサクセスが喜びそうだな」
一通り話を聞き続けていたカリーは、そう口にする。
サクセスが幼馴染の勇者を助けようとしているのは何度も聞いて知っていた。
そしてその勇者が魔人化したという話も。
だからこそ、その魔人化を治すアイテムはもっとも欲しいアイテムだと思ったわけだが、バンバーラの顔は浮かない。
「うーん。どうだろ。正直魔人化を治すアイテムでは魔人ではなく、魔神化した勇者を戻す程の力はないと思うわ。だからあの子が本当に必要とするかどうかは疑問だわね」
既にサクセスを自分の息子と確信しているバンバーラ。
故に、サクセスの事をあの子と呼んでいた。
それを聞いて、カリーはようやくサクセスの話に触れる。
「姉さん。あのな、姉さんの気持ちはわかるけど、サクセスは姉さんの子供じゃない。あいつには、俺達の知らない父親と母親がいるんだ。だから……」
あまり傷口に塩を塗るようなことは言いたくはなかったが、それでも前に進む為にはハッキリ言わなければならないこともある。
それはあの日……ローズが死んだことを受け入れられないでいた自分にバンバーラ達が言ったことと同じだった。
今になって、あの頃の姉やフェイルの気持ちがわかる。
「えぇわかってるわカリー。でもね、それでもあの子は私の子供なの。それは変わらないわ」
「姉さん……」
これ以上はカリーも流石に言えなかった。
自分の子が亡くなった悲しみは想像を絶するだろうし、ロゼと会った時の自分を思えばこそ、その気持ちは痛いほど理解できたからである。
「カリー。あなた何か勘違いしていない? 私はね、何もあの子とフェイルが似ているから自分の息子だと思い込んでる訳じゃないわよ? ちゃんと理由があってのことなんだからね」
浮かない表情のカリーを見て、バンバーラが言った。
そしてそれを聞いて、カリーは頭に?が浮かぶ。
「どういうことだ?」
「いい、カリー? これでも私はこの世界や、あの時フェイルが使ったアイテム、その他色々を調べ続けてきたのよ。その結果、あの子は私とフェイルの子だと言っているの」
「いや、だからあいつにはちゃんと両親がいて……」
「そうよ。だからあの子を産んでくれた母親と、一緒に育ててくれた父親には感謝しているわ」
「え?」
その言葉にカリーは困惑する。
なんとバンバーラはサクセスにちゃんと両親がいると理解していたのだ。
その上で自分の子だと言っている。
ますます訳が分からなくなるも、バンバーラは話を続けた。
「あのね、フェイルが命を懸けて私達を救ってくれた。これはあなたも理解しているでしょう?」
「……あぁ。信じたくはないが、アイツの最期を見ていたからな」
「そう。彼は自分が死ぬ直前まで私達の安全を守り続けていたの。だから……」
自らフェイルの死を口にしたバンバーラ。
あの時、カリーが最後に見た光景はフェイルが心臓を貫かれたもの。
しかし、それをバンバーラが見ていたとは思わなかった。
だからこそおかしい。
バンバーラは間違いなくフェイルの生存を期待している雰囲気があった。
にもかかわらず、フェイルの死を受け入れているはずがない。
「姉さんはフェイルが生きていると信じてたんじゃなかったのか!?」
さっきソレイユのことを話した時、少しだけ残念そうにしていたのはフェイルじゃなかったからだとカリーは思っていた。
だからこそおかしいと感じたのであるが……
「半分はね……彼が自分の死と引き換えに私達を救った。それは事実よ。だからきっともう彼は生きていない。でも、それでもやっぱり奇跡を信じたいじゃない?」
「なるほど。そういうことか」
ようやく理解する。
バンバーラは夫の死を理解しつつも、それでも心の隅ではどこか期待していたんだ。
その気持ちは痛いほどわかる。
「話を戻すわね。私ね、実はフェイルと生まれてくる子供の名前を決めていたの。生まれてくる子が男の子ならサクセスにしようってね」
それはカリーも知らなかった衝撃的な事実であった。
「まじかよ!? 聞いてないぞ?」
「そりゃそうよ。ギリギリまで悩んで、決まったのは最後の戦いの前だったんだから」
最後の決戦の前で決めた。
確実に不吉なフラグである。
「なるほどね。とりあえず名前はわかった……けど」
ここまで話していて、姉が自分と同じように願望を口にしているだけではないのはわかった。
そして名前の件も、偶然にしては一致し過ぎているとも言える。
だけどそれでもやはり、それらが姉の息子であるという根拠にはならない。
すると、突然バンバーラはあの時の事について聞いてきた。
「ねぇ、カリー。あの時、私のお腹の子供はどこに行ったと思う? 私達はここにいるけど、あの子はまだ自分で息をするのも無理だわ。そんなあの子が突然いなくなるかしら?」
「えっと……多分、時空間移動に耐えられなくて……」
死んだ、とは口が裂けても言えない。
だけどそれを理解した上でバンバーラは続ける。
「それなら私のお腹の中で亡くなっていたはずよ。でもね、私がこの世界に来た時、あの子は私のお腹の中にいなかったの。これは本当よ」
強い語気で真剣な眼差しを向けてくるバンバーラ。
当然、今の姉の言葉をカリーが疑うはずもない。
姉が言うならば、それは事実である。
だが一方、そんな姉が何を言いたいのかも上手く理解できないのも事実だった。
故になんと返していいのかわからず黙っていると、バンバーラはそのまま話を続ける。
「カリー。あの子は死んでないわ。だってあの人が最後まで私の体に結界を張ったんですもの。結界というより、あの人の魂を全て送ったという方が正しいわね」
「魂を?」
「えぇ。あの子はずっと守られていたのよ。彼によってね。だからこの世界に飛ばされた時、多分誰か別の女性のお腹に転移したんだわ。確認しないとわからないけど、あの子が入ったお腹の中の子は、本来死産だったのよ」
あまりに突拍子な説明に理解が及ばない。
しかし、バンバーラは確信をもっているようで、その目には今の話を裏付ける程の自信が窺える。
「私が調べた古代の文献では同じような例があったわ。だから私は奥様向けの商売をしながらサクセスを探していたの。まぁそれは話すと長いから省略するけどね。」
姉が商売を始めたと聞いて疑問に思っていたが、今の話で理解できた。
姉は頭が良い。それもとびっきりに。
であれば、そんな姉が無駄な事をするはずはないと思っていたが……ようやく理解できた。
全ては他人の子供に成り代わった息子を探すためであったと。
そして更に驚くべきことを姉は口にするのであった。
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