第21話 やることがねぇ……

 おお サクセス!

 ○ッてしまうとは なさけない……。


 そなたに もういちど きかいを

 あたえよう。


 ふたたび このようなことが 

 ないようにな。


 では ゆけ! サクセスよ!




「は! ここは!?」


 俺は変な夢から覚めると、周囲を見回す。

 

「やっと起きましたね、サクセスさん。」


 隣にはシロマが座っていた。


「あれ? 俺は……。 は!?」


 やっと思い出した。

 そして何故か体が軽い。


「間も無く森を抜けますよ。そろそろ準備をして下さいね。」


 シロマは何も言わなかった。

 

「お、おう。みんなは?」


「外で警戒していますよ。それと聞かれる前に答えますが、サクセスさんが倒れて二時間位ですかね。」


 なるほど。

 俺は二時間も寝ていたのか……。

 だが何も言われないのは逆に怖いな。


「サクセス~! 良かった、元気になったのね。」


 俺の声を聞いたリーチュンが中に入ってくる。


「ちょっと! いきなり御者から離れないでくれませんか!」


 外からイーゼの声も聞こえる。

 流石にイーゼまで御者を外れるわけには行かず、中には入って来ない。


「とりあえず俺が御者を代わるよ。みんなすまないな、迷惑かけた。」


「いいっていいって。サクセスは休んでて。多分もうすぐ森を出るからさ。」


 なんかリーチュンが優しい。

 どうやら、俺の失態はバレていないようだった。


 そのまま、一時間ほど馬車を走らせると、森の出口が見えてきた。


「サクセス様。戦闘の音が聞こえます。馬車から降りてきてもらってよろしいですか?」


 その言葉に俺は馬車の外に出る。

 森を抜けると、広大な草原が広がっており、至る所でモンスターと人間が戦っていた。


 だが、思ったよりも少ない。

 そして苦戦している感じもなった。

 なんだか思っていたこと違い、少し拍子抜けである。


「大丈夫そうですね……。」


 シロマが漏らす。

 俺も同意見だ。


 目に映るモンスター達は、沢山の人に囲まれて倒されつつある。

 どう見ても、圧倒的に人間が優勢だ。


「サクセス様、アソコを見てください。」


 イーゼが何か気づいたようだ。

 エルフは目がとても良いらしく、遠くまで良く見えるようだ。


 アクセントがおかしい事には、つっこまないぞ?


 俺はイーゼが指す方をじっと見つめると、なんだか光輝いている場所があった。

 そして、目に力を入れ続けてみると、どういうわけか望遠鏡のようによく見え始める。


 ステータスが高いというのは、こういう事もできるのか……。

 俺は新たな特技【遠視】を身につけた。


「あれは……ビビアン?」


 そこで戦っていたのは、輝くドレスを纏ったビビアンだった。

 そしてその近くには炎を纏った剣を持ったオッサンが戦ってる。


 ん?

 魔法剣?


 近くで戦っている戦士は、どうやら魔法戦士のようで中々強そうだ。 


 声は聞こえないが、なんとなく口の動きで会話がわかる。

 幼い頃に、ビビアンと口パクゲームで当てっこしていたから、いつの間にか読唇術が身に付いていた。


「ビビアン殿! あと少しですぞ!」


「わかっているわ。さっさと殲滅するわよ!」


 明らかにそこだけが他の戦闘地域と違っている。


 一言で言うと、圧倒的。


 殆どの魔物はビビアンに瞬殺されていった。

 そして、遠くにいた魔物も、数で押そうとしたのかビビアン達の前に次々と集まってくる。


 だが、それをものともしなかった。


 そして、魔法戦士の男も強い。

 マモルと同じ魔法剣を使って、モンスターを一網打尽にしている。

 動きに無駄がない。


「凄いな。ビビアンってあんなに強かったのか……。」


「ビビアンって誰の事ですか? お知り合いでもいましたか?」


 俺の独り言にシロマが聞いてきた。


「あぁ、俺の幼馴染だ。そして今は勇者をしているらしい。」


「え? 勇者様ですか!? 勇者様がいらっしゃるのですか!?」


 シロマは勇者と聞いて驚いている。

 歴史好きのシロマは、少し興奮しているようだ。


「へぇー。サクセスとどっちが強かったの!?」


「昔はいつもボコボコにされてたよ……。聞かないでくれ。ただ、今は俺も変わったからな。比べる気は無いけど、そこまで俺が劣ってるって事はないと思うよ。」


 昔と違い、俺は大分強くなった。

 情けないあの頃とは違う!


「サクセス様に決まってますわ。サクセス様は人類最強のご主人様ですわ。」


「おいっ! いつ俺がイーゼのご主人様になったんだよ!」


「あら? あそこにいるのはあの時の方では?」


 イーゼは俺のツッコミを華麗にスルーする。

 ったく、自分から振ったくせに……


って、あれは!


「セクシー女優! と、占い師?」


 俺の目に、服装や雰囲気こそ違うが、顔が瓜二つな女性が映る。

 遠目からだと、服装以外に違いがわからない。


 占い師は、周りの冒険者を回復させたり、時折風魔法で攻撃して、セクシー女優さんは、踊ったり、攻撃魔法を使い、周りを援護をしている。


 どうやらあの二人もビビアンのパーティらしい。


 まぁそれはそうとさ、急いでここまできてみたのだが……

 言いたくは無いが言わせてもらおうか。


「これさ。俺たちの出番なくない?」


 …………。


「そうですわね。それならそれでいいですわ。」


 俺は少しがっかりしていたのだが、イーゼはホッとしているようだった。


 大分疲れが溜まっているな。

 まぁかなり激しい戦闘をした後の御者だ。

 疲れてて、当然か。


「よし、じゃあ俺たちは、ここで森から敵が来ないか見張る事にしよう。無理に戦場まで行くことは無いだろ。」


「はい、それが良いと思います。今から行って、逆に獲物を横取りされたとか言われても困りますし。」


 シロマも俺に賛成だ。

 だが、その考えはなかったな。

 なるほどな、言われてみればそうだ。



 しばらく俺たちは、森を警戒しつつ、戦場を眺めていると、遂に戦闘の音が消えた。


 うぉーー!

 やったぞーー!

 勇者様ばんざーい!


 一瞬の静寂の後、今度は大歓声がここまで響き渡ってきた。


「終わったみたいですね。」


 どうやら、全ての魔物を倒したらしい。

 戦場にいた者たちが、抱き合ったりして騒ぎ終えると、どんどんと遠くに見える 町の中に戻っていく。


「よし、とりあえず魔物も来ないし、俺たちも行くとするか。で、あの大きな壁の中にマーダ神殿があるのか?」


 遠くに見えるは、大きな壁。

 中がどうなっているか、ここからでは見えない。


「はい。あれがマーダ神殿です。正確に言うとマーダ神殿の街ですわ。素敵な街ですわよぉ、その中央に神殿はあります。でも……やっと辿り着きましたわね……。」


 イーゼはなんだか感慨ぶかげだ。


「まだ大分ありますよ、イーゼさん。でも、見えてくるとなんだか感慨深いものがありますね。色々ありましたから。」


 シロマもしみじみと漏らす。


 確かにマーダ神殿を目指して進んでから、沢山の事があった。

 ここがゴールなわけではないが、それでも胸にグッと来るものがある。


 それに、あそこにはビビアンもいるしな。

 

 ん?


 まてよ、ビビアンがいる?

 つまり、今の俺の現状を知られる!?

 それ……不味くないか?


 ビビアンの性格を思い出した俺は急に不安になった。


 俺がパーティでイチャコラしてるのを知ったら何をしでかすかわからない。


 つつつ……。


 俺の頬に冷たい汗がつたう。


「どうしました? サクセスさん。顔色が悪いですよ?」


 不思議そうな目で見つめるシロマ。

 とても可愛い。

 そう、みんな可愛いのだ!


 これは、まずい!

 まずいぞ!


「な、なぁみんな。マーダ神殿も無事みたいだし、今日は他のところに泊まらないか?」


 俺がそんな事を言い出すと、リーチュンが激しく反対した。


「何言ってんのよ! アタイ早く転職したいわ!」


「そうですよ、さっきからどうしたんですか?」


 言えねぇよ。

 ビビアンが怖いだなんて……。

 いや、ビビアンが怖いというか、この現状を知られるのが怖い。


 まるで浮気がバレそうな夫の気分だ。


「わたくしはサクセス様がおっしゃるなら、なんでもいいですわよ?」


 おぉ! イーゼ!

 お前だけは味方か!


「ただ……隠している事を話していただければ、ですが。」


 ギクっ!

 

 ブルータス! お前もか!


「え、い、いやだなぁ。なんも隠してなんかないっぺよ。」


「嘘ですね。」

「嘘ね。」

「嘘ですわね。」


 どうしてバレたァァ!


「さぁ、白状してもらうわよ、サクセス!」


「そうですよ、今更何も驚きませんよ。話して下さい。」


「わたくしは、サクセス様の全てを受け入れますわ。」


 三人の美女に詰め寄られる俺。


 どうする?

 ビビアンの事を正直に話してみるか?


 いや、ダメだ。

 絶対揉める。

 自信がある。


 ビビアンと三人が喧嘩になるのは困る。


 だが、避けて通るわけにはいかない。

 それに、俺もビビアンには会いたいしな。


 ん? 待てよ。


 案外仲良くなる……わけないな。

 少なくともリーチュンとはぶつかる。

 少し似ているところがあるからな……。


 ぐぬぬぬ……。

 よし、腹を括ろう。

 ビビアンの性格については細かく話して対応してもらうか。


 遂に俺は話す事を決めた。


「わかった。話すよ。」


 こうして俺はマーダ神殿に行くまでの間、ビビアンとの関係などについて話すのであった。


 この決断が、まさかあんな事になるとは……この時の俺にはまだわからなかった。

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