第74話 失敗

 あれから直ぐにマスを進め、【フーラーズ】という町に訪れた俺。


 しかし、ここに来て予想外の事が起きた。



「あれ? おかしい……こんな事は今まで一度もなかったのに」



 一体何がおかしいというのか言うと、クエストが発生しないのだ。


 というのも、今までは町マスに止まった瞬間、最初に移動させられる場所はクエストの発生場所となっていた。


 当然それがこの第三ステージの仕様だと理解していたのであるが、今回に限っては町の門に移動していて、そこには誰もいない。


 さっきの町であれば、町マスに止まった瞬間に町長の館の前にいて、そこにいた町長からクエストを依頼された。


 そんな感じで他の町に入った時も、必ず最初はクエストを依頼してくる者の前に移動し、それから町マス内を移動しながらクエストをこなすという感じであったのだが、今回は誰も付近にいない為、クエストが発生しない。



 これはあまりに不自然である。



(ダメだっぺな。俺っちの方も何もないっぺ)



 どうやらステボにも何も表示されていないようだ。


 これは一体どういう事なのだろうか?


 てっきりさっきのクエストの続きを受注するものだと思ったのに、それもなければ、それ以外のクエストすら発生しない。


 もしかして今までがたまたまだったのか?


 それとも二回目に訪れた町では、自分で町マスを探索してクエストを受注するのか?


 否。


 それはない。


 少なくとも他の町も2回以上訪れているが、毎回別のクエストが発生していた。


 であれば、やはり今回だけが特別な可能性が高くなってくる。



「参ったな、とりあえずルーレットを回して町マスを探索するしかないな。それで長老会ってのが行われている場所に行ければいいけど」



(んだべな。回るだけ回ってみるっぺよ)



 それから俺達は町マスを何周か回ることで、この町全てのマスに止まってみるも、長老会が行われている場所は存在しなかった。


 更に言えば、どのマスに止まっても新しいクエストの発生もない。


 ただ情報収集をしてわかったことだが、どうやらダークエルフ族は本格的にエルフ族と戦争をする準備に入っているらしい。


 その為、町には以前とは違う緊張感のようなものな漂っていて、至るところで訓練している者が散見され始めていた。



「ダメだ、遅かったのか? いや、そんなことないよな?」



 最初に移動していた門の前で、俺は肩を落としている。


 結局何も進展しないまま、元の場所に戻ってきたことに落胆していた。



(んだ。最短でこの町に来ているし、遅いってことはないっぺ。)


「だよな。というと、この流れは回避不能なイベントなのかもしれないな。それに聞いた話が本当なら、まだ間に合う可能性もある。開戦前にエルフ族の領地で話し合いがあるみたいだからな」



 どうやら次に向かうべきは、その会合が行われる場所のようだ。


 そう考えると、やはりりこれはメインクエストであることが濃厚に思える。


 であれば他の町でもこの流れはあるだろうから、仲間達も気づいているはずだ。


 いずれにしても、俺はエルフの領土に向かうべきだろう。


 きっとみんなもそうするはずだ。


 ちなみにここはダークエルフ領の中でも、一番エルフ領から離れている。


 毎回5,6マス進む俺であっても、流石にエルフ領に到着するにはそれなりのターン数が必要だ。


 それにエルフ領に戻る間、途中に通過する町にも立ち寄って、クエストが発生しなくなっているかどうかの確認をしたりする必要もあるし、どんなに早くてもエルフ領に着くころは残りターン数が20を切りそうである。


 そんな計算をしながらも、俺はフーラーズを出てエルフ領に向かってマスを進めていった。



 ※  ※  ※



 あれからエルフ領に向かいながら、いくつかのダークエルフの町に立ち寄ってみたものの、やはりどの町でもクエストが発生することはなく、全ての町で戦争準備が行われていた。


 そして道中、すれ違った仲間達からも話を聞いてみたのだが、みんなが立ち寄った町でも同じ状況らしい。


 ということで一度全員集合して話し合う為、すれ違った仲間にはゴールマスに集まるように呼び掛けた。


 ちなみになんでゴールマスに集合しようとしたのかというと、これもシロマから事前に聞いていた情報だが、ゴールマスは特別な仕様らしく、そこに止まった場合、自分のターンをスキップできるとのこと。


 他のマスだと必ずルーレットを回さなければいけない為、同じマスに留まることはできないのだが、このマスだけは特別に留まる事ができるという訳だ。


 もしかしたらこの第三ステージを攻略する為に、あえてゲームマスターがゴールマスをそういう風に設定しているのかもしれない。


 いずれにせよ仲間達と話し合ったり、相談するにはここがベストということだ。


 ただ一人、エルフ領にいるイーゼだけは呼びかける方法がなかったのであるが……



「イーゼ!? いつからここに?」



 なんと俺がゴールマスに到着すると、既にイーゼがそこにいた。


 イーゼをどうやって探せばいいかと考えていたところだったが、その必要はなくなる。



「2ターン程前からですわ。サクセス様なら必ずこのマスに集合をかけると思っていましたので、ここに向かっていたのですわ」



 やっぱりイーゼは凄いな。


 常に先を見越して行動している。


 俺もイーゼと同じくらい頭が良ければあんなことにはならなかったのに、って今更そんな事考えても仕方ないか。


 それよりもここにイーゼが向かったということは……



「流石はイーゼだな。ってことは、やっぱりエルフ領でも戦争ムードになっているのか?」


「はい、申し訳ございません。わたくしの力が及ばなかったが故、このような事態になってしまいました」



 そう言って申し訳なさそうに頭を下げるイーゼ。


 どゆこと?


 

「え? なんでイーゼが謝るの?」


「はい。実はエルフ領にてメインクエストと思われるものが発生し、それをクリアすることはできたのですが……どうやら私は失敗したようです」



 ん? メインクエストの発生?


 まさかそれって……



「クリアできて報酬はもらえたけど、正解ルートのクリアではないとか?」



 俺がそう告げると、イーゼは驚いた顔を見せる。


 どうやら図星のようだ。


 つまり俺と同じ事がエルフ領でも起こっていたという事。



「よくご存じで。正にその通りでございます。そしてその結果、このように戦争に発展してしまいました。これもわたくしが選択を誤ったばかりに……」


「一応聞くけど、そのイーゼがやったメインクエストのクリア報酬って何だった?」


「はい、珍しくロザーナだけでしたわ。それ以外は必ずアイテムを貰えたのですが……」



 イーゼの方はロザーナが貰えたか。


 でもやっぱりアイテムはなし。


 これでほぼ間違いはないな。



「とりあえずみんなが来る前に何があったか詳しく話してくれ」


「もちろんですわ」



 それから俺は、しばらくイーゼが見聞きした情報も含めて細かく話を聞くことにした。



 ※ ※ ※



「なるほどね、やっぱり俺と同じような事がそっちでも起こった訳か……」



 俺がそう口にすると、再びイーゼは驚きを顔に表す。



「っ!? まさか、サクセス様も?」


「あぁ、だからイーゼ。謝る必要はない。俺も同じだ。すまない、失敗した」



 そう言って今度は俺がイーゼに頭を下げた。


 するとイーゼは



「お、お顔を上げて下さい。サクセス様のせいではありませんわ」



 といって少し焦った様子を見せるが、その顔には少しだけ安堵の表情も見受けられる。


 どうやら自分のせいでこうなってしまったと強く責任を感じていたらしい。


 エルフ領にはイーゼしかいなかったのだから、そう感じてしまうのも理解できる。


 イーゼには申し訳ないことをしてしまったな。


 まぁそれはそれとして反省するとして、とりあえずイーゼから聞いた話についてだが、ようはダークエルフ族にエルフの者が拉致され辱められた事を発端に、戦争をすることになったという話だ。


 そしてその拉致されて辱められたというのは、どうやらあの時に俺が発見したエルフで間違いなさそうだ。


 殺された上、四肢を切断されて見世物にされたという話からも、俺が聞いた状況と一致している。


 イーゼはそのエルフの捜索クエストを受けたものの、結局見つけることができず、その後、俺とは違ってエルフの長老会に参加したそうだ。


 しかしその会合に参加できたものの、戦争を回避する事はできなかったらしい。


 それとイーゼが会合参加前に受けたクエストについてだが、珍しくターン制限が付されていたようで、そのターン内に見つけられなかった為にクエストが失敗に終わったと思ったが、得た情報をもって会合に参加することで、クエスト自体はクリアとなったようだ。



 ちなみにクエストの詳しい内容は、



【失踪したエルフを見つけるか、その情報を探し出して長老会で報告する】



 といったものであったらしく、結果として失踪したエルフは発見できなかったものの、それなりに有力な情報は得たようで、それだけで一応クリア条件は満たしたと判断されたようだ。


 だが結局はその情報だけでは足らず、更にその後のイベントにおいて戦争することが決まってしまい、それを自分の責任と感じていたらしい。



 まぁそんな訳で、今度は俺がイーゼに話す番だな。


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