第39話 千山万水

 洞窟の中を進み続けて約4時間、現在俺達は行き止まりとなった場所で停止している。



「ようやく出口についたでがんす。」


「出口? 行き止まりにしか見えないけど……。」



 シルクの言葉に俺は疑問の表情を浮かべた。


 確かに今いる場所は、今まで通ってきた道よりも広くなっているが、どう見てもこの先に道はない。


 全員がその場で立ち尽くしていると、シルクは少しだけ色が違う壁に近づき、それを気合を入れて押し始めた。



「おぉぉぉぉ!!」



 すると、行き止まりだった壁が少しづつずれていき、そこから日の光が入り込む。


 どうやらその壁が隠された出入口だったらしい。


 額に血管を浮き上がらせながら壁を押し続けるシルク。


 その姿はどう見ても、還暦過ぎたおじいさんには見えなかった。

 

 とはいえ、その壁はかなり重いようでシルクは苦戦している。



「ぐぬぬぬぬぬ……。」


「手伝うぜ、シルク。」



 その姿を見たカリーは、すかさずシルクの横に立つと、一緒になって壁を押し始めた。



 んで、俺は何をしているかって?

 何もしてないよ? 見てるだけさ。

 だって、出遅れちゃったし……。



 そして二人で押し始めると、その壁は大きな音を立てて、勢いよく開く。



「助かったでがす、カリー。」


「このくらい余裕だぜ。」



 開いた扉を前に、二人は相変わらず仲がよさそうに笑い合っていた。


 傍から見れば親子ほど年が離れているのに、どういうわけか、二人を見ていると年齢の差が感じられない。


 それは本当に気を許し合った友人に見えて、そんなカリーを俺は少しだけ羨ましく思う。



 そういえば、俺には同性でそういった友達はいないな……。


 

 しいて言うなら、カリーなんだけど……。

 カリーは、俺にあんな顔を見せたことはない。



 自然な感じで笑うカリーの表情を見て、俺はちょっとだけ嫉妬を覚えた。


 そんなこんなで、やっとこさ外に出ると、外は既に明るくなっており、明るい日差しが目に染みる。



「まぶしいぃー! でも、空気が新鮮だなぁ。」


「はい。気持ちがいいですね。」



 俺が外に出て、額付近に手を当てながら呟いていると、シロマが隣に来て言った。


 そんなシロマも、眩しそうに目を細めている。



「さてと、んで、こっからどっちに進むんだ?」



 隠し通路を出た先は、前面に大きな山脈が聳え立ち、背面には緑が生い茂る森が続いている。



 これがさっき言っていた山の麓か。



 そんな俺の疑問には、当然いつものようにセイメイが答えた。



「ここから見て、森の向こうが皮肥城でございます。つまり、この山の向こうが目的地になっております。」


「なるほどね。おっ! そうだ、ちょっと女神の導も使ってみるか。」



 俺は思い出したように盾に意識を集中すると、女神の導からオーブの在処を示す光を確認する。



「同じ方角ですね。」



 それを見たシロマが言った。



「あぁ、もしかしたらオーブは邪魔大国にあるのかもしれないな。とりあえず問題はなさそうだ。じゃあ、とりあえず一旦ここで休憩するか。」



 行く先も分かった事だし、俺達は一度ここで休憩を取ることにする。




 流石に密閉空間で4時間も歩いていたんだ、俺はそこまで疲れていないけど、顔には見せていないが結構きつく感じている者もいるはずだ。



 それに、腹も減ったし……。



 俺が休憩を宣言すると、全員が頷いてそれぞれの行動を始める。



 俺は、予め街で買っておいたハンモックを馬車から出すと、その設置を始め、女性陣とセイメイは食事の準備を始めた。



 カリー達はどうやら水を探しに行ったらしい。


 ここは山と森の間だから、綺麗な水も沸いているのだろう。


 ついでに美味しい果実を見つけてくれるとありがたい。


 そんな感じにプチ野営をしつつ、俺は出来上がったハンモックの感触を確かめる為、横になった。



「おっ! これはいいや。みんなの分も設置するか。」



 ゆらゆらと揺れるハンモックは、とても気持ちがいい。


 木と木の間に設置しているため、日陰になっていて涼しく、このままだと直ぐにでも眠ってしまいそうだ。


 俺はみんなの分も用意しようと思いつつも、ついつい、気持ちが良すぎて起き上がることができないでいる。


 すると、ふと、飯を炊いているロゼッタが目に留まった。



「顔色は悪くないな。とりあえず心配ないか。」



 ロゼッタはさっきの隠し通路を進む際、途中から顔色が悪くなったため、馬車の中で寝かせていた。


 一応シロマに状態を見てもらったが、呪いの影響というわけではなく、単純に体力の問題だと判明する。


 普通に考えて、今までほとんど運動してこなかったロゼッタが、あれほど長時間歩けるはずはない。


 もっと早く気づいてあげられたらと、少しだけ反省していた。



 なので不安が残っていたわけなのだが、どうやら大分回復したみたいで良かった。



 今はシロマと、うふふ、きゃはは、しながら楽しそうに料理をしている。


 俺はそんな二人の楽しそうな雰囲気を見て、頬を緩ませていた。


 その後、昼過ぎまで休憩したところで、再び俺達は進み始める。


 ここから2,3日でイザナミの祠に着くらしいが、正確な位置はまだわからないようだ。


 セイメイが持ってきていた地図は、広域の地図と詳細な地図の2種類あるが、詳細な地図であっても誤差は結構あるらしい。


 その為、祠の位置に近づいたら、何人かに分かれて探す予定だとセイメイは説明した。


 そして俺達は山を越えながら進んでいくのだが、道中の敵は今までよりも格段に弱い。


 皮肥に向かう際に現れたような魔獣は全く現れず、どれも元の大陸にいた小型の魔物と遜色ないレベル。


 一応警戒して、敵を発見する度に俺が真っ先に突っ込んで戦っていたのだが、拍子抜けした。



 まじで雑魚過ぎる。

 動きは遅いし、軽く斬っただけで一発で倒れるし。



 そもそも俺の攻撃を耐えられる魔獣は、今のところ出会ってはいなかったが、それでも斬った感触からその弱さは大体わかる。


 その為、それ以降は敵を発見しても無理に倒そうとはせず、襲い掛かってくる敵のみ倒す事にしていたのだが、それも今ではゲロゲロのオモチャとなっていた。



「しかし、ここら辺の魔獣は弱いな。ゲロゲロ! あまり遠くに行くなよ!」


「ゲロ(はーい。)」



 現在、ゲロゲロは逃げ惑うカエルっぽい魔獣を追って遊んでいる。



 その姿は完全に戦闘と言えるものではない。

 どうみても、小動物が虫をいじめて遊んでいるようにしか見えない。



 なので当然ゲロゲロは戦闘形態にはなっておらず、小さなモフモフ姿のままだ。



 そんな光景を眺めながら、俺は御者として馬車を動かしているのであるが、当然、横にはナビゲーターのイモコが座っている。



「あれが普通でござるよ。今までの魔獣がおかしかったのでござる。」


「みたいだな。この分ならサクサク進めそうだ。まぁ俺としては、あの時位の魔獣でも問題はないけどね。」


「でござるな。しかし、昔の某であったならば、間違いなく苦戦……いや、あれほどの数と遭遇していれば死んでいたでござろう。やはり師匠は素晴らしいでござる。」



 イモコは尊敬のまなざしを俺に向けて言った。



「でもイモコもかなり強くなったと思うよ。だって今なら、皮肥付近の魔獣がいくら襲い掛かってきても問題ないだろ?」


「そうでござるな。不安はあるでござるが、不思議と負ける気はしないでござる。それもこれも師匠のご鞭撻あってこそでござるよ。」



 イモコに褒められて、俺は少しだけ照れくさくなった。


 正直、自分は何も教えられていないのに、そこまで言ってくれるのは素直に嬉しい。


 どちらかというと、助けられてばかりな気もするけどね。



「それよりも、後少しでイザナミの祠に着きそうだな。緊張しているか?」


「緊張がないと言えば嘘でござる。しかし、某は師匠の弟子。必ずや、やり遂げると、自分を信じて疑わないでござるよ。」



 イモコは力強い瞳で語る。

 どうやら、心配は無用のようだ。



「そうだな。イモコなら大丈夫だ。シルクが言うには、心と力の試練だと伝わっているらしい。天下無双という職業がどんなもんか楽しみだな。」


「某も楽しみでござる。師匠に一歩でも近づくため、絶対に転職するでござる!」



 そんな話をしながらも、俺達は順調に進み続ける。



 そしてそれから二日後、遂に俺達はイザナミの祠を発見するのであった。

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