第22話 ビビアンの変化
※今回はビビアンの話です。
サクセスと無事会う事ができたビビアンは、急いで仲間達のいる大草原に向かって走っていた。
その足は、疲れを感じさせないほど軽い。
しかし魔王ドシーとの闘いで、逃がすことができたマネア達が心配ではあった。
それと今回ビビアンは、シャナクの姿こそ見つけられなかったが、自分があの時聞いた声はシャナクに間違いないと思っている。
シャナクは生きている。
そして、サクセスも生きている。
二つの大きな杞憂が一気に消えたビビアン。
ならば、今やる事はただ一つ。
このマーダ神殿に襲い掛かるモンスターを駆逐し、仲間達を助けることだ。
「お願い! みんな無事でいて!」
ビビアンの傷はかなり回復している。
オートヒールによる回復もあったが、サクセスに会えた喜びによる精神的安心が大きくスキルにも影響していた。
そして遂に森の出口が見えてくると……草原に走る二つの人影を目撃する。
「ミーニャ! マネア!」
ビビアンはその二つの影に向かって叫んだ。
その声に振り向く二人。
それはやはり、ミーニャとマネアだった。
「ビビアン!!」
「ご無事でしたか! ビビアン様!」
ビビアンに気付いた二人は、反転してビビアンの方に走る。
「ミーニャ達も無事だったのね!」
「ビビアーーン! よかったよぉ!」
ミーニャは泣きながらビビアンに抱き着き、マネアはそっとビビアンの傍に立つ。
二人の行動は対照的だ。
「本当によかったです。ところで、あの魔王は倒されたのですか?」
「ううん。アタシね、負けちゃった……。それで瀕死になったんだけど……。」
「え!? 嘘でしょ!? 大丈夫なの? 姉さん、早く回復魔法をかけて!!」
話の途中にも関わらずミーニャは激しく動揺し始める。
「ちょ、ちょっとまって! アタシはもう大丈夫。最後まで聞いてよ。」
「あ、ごめん。そうね、なんかピンピンしてるもんね。っというか、なんか随分顔つきが違うわね。何があったの?」
「うん、それでね。アタシがピンチで殺されそうになった時、現れたのよ、白馬の王子様が!!」
ビビアンは思い出したからなのか、凄く興奮しながら喋り始めた。
その顔は完全に恋する乙女。
「え? まさかサクセス君!?」
「ピンポーン!! そうなの! サクセスがね、魔王を倒して救ってくれたの! すぅぅっごいかっこよくなってたわ! 思い出すだけで胸が張り裂けそう! まだドキドキしているわ!」
ピンチになったサクセスを、颯爽と現れるビビアンが助ける作戦。
むしろ今回、逆にそれをやられる始末であった。
当然、今は嬉しすぎてそんなことは忘れている。
だがそれを話すビビアンの顔は、緩み過ぎてスライムになってしまうのではないか、と心配するほどデレデレしているのだった。
「へぇ~、強いとは聞いていたけどそこまでとはねぇ。ん? サクセス君一人だったの?」
ミーニャはふと疑問に気づく。
もしもそこに他のハーレムメンバーがいたら、こんなにデレデレしているはずがない。
「え? うん。一人だったわよ? まぁそんなことはどうでもいいわ! それよりね、その後、傷ついたアタシをお姫様抱っこして運ぼうとしてくれたのよ。しかも必死な顔で、私を心配してて……。 キャーー! 超恰好いい! 超しびれるわ! もう最高ね! やっぱりアタシのサクセスだわ!」
未だ人とモンスターが大決戦を続けているにも関わらず、この場だけはビビアンのピンクな雰囲気に包まれている。
「やるじゃんサクセス君! よかったわねビビアン! で、そのサクセス君はどこなのよ?」
「なんか仲間と一緒に来ているらしくて、そっちと合流したらこっちに向かうって。もう一度会う約束をしたから必ず来るわ。今頃、アタシに会いたくてうずうずしているはずよ!」
※注 今頃、サクセスは仲間に揉みくちゃにされて、うずうずどころかスッキリしています。
「それは本当によかったです。ところで……ですが、やはりシャナクさんは……。」
マネアは、ビビアンの無事と幸せな話を聞いていて安心すると共に、シャナクの事も気になっていた。
そして多分、一緒に戻ってこないという事は、見つかっていないこともわかっている。
だが、聞かずにはいられなかったのだ。
しかし、ビビアンからの言葉は予想と違った。
ビビアンは、にまぁ~っとした顔をマネアに向ける。
「シャナクは生きていたわ!」
「え!? ほ、ほんとうですか!? どこにいるんですか!?」
ビビアンの言葉に、マネアの心臓は激しくバクつく。
「ごめん、それはまだわからないわ。一応周りを探したんだけど、見つからなくて。でもね、間違いなくシャナクの声がしたのよ。アタシに向かってあんな言葉を言うのはシャナクしかいないわ。」
「ど、どういうことですか? もっとはっきりと教えて下さい!」
ビビアンに必死の形相で詰め寄るマネア。
さっきまでの冷静さが消えている。
ここにも、もう一人恋する乙女がいた。
「ちょ、落ち着いてマネア。ちゃんと説明するから。えっとね、魔王にトドメの必殺技を使った時、シャナクの声で(勇者様、油断はいけませんよ)って言われたのよ。それでビックリしたら、技が暴発しちゃって大爆発したってわけ。そう考えると、あれはシャナクのせいね……。いえ、それじゃ今までと変わらないわ。やっぱりあたしが未熟なだけだわ。人のせいにしちゃだめよね……。」
そう言って俯くビビアン。
ビビアンを忘れているシャナクがどうしてあんな言葉を吐いたのかは未だに謎である。
しかし、今回ビビアンがピンチになったのは、ビビアンのせいではない。
間違いなくシャナク……もとい、デスバトラーによるものであった。
だが、それを自分の事として受け止めるビビアン。
どうやらサクセスに会えたことで胸の大きなツカエがなくなり、本当に別人のようになっていた。
「ビビアン様……。」
マネアもその事にきづくが何も言わない。
代わりに、ミーニャが再びビビアンに抱き着いて、褒める。
ミーニャはビビアンの言葉に感心とも嬉しさとも呼べる感情が爆発したのだった。
「偉い! ビビアン偉いよ! ほんとに成長したわ! 今のビビアンは本当に素敵よ、まさに勇者だわ!」
「ちょ、ちょっと苦しいってミーニャ。そんなに褒められるような事は言ってないわ。それよりも、その爆発にシャナクを巻き込んだ可能性もあるわ。」
「え? そ、それは……シャナクさんは……シャナクさんは無事なんですか!?」
今度はマネアが違う意味で興奮し始め、ビビアンの肩を激しく揺らす。
ビビアンの成長を感じている余裕は、今のマネアにはない。
「マネア落ち着いて! シャナクは多分無事よ。爆発の近くにシャナクもいなければ、シャナクの持ち物とかもなかったわ。多分どこかに逃げたのね。でも、戻ってこないという事は、こっちに戻れない理由が何かあると思うの。まぁアタシに会いたくないだけかもしれないけどね……。」
「あ! ごめんなさいビビアン様。そんなつもりはありませんでした……。でも良かった……。生きてさえいてくれれば、いつか必ず会えます……。いえ、何を必ず会いにいきます! そして戻ってこないのは、シャナクさんなりに何かあるに違いありません。ビビアン様が気に病むことはございません。」
俯くビビアンを慰めるマネア。
マネアもシャナクの無事を聞いて、少し落ち着いてきた。
しかし、その目にはやはり涙が浮かんでいる。
「姉さん、ビビアン。積もる話は後よ。まだやる事があるわ。」
そこにミーニャが割って入る。
「そうね、色々話したいことも多いけど、まずはこの戦場よ。サクセスが来る前にアタシ達でモンスターをやっつけるわよ!」
「よぉし! ビビアンも無事な事だし、シャナクは生きてるし、もう後顧の憂いはないわね!」
「はい! とりあえず、ブライアンさんのところに向かいましょう。途中モンスターがいますが、今のビビアン様なら問題ありませんね。」
「もっちの、ろんよ! 今のアタシは今までのアタシと違うわよ! ガンガンいくわ! みんなついて来てね!」
こうしてミーニャとマネアに再び会えたビビアンは、今も戦場で戦い続けているブライアンの下に向かうのであった。
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