第75話 どっちなんだい!

 ※ ※ ※



「なるほど。繋がっていますわね。それと人族についてですが、エルフ領にもシュウカン国からの使者として、チョウ・シンという者がおりましたわ。今思えば、その者に上手く誘導されたようにも思えますが、実際にはまだ判断がついていません」


「なにっ!? エルフ領に人族が?」


「はい、先程うかがったダークエルフ領で起きた事を非難してきた人物でもありますわ。その時は本当に大変で無理矢理にでも止めなければ、集まっていたエルフの長達はその者を殺していたかもしれません。そうなればエルフ対ダークエルフと人族の連合まで発展していたかと」



 まじか、でもそもそも人族はエルフに嫌われているからな。


 いずれは衝突する可能性もあるだろうけど、その時、相手にダークエルフもいるとなると厄介だよな。


 ってあれ? 


 つか、なんで俺達は戦争を止めたいって思ってるんだ?


 別にそれがクリア条件になってる訳じゃないだろうに。


 おかしい、いつからだ?


 いつの間にか、俺達の中でこれが第三ステージのクリア条件と思い込んで話を進めている気がする……。


 まぁとりあえずそれは後で話し合うとして、まずはこの話の続きだ。



「いや、よく止めてくれた。でもよくわからないな。それはつまり長老会をやっている際中に、そいつが使者として乗り込んできたってことでいいか?」


「いえ、そうではありません。その者はわたくしが長老会に連れて行った者であります。そして、その会合以前からその者はエルフ領に滞在しておりました」



 おっと、こんがらがってきたぞ。


 情報をよく整理しよう。



・チョウ・シンはダークエルフの子がエルフに殺されたと非難する。


・エルフは人族が嫌いだけど、チョウ・シンはエルフ領に滞在していた。


・イーゼがチョウ・シンを長老会に連れていく。



 うん、意味わかんね。


 まずなんでイーゼがそいつを長老会に連れていったのかがわからん。



「どういうこと? なんでイーゼはそのチョウ・シンとか言う奴を長老会に連れていったの? そもそもそいつは何者なんだ?」



 矢継ぎ早に質問をする俺。


 俺が逆にされたら混乱しそうだが、イーゼなら問題ないだろう。



「説明が足りず申し訳ございません。実は、そのチョウ・シンという者、人族としては珍しくエルフ族に受け入れられていた者でして、更にはエルフの失踪が拉致であるという情報もその者からなのです」


「ふむふむ。つまりそいつの情報こそが、クエストをクリアする為の条件だった。だからこそ、証人としてそいつを長老会に連れて行った……って事で合ってる?」


「はい、その通りでございます。それとその者は元々ダークエルフ族とエルフ族の交易における仲介人でもあります。エルフ族の為に必要な情報を常に提供するなどしていたことから、珍しくも人族であるにもかかわらず慕われていた存在であります」



 んー、何か引っかかるな。


 あ、そうか。



「でもさ、必要な情報を提供していたなら、別にイーゼが連れて行かなくても、そいつは勝手に拉致された事を報告にいったんじゃないの? なんかおかしく感じるんだけど……」



「おっしゃるとおりです。本来ならわたくしが連れて行かずとも、その者は拉致の情報を長老に届けていたはずです。しかしながら、それを阻止する為に送られた暗殺者に襲われていた状況で、それを私が助けた事で報告できた……という流れにございます」


「そういうことか」


「はい。彼はこれまでも、ずっとダークエルフ族の不穏な動き等を調査しては報告しており、エルフ族を守る為に動いていたそうです。その為に今回、暗殺者に狙われた次第ですが……」


「だから信頼されていたんだね。あれ? でもそれじゃあ、なんで逆にエルフを非難してきた訳? 話が繋がらないんだけど」


「はい。実は長老会は二日に渡って行われたのですが、初日はその拉致の報告等をチョウ・シンが情報元の説明も含めてしており、その対策を平和的解決に向けて話し合っていたのですが……」


「ですが?」


「二日目の長老会において、チョウ・シンが突然エルフを非難し始めたのです。その状況は……」



 ※ ※ ※


(イーゼの回想)


「本日は皆さまに伝えたい事がございます。拉致されていた……とされる者の居場所が判明しました」


「何っ? それはまことであるか!? チョウ・シン殿」


「はい。昨夜、シュウカン国の使者から連絡がありまして、現在そのエルフは四肢を切断された状態で、ダークエルフ領にて見世物となっているそうでございます」


「な、なんだと? ふざけやがってあのクロスケ共が!!」


「お待ちください、話はまだ終わっておりません。実はそのエルフ、ダークエルフの子供を沢山拉致しては臓器を抉り抜いていたようです。そしてその犯行が見つかって自害した……と。その罰として死後の見せしめになったそうです」


「そ、そんな馬鹿な。そんな訳あるか!! でたらめを言うな! でたらめを!!」


「いえ、事実でございます。それにそんなに焦らないで下さい。色々と透けて見えますよ? その殺されたエルフがあなた達長老会から派遣された工作員であることもわかっています……私は軽蔑しますよ。これまでエルフ族の為に、私はこれほどまでに尽くしてきたにも関わらず……」


「な、なんだとっ!? お主は一体何を言っておるのじゃ?」


「ははっ……まだしらばっくれるのですか? 昨日、私は暗殺者に命を狙われました。そしてそれを依頼したのは……あなたたちエルフの長老会だ!!」


「何を訳のわからぬことを……気が狂ったか?」


「気が狂ったですと? それはあなた達の方では? まさかあなた達が裏で魔王軍と繋がっていたとは……。その証拠にエルフ族……いや、あなた達がダークエルフ族の臓器を魔王軍に売り払っていたとの情報を得ております。あなた達はその情報の一端を私が嗅ぎつけた為、私を暗殺しようとしたのでしょう? エルフの失踪というのもただの方便に過ぎない。私は心底あなたたちエルフを軽蔑します」


「言うに事かいて、我々が魔王軍と繋がっているだと!? そんな根も葉もない情報で我々エルフを愚弄するか!」


「根も葉もないですって? これは確かな情報元……そうダークエルフの長達からの情報でございます」


「ダークエルフだと? お主はダークエルフとエルフのどちらを信用するのだ!」


「もちろん……ダークエルフでございます」


「斬れ……だれかこやつを斬り殺せ! こいつはダークエルフのスパイだ!!」



※ ※ ※ 



「といった事がありまして、私はそれを力づくで止めたのですが、その隙にチョウ・シンには逃げられてしまいましたわ。本来なら殺されないように助けた上、その者を縛り上げて情報を引き出せれば良かったのですが……」



 と淡々と語るイーゼだが、その内容はかなりヤバい。つか、重過ぎ。


 こっちでも凄い事になってたんだな。


 やべぇ、完全に人族が黒幕だと思ってたけど、どうやらそんな単純な話じゃないっぽいぞ。


 まじで訳が分からなくなってきた。


 あれ? でもそうなると……



「……それを聞くとなんだかエルフ側も怪しく思えてきたな。つか、イーゼは無事だったのか!? エルフと敵対してまで、そいつを守ったんだろ?」


「はい、しかしキチンと話し合った結果、許してもらう事ができました。きっとそれは同じエルフ族であったためですわ。しかしながら、その後の長老会には参加することができなくなり、結果としてその怒りの矛先は当然のようにダークエルフ族に向かい、今に至るという話ですわ」


 

 ほっ。とりあえずイーゼが無事でよかった。


 でも、もしもイーゼではなく、人族の俺がそこに参加してたら、間違いなくエルフと戦闘になってバッドエンドだっただろう。


 まぁそもそも人族の場合は、そんなクエスト自体が発生しないっぽいが。



「それでイーゼはどうすればよかったと思っていたんだ? それとどっちが本当の事を言っていると思う?」



 俺は話を聞いても、正直全く判断ができなかった。


 しかしあれほどまでにイーゼが責任を感じていたということは、何か自分の中で答えが見つかっているはず。


 それを俺は知りたい。


「まず第一に、チョウ・シンを襲った暗殺者を生きたまま捉えられなかった事が私のミス。ターン制バトルであるため非常に難易度は高いですが、全員を気絶させることが正解だったのだと思います」


「というと?」


「暗殺者は三人であり、一人だけ残して気絶させようと欲をかきました。結果、残った一人は死んだ仲間の死体もろとも大爆発を起こして自爆してしまいました。その結果、その者の種族すらわからずじまいです」



 仲間の死体もろとも大爆発って……


 そりゃあ、誰も予想できないわな。


 つか気絶させて捕まえようと考えただけ、イーゼは凄い。


 まぁ捕まえるなら一人の方がいいよね、三人だと逃げられそうだし。



「でも、それだけじゃないんだろ?」


「はい、チョウ・シンに妙な噂があるという情報も事前に得ていたので、直ぐに長老会に連れて行く事なく、もっと調べるべきであったと思います。失踪したエルフに捉われて過ぎていたわたくしの失態ですわ」


「妙な噂とは?」


「はい、失踪していたエルフの情報を収集している時に、チョウ・シンについていい話も多かったのですが、一部、黒装束を着た怪しい者と接触しているとの話もありまして。その時は、人族はエルフに嫌われているので、同じ国の者と話す際に人族が姿をわからないようにそうしていたと考えていましたが……」


「今思い返せば、それも怪しいってことだね?」


「そのとおりです。もっと調査するべきでした」



 なるほど、そう聞くと今度はやっぱりそのチョウ・シンが怪しく思える。


 どっちなんだい!


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