第20話 明かされた真実②
「ねぇカリー。ちょっと聞くけど、あの子って職業二つ持ってたりしない?」
「っ!? なんでそれを……」
確かにサクセスは聖戦士という職業とは別に、魔心……今は魔人という職業の二つを持っている。
だがこれは仲間以外知らされていない事実であり、今日初めて会った姉が知るはずもないことであった。
「やっぱりそうなのね。別に不思議な話じゃないわ。あの子は私達の子供としての魂と、転移によって健康な体を得た本来の子の魂の二つが共存しているんですもの。」
「ん? さっき死産って言ってなかったか?」
「そうよ。多分人としての完全な機能を持つ前に、母親の中にいた子供は流れちゃったと思う。でもタイミングよくそこにサクセスが入ってきたならば、魂だけは助かった可能性が高いわ。だからね、私は二つの職業を持つ子を探していたのよ」
そこまで聞いてカリーは気づいた。
つまりバンバーラは全て理解した上で、あの時サクセスを自分の息子だと言ったということを。
そして今の姉の話が事実ならば、サクセスは姉の子供である可能性は高い。
しかしそうなると、一つだけまだ疑問が残っていた。
それをカリーはバンバーラに伝える。
「姉さんの話は分かった。正直今は俺もサクセスが姉さんの息子だと思い始めているよ。だけどな、魂の話をするなら一つに気になる話がある。」
「何?」
「トンズラっていう、この世界にいた過去の勇者の話だ。サクセスが言うには、そいつの魂はサクセスの中にいたって話なんだが……」
「興味深い話ね。詳しく聞かせてちょうだい」
カリーの話に思わず眉根が上がったバンバーラだが、どうやらかなりその話が気になったようだ。
そしてカリーはサクセスから聞いた話を全部伝えると、バンバーラは少しだけ考えこんだ後、何度も頷きながら一人で納得していた。
※ ※ ※
「つまり本来そのトンズラさんの魂は消えてしまうところ、フェイルの魂によって縛られていたってわけね」
カリーから話を聞いて、ようやく発したのが今のセリフだ。
それは自分の頭の中でその答えに至ったプロセスをすっ飛ばして発した言葉とも言える。
故に、当然カリーには全く理解できない。
「縛られていた?」
「そうよ。ビビアンに勇者の力を全て授けたにも関わらず、自分の魂は魔王の魂によって弾かれた。それが偶然にも近くにいた勇者の魂と器を持ったサクセスのところまで導かれる。本来魂だけがこの世界に留まることはできないのだけど、同じ勇者の魂と光がサクセスに宿っていたからこそ、そのトンズラさんの魂は消滅せずにいられたということね」
カリーも地頭が悪い訳ではないが、それでも理解するのに精一杯だった。
なんとか言っていることの大部分は理解が追いつくが、やはりそれでも疑問が残る。
「それならサクセスは、トンズラ、姉さん達の子供、本来の子供。この三つの魂が入っているってことじゃないのか? 縛られたっていうのがいまいちわからない」
「当然の疑問ね。サクセスは元々魂の器が大きかったと思うの。もしかしたらそれはフェイルの血が影響していたのかもしれないけど。でもね、それでも一つの体に三つの魂が入り込むのは無理よ。そんな事になったら精神が崩壊してしまうわ」
「なら、なんで……」
「思い出して。そのトンズラさんの魂は装備に宿ったのよね? 魂ってそんなに簡単にホイホイと乗り移れるものじゃないの。ましてや装備になんてね……でも、この答えなら納得できるわ」
バンバーラが一つ一つ説明する事でカリーも少しづつ理解してきた。
そしてその答えとは……
「トンズラさんの魂はサクセスに宿ったのではなくて、勇者の光に張り付いていただけってことよ。実際、そのせいでサクセス自身には勇者の力は顕現していなかったはず。」
「言われてみれば……確かにサクセスはその装備を手にするまで、何の力も持たない農民だって言ってたな……」
「でしょうね。勇者の力はトンズラさんの魂によって吸収されてしまったのよ。実際には、ただトンズラさんが勇者の力に縛りついていただけってことでしょうけどね。そしてサクセスが成長すると共に魂も成長したことで、トンズラさんがそこに居座り続けることができなくなったんだと思うの」
「なるほど」
「そして偶然サクセスが触れていた装備に勇者の力をもったまま、トンズラさんが宿ったという訳。つまりは、間接的にあの子は勇者の力を手に入れたってことだわ。それがどんな結果をもたらしたかは、私よりもカリーの方が詳しいはずよ」
そこまで聞いて、改めてサクセスの強さの秘密がわかった。
正直意味不明なあの力。
勇者であるフェイルよりも、サクセスの方が理不尽な程に強い。
それはもしかしたら、二人の勇者の魂が影響しているのかもしれないと思った。
「あぁ、あいつの強さは異常だ。光魔法を使える理由にも納得した。あれは勇者だけが使える魔法なはずだからな」
「えぇ、あの子は凄いのよ! なんていったって、私とフェイルの子供だからね!!」
エッヘンと胸を張るバンバーラであったが、カリーはそれに対して残念なものを見るような視線を向ける。
これではまるで親バカだ。
しかも実際に何も見ていないにも関わらずこれである。
「と言うわけで、あの子が私の子供に間違いないとわかったわね? そもそもだけど、そんな理論なんかよりもあんたも感じていたはずだわ。肉親だけに感じる感情をね」
それを言われて、カリーも思い当たることがある。
出会った時から、カリーにはサクセスが他人だと感じられなかったのだ。
もちろんフェイルと勘違いしていたのもあるが、違うと知った時も、まるで本当の弟のように思っていた。
自分でもわからないが、サクセスに対してはなぜか自分の命以上に大切だと感じていたし、絶対に守らなければいけないという使命感すら持っていた。
今思えば、それはおかしい。
初めてこの世界でできた仲間だとしても、それは異常だ。
その事は自分の中で何度か疑問には感じていたが、なぁなぁにしてきた。
まぁそう言う事もあるかと……
だが、今までの話を聞いて納得した自分がいる。
出会ったその時から、自分はサクセスを大切な家族だとわかっていたのだ。
「あぁ。その通りだな。」
カリーはそう短く答える。
それを聞いて、バンバーラは満面の笑みを浮かべた。
「でしょ? それが証拠よ。あんたがそう感じたくらいなんだから、母親の私が感じないわけなでしょ。そういうことだから、サクセスは私の息子。これは不変の事実よ。あぁもう! こんなこと話していたら今すぐにあの子に会いたくなっちゃったわ!」
「おいおい、さっきみたいのはよしてくれよ。俺は理解したけど、あいつは何も知らないんだからな。」
「わかっているわ。ちゃんと順を追って説明するつもりよ。でもその前にもう一度ギュッとしてからだけどね!」
嬉しそうにする姉を見て、複雑なカリー。
しかしそういうのもまた、サクセスらしくていいかとも思う。
「わかった。じゃあもう日も暮れてきたし、一度宿に戻るか。どうせ付いて来るんだろ?」
「わかるぅ? せいかーい」
それを聞いて、はぁ……と小さく溜息をこぼしながら、カリーは姉を連れてサクセスのいるであろう宿に向かうのであった。
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